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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
終章 エターナルトワイライト
229/257

84.決戦前夜

「ユウ君ただいまー!」

「おっと、おかえりマナ姉」


世界樹突入作戦前夜。各地から特訓を終えた者達がオーデム魔法学園に戻ってきた。師匠に選ばれていた英雄達は、何かあれば対処できるようその地方に残っている。


「マナ姉、前より魔力が高まってないか?」

「ふっふっふっ。過酷な特訓を乗り越えて、お姉ちゃんはより一層強くなったのですよ」

「おいーっす、ユウ!元気してたか?」

「おう、ソルか。そっちこそ、アレクシスさんとラスティさんの修行は楽しめたか?」

「んなわけねえだろ!?何回か死ぬかと思ったわ、マジで!」


ただ、ソルもかなり魔闘力が上昇している筈。どんな修行をしたのかは知らないが、過酷だったんだろうな。


「先輩、お久しぶりですっ!」

「クレハさん、クレハさんは!?」


おっと、1年組も来たか。アーリアは魔導書に魔力を込めているようで、彼女が抱えている魔導書から感じる魔力は凄まじい。ユリウスも、前より逞しくなっている。ハスターさんと一緒に筋トレでもしたのだろうか。


「うええ〜ん、ユウ〜〜〜!」

「ん、リース?」

「この2週間セクハラばっかりされたぁ〜〜!」


お、おお?リースの相手はヴェントさんだった筈だけど、一体どんな修行をしたんだ?しかしまあ、親父もヴェントさんの事を隠れ変態って言っていたからな。やはり人は見かけによらないという訳か。


「どう?クレハさん。私は初日で魔力解放できるようになったのよ?」

「私だって魔力解放できますけどねー、ほら!」


突然向こうでクレハが魔力を解き放った。以前魔力が暴走した後クレハはあっさりと魔力解放できるようになり、解放時の魔力量は俺を余裕で上回っている。


そして、クレハに対抗してエリナも魔力を解放した。凄まじい稲妻が迸り、2人の魔力がぶつかり合う────が。


「やめろアホ共。魔力を無駄に使うな」

「「あうっ········」」


転移してきた学園長に頭を叩かれ、2人は魔力を引っ込める。段々エリナとクレハもヤンチャになってきたな。


「えー、全員揃ったな。世界樹に突入するのは明日の午前7時。今から朝まで休み、6時には起きろ。分かったか?」


全員が頷いたのを確認し、学園長は欠伸をしながら校舎に向かって歩いていった。明日俺達を世界樹まで転移させてくれるので、学園長も今晩は学園で過ごすのだろう。


「ユウ、ちょっと1杯付き合えよ」

「ん?ああ、いいけど」

「私とクレハちゃんは先に戻ってるね」

「色々話をしてきます!」


マナ姉とクレハは家に戻り、中庭に残ったのは俺とソルだけになった。とりあえず近くのベンチに腰掛け、ソルが持っていたジュースを受け取る。


「そんじゃ」

「乾杯」


今は夜だが、黄昏が延々と続いているので時間が分からなくなる。そんな中で、俺はジュースを一気に流し込んだ。


「あー、いよいよ明日か。俺達がヴィータちゃんの説得に失敗したら、この世界が滅びちゃうんだよなぁ」

「少し前までは、普通に学園生活を満喫していたんだけどな」

「この問題を解決したら、俺達教科書に載っちゃうんじゃね!?」

「そうかもな。まあ、興味無いけど」


教科書に載るとか、絶対に嫌だ。マナ姉も様々な教科書に出てくるけど、恥ずかしいからあまり見ないでって言ってたな。


「下手すりゃ父ちゃん以上に有名な男になって、女の子からモテモテに········うおおっ、最高だぜ!」

「やれやれ、黙ってれば普通にイケメンなのに」

「なんだよ、お前はモテモテになりたくないってのか?あ、そっか。お前にはマナさんっつー超絶可愛い彼女さんがいるんだもんなぁ。そりゃ他の女に興味無いわけだ」

「当たり前だろ────は?」

「おっ、マジで付き合って感じ!?」

「はぁ、やられた········」


口を滑らせてしまったようだ。こうなるとソルはしつこいので、俺は正直にマナ姉と付き合っている事を伝える。


「えええ、マジかよお前ー。俺もマナさんの事狙ってたのに」

「フッ、悪いな」

「で、ヤったのか!?」

「普通キスとかから聞かないか!?」

「んなもんしてるに決まってんだろ!マナさんは結婚したい女性ランキングでテミスさんに次ぐ2位だぞ?そんな、世の男性達の憧れであるマナさんが遂に付き合ったんだ。誰だってそれが1番気になるわい!」


うるさい男だ。しかしまあ、ソルになら話してもいいか。昔から、こういう話は2人で何度もしてきたからな。


「多くて週2だ」

「ん?」

「親父が居たら基本的に無理だしな。しない週の方が多いけど、しても多くて週2回ってとこだ」

「はああー!?てめえ、俺と代わりやがれ!」

「黙れ、マナ姉は誰にも渡さん!」


暴れるソルを落ち着かせる。いつの間にか、俺の力でソルを押さえ込めるようになっていた。自分の成長を内心喜びながら、俺は僅かに残っていたジュースを飲み干す。


「はぁ、決戦前夜に何話してんだよ俺達は」

「まあまあ、息抜きは大事だぜ〜?」

「ほんと、お前は変わらないよな········」


だからこそ、今も昔もソルは俺の頼れる兄貴分だ。俺は立ち上がり、離れた場所に設置されているゴミ箱に紙コップを投げ入れる。


「帰るのか?」

「ああ、早く寝て明日に備える」

「そうかい。ま、帰る前に他の子らとも話しておけば?リースちゃんとか、ユウと話したそうだったし」

「·······そうするよ」


丁度目が合った。女子寮のとある部屋から身を乗り出し、ブンブン手を振っているおバカさんとな。








「よっ、元気?」

「まあ、それなりには」


女子寮前で待っていると、さっき手を振っていたリースが降りてきた。授業はずっと中止になっているけど、家に戻れない他の生徒も居るので出てきてもらったのだ。こっそり来てと言われたが、バレると怖いのでやめておいた。


「ほんまにしんどかったで、ウチの師匠変態やったもん!」

「親父も変態だって言ってた」

「合計何回触られたっけなぁ。胸揉まれた時は本気で顔面蹴ってもーたけど········」

「災難だな········」


大変な修行だったんだろう。ただ、リースの魔力は以前よりも遥かに上昇しているのが、こうして向かい合っていると分かる。セクハラを乗り越えて、リースは強くなったのだ。


「いよいよ明日やな。ウチが皆の足引っ張らんようにしないと」

「俺も頑張るよ」

「ユウは強いからええやん」


そう言って、リースが楽しげに笑う。髪を下ろしている姿を見るのは久々だな。普段とは違い、少し大人っぽく見えるのは気の所為だろうか。


「········どうした?」

「んーん、なんでも」


リースがじっと俺の目を見つめてくる。どこか寂しげに、残念そうに。しかし彼女はニコッと笑い、突然胸を勢いよく叩いてきた。


「いでっ!何すんだよ········」

「いやぁ、明日もよろしくって事で」

「あら?貴方達、まだ戻ってなかったの?」


そんな事で叩くなと、俺がリースにやり返そうとしていた時。校舎の中から眠そうにしているエリナが出てきた。


「エリナ、何してたんだ?」

「寝る前に少しだけ読んでおこうと思ってた雷属性の教科書が見当たらなくてね。教室に置いていたのを思い出して、取りに行ってたのよ」

「エリナちゃんは真面目やなぁ」

「まあ、読んだらすぐ寝るつもりよ。貴方達も、夜更かししていたら明日動けなくなると思うけど?」

「ウチらもそろそろ戻るで」


そう言って、リースが笑顔で俺の手を握る。


「明日、頑張ってヴィータちゃんを説得しよな」

「ああ、頑張ろう。エリナも、よろしく頼む」

「任せなさい。これまでの私とは違うんだから」


2人と別れ、学園の入口へと向かう。すると、アーリアとユリウスが門の近くで何かを話していた。どうしたのかと思って声をかけると、アーリアが笑顔で手を振ってくる。


「聞いてください、先輩。この近くで、妙な魔力を感じたんですよ」

「妙な魔力?」

「先輩に似た魔力です。でも、どちらかと言えばタロー様に似た魔力で········うーん」

「アーリアはそう言うんですけど、僕は何も感じません。多分気の所為だと思いますよ」

「ち、違うよ、本当に感じたんだから」


港町に滞在している親父が学園に来ている筈がない。しかし、アーリアが嘘をつくとは思えない。俺に似た魔力だが、どちらかと言えば親父似········か。


「ユグドラシル様?」

「「へっ?」」


まさかと思って呟くと、突然目の前に1人の女性が姿を現した。全身傷だらけだが、それでも美しい美貌。神々しい光を纏うその女性は、俺を見た途端に頬を緩めながら抱き着いてきた。


「お久しぶりですね、ユウ!」

「ちょっ、何してるんですか········!」

「タロー、タローは何処ですか!?」

「親父は居ません」

「ガーーン!そ、そんなぁ」


項垂れた際、エメラルドグリーンの美しい長髪がふわりと揺れた。相変わらずだな、この人は·····って、人と呼ぶのは失礼だろうか。


「あああああの、せ、先輩」

「ここっ、この御方は········?」

「ああ、自己紹介が遅れましたね。初めまして、この世界に生きる我が子らよ。私はユグドラシル、世界樹の女神です」


アーリアとユリウスが跪く。それを見てユグドラシル様は顔を上げてくださいと驚いていたが、普通は俺もこうするべきだろう。


女神ユグドラシル様。俺達が住むこの世界を支える偉大なる女神様であり、親父に魔力を授けて魔神グリードと戦った御方だ。俺は幼い頃から何度もユグドラシル様と会話しているから慣れてるけど、あらゆる生命の頂点に君臨する母たる存在である。


「ユグドラシル様、どうして〝表〟に?」

「決まっているじゃないですか。終末領域の化身であるロヴィーナを止める為に、私も力を貸そうと思いまして」

「め、めちゃくちゃ怪我してますけど」

「大変でしたよ!結構前に裏世界を終末領域が侵食し始めて、先程ようやく完全に除去してやったんです!ふふん、私が本気を出せばこんなものですね!」


ドヤ顔のユグドラシル様を見て、アーリアとユリウスはぽかーんとしている。まあ、無理もない。誰もが崇めるこの世界の主神は、こういう性格なのだから。


「ゆ、ユグドラシル様ーーー!」


と、そんなユグドラシル様の名を呼ぶ者が俺の隣に姿を見せる。彼女を見てユグドラシル様は、まあっと嬉しそうな声を出した。


「ティアーズじゃないですか」

「良かった、ご無事でしたか。連絡が途絶えたので、とても心配していたのですよ?」

「裏世界もバタバタしていましたからね〜。ところでティアーズ、貴女が外に出ているという事は········」

「はい、ユウ様は魔力解放に成功しています」


主との再会を喜ぶティアーズの言葉を聞き、ユグドラシル様は自分の事のように褒めてくれた。とりあえず、この状況についてこれていないアーリアとユリウスが可哀想だな。戻っていいと伝えれば、2人はぎこちない動きで寮へと向かった。


「さて、あまり時間もありませんので手短に済ませましょう。ユウ、貴方は神力を知っていますか?」

「親父が使えるやつですよね?前に使った時は、世界樹の魔力を生命力の代わりに消費したらしいですけど」

「そう、貴方は私の魔力と神力を持っています。そんな人の息子である貴方が使う魔力も、私と同じ魔力なのです」


そう言って、ユグドラシル様が俺の胸に手を置く。


「当然、神力も引き継いでいます。明日の決戦では、必ず神力が必要になるでしょう」


どうやら表の世界で起こっている出来事は全て把握しているようだ。珍しく真剣な表情で俺を見つめるユグドラシル様は、手のひらから発する魔力で俺の魔力へと干渉する。


「感じますか?貴方の中に眠る神の力を。妹には大地を揺るがす魔力が、貴方には天を震わせる神力が多く宿っているのですよ」


新たに流れ込む魔力を追い、心の奥底へと意識を集中させる。すると見つかった。温かい光を放つ、神力と呼ばれるものが。


「あとはそれを解放するだけですね。ただ、死にそうな程疲れると思うので、今はしない方がいいでしょう。貴方の脳内に直接解放方法の情報を送りましたので、本気でヤバいと思った時に使用してください」


本当だ、神力の解放方法が何故か分かる。親父はこんなデタラメな力を完璧に制御していたのか。


「そしてティアーズ、貴方はユウの〝刀〟になりなさい」

「刀、ですか?」

「ユウが神力を解放した場合、間違いなく刀は耐えきれずに砕け散ります。ロヴィーナは貴女を呼んでいないようですが、刀としてなら大丈夫でしょう。多分」

「分かりました。ユウ様のお役に立てるのなら」


ユグドラシル様がティアーズに魔力を放つ。するとティアーズの体は光に包まれ、その光の中から1本の刀が出現した。


「霊刀【神雫かみしずく】とでも名付けましょうか。これがあれば、貴方は思う存分力を振るえます」

「あ、ありがとうございます。ティアーズ、大丈夫なのか?」

『は、はい!とても不思議な感覚ですけど、これなら私の魔力をユウ様の技に上乗せする事ができそうです』


霊刀を手に取ると、凄まじい魔力が流れ込んでくるのが分かった。少し前まではいつも俺の中にあった、穏やかで心が落ち着くティアーズの魔力だ。


「おいユウ、今の魔力はなんだ!?」

「あら?アークライトじゃないですか」

「はあ!?ユグドラシルお前、何してやがる!」


どうやら俺達の魔力を感じたらしい。慌てたように転移してきた学園長だったが、ユグドラシル様を見て目を見開いた。


「仕事を片付けたので、ちょっとしたアドバイスをユウにして────」

「てめえーーっ!終の女神が出現するとか聞いてないぞ!?しかも私達は全員返り討ちで生徒に世界の命運を託す事になった!マジでどうすんだよこの状況!」

「私のせいじゃないですよ!?こっちだって、裏世界に終末領域が流れ込んできて大変だったんですから!」

「表は永遠黄昏エターナルトワイライト真っ只中だ!」

『ユ、ユウ様、帰りましょうか』

「あ、ああ、そうだな········」


色々話す事があるだろうし、俺達は自宅へ戻る事にした。途中でティアーズが、『私は時間ギリギリまで眠るので、マナ様とごゆっくり』と言ってきたので、帰ったらマナ姉達とも少し話をするか。まあ、流石に今晩は大人しく寝るつもりだが。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「良かったの?ユウに想いを伝えなくて」


門に向かって歩いていったユウを見送り、エリナが隣に立つリースにそう言う。


「うん、決戦前に困らせたくないし。エリナちゃんこそ告白しやんの?」

「ええ、私もしない。憧れていたマナ先生とユウが相思相愛だなんて、凄く素敵だもの。2人には幸せになってもらいたいな」

「そうやなぁ。これで喧嘩して別れたとか言ってきたら、中庭の池に投げ入れたろ」


2人は笑う。想いを伝える前にこの恋は終わってしまったが、これで良かったのかもしれない。それに、相手がマナだからこそ許せるのだ。マナではなかった場合、恐らく2人共諦めたりはしないだろう。


「ま、とりあえず明日は頑張ろな。悲しむのはそれからでも別にいいもん」

「ふふっ、ヴィータさんを止めたらユウより素敵な人を探さなきゃならないものね」

「そんな人おるかなぁ········」



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