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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
絶望と後悔の章
243/257

0.1 異変の始まり

「わああっ!ち、遅刻だよぅ!」


少年の1日は、騒がしい身内の声で幕を開ける。欠伸を噛み殺して部屋の外に出れば、白髪の少女がバタバタと廊下を走り回っていた。


頭から髪と同じ白い獣耳、腰の辺りから同じく白い毛並みの尻尾が生えた少女。やれやれとその少女を見つめながら、少年は1階にあるリビングへと降りる。


「あら、兄さん。おはようございます」

「おはようクレハ。朝食の準備はクレハが?」

「はい……と言っても、出来上がった料理を机の上に並べただけですけど」


窓から差し込む陽の光を浴びて輝く銀の長髪が良く似合う、とても美しい少女……少年の実妹であるクレハが、兄の姿を見て嬉しそうに微笑んだ。


「兄さん、姉さんはどうしたのですか?随分バタバタしていらっしゃるようですが」

「寝坊だよ、寝坊。あらゆる面で完璧と言っていい程の人なのに、たまに抜けた所があるからな」

「ふふ、2人もあまりのんびりはしていられないだろう?」


カタリと、最後の皿を机に置いた女性。クレハと同じ銀色の髪を首の辺りで束ねた、信じられない程の美女。この世にここまで容姿が整った人物が居るのかと疑ってしまう程、その女性は少年から見ても綺麗だった。


「母さん、おはよう」

「ああ、おはよう」


テミス・シルヴァ。少年とクレハの母親であり、見た目からは想像できない程の実力を誇る武術の達人。それこそ、武の境地に到達した唯一の人物とも言えるかもしれない。


「顔を洗ってから食べるといい。2人共、遅刻だけはしないように」

「母さんの料理はプロ顔負けだからなぁ」

「そうですね。美味しさのあまりついつい寛いでしまいそうな気もしますが」


そんな母が作ってくれた朝食を存分に堪能し、既に家を出た獣人の少女を追うように、少年とクレハは肩を並べて外に出る。


英雄が住む街として、知らない者が居ないこのオーデム。そこに建てられた魔導士育成の魔法学園に向かって。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「ユウ君、また授業中に寝てっ……!」


昼休憩の時間。屋上で呑気に昼食をとっていた少年……ユウの前で、今朝家の中を駆け回っていた獣人の少女がぷんすか怒っていた。


ユウとクレハの義姉であり、可憐で思わず守ってあげたくなるような少女……マナ・シルヴァ。容姿からは想像できない量の魔力を身に宿しており、頭脳実力共に世界最高峰の少女である。


「いや、悪かったって。雷魔法は本当に苦手なもんで……」

「関係ないよっ!私だって、できるだけわかり易いように頑張ってるのにっ!」

「ほら、これやるからさ」

「わっ、美味しそ〜!」


そして、ユウの中では最もチョロい人でもあった。持っていたサンドイッチを手渡せば、もう怒っていた事も忘れてしまったらしい。ニコニコしながらそれを口に運ぶ姿は、見ていて小動物を連想させる。


「ふふ、仲良しですね」


そんな光景を見てクレハは頬を緩め、ユウとマナは当然だと頷いた。2人は誰もが羨む仲良し姉兄である。更にはユウのクラスの担任はマナであり、2人が授業中に繰り広げるやり取りは夫婦漫才として有名だ。


「ところでユウ君、クレハちゃん。最近物騒な事件が王国各地で頻発しているって話は聞いてる?」


昼休憩も半分程進んだ頃、マナがユウとクレハにそんな事を聞いた。ユウは頷き、クレハは何の事かと首を傾げる。


「〝連続狂化事件〟だな?突然人が狂化して暴れ回る謎の現象。3日前にはオーデムでも発生したらしいけど」

「うん。どの件にも共通しているのが、黒い霧のようなものに全身が覆われていたって事だね」

「……?魔物か何かがその現象を引き起こしているのでしょうか」


我を失ったように人が暴れる怪現象。最終的には捕らえられて隔離されるか、被害が拡大する恐れがある場合はその場で殺すしか方法のない狂化事件。


この件には彼らの母と、世界最強の英雄である父が解決の為に動いており、人々はそのうち異変も収まるだろうと安心していた。


「そんな単純な異変だとは思えないが」

「そうだね……でも、お父さんとお母さんが担当しているから、皆がそう思うのも無理ないかな」

「まあ、マナ姉も気を付けろよ?勿論クレハも、何かあればすぐ連絡してくれ。すぐに駆けつけるからな」

「ふふっ、お待ちしておりますね」

(ク、クレハちゃん、ユウ君に助けられたいから巻き込まれる気満々だ……)


それから他愛ない会話を続け、予鈴が鳴ったので3人は解散した。次は移動教室だったかとユウは1度教室に向かい、授業で必要な荷物をまとめる。


そんな彼に、隣で同じく教科書を机の中から取り出していた少女が声をかけた。


「ユウったら、まーた美人姉妹とイチャイチャしてたん?」

「別にイチャイチャしていた訳では無いけど、まあそう思ってもらって構わない」

「いいなぁ。ウチもマナ先生みたいなお姉さんと、クレハちゃんみたいな妹が欲しいわ。あっ、ユウは弟な!」


黄緑色の髪をポニーテールにした、元気で明るい東方地方出身のリースだ。彼女はユウがこの学園で最初に知り合った人物で、今では親友と呼べる程仲が良い。


「やれやれ、騒がしいお姉ちゃんは2人もいらないんだが。リースもそろそろ移動しないと遅刻だぞ?」

「一緒に行こ!」

(リースは知ってるのか?俺達、付き合ってるなんて噂が流れてるんだけど……まあ、悪い気はしないか)


教科書類を持って共に教室を出た2人。それから目的地である実験室に向かっている最中、前方を歩くブロンドの長髪を揺らす美しい少女が目に映った。


「あ、エリナちゃんや……」

「ふむ……」


二学年一の成績優秀者であるエリナ・エレキオール。彼女は2人の視線に気付いたのが、足を止めることなく口を開く。


「何か用?リース・アリスロードさんに、英雄の息子さん?」

「あの、その、次の授業で同じ班になったらよろしくな!」

「ええ、足を引っ張らないで頂戴ね。偉大な血を引く英雄の息子さんは、きっと皆を驚かせてくれるのでしょうけど」

「ふん、自信満々なお嬢様の方こそ。ま、度が過ぎるといつか痛い目を見ると思うがな」

「余計なお世話よ、英雄の面汚し」

「ち、ちょっと2人共……!」


以前行われた学園地下迷宮攻略試験。その際ユウとエリナはペアで迷宮に挑んだのだが、互いを認めようとしない2人の道中は喧嘩が絶えず、結果現在も犬猿の仲なのである。


「ユウだって頑張ってんのに、さすがにあの言い方はあかんよな」

「別にいいさ。英雄の面汚しというのは事実なんだし」

「ユウ……」


その後、実験室での授業と続く6限目の授業を受けたユウ達は、無事に放課後を迎えて学園での1日を終えた。そして帰宅途中、合流したユウとクレハはいつも通る道が妙に騒がしい事に気付く。


「人だかりができていますね」

「何かあったのか……?」


2人が人だかりを掻き分けて見たのは、道のど真ん中で母テミスに取り押さえられている男性の姿。全身からどす黒いオーラを放出しており、目は真っ赤に充血している。更に涎を撒き散らしながら狂ったように叫び続けており、駆けつけたばかりの2人にも、彼が正気を失っているのがすぐに分かった。


「母さん、どうしたんだ!?」

「ユウ、クレハ……離れていなさい!まだ何をするか分からない。沈静化するまでは───」

「ヴおああアアあッ!!」


突如、男性が黒いオーラを更に放出した。その衝撃でテミスの手が離れ、自由を得た男性は近くにいた女性目掛けて勢いよく駆け出す。しかし、流石はテミス……剣聖と呼ばれる達人だ。


「すまない、痛みは我慢してくれ」


一瞬で男性との距離を詰め、彼の腕を掴んでそのまま地面に叩きつける。それには男性も耐えられなかったらしい。暫く呻いていた男性は、やがて意識を失ってテミスに拘束された。


「私もまだまだだな。油断してしまった」

「いや、見事だったよ。それより母さん、まさかこれって……」

「ああ、例の〝狂化現象〟だろう。オーデムで発生するのはこれで2度目。ソンノさん達にも協力してもらっているけど、一体何が原因なのか……」


まだテミス達でも実態を掴めていないこの現象。どうしたものかとユウが思っていると、隣に立つクレハが拘束された男性をじっと見つめている事に気が付いた。


「クレハ、どうした?」

「あ、いえ、何かが動いたような気がして……」


そう言われ、ユウとテミスも男性に目を向ける。彼の周囲には、まだどす黒い霧のようなものが漂っており───次の瞬間、その霧がテミスの顔目掛けて動き出した。


「なっ……!?」


咄嗟にテミスは手で霧を払ったが、そのまま彼女の顔は黒い霧で覆われる。やがて人々の動揺する声があちこちから聞こえる中、その霧はテミスの体内へと侵入し───


「はあッ!!」


彼女が放出した銀色の魔力と共に、霧は外へと弾き出された。


「まさか、黒い霧の正体は魔物だったのか!?」

「おーおー、ナイスタイミングで来ちまったらしいな。どいてろテミス、私が捕獲してやろう」


驚くテミスの前に、小柄な少女が突然姿を現した。紫色の長髪を持つその少女は、次なる標的を探して蠢く黒い霧に手のひらを向ける。


「【空間固定】」


そして彼女が魔法を唱えた直後、黒い霧の動きがピタリと止まった。まるで、見えない力でその場に固定されてしまったかのように。


「ソンノさん……」

「やれやれ。せっかく平和になったってのに、結局時間が経てばまた新たな異変が発生……か。まあいい、とりあえずこの魔物は私が預かる。報告を終えたら学園まで来てくれ」

「了解しました」


オーデム魔法学園長であり、かつてテミスたちと共に戦った空間干渉の使い手……ソンノ・ベルフェリオ。彼女はユウとクレハに気付くと、やれやれと息を吐く。


「お前らなぁ。その顔、自分達にも話を聞かせてほしいとか考えているだろ?」

「ええ、まあ、否定はしません」

「この街でこんな現象が発生した以上、人事ではありませんしね」

「はぁ、話す程度なら構わないが、あまり首を突っ込みすぎるなよ?マナと違って、お前達はまだ子供なんだからな」


そう言ってソンノが姿を消す。記憶した空間へ一瞬で移動できる転移魔法を使ったのだろう。やがてテミスは男性を連れてギルドへと向かい、ユウとクレハは先程出たばかりの学園に引き返す事となった。

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