第22話 回復魔法を教わる理由
「こう・・・なんといいますか、ぎゅーっと力を込めて、手のひらからふわ〜って魔力を外に出すイメージです」
「・・・?んー・・・?」
「すみません・・・」
あれから俺は、教会で出会ったシスターさんに回復魔法を教えてもらってるんだけど、あんまり伝わってこないなぁ。
「えーと、こうです!こんな感じで魔力をスッと!」
と言いながら、可愛らしいジェスチャー付きで俺に回復魔法について教えてくれてる彼女の名はマリアベル。ブロンズの髪が綺麗な17歳のシスターだ。
名前がちょっと長いからマリアちゃんって呼ぶ事にした。
「ご主人さま、この人なにいってるのかわかんない」
「こ、こら。教えてもらってんだから」
「うぅ、申しわけないです」
年下だけどさっき初めて会話した俺に回復魔法なんかを教えてくれる優しいマリアちゃん。でも、言い難いけど教えるのがちょっと下手だ。
「ほんとごめんな。できてないのは俺達がやり方を知らないだけだから、別にマリアちゃんが悪いわけじゃない」
「いえ、私の教え方が悪いんです。昔から勉強の教え方なども下手だって言われていて・・・」
「そ、そんなことは。俺達の方こそマリアちゃんの時間を奪ってしまってるんだからさ」
「ご主人さま、みてみてー!」
落ち込んでしまったマリアちゃんを励ましてると、突然マナが声をかけてきたのでそちらに顔を向けてみる。
「えっ!?」
「バチバチー!」
マナの身体からバチバチと音が鳴っている。
よく見ると、彼女は魔力を雷魔法へと変換して身に纏っているようだった。
「マナもまほーつかえた!」
「はは、凄いじゃないか。流石はマナだな」
「えへへ」
回復魔法を覚えるのは飽きてしまったみたいだけど、マナは雷魔法を使えるのかぁ。
「俺も負けてられないな。よし、なんとしてでも回復魔法を覚えてみせるぞ!」
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「あれ、二人はどこに行ったんだ?」
タローとマナが暇だから散歩してくると言ってから二時間。二人がなかなか家に戻ってこないので、家事を済ませた私は二人を探しに行くことにした。
それからしばらく町中を歩き回り、おじさんの居酒屋や服屋などを覗いたりしてみたが、どこにも二人はいない。
最終的にたどり着いたのは滅多に入ることのない教会。中から男女の話し声が聞こえたので、なんとなく中を覗いてみる。
「これいけたんじゃないか?」
「はい、その調子です!」
中ではタローと一人のシスターが仲良さげに会話していた。感じる魔力はタローのもの。どうやらタローは回復魔法を教えて貰っているようだ。
「ご主人さま、こけちゃったー」
「膝を擦りむいちゃってるじゃないか。よし、俺に任せなさい」
タローがマナの膝に手を置き、回復魔法を唱えた。
「わあ、ご主人さますごーい!」
それはどうやら初歩的なもののようだが、マナの怪我は治ったようだ。
「凄いです、サトーさん!」
「はは、ありがとう。マリアちゃんのおかげだよ」
「いえいえ、そんなことは」
中に入れない。
二人を見ていると胸がざわつく。
「・・・?」
私はどうしてしまったのだろうか。タローはシスターに回復魔法を教えて貰い、そのお礼を言っているだけ。
なのに、どうしてこんな・・・。
「マリア先生だな。いや、師匠か」
「そ、そんな。恥ずかしいです」
気が付けば私はギルドに向かっていた。
そして適当に討伐依頼を受注し、装備を整えて森の中へ。
「グオオオオッ!!」
「ギャオオオッ!!」
討伐対象はレッドドラゴン。
今後オーデムに被害をもたらす可能性が高い為、一頭でも良いので討伐しろとのことだ。
「すまないな────」
剣に魔力を纏わせ、襲いかかってきたドラゴン数匹の身体を全力で斬る。切れ味が跳ね上がった私の剣はドラゴンの身体を深々と斬り裂くことに成功し、今ので三頭のドラゴンが地面に崩れ落ちた。
「ふう、まずは三頭・・・」
最近になってオーデム付近で目撃されるようになったレッドドラゴン。もっと西の方に住んでいるはずだが、こちらの方にも進出してきたというわけか。
「グオオオオオオッ!!」
「っ・・・」
真上から急降下してきたレッドドラゴンがブレスを放ってきたのでそれを回避し、跳躍して太い首を切断する。
さらに巨大な身体を蹴って近くで息を吸い込んだドラゴンの喉元に剣を突き刺す。
「・・・悪いのは私達の方なのにな。お前達はただ新たな住処を求めて移動してきただけかもしれないのに」
墜落した二頭のドラゴンに続き、私も着地する。
そして剣を収めて周囲を見渡した瞬間、突然目の前に巨大な火球が出現した。
「ぐっ────」
咄嗟に再び剣を抜いて火球を斬ったが、完全には消しきれずに吹っ飛ばされる。数回地面をバウンドしてから向こうに顔を向けると、通常よりも数倍は巨大なレッドドラゴンがこちらに向かって飛んできていた。
「まさか、オーガドラゴンか!?」
単体で町を壊滅させる程の力を持つレッドドラゴンの上位種。そんな相手がすぐ目の前まで迫ってきている。
だからといって退くわけにはいかない。
「光芒閃!!」
光属性の斬撃を全力でぶつける。
それによってドラゴンの身体に傷を付けることには成功したが、鱗が恐ろしく硬い。
「幻襲銀閃!!」
魔力で造り出した分身と共に直前に傷を付けた箇所に同時攻撃を仕掛ける。三つの斬撃が脆くなった皮膚を深々と裂き、オーガドラゴンが悲鳴を上げた。
「よし、これで───」
ほんの一瞬。
タローとシスターが楽しげに会話している光景を思い出し、攻撃の手を緩めてしまった。
「ッ!?」
その瞬間にオーガドラゴンが吐き出した灼熱のブレスを至近距離からまともに食らい、さらに太い尻尾で鳩尾を叩かれて後方に吹っ飛ばされる。
「う、ぐ・・・」
顔を上げればオーガドラゴンが再び息を吸い込んでいるのが見えた。
「このッ!!」
魔力を纏い直して地を蹴り、ドラゴンがブレスを吐き出す前に剣をドラゴンの傷口に突き刺す。
「瞬光螺旋突ッ!!」
そして魔力を流し込み、ドラゴンの体内を破壊した。
「グオオオオオオンッ!!!」
力を失ったオーガドラゴンの巨大な身体が崩れ落ちる。どうやら今ので仕留めることができたようだ。
「ふう・・・」
剣を仕舞い、改めて周囲を見渡す。
どうやらこの辺りにいたレッドドラゴンは今の戦闘で討伐できたようで、新手が姿を現すことはなかった。
「あ、こんなとこにいたのか・・・って、どうしたんだその怪我は!」
「っ!?」
しかし、彼は来た。
私を見て目を見開いた後、駆け寄ってきて魔力を手元に集めながら私の背中に手を置く。
「・・・どうしてここに?」
「家に戻ったら誰も居なかったから、ギルドに行ったら一人でドラゴンを討伐しに行ったって聞いてさ」
「回復魔法を教わっていた最中だったんじゃ・・・」
「あれ、もしかして見てた?」
私が頷くと、私の背中に手を置いている彼・・・タローはちょうど良かったと言って笑った。
「テミスとかが怪我した時の為に回復魔法教わってたんだよ。いやぁ、これでやっと役に立てるな」
「え・・・」
「いくぞ、ヒール!」
タローが回復魔法を唱えた。
温かい光が私の身体を包み込み、全身の傷が少しずつ癒えていく。
「ごめんな。まだ一番最初の回復魔法しか覚えてないから、治すのに時間がかかるかも」
「・・・」
「あれ、どうした?」
まともに顔を見れない。
私やマナの為にタローが回復魔法を教わってくれていたというのを聞き、顔が熱くなる。
この感情は一体何なのだろうか。
それが分かる日はいつ来るのだろう。その時、私は何を思うのだろう。
「タロー」
「ん?」
「・・・ありがとう」
私がそう言うと、タローはこちらこそいつもありがとうと言って笑った。