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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
終章 エターナルトワイライト
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87.第2層 蠢く森

世界樹第二層······そこはまるで森のような場所だった。それに世界樹内だというのに、上を見れば黄昏の空が目に映る。


幻想的な光景だが、有り得ない。女神様そのものである世界樹内部に森が存在するというのはまだ分かるが、何故空が存在するのか。マナ姉達もこの光景に心底驚いていた。


『ユグドラシル様そのものである世界樹は、この世界そのものとも言えるのです。空の他に湖や遺跡等も存在していますよ。ですが永遠黄昏の影響で、空の色が変化しているようです』

「空間が歪んでるって事か········」


もう俺には何が何だか分からないが、まあ別にいいか。とにかく今は、一刻も早く先に進まなければ。


「ユウ君、ちょっとだけ休憩しない?」

「え?でも········」

「もう何時間も歩き続けてるんだから、ユウ君だってかなり疲れてる筈だよ?そんな状態で無理しちゃ駄目」

「それもそうか。了解」

「じゃあ皆、休憩しよっか。お母さんがね、全員分のお弁当を作ってくれたんだぁ」


確かに腹が減ったし、ヘトヘトの状態で歴史書の悪魔以上の敵が出てきた場合、全滅する可能性だってある。マナ姉の言う通り、少しだけ休憩するとしよう。


地面にシートを広げ、全員がその上に座る。そしてマナ姉が持っていたリュックから全員に弁当箱を配る。別に豪華なものでもない、いつも通りの母さん手作りの弁当だった。


だけど、俺は母さんの手料理が好きなので普通の弁当でも嬉しい。おかずを口にした他の皆も絶賛している。


「ユウ君ったら、口にソース付いてるよ?」

「え、マジか」


あまり時間が無いので弁当を急いで食べていると、マナ姉が俺の口元に付いていたらしいソースを指で取り、そして舐めた。


以前なら恥ずかしかったが、付き合ってからはあれこれしているので別になんとも思わない。ただ、今は周りにエリナ達が居る事を完全に忘れていた。


「ヒュ〜、ラブラブだねぇ」

「おまっ、ソル!」


案の定ソルがからかってきたので口を塞いでやると、それを見たエリナやリースが笑い出す。


「あっはっはっ!焦ってるみたいやけど、2人がお付き合いしてるのウチら知ってるで?」

「はぁ、羨ましいわ········」

「先輩付き合ってるんですか!?そんなぁ」


その後、色々質問されながらも俺達は弁当を食べきった。もっとのんびりしていたいが、残念な事に時間が無さすぎる。


弁当箱やシートを片付け、第二層の探索を開始。ぼんやり輝く森の中を、俺達は警戒しながら進んだ。


『っ、ユウ様。森の魔力が乱れ始めています』

「何········?」

『まさか、森そのものが─────』


ティアーズが何かを言おうとした次の瞬間、突然地面が盛り上がって周囲の地形が一瞬で変化した。黒く染まった根が壁となり、俺達を真ん中から分断する。


「し、しまった!マナ姉、大丈夫か!?」

「うん、私達は大丈夫だよ!」

「くそっ、流石にこの高さは飛び越えられない」


雲に届く高さまで、絡み合った根は壁としてそびえ立っている。遥か遠くまで根の壁は続いており、全力で斬ったがあっさりと跳ね返されたので、第1層のように壁は破壊できないのだろう。


振り返ればリース、ソル、アーリアが立っているので、壁の向こうにはマナ姉、クレハ、エリナ、ユリウスが居る筈だ。


「ユウ君、このまま2箇所に別れて進もう!」

「それは俺も考えたけど、それで全員次の層に進めるのか?」

「分からない。でも、壁を壊せないんだから進むしかないよ」

「········分かった、絶対合流しよう」

「気を付けてね、ユウ君」

「そっちもな!」


そう言い、俺はリース達に声をかける。


「という事だ。3人共、このまま俺達だけで次の層に進む為の魔法陣を探すぞ」

「で、でも先輩、また悪魔が現れたら········」

「大丈夫やろ、ユウが蹴散らしてくれるわ!」

「ユウとマナさんがイチャイチャしてたから、この森も怒ったんじゃねーの?」

「う、うるさい。とにかく先に進もう」


マナ姉達が心配だけど、きっと大丈夫だろう。そう自分に言い聞かせ、第2層の探索を再開する。あれから植物や根は動いたりはしていないが、魔物が大量に出てきたので驚いた。


「チッ、魔物が多いな········!」

「修行してなかったら死んでたかも!」


こちら側には近接戦闘が得意なメンバーばかりが集まっているので、後方からの支援はアーリアの補助魔法しか無い。時折負傷しながらも、迫り来る魔物達を迎え撃つ。


「【回復領域ヒーリングフィールド】!!」

「今だ、殲滅するぞ!」


やがて回復されながらも、俺達は魔物を全滅させる事に成功した。アーリアもかなり魔力が上昇しているようで、これだけ魔法を使用したのにケロッとしている。


「凄いなアーリアちゃん、助かったで!」

「いえいえ、このぐらいしかできないので」

「凄いといやぁユウもだな。ほとんどお前が仕留めたんだし」

「いや、連携が上手くいったからだよ」


納刀し、息を整える。互いの動きをよく知っているからこそ、ここまで上手く立ち回れるんだ。魔力の消費を最大限にまで抑える事ができているのは、間違いなく3人のおかげだった。


「あ、見て!向こうに魔法陣があるで!」

「よっしゃ、早く行こうぜユウ!」


リースの言う通り、地面に浮かび上がった魔法陣が見えたのだが、何か妙だ。そう思って前を走る2人を呼んだ次の瞬間、閃光が辺り一帯を照らした。


咄嗟に神雫を抜き、リースの前に立つ。そして真上から振り下ろされた踵を受け止めた直後、俺の全身を電撃が駆け抜けた。その巻き添えを食らったリースとソルも、勢いよく後方に吹っ飛ばされる。


「ぐっ、マナ姉········!?」

「そうだよー♡」

「違うな、誰だお前!」


俺達を襲ったのはマナ姉そっくりの誰かだ。しかし、別の人物なら遠慮する必要などない。俺は踵を押し返し、浮いた偽物の顔面を全力でぶん殴った。


「うっわー、お姉さんの顔グーパンって········」

「せ、先輩って凄いです」

「偽物だからね!?」


吹っ飛んだ偽物は、衝突の衝撃で折れた大木の下敷きになった。それでも余裕があるようで、大木を雷で消し飛ばしてからゆらりと立ち上がる。


「酷ぉいユウ君。お姉ちゃんの事殴るなんて」

「うるさい黙れ。本物以外に優しくする意味なんてないんだよ」

「うっふふふふ、ユウ君ったら不良に育っちゃったんだぁ。でも大丈夫、お姉ちゃんが頑張って正しい道に連れ戻してあげるね」

「頑張らなくていいよ、消えて無くなれ」


俺の家族を使う幻術や擬態が、この世で最も嫌いな魔法だ。俺は移動速度を上昇させて偽マナ姉の背後に回り込み、そして神雫を本気で振るう。


「遅いぞユウ、その程度で母を斬れると思うな」

「ッ!?」


鳴り響いた、刀と刀の衝突音。直前までマナ姉だった誰かは、一瞬で母さんに姿を変えていた。


「お前、何者なんだ········!?」

「私は終の女神ロヴィーナの魔力から生み出された存在。名前は無いが、使命ならある。君達〝最後の希望〟を始末する事だ」


世界中の魔力を吸収したヴィータは、持ち主の魔力に別の魔力を混ぜて一つの生命体を造り出せるというのか。なら、この敵は母さん並かそれ以上の力を持っている可能性が高い。


「ユウ、援護するで!」

「俺も交ぜやがれええッ!!」

「フッ、慌てなくていい────」


リースとソルが加勢した瞬間、跳躍した偽母さんが銀の刃を地上目掛けて放った。咄嗟に神雫の魔力で障壁を展開したものの、あっさり突き破られて刃は盛大に大地を粉砕する。


「くっ、【身体強化フィジカルブースト】!!」

「遅いよーアーリアちゃん」

「え───きゃあっ!?」


再度マナ姉に姿を変えた魔力体は、俺達に補助魔法をかけようとしていたアーリアを背後から蹴り飛ばした。くそっ、マナ姉の顔で気持ち悪い笑みを浮かべやがって········!


「どうしたのユウ君、エッチな事でも考えてるのかな?」

「はあ!?」

「いいんだよ?お姉ちゃんの事、ここで滅茶苦茶にしても。でも他の皆が居る前で、ユウ君みたいなヘタレがそんな事できるのかなぁ〜?」

「お、おいユウ!このマナさん、エロいな!?」

「おバカさんは黙ってろ!」


とうとう調子に乗って服のボタンを外し始めたので、俺は斬撃を連続で何十発も偽マナ姉目掛けて放った。しかしその全てを蹴りで消し飛ばされ、地を蹴った偽マナ姉が急接近してくる。


「好き勝手やりやがって········!」

「ふぐッ!?」


気付いてなかったようだが、俺は偽マナ姉との間にある地面に魔法陣を仕込んでいた。魔力を流し込んで起動させた陣からは刃が飛び出し、駆けていたマナ姉を真上に吹っ飛ばす。


「マナ姉はそんな事言わないし、そんな気持ち悪い笑顔にならないし、動きも似てない!ちゃんとマナ姉の事を全部学んでから出直してきやがれ!」

「か、母さんを斬るのか!?」

「母さんはそんなに弱くないっつの!!」


振り下ろした神雫が、偽母さんの体を斬り裂く。その際大量の血が体内から噴き出したが、偽母さんの体が消えるのと同時に全て消滅した。


「家族愛が凄いなぁ、ユウは」

「流石です、先輩!」

「い、いや、まあ······な」

「んじゃー敵も倒した事だし、魔法陣使ってちゃっちゃと移動させてもらおうぜ!」

「ああ、そうだな」


マナ姉達の方にも同じような敵が現れているのだろうか。そう思いながら、俺は魔法陣で更に上層へと転移するのだった。







◆◆◆マナ・シルヴァ◆◆◆





「くっ、誰なの········!?」

「酷いなぁマナ姉。俺とは相思相愛の関係だろ?」


ユウ君達と別れてから第2層を探索していると、突然ユウ君そっくりの敵に襲われた。だけど分かる、彼はユウ君に似ているだけの偽物だって。


「はああっ!【ライジングストーム】!!」

「おっと、そんなにあっさりと上位魔法を詠唱無しで放てるようになったのか、エリナ」


エリナちゃんが放った雷を帯びた竜巻は、偽物のユウ君の刀から放たれた銀の刃で消し飛ばされる。魔力はユウ君と同じで、以前はエリナちゃんが詠唱破棄を行えなかった事を知っている。


そうだ、ヴィータちゃんは様々な魔力を体内に保持している。それこそ、一生無くならないであろう量の魔力を。


「その中からユウ君の魔力を使って、ユウ君そっくりな存在を造り出した········?」

「流石はマナ姉だな。その通り、俺はマナ姉が好きで好きでたまらない愛しの〝ユウ君〟とは全く別物の存在。生命体というより、ヴィータ・ロヴィーナの魔力ってわけだ」

「悪趣味ですね。その程度の擬態で、本気で兄さんを再現したつもりですか?」


背後からクレハちゃんの魔法が偽物のユウ君を襲う。だけどそれは一瞬で切り刻まれ、偽物は私達の前から姿を消した。


「ああ、魔力も技も全部お兄ちゃんそのものさ!」

「ユウ先輩なら、この程度の弾丸でも簡単に弾いてしまうでしょうね」

「なっ!?」


だけど、真上に姿を現した偽物のユウ君は、行動を予測していたユリウス君に撃ち落とされた。それを狙い、私は偽物のユウ君を踵で地面に叩きつける。


「あっはっはっ!いいね、そう来なくちゃ」

「っ、ソンノさん!?」


よく見れば、偽物はソンノさんに姿を変えていた。まずいと思って後ろに跳んだ直後、私が立っていた場所の空間が歪んで引き裂かれる。今のは、ソンノさんの空間断裂だ。


「くくっ、よく避けたな」

「何でもアリね········!」


エリナちゃんが放った雷が生み出された穴に吸い込まれ、別の場所からユリウス君に降り注ぐ。更に転移した偽物は、至近距離からクレハちゃんを空間振動波で吹っ飛ばした。


「このッ········!」

「遅いわよマナ」


今度はベルゼブブさんに姿を変え、強烈な蹴りが私のお腹にめり込んだ。衝撃で吐きそうになったけど、なんとか耐えて偽物の足首を掴む。


「ちょっと、離しなさいよ」

「くっ········!」

「離してくれるかな?そっくりさん」


軽く跳び、空中で身を捻って逆の脚を使い、私の顔に蹴りを叩き込んできた。よく見れば、偽物は私に姿を変えている。今の一撃で口の中が切れてしまい、私は血を吐き出した。


「私みたいなただの魔力体相手に苦戦するようじゃ、私の主には勝ち目無いよ?」

「やってみないと分からないでしょ········!」

「私も本当は理解してるじゃない。相手は魔神グリードや悪神アバドンとは比べ物にならない、正真正銘本物の神だって。表と裏を守護するユグドラシルと対になる、終末領域が生み出した災厄の女神。希望の象徴だったお父さんとお母さんだって呆気なく敗れたんだから、私程度じゃどうする事もできないの」


クレハちゃんの魔法が偽物の全身に絡みつく。


「だからって、諦めるわけにはいかない。ヴィータちゃんは私の生徒なんだから、彼女の話を聞くのは先生の仕事だよ!」

「ふっ、あははっ!女神を生徒だなんて────」


顔面に膝蹴りを放ち、蹌踉けた偽物の私目掛けて雷魔法を連続で放つ。やがて魔法を撃ち終えると、偽物は完全に消え去っていた。


「ふう、これで先に進めるね」

「お疲れ様です、マナ先生!」


駆け寄ってきたエリナちゃん達と共に、再び私は歩き出す。向こうには魔法陣が見えていて、あれを使えば次の層に転移できる筈。


(ユウ君達は無事なのかな········)


不安だけど、進むしかない。転移先で、また無事に合流できると信じて────

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