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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
終章 エターナルトワイライト
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78.神魔大戦

「タロー、どうして···········」

「世界樹の前で映像を見てたけど、やっぱりテミスがボロボロになってるのに待機するなんて、俺には無理だった」


そう言って、タローはテミスに手を差し出す。その手を握って立ち上がったテミスの頬は、誰が見ても分かる程赤かった。


「最後の砦である貴方が、まさか自分からやって来るとは」


そんな2人を見て、ヴィータは魔力を纏う。


「いいでしょう、2人まとめて消してあげます」

「いや、待った。テミスは休憩だ」

「えっ!?」


その提案に最も驚いていたのは、怪我だらけのテミスである。彼女は動揺しながらタローの前に立つ。


「ま、まだ戦えるから!」

「ただでさえ、宝剣召喚で身体はボロボロだろ?それに加えて重症だ。無理してほしくない」

「っ、馬鹿!」

「えっ!?」


今度はタローが驚いた。若干怒りながら馬鹿などと言われたのは、一体いつぶりだろうか。


「世界を守る為に、仲間達は皆命懸けで戦った!私だって、最後まで戦うと決めたんだ!」

「で、でも」

「それに、私はタローと肩を並べて戦いたい。貴方の剣になると、私は誓ったのだから」

「テミス···········」


やがて、タローはやれやれと息を吐いた。ここまで言われて戦うなとは言えない。気持ちを完全に切り替えたタローは、テミスの頭を撫でてから笑みを浮かべる。


「よろしく頼む、テミス」

「っ、はい!」


肩を並べ、ヴィータの前に立ちはだかった英雄夫婦。凄まじいプレッシャーを感じながら、ヴィータは魔剣に魔力を集めた。


「1対2なんて卑怯だ、とは言いません。貴方達にとって、これは世界を守る為の戦いなのだから」


魔力解放を行ったヴィータの魔力は、宝剣を召喚したテミスの魔力さえも上回っている。魔力を纏ったタローでさえも、小さな生き物に感じてしまう程の魔力だ。


「しかし、私は終の女神。終末領域が生んだ我が力を、その身に刻むがいい」

「いくぞテミス!」

「ああ、タロー!」


3人同時に駆け出した。最初にぶつかったのは、タローの拳とヴィータの魔剣。激突が生んだ衝撃波が駆け抜ける直前、僅かに遅れたテミスが宝剣から魔力を解き放つ。


それはヴィータを遥か遠くへと吹き飛ばし、直後に衝撃波がタローとテミスを襲った。


「ただ魔力を纏うだけじゃ無理っぽいな」


テミスを支えながら踏ん張ったタローは、魔剣との衝突で切れた拳を見ながら呟く。そんな彼の視線の先で、ヴィータが勢いよく地を蹴った。


「【限界加速オーバーアクセル】!!」

「テミス、ちょっとだけ離れてろ!」


真正面から迫ってくるヴィータを迎え撃つ為、タローは全身に力を込める。


「魔力解放ッ!!」

「っ!?」


直後、呼び覚まされた魔力がヴィータを吹き飛ばす。更に目を開けた瞬間に腹部を蹴られ、ヴィータは折れた巨木に衝突した。


「ぐっ··········女の子を蹴るなんて」

「心は痛むが君は敵だからな」

「ふふ、ユウ君ならなんて言ってくれるかな」


ゆらりと立ち上がり、魔剣に魔力を込めるヴィータ。そして、真横から振り下ろされた宝剣を受け止める。


「凄いですね、まだ動けたんですか」

「タローが来てくれたからな···········!」

「愛の力ってやつさ!」


放たれたタローの拳を障壁で受け止め、魔剣に力を込めてテミスを吹っ飛ばす。そしてそのままタローを蹴り、ヴィータは着地したテミス目掛けて駆け出した───が。


「だらあッ!!」

「チッ!」


一瞬で距離を詰めてきたタローのアッパーを避け、複数の魔法陣を周囲に展開。相当な魔力を込めて大魔法を詠唱する。


天地魔壊の(リヴァイア)────」

「【アークブレイド】!!」


しかしその直前、テミスの斬撃を浴びてヴィータは宙を舞った。魔力を纏っていたのでダメージは少なかったものの、今の一撃で腕の骨が砕け散る。


「────【雷霆万鈞らいていばんきん】」

「っ、マナの魔法か!」


そんな状態だが、空中でくるりと回ったヴィータは雷を纏って姿を消す。秒毎に加速する彼女が鳴らす音は、まるで雷が落ちたかのような轟音で、テミスとタローは背中を合わせて敵の攻撃を待ち受ける。


「本当はグリードと戦った時も、こうしてあなたと背中を合わせて最後まで力になりたかった」

「ああ、そうだな」

「あの時は力が無かったから、全てをタローに任せる事になってしまって··········本当に悔しかった」

「テミス··········」

「でも、今は違う。守られるだけじゃない、タローと並んで戦う為に努力してきたから」

「めちゃくちゃ頼もしいよ」


自然と、2人の頬が緩む。


「愛してるぜ、テミス」

「私も、貴方を愛してる」


次の瞬間、真上からヴィータが2人を強襲した。凄まじい魔力が込められた魔剣を振り下ろしたが、それは同じく魔力の込められた宝剣で受け止められる。


「【滅光陣リュミエールセルクル】!!」


そしてテミスは足元に魔法陣を描き、そこから光の魔力を放った。転移魔法でそれから逃れたヴィータだったが、背中に衝撃が走ったのと同時に落下する。振り向けば、腕を振り下ろした状態のタローと目が合った。


「駄目だ、本当に壊してしまいそう···········!」


空中で回転し、漆黒の魔力を解き放つ。


「【絶空刃ぜっくうじん】」


そして放たれた刃はテミス目掛けて猛スピードで迫り、大地を粉砕した。更に魔力が炸裂し、テミスとは真逆である漆黒の柱が天を貫く。それをまともに食らったテミスは吹き飛ばされ、追撃する為ヴィータは展開した魔法陣を蹴る。


「させるかよ!」

「ふふ、追ってくると思った」


魔剣を伸ばし、後方に現れたタローの体に巻き付ける。そして振り回し、全力で地面に叩き付けた。更にそのポイントに仕込んであった魔法陣が起動、大爆発がタローを襲う。


「アーク────」

「見えてますよッ!!」


続けて宝剣を振り下ろそうとしたテミスの腹部を殴り、膝をついた彼女の頭を勢いよく踏みつけた。


「無様ですね、テミス・シルヴァ。かつて世界を救った英雄も、結局私には敵わない」


障壁が防いだのはタローの拳。ヴィータはテミスの髪を掴んで持ち上げ、背後のタローに向かって投げた。そして障壁の魔力を魔法へと変換し、2人まとめて吹き飛ばす。


「くっそ、強すぎだろ···········!」

「あははははっ!!」


テミスを受け止めて地面に降ろし、振り下ろされた魔剣を腕で受け止めたタロー。そこから目にも留まらぬ速さで魔剣と拳のぶつかり合いが始まる。


「何人居ようと関係ない。私を邪魔する者には等しく破滅を!」

「破滅なんざ求めてないけどな!」

「捌ノ太刀【月雨つきさめ】!!」

「ぐぬぬぬぬッ!!」


宝剣を手に取ったテミスでさえ見えない攻防。激しい衝突音が鳴り響く中、テミスは宝剣を握りしめる。


「油断しちゃ駄目ですよ?」

「っ!?」


その直後、ヴィータの膝が顎にめり込み、一瞬テミスの意識は飛んだ。


「テミスーーーーーッ!!」


しかし、愛する夫の声を聞いて目を開く。目の前には不敵に笑うヴィータが。彼女を見て無意識に身体が動き、宝剣から魔力を放ってヴィータを吹き飛ばした。


「愛の力、ですか」

「ぐっ!?」


くるりと空中でヴィータは回転、そのまま加速してタローの腹部を切り裂いた。しかし、それだけでは終わらない。


「真・壱ノ太刀【崩月乱舞ほうげつらんぶ】!!」


高速で放たれた数え切れない程の斬撃がタローの全身を切り刻む。テミスの奥義をコピーするだけではなく、より威力の高いものへと進化させたのだ。


「こりゃまずいな···········!」


全力で殴ろうとしても魔剣で受け止められ、左手から放たれる魔法を浴びて傷を負う。そして、気が付けばヴィータに与えたダメージはすっかり回復している。


向こうを見れば、先程顎を蹴られたテミスが膝をついている。体に力が入らないらしく、宝剣を支えにしながらどうにかして立ち上がろうとしていた。


「彼女はもう駄目ですね」

「テミスっ··········!」

「【空間振動波ヴィブラシオンウェイブ】」


衝撃波でタローを吹き飛ばし、更に空間に干渉。空間ごと切られたタローの太ももから血が噴き出す。


「そして貴方も」

「勝手に決めないでほしいな!」


蹌踉めくタローを蹴り上げ、真上に転移してマナの魔力からコピーされた【サンダースタンプ】を放つ。ボキボキと、踏みつけた胸部から音が鳴った。


「ぐっ、うぅ、いってぇ·············」


蹴り飛ばされた先は、テミスの隣だった。激痛に耐えながら体を起こし、タローはテミスに目を向ける。


「テミス、いけるか············?」

「···················」


意識が朦朧としているらしい。タローの声にすら反応せず、俯きながら立ち上がろうとしていた。


「まさかここまで追い詰められるとは。だけどテミス、まだまだこれからだろ?」


テミスの震える肩に手を置くと、ようやく彼女はタローに気付いたらしい。


「どのみちここで踏ん張らないと、ユウ達は守れない。だから俺、ちょっと限界を超えてみようかと思うんだ」

「タロー···········」


真っ直ぐヴィータを見つめながらそう言うタローを見て、テミスの魔力が高まる。これまでも、ずっとそうだった。彼女に力を与えてくれたのは、愛する夫だったのだ。


「なら、私も少し無理をしようかな」

「2人でなら、きっと勝てるさ」


立ち上がり、笑みを浮かべる2人。彼らを見て、警戒しながらヴィータは魔剣に魔力を集中させる。


「まだやるつもりですか?」

「「はあああ·············!」」


大地が震える。何をするつもりなのかは分からないが、嫌な予感がする。咄嗟にヴィータは駆け出し、稲妻を帯びた魔剣を全力で振り下ろす─────


「神力解放ッ!!」

「魔力解放ッ!!」


次の瞬間、ヴィータの魔剣が砕け散った。吹き飛ぶ彼女の目に映ったのは、神々しい力を纏うタローとテミスの姿。


「女神ユグドラシルが持つ神の力を解放した!?それに、宝剣を召喚した状態での魔力解放!?」

「全力で!!」

「お前を倒す!!」


大地が爆ぜ、吹っ飛んだヴィータの前に2人が姿を現す。神力を纏わせた拳は一撃で障壁を粉砕し、桁違いな魔力を帯びた宝剣がヴィータの頬を掠める。


まるで嵐。限界まで身体能力を強化してようやく反応できる程の速度で、タローの拳とテミスの剣技がヴィータを襲った。


(拳や剣が自分達に直撃する可能性だってあるのに、何の躊躇いも無く攻撃してくる。一歩間違えたら、愛する人をその手で殺してしまう事になるというのに)


テミスの宝剣が進む先にはタローが。しかし、顔に当たるギリギリの所を宝剣は通過する。続いてタローが放った蹴りをヴィータはしゃがんで避けたが、背後にはテミスが立っていた筈。


振り向けば、技を放つ為に腰を落としたテミスの頭上をタローの脚が通っていた。互いの事を知り尽くしているからこそ、どう動くのかを予測して連携できる。そして、相手を心から信頼しているからこそ、『万が一自分に攻撃が当たってしまっても構わない。まあ、当たるわけがないけど』という考えを持って動いている。


それは、ヴィータにとって何よりも恐ろしい絆だった。これまでの、どこか遠慮した攻めとはまるで違う。ヴィータでさえも予測できない怒涛のラッシュである。


「ユウ君が強いわけだ············!」

「やああッ!!」


振り下ろされた宝剣を右腕で、真後ろで放たれた拳を足裏で受け止めるヴィータ。そのまま素早い動きで2人の手首を掴み、腕を交差させて互いの顔面を衝突させた。


「ふんッ!!」

「がっ!?」

「【神影斬しんえいざん】!!」


しかし、踏ん張ったタローの拳が腹部にめり込み、血を吐くヴィータの体が浮く。そして、それを狙って放たれたテミスの剣技が、遥か遠くへヴィータを吹っ飛ばした。


「有り得ない、この私が···········」


吹っ飛んでいる最中、目の前に現れたテミスが空中でヴィータを地面に叩き落とす。更に入れ替わるように現れたタローが全力でヴィータを踏みつけ、巨大なクレーターが出来上がった。


「有り得ないッ!!」


タローを蹴り飛ばし、跳躍。2人を見下ろしながら大魔法を数え切れない程連発するが、全て弾け飛ぶ。


「やはり貴方達は、今ここで消しておかなければ·········!」


暴風を巻き起こして2人を足止めし、ヴィータは空高く飛び上がった。しかし背後から気配を感じて振り向けば、凄まじい魔力を帯びた宝剣を掲げるテミスの姿が目に映る。


「この高さまで、一瞬で···········!?」

「【グランドクロス】!!」


放たれた十字の奥義が迫る中、かなりの魔力を消費するかわりにあらゆる魔法を弾く、絶対防御の障壁をヴィータは展開。それに衝突したグランドクロスは、ヴィータの横を通り抜けて地上へと迫った。


「馬鹿め、夫が居るのを忘れたか!」

「いいや、夫を信じて放った奥義だ」


テミスの視線の先、神力を脚に集めて跳躍したタローが後ろに足を振り上げる。


「だらあああああッ!!」


そして、全力でグランドクロスを蹴り返した。普通なら、ぶつかった瞬間に爆発が起こるだろう。しかし、タローはテミスの魔力を完璧に記憶している。蹴った瞬間にテミスの魔力へ干渉、ヴィータがソンノに対して行ったように向きを強引に変更し、そのまま跳ね返してみせたのだ。恐るべき事に、破壊力を上昇させて。


「ば、馬鹿な!?」


勿論、ヴィータ以外だとこの2人のみしか出来ない離れ業である。これにはさすがのヴィータも戦慄し、魔力を纏って炸裂する奥義から身を守った。


凄まじい衝撃波が地上を駆け抜ける。それによって吹き飛んだテミスだったが、そんな彼女を受け止めたのはタローだった。


「倒せたとは思えないけど、それでもかなりのダメージは与えた筈だ」

「た、タロー·············」


着地し、頬が赤いテミスをゆっくり降ろしたタロー。そして視線を上に向ければ、ボロボロになっているヴィータの姿が見えた。


「はーー、はーー···········ふ、ふふふ、終の女神であるこの私に、まさかここまでのダメージを············」


全身から大量の血を流しながら、荒い呼吸を繰り返すヴィータ。そんな彼女から、タローはテミスに視線を移す。


「テミス、身体は大丈夫か?」

「大丈夫、と言いたいところだけど············」


顔色は悪く、膝が震えている。肉体に相当な負荷がかかる宝剣召喚を行っている状態で、更に魔力を解放したのだ。もう限界が近いのだろう。


「タローは?自身の生命力を消費する神力を使ったみたいだけど、グリードの時のようになったりはしないの··········?」

「ああ、今回は大丈夫だ。昨日ユグドラシルから神力の新たな使い方を教わってな。大地に満ちたユグドラシルの魔力から世界樹に干渉して、俺の代わりに生命力を消費してもらってんだ。その分世界の寿命は減るわけだけど、世界を守る為だから仕方ない」

「ユグドラシル様から!?」

「無事··········ではなかったけど、生きていたよ。この戦いが終わったら、ひょっこり出てくる筈さ」


タローも、この状態は長く保てない。あまり無理をすれば、力に飲まれて命を落としてしまうだろう。


「何かの為に足掻く者が、これ程の脅威になるなんて。私も、少しだけ命を懸けてみましょうか」

「あー、嫌な予感がするなぁ」

「魔力とは違う気配を感じる··········」


突如、ヴィータの背後に巨大な黒い渦が出現した。そこから空間がバキバキとひび割れ始め、渦から漏れだした瘴気が辺り一帯を一瞬で黒く染め上げる。


「狂え、狂え、世界の理。来たれ、来たれ、終末の時。我が名はロヴィーナ。さあ、汝らに等しく終焉を与えよう」


終末領域が、この世界(ユグドラシル)を侵食し始めたのだ。溢れ出た終末領域の瘴気を体内に取り入れ、自身のありとあらゆる力を爆発的に上昇させるヴィータ。次の瞬間、腕を魔剣に変化させて漆黒の刃を地上目掛けて放った。


タローとテミスは左右に散ってそれを避けたものの、地面にぶつかり解き放たれた闇の魔力が2人を容赦なく吹き飛ばす。


更にそれだけでは終わらない。数え切れない程展開した魔法陣から魔力弾を連続で放ち、それは地面を転がる2人に降り注いだ。


「【カオスクロス】」


そして、魔剣から放たれた黒十字の刃が地上を破壊。瘴気で傷を癒したヴィータは横たわる2人の前に降り立つ。


「あれ、終わりかな?」

「がはっ··········」

「うぅっ··········」


ヴィータが終末領域を取り込んでから、僅か数秒。圧倒的な力を得たタローとテミスを、ヴィータはそれだけの時間で無力化してみせた。


「つまらないなぁ。折角私も本気を出そうと思ったのに、神の力を得ても人は人って事だね」

「なん、だよ、この力は··········!」

「ほ、宝剣が···········」


ダメージで魔力を纏えなくなり、テミスの手元から宝剣が消える。更に反動で激痛が走る為、最早指1本さえ動かせない。


タローも、纏っていた神力が消えてしまった。テミスよりダメージは少ないものの、もう先程までのようには戦えないだろう。


「まあ、人間にしては頑張った方だと思うよ。女神も、魔王も、英雄も、結局は私を止められないんだ」


手のひらを2人に向け、魔法陣を展開。


「遥かなる虚無の果てに、旅立つといい」

「は、はは、絶体絶命ってやつか。やっぱりもっと、テミスとイチャイチャしておくべきだった」

「こ、こんな時に、何を言って···········」

「だけどまあ、諦めなきゃ何とかなるか。せめて、テミスだけでも···········」

「っ!?た、タロー、やめて···········」


フラフラな状態で立ち上がり、タローは残り少ない魔力を纏う。そんな彼を見て少し驚きながらも、ヴィータは魔法を解き放つ────


「親父、母さん!!」

「っ!?」


その直前、少年の声を聞いてヴィータは魔法陣を消した。振り向けば、冬場だというのに汗だくになっているユウと目が合う。


「わあっ、ユウ君···········!」


彼を見た瞬間、ヴィータの態度が一変した。頬を赤く染め、まるで子供のように目を輝かせる。


「どうしたの?私に何か用でもあるのかな?」

「頼む、もうやめてくれ」

「何を?」

「親父と母さんが負ける姿なんて、想像した事もなかったよ。だけど、もう充分だろ··········!?」

「ええ〜··········」


まるで態度が違う。何故かモジモジしながら、ヴィータは頬に指を当てて考え込んだ。


「この、馬鹿息子!なんでここに来たんだ!」

「大切な人が死にかけてるのに、黙って待機なんて出来るわけないだろ!?」

「その通りだ。私達もある程度は魔力が回復してる。ここからはリベンジマッチの時間だよ」


ユウの隣に現れたのはソンノで、よく見れば向こうからベルゼブブやディーネ、アレクシス達もこちらに向かってきていた。


「だ、駄目です。今の彼女には、私達ではとても··········」

「何言ってるのお母さん!皆で守ったこの世界を滅ぼされてもいいの!?」

「諦めないでください!父さん、母さん!」


マナとクレハも、目に涙を浮かべながら駆けつけた。しかしユウ以外は眼中に無いのか、ヴィータは幸せそうに揺れている。


「うーん、ユウ君の頼みなら仕方ないなぁ。今回だけ特別に、全員見逃してあげる────だけど」


不意にヴィータは目を細め、凄まじい殺気を全身から放つ。


「私とユウ君の邪魔をするのなら、次は消すよ」

「っ、ヴィータ、なんで···········」

「ふふ··········またね、ユウ君」


最後に優しい笑みを浮かべ、ヴィータはユウ達の前から姿を消した。

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