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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
終章 エターナルトワイライト
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91.下級生の意地

迷宮図書館───かつてアーリアが感情喰らい(イーター)に寄生された際に図書室を歪めて作り出した、様々な書物が存在する危険な迷宮。


ユウの活躍で消滅した筈の場所に、困惑するアーリアは1人で立っていた。


「これって、迷宮図書館だよね······?ど、どうしてこんな場所に私が······」


恐ろしく静かで、それが不気味だった。風は吹いていないのに蝋燭の日が不自然に揺れ、どこかでカタリと音が鳴る。


「う、うぅ······ユウ先輩、マナ先生、誰かいませんか······?」

『ウフフ、私が居るじゃない』

「きゃああっ!?」


不意に聞こえた声に反応して振り向けば、自身の周囲に複数の魔導書を浮遊させる少女が立っていた。服装こそ違うが、容姿は自分と全く同じ。好戦的な笑みを浮かべる〝アーリア〟が、自分の前に立っている。


「ど、ドッペルゲンガー!?」

『違う、私は終の女神ロヴィーナ様の魔力から生み出された魔力体。ただ、貴女の魔力が多く混じっているから、容姿はそっくりそのままなの』

「あ、ああ。そういう事ですか······」


凄まじい魔力を放ち続けている偽アーリアが、自身の周囲に複数の魔導書を展開する。他の仲間達も、こうして再現された自分を前に息を呑んでいるのだろうか······そう思いながら、アーリアも同じく3冊の魔導書を浮遊させた。


『でもね、あなたよりも遥かに強大な力を蓄えた魔導書を、私は何冊も行使できる。その意味、分かるよね?』

「いえ、だったら強引にでも突破させてもらいますよ!」

『できるかな?』


次の瞬間、魔導書から飛び出した5つの剣がアーリアを強襲した。咄嗟に反応、障壁を展開したものの、続けて放たれた雷槍がその障壁を粉砕し、意志を持っているかのように動く剣が彼女の肌を切り裂いた。


「あっ······!?」

『ほらほら、始まったばかりだよ!?』


地を蹴った偽アーリアが両手に剣を取り、振り下ろす。それをバックステップで躱したアーリアだったが、残る3本の剣が背後から迫っている事に気付き、手元から放った魔力を地面にぶつけた衝撃で真上に跳ね上がった。


当然、それを見逃してくれる程敵は甘くはない。そのまま魔力を操作し、天井に足を置いたアーリア目掛けて剣を一斉に飛ばす。


(駄目だ、魔闘力は迷宮図書館で感情喰らい(イーター)に寄生された時の私以上か!)


魔力を足元に集中させ、フロア全体の天井に大規模な魔法陣を展開。アーリアは天井を走り、迫る剣を避けてみせた。


『重量操作の魔法······!』

「【防御砕き(シールドクラッシュ)】!」


魔導書の1つが輝き、偽アーリアの耐久力が低下する。そこに放たれた岩の弾丸が直撃し、そのまま偽アーリアは本棚に衝突した。


『っ、ふふ······意外とやるね、私』

「剣よ······!」


同じく5本の剣を召喚したアーリアは、魔力でそれを操作して起き上がった偽アーリア目掛けて一斉に放つ。


『だけど、甘いッ!!』

「なっ!?」


しかし、偽アーリアが全身から放出した膨大な魔力に跳ね返され、更にその魔力は吹き荒れる暴風となってアーリア諸共全てを吹き飛ばした。


『あっはははは!このままあなたを殺して入れ替わるのも悪くは無いかもね!それで、マナ先生から大好きなユウ先輩を奪い取るの!』

「な、何を馬鹿な事を······!」

『隠しても無駄、わたしあなたなんだから。嫉妬はよくない感情だよ?終末領域に喰われてしまう······その心ごとね』

「······やっぱり、あなたは感情喰らいに寄生されたあの頃の私のままですね」


壁に衝突して痛めた肩を手で押さえながら、アーリアは自分そっくりな魔力体を睨む。


「嫉妬しているのは認めます。だけど、私は先輩とマナ先生の邪魔はしたくない。互いを信頼し、支え合い、想いを重ねる······そんな素敵な関係になれる人に出会えたらいいなって、そう思わせてくれた人達だから」

『あっそ、じゃあ死ぬといいよ!』

「負けない、絶対に······先輩達に追いついて、最後まで全力でサポートする為に!」


突如浮遊する3つの魔導書から、偽アーリアですら驚愕する程の魔力が溢れ出した。まさかと思った直後には、アーリアが輝く陣を展開しており───


「ネビアさんに教えてもらった事全てをあなたにぶつけます!魔力解放!!」

『まさか、魔導書を通して深層魔力を解放したの!?あははっ、楽しめそうじゃない!』


解き放たれた魔力を魔法へと変換し、魔導書から発射する。目にも留まらぬ速さで飛び出したのは光の矢。それを手に持つ剣で弾いた偽アーリアだったが、風の弾丸を浴びて派手に床を転がり跳ねた。


『ぐっ!?魔闘力は低い筈なのに、魔力解放を行えるだけの才能があったなんて!』

「あら、あなたでも分からなかったの?」


魔導書から飛び出した鎖が偽アーリアの足首に巻き付き、それを操作して本棚へと突っ込ませる。


『だけど、魔力解放を行っていられる時間は少ないでしょう!?だって、保有魔力自体は少ないんだからね!』

「だからこそ、早めに決着をつけましょう」

『ええ、望み通り早く殺してあげる!』


猛スピードで駆け出した偽アーリア、彼女を見てもアーリアはその場から動かない。馬鹿めと口角を上げ、偽アーリアが剣を振り下ろす。しかし、その剣はアーリアの体をすり抜けた。


『っ、幻術······!?』

「この2週間で私が得た魔法までは記憶できてなかったみたいですね。さあ、覚悟はいいですか?」


バランスを崩し、踏ん張る為に勢いよく置いた足。そこには条件起動魔法陣が仕掛けられており、踏んだ瞬間に起動して偽アーリアを鎖が拘束する。


『うああっ、くそ!こ、こんなもので······!』

「無駄です。こう見えてもその鎖にはかなりの魔力を込めているので、無理に逃れようとすれば魔力の消費は相当なものとなりますよ」

『このっ!剣よ、この女を切り裂け!』

「それも無駄です。ネビアさんから教わった精神干渉魔法だけど、相手の魔法を一時的に封じ込める効果がありますから」


魔導書に魔力を流し込み、アーリアは再度魔法陣を展開する。自身の足元に浮かび上がったそれを見た偽アーリアが叫ぶが、アーリアは何も言わずに魔法を使用した。


拘束した鎖が、敵の魔力を奪い取る魔法。それを何度も連続で使用する事で、アーリアは偽アーリアの魔力全てを吸収する事に成功した。


本来ならば、他人の魔力の大量に体内へと入れた場合、体が拒絶反応を起こして何らかの異常が起こってしまう事がある。しかし、アーリアが得たのはヴィータの魔力が混じっているとはいえ、大半が元々自分のものだった魔力。


魔力解放によって消費された魔力は再びアーリアの体を巡り、戦闘による疲労もすっかり回復した状態に。そして力を失った魔力体アーリアは、完全に消滅してしまっていた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







薄暗い森の中、絶え間なく鳴り続ける銃声が反響する。そんな状況で、ユリウスは木を盾にしながらどうしたものかと頭を悩ませていた。


『はははははっ!どうした、隠れることしかできないのか!?』

「やれやれ、魔力の消費は極力避けたいんだ」


離れた場所から大量の魔弾を連射してくる、眼鏡が似合う少年。そう、アーリアと同じくヴィータが生み出した、ユリウスの魔力体である。


「とは言ったものの、手加減して勝てる相手じゃないな。先輩方やクレハさん······特にアーリアは無事なんだろうか」

『【ブラストバレット】!!』

「チッ······!」


木が吹き飛ぶ。その直前にユリウスは駆け出しており、別の木へと避難する間に数発の弾丸を魔力体目掛けて放った。


しかし、その全てを偽ユリウスは的確に撃ち落とす。そして再度魔弾を放ち、駆けるユリウスが隠れる場所を次々と消していく。


『はっはっはっ!1年じゃそれなりに優秀だけど、所詮(きみ)はその程度なのさ。多種多様な魔弾を放てたところで、その威力は通常の魔法よりも落ちている。そんな戦い方が、終の女神に通じると思っているのか!?』

「さあね。幼い頃から鍛えてきた射撃の腕を、僕自身が否定してどうするんだ」

『フン、本当は分かってるんだろう?きみは世界樹攻略班の中でも最下位レベルの実力だって!』


ユリウスの眼前が赤く染まる。放たれた魔弾が木に直撃して燃え上がり、そのままユリウスを包囲したのだ。


『無謀な戦いを続けるよりも、終の女神に手を貸した方がずっといい。さあ、本音を言ってみなよ!』

「────【ピアスバレット】」


その炎を貫き、貫通力が高められた弾丸が偽ユリウスの頬を掠める。特に焦った様子もなく、ユリウスは冷静に魔導銃を構えていた。


「なるほど、学園祭前に暴走してユウ先輩と魔闘戦をした時の僕を再現していたのか。なら、今の僕が何を考えているかなんて、分かるはずもなかったね」

『はあ······!?』

「過去の自分を倒し、仲間と共に世界を守る。それが嘘偽りの無い、僕の気持ちさ」

『馬鹿め、その浅はかな考えが己を滅ぼすんだ!』


ゆっくりと木の後ろから姿を見せたユリウスに、偽ユリウスは容赦なく魔弾を乱射した───が、そこで気付く。今視界に映った筈のユリウスが、何処にも居ないことに。


「僕の師匠は元暗殺者、こういう動き方は嫌という程叩き込まれたよ」


まるで影のように、気配すらも敵に感じさせない移動術。薄暗い森の中ではその姿をはっきり捉える事も困難であり、いつの間にかユリウスは相手の背後をとっていた。


『なっ────』

「【ブリザードバレット】」


放たれた魔弾は偽ユリウスに直撃すると同時に破裂し、凍える吹雪が吹き荒れる。それによって動きが止まった偽ユリウスに、休む暇もなく魔弾を連射した。


『こ、小癪なっ!』

「遅い!」


段幕の隙間を見つけて接近を試みた偽ユリウスだったが、素早い動きでユリウスは彼の頬に回し蹴りを叩き込む。ハスターから学んだ体術は、まだまだ改善点は多いものの、体術の防ぎ方を知らない時のユリウスを再現した魔力体には、本人すらも予想していなかった程の威力を発揮した。


「おっと、眼鏡は無事かい?」

『雑魚の分際で!だからクレハさんに相手もされないんだ!』

「それは非常に残念な事実だけど、今はもういいんだ。彼女が惹かれている人の勇姿を、この目で何度も見てきたからね」

『その相手は実の兄だぞ!?結ばれない恋を応援する必要がどこにあるというんだ!』

「愛の形は人それぞれだ。人の恋に、僕達がゴチャゴチャ口出しするのは間違ってる」


駆け出そうとした偽ユリウスは、いつの間にか地面に伸びる自身の影にナイフが突き刺さっていることに気付く。


『な、何を────』

「師匠の隠し技、【影縫い】さ」


突然石のように手足が固まり動かなくなった。それに偽ユリウスは困惑し、縋るような目をユリウスに向ける。


『ま、待て、殺す気か!?』

「殺すも何も、君は魔力体だろう?」

『くそっ!何故女神の魔力を微量とはいえ与えられているこの僕が、無能な欠陥品なんかに······!』

「やれやれ、自身の黒歴史を見せつけられるのはしんどいね。でも、決戦前のいい特訓にはなったかな」

『うああああっ!殺してやるううううっ!』


特大の魔法を込めた弾を装填し、ユリウスは構える。そして、その目に捉えた標的へと狙いを定め────


「頼もしい仲間達を最後までサポートする、それが下級生である僕の役目だ」


戦闘を終えたユリウスは、向こうに出現した転移魔法陣に向かって歩き出した。

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