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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
終章 エターナルトワイライト
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92.暴風鉄槌

「はぇ〜、どーゆーこと?」


目の前に広がる光景を前に、先程からリースは何度も首を傾げていた。世界樹に乗り込んだ筈だったのだが、仲間と分かれて扉の先へと進めば何故か見覚えのある場所に立っていたのだ。


独特な服装や口調、文化がある王国東部······人々が東方地方と呼ぶ、彼女の故郷である。


しかし不思議なのが、こうやってあちこちを歩き回っても人と遭遇しないこと。何かあったのだろうかとリースは少し不安に思っていたが、やがて視線の先に村が見えてきた。


「はっ······!?」


───何故か村全体が燃えているのだが。


「ちょっ、何事!?」


急いで村の中へと駆け込めば、見上げるほど巨大な化物が数体歩き回っている。赤い皮膚と膨れ上がった筋肉、頭から生えた2本又は1本の角が特徴的な、鬼と呼ばれる魔物だった。


「あぁん?まだガキが生き残ってたか」

「キッキッキッ、結構上物じゃん」


人語を発する鬼達は、リースに気付いていやらしい笑みを浮かべながら彼女に歩み寄る。


「なんで村に鬼が······!」


そんな鬼達だったが、勢いよく踏み込んだリースを見て目を見開いた。風が彼女の周囲を渦巻き、空気が変わる。


次の瞬間、炸裂音と共に地面と鬼の首が吹き飛ぶ。凄まじい速度で弾丸の如く跳躍し、放たれたのは全力の蹴り。更にそのまま空中で回転し、周りの鬼を裏拳と回し蹴りで薙ぎ払う。


「はああっ!【ストームハンマー】!!」


そしてとどめの一撃が村全体を激しく揺らし、周辺に居た鬼は村の外へと飛んでいった。


「んー、今の手応え······」


強烈な一撃を叩き込んだのはいいが、妙な手応えだった。何故かヴィータの魔力を感じたし、本物を倒したという感覚ではなかったのだ。


「クハハっ、いいねぇ。こいつは楽しめそうだ」


そう、リースが己の拳を見ながら転移直後と同じように首を傾げていると、不意に背後から男の声が聞こえた。驚いて振り返れば、頭部から2本の角が生えた男が立っている。


鬼族───人によく似た姿でありながら、鬼以上の強さを誇る存在。魔力を纏い、リースは鬼族の男を睨む。


「おいおい、そう睨むな。これからお待ちかねの殺し合いをすんだ。楽しくいこうぜぇ?」

「だ、誰やあんた」

「俺はシュラ。鬼族の中じゃあ最強だなんて言われてた、鬼剣のシュラだ」


シュラと名乗った男は、地面に刺していた禍々しい大剣を引き抜く。そしてそれを方に置き、どす黒いオーラを放出した。


「っ、感情喰らい(イーター)······!」

「そんじゃあ、死ぬまで殺り合おうかァ!!」


勢いよく駆け出したシュラが、全力で大剣を振り下ろした。咄嗟に避けたそれをリースは拳を握りしめ、風を纏わせたボディブローを腹部に叩き込む。


それでもシュラは止まらない。踏み込んで回転し、周囲を薙ぎ払うように大剣を振った。


「ぐっ!?」

「いい事を教えてやるよ!ここはお前の故郷なんかじゃねえ、終の女神が創り出した再現空間だ!そしてここが、お前の墓場になるんだよッ!!」

「な、ならんわっ!」


衝撃波で吹っ飛んだリースは着地と同時に魔法陣を展開、詠唱を破棄して竜巻を発生させた。地面を抉りながら突き進むその魔法は、再び地を蹴ろうとしていたシュラを襲う。


「いいねぇ、リース・アリスロード!」

「ウチを知ってる······!?」

「薙ぎ払え!【悪鬼刃あっきじん】!!」


黒い極太の刃が家屋を粉砕。崩壊する故郷をめにしてリースは動揺したが、既に大剣は目の前に。


ギリギリで身を捻って躱し、倒れるような姿勢のまま大剣を蹴り上げる。元々持っていた近接格闘術のセンスに、ヴェントとの修行で鍛え上げられた風魔法が合わさり、超高速での接近戦が可能となった。


今のを防がれると思っていなかったシュラは一瞬驚いたように見えたが、すぐに獰猛な笑みを浮かべて大剣を振り回す。


「女神から聞いてたからなぁ!風魔法使いで東方地方の言葉を話す武闘家の女、この手で斬り裂いてやりたいと思ってたんだ!」

「なんで!?」

「理由なんてねえよ!だがなぁ、女神の野郎がこの世界を滅ぼした時!俺はあの剣聖をも超える究極の力を手にすることができるんだッ!!」


次々と放たれる剣技を拳で受け止め、弾き、躱しながら、リースはユウの母を思い浮かべた。


とても40歳には見えない絶世の美女であり、敗れたとはいえ一時はあのヴィータを圧倒した実力の持ち主。もしかして、あの人に憧れているのだろうか。


「何年も前、俺はあのクソ女に敗北した!初めてだったよ、本当に手も足も出なかったってのは!でもよ、お前を殺せば剣聖以上の称号を得られんだ!クハハっ、この俺が世界最強の剣士になるんだよォ!」


違った、全然違った。


「馬鹿馬鹿しい!」


荒れ狂う風を纏いし拳が腹部にめり込み、衝撃が体を貫く。骨は砕け、血を吐き出し、そんなシュラの顎に渾身のアッパーが炸裂。


「そんな未来は待ってない!だってウチらが······ユウが、ヴィータちゃんを止めるから!」

「ユウ?あぁ、ユウ・シルヴァか!?」


彼の名が気に障ったのか、リースに殴り飛ばされたシュラは凄まじい魔力を放出する。


「テミス・シルヴァの息子だな!?聞けば女神のお気に入りだそうじゃねえか!クソ女の息子だってのに、滅亡後の世界に導くとか言ってやがったしよ!ざけんな、あの女に関わるものは全部俺がぶっ壊してやる!」


疾走、そして大剣を下に叩きつけた衝撃で地面を粉砕。破片の処理をしているリースの背後に回り込み、大剣を振るう───が、それは反応したリースに躱される。


「俺は1度テミス・シルヴァに殺されかけてんだ!だが、女神の魔力で奇跡的に生き延びた!いいように利用されてんのは分かってるがな、あの女に復讐できるってんならどうでもいい!」

「テミスさんは、理由も無くそんな真似をする人じゃない!どうせあんたがいらんことしたんやろ!」

「俺は最強なんだああああああああッ!!」

「生憎、あんたより優れてる人を知ってるよ。その人はウチの親友でな────」


風の弾丸を浴びて宙に浮いたシュラ。そんな彼の腕を掴んで振り回し、全力で地面に叩きつける。


「格好良くて優しくて、めっちゃ強くて仲間思いで······ウチが世界一大好きな剣士なんやから!」

「黙れ小娘えッ!!」


突如、リースの腕に激痛が走った。よく見れば深い切り傷が目に映る。いつの間にか、叩きつけた筈のシュラは大剣を振り切っていた。


「てめえの話なんてどうでもいいんだよ!」

「くっ、感情喰らいが力を······!」

「大事なのは、この俺が最強ってことだろうが!」


一瞬動きが鈍ったリースの腹に膝蹴りを叩き込み、まるでバットのように大剣を振るいリースを弾き飛ばす。


完全にリースが押していると思っていたが、シュラはまだ本気を出していなかったらしい。先程とは比べ物にならない量の魔力を大剣に纏わせ、シュラが地を蹴る。


「クハハハハっ!どうした、さっきまでの勢いはどこいったんだよオイィ!」

(速いっ────)


纏った風がある程度大剣の勢いを殺してくれてはいるものの、気を抜けば一瞬で体を両断されるだろう。冷静に大剣の軌道を読んで受け流し、がら空きの腹部に吸い込まれる拳。


しかしシュラは膝で蹴り上げるように腕を弾き、致命的な隙を作ったリースを大剣で吹き飛ばした。


地面を跳ね、燃える家に突っ込むリース。咄嗟にかなりの魔力を消費して風の防御壁を生んでいなければ、それこそ今自分は血を流す程度では済んでいない。


「ダメダメやん、ウチ········」


ユウの力になる為に、クラスメイトを連れ戻す為に。2週間必死に修行してきたというのに、何も活かせていないではないか。


立ち上がり、魔力を整え、風を纏う。生死を確認する為、シュラがここに向かって歩を進めているのが分かる。ユウやエリナとは違い、まだまだ力を出し切るのが難しい。だからといって、躊躇いながら戦い勝てる相手ではない。


「よし、頑張ってみよか」


失敗したら、その時はその時だ。悩むのは自分らしくないとリースは笑い、目を閉じて集中。


「せーの······魔力─────」

「残念、死んどけやッ!!」


次の瞬間、家が吹き飛んだ。リースが生きていることに気付いたシュラが、斬撃でリース諸共家を破壊したのだ。


「クハハハハっ!これで俺は新世界への切符を手に入れた!もう少しで剣聖を超える強さを手に入れれるんだァ!」


高らかに笑い、シュラは大剣を担いで崩壊する家に背を向ける。そんな彼の顔面が、ミシミシという音と共にグニャりと歪み────


「おりゃあーーーーーーッ!!!」

「ぐがあああああッ!?」


膨大な魔力を纏わせた全力の鉄拳が、シュラを遥か遠くへと吹っ飛ばした。空を飛びながら、シュラは自身に何が起こったのかを理解して驚愕する。


「ば、馬鹿な、見えなかった!?」

「はあッ!!」


そんなシュラの目の前に姿を現したリースが、空中で無防備な胸部を踏みつけ地面に叩きつける。真上に暴風を放つことで、シュラは立ち上がることすらできない。


「やった、成功や!」

「ま、魔力解放······!?」

「これでやっと、ほんのちょっとだけユウに追いつけた!」


置いていた足を振り上げ、シュラを猛スピードで滑らせる。そして瓦礫にぶつかり跳ね上がった彼に風を放ち、空高く吹き飛ばした。


「ず、図に乗るなァーーーーーッ!!」


しかし、まだ終わらない。空中で体勢を立て直したシュラは、大剣を握りしめながら回転、地を蹴ったリースにそのまま大剣を投げ飛ばす。


「【風龍拳ふうりゅうけん】!!」

「んなっ!?」


それをリースは殴って跳ね返す。流石に予想外だったらしく、返ってきた大剣を止めることができずにシュラは血を撒き散らした。


一体、自分の何がこの少女に劣っているというのか。地面に落ちたシュラが顔を上げると、周囲を猛烈な勢いで風が渦巻いていた。どうやら、リースが発生させた竜巻の中に閉じ込められてしまったらしい。


「それがどうしたァッ!!」


近くにあった大剣を手に取り、風を斬り裂く。しかし呆気なく弾かれてしまい、風の中に飛び込んできたリースに殴られシュラは吹っ飛ぶ。


魔力で作られた竜巻はシュラを弾き、吹っ飛んだ先で再び風の壁にぶつかり弾かれる。それを繰り返し、更に風を纏って加速したリースに何度も拳や蹴りを叩き込まれ、気付けばフラフラになったシュラを見下ろすように、跳躍したリースは竜巻の真上に飛び出した。


「風の上位魔法にウチの拳を合わせた技、耐えれるもんなら耐えてみろ!」

「う、うおあァあああッ!!!」


膨大な魔力を拳に集中させ、空中を蹴って再度竜巻の中へと飛び込んだリース。そして大剣を振り上げたシュラへとその拳を叩き込み────


「砕け、【テンペストフォール】!!」


竜巻は、地面と共に盛大に吹き飛んだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「あはははっ!まさか5人もやられてしまうなんてね!」


歪んだ空間、その中心で元凶は笑う。王国各地で発生している戦闘も、もうすぐ始まる永遠黄昏に備えてそろそろ終わらせなければならない。


彼らは守った、大切な人や場所を。素晴らしい、文句無しの大勝利だろう。そして、彼らよりもか弱い者達が、強大な敵を打ち破ってこの場所へとたどり着こうとしている。


「後はユウ君達シルヴァ家が、どうやってこの試練を乗り越えるかだね。クスクス、楽しいなぁ······」


終わりの時は近い。勝っても負けても、必ず物語は結末を迎える。終の女神は、ただ静かに佇んでいた。

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