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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
4章 新世界への道
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67.姉弟から恋人へ

「────···············?」


目を開ければ、薄暗い部屋の中に居た。どうやらベッドの上で寝ていたらしい。痛む体をゆっくりと起こし、ユウは首を鳴らしながら周囲を見渡す。


「俺の部屋、か」


いつの間にか夜になっている。黒の盟主が消えた後からの記憶が無い。恐らくだが、すぐに気を失ってしまったのだろう。


「マナ姉は············」

「家には居ない。気が付いたらどこかに行っててな。まあ、魔力を追えば場所は分かったけど、お前が行くべきだ」

「ん、親父」


部屋の中に入ってきた父の話を聞き、ユウは目を閉じる。そして意識を集中させ、姉の魔力を追った。


「··········こんな場所に」

「やっぱり、お前と顔を合わせづらいんだろうな。でも、きっとあの子はお前を待ってると思う」

「いいのかよ。俺、マナ姉に会ったら────」

「へっ、帰ってきたらぶん殴ってやらあ。その代わり、絶対あの子を幸せにしろよ!」

「いでえっ!?」


力強く背中を叩かれ、ユウは目に涙を浮かべた。しかしすぐにベッドから降り、何故か父が持ってきていた靴を履き、そのまま窓から飛び出して、屋根伝いにとある場所に向かって駆け出す。


「マナ姉!」

「っ··········!」


やがて辿り着いたのは、オーデム魔法学園の屋上。そこで満月を見上げていたマナに声をかけると、彼女は驚いたように振り返った。


「ゆ、ユウ君···········」


ユウを見た途端にオロオロし始めたマナの前に、ユウは立つ。


「やれやれ、こんな場所で何してるんだ?」

「あ、の、その···········」

「ほら、マナ姉も疲れただろ?多分母さんが晩飯を作ってくれてる最中だから、早く帰るぞ」

「やっ、駄目!」


ユウの手をマナは思わず振り払い、そして後悔した。顔を上げれば、困ったような笑みを浮かべるユウと目が合う。


「ご、ごめん、なさい··········」

「俺ならもう大丈夫だからさ」

「で、でも、私、やっぱり··········」


泣き出しそうになったマナは、屋上への入口に向かって走り出した。しかしすぐに追いつかれ、手を掴まれて足が止まる。


「こらこら、逃げるな」

「あ、ぅ··········」


至近距離で目を見つめられ、マナの頬が赤く染まる。そんな姉に向かって優しい笑みを浮かべながら、ユウは覚悟を決めた。


「マナ姉に、伝えたい事があるんだ」

「············?」


何を言われるのだろう。少し不安になりながらも、マナはユウに対する抵抗をやめる。


「俺が母さんの弟子になったのは、マナ姉を守れる男になる為だっていうのはもう知ってるよな?」

「っ、うん」

「今日はこれまで努力してきて良かったって、改めて思った日だった。おかげで、こうしてマナ姉は俺の前に居るんだから」

「こんなにユウ君の事を傷付けた私は、ユウ君に優しくしてもらう資格なんて無いよ············」

「馬鹿。それだったら俺がマナ姉を迎えに来た意味無いだろ?」


マナの手は震えている。どれだけ言葉で怒っていない、気にしていないとユウが言っても、やはりマナは苦しんでいるのだろう。


「とある町に、1人の少年が住んでいました」

「え?」

「その少年には可愛いお姉ちゃんがいて、2人は自他共に認める仲良し姉弟でした··········」


突然始まったそんな話に、マナは首を傾げる。


「この前までは〝ただのお姉ちゃん〟だと無意識に思い込んでいた少年は、彼が通う学園で起こった事件をきっかけに、血の繋がらないお姉ちゃんへの好意を自覚します」

「それって···········」

「それでも、このままの関係が続けばそれでいい。少年がそう思っていた矢先に、お姉ちゃんは少年の前から居なくなりました」


段々と、この物語の登場人物が誰なのか、マナは理解し始めた。


「しかし、少年は諦めずにお姉ちゃんを追い、悪い敵の手からお姉ちゃんを取り戻しましたとさ。で、その少年は今、お姉ちゃんの前に立っている」


そしてユウはマナの手を離し、彼女の目を真っ直ぐ見つめ────


「好きだ、マナ姉。家族として、姉としてだけじゃなくて、一人の女性として··········マナ姉のことが好きなんだ」

「っ···········!」


頭が真っ白になった。予想外の告白に顔が熱くなるのを感じながらも、マナはどうして?とユウに聞く。


「いつから好きだったのかは分からない。だけど、学園祭の時にマナ姉を失いそうになって、初めて気付いた。俺はずっと、マナ姉のことが好きだったんだよ」

「でも、私、ユウ君に酷いことばかり··········!」

「それでも好きだ」

「私のせいでユウ君はあんなに怪我したんだよ!?駄目だよ、こんなの!私なんか、あの時死んじゃえば────」

マナ(・・)ッ!!」


初めて、ユウから〝マナ〟と呼ばれた。


「俺はそんな事を聞く為に迎えに来た訳じゃないぞ」

「あうぅ···········」


真剣な表情で見つめられ、何も言えなくなってしまう。つまりユウは、『告白の返事を聞かせてくれ』と言っているのだ。


「··········そんなの、決まってるよ」


やがて、マナはぽつりと呟いた。


「私も、ユウ君のことが好き··········ずっと一緒に居たいよ··········でも···········」


ポロポロと、零れ落ちる涙。両手で顔を覆い、静かな屋上でマナが漏らす声。夜空に浮かぶ満月に照らされながら、ユウは黙ってマナを見つめる。


「ふとした拍子に元の姿に戻ってしまうかもしれない··········また、ユウ君を傷付けてしまうかもしれない··········そう思うと、怖いの」

「人だろうと神獣だろうと、マナ姉はマナ姉だ。何があっても、俺は絶対マナ姉を迎えに行く」

「ユウ君···········」

「だからずっと、そばにいて。それが俺にとって、一番幸せなことなんだ」

「ユウ君···········!」


マナが、ユウに抱き着く。咄嗟に踏ん張ったユウは、自分の胸に顔を埋めて涙を流すマナの頭を暫く撫で続け、そして彼女の肩を掴んで少しだけ自分から離した。


至近距離で目が合う。何年も共に過ごした相手が何を考えているのか、何をしようとしているのか。そんなもの、見つめ合えばすぐに分かる。


「絶対幸せにする。俺がマナ姉を支える〝騎士〟になる。だから、俺の彼女になってくれますか?」

「はい··········!」


これ以上、ゴチャゴチャ言うのは失礼だろう。幸せに胸を満たされながら、マナは目を閉じ─────







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆










「おいおいおい、それはマジなのか?」


驚愕しているソンノにそう言われ、


「マジです」


真剣な表情でティアーズはそう返す。場所は王都ギルド。神獣騒ぎが落ち着き、英雄達は再び歴史書の解読を行っている最中だった。


「ようやくついの女神の正体を突き止めたかと思えば、とんでもない奴だったじゃないか···········!」

「困りましたね。まさかあれ程自然に溶け込んでいる(・・・・・・・)とは。魔力調整も完璧、誰も気付かないわけです」

「ああ、寒気がするね。そして、私は黒の盟主の声を実際に聞いて、確信した。終の女神ロヴィーナは、あの黒の盟主と同一人物だ」


驚いた英雄達は、皆目を見開いた。


「しかも、普通にオーデム魔法学園に通ってやがるとはな。一体何がしたいんだ、女神様はッ!!」

「落ち着きなさいよ。ねえディーネ、終の女神の正体って、無人島で会ったあの子よね?」

「うん、そうなるかな。このままだと、ユウちゃん達が危ないかも···········」

「なるほど。あの時黒の盟主が、ユウとまるで知り合いのように会話していた理由が分かった」


口を開いたテミスが、姿勢を崩さずにソンノへと目を向ける。


「神狼マーナガルムに感情喰らい(イーター)を与えた黒の盟主は、〝ユウが強くなる為〟などと言っていました。何故そんな事をするのかは不明ですが、恐らく過去の事件もその為に引き起こされたものだと思われます」

「変態教師に感情喰らい(イーター)を渡したのも黒の盟主か。で、望み通りロイドは学園でその力をばら撒いた。結局ロイドも手のひらの上で踊らされていたという訳だ」

「しっかしまあ、なんでうちの息子が世界を滅ぼした女神なんかに執着されてんだ?恋してる訳じゃないだろうし···········」

「いや、案外それが理由かもしれん」


テミスの隣に座るタローは驚いた。あのグリードよりも遥かに危険な相手が、自分達の息子に恋をしている?そんな馬鹿な·········と、言ってしまいたくなる。


「ベルゼブブ、ディーネ。学園に来ているお前達は、しょっちゅう見ているだろう?ユウの周りに、必ず〝奴〟はいるんだ」

「そ、それは、単純に仲良しだからじゃ··········」

「奴が他の男と一緒にいるのは滅多に見かけない。常に、と言っていい程行動を共にしているのは、ユウだけなんだよ」

「旧文明を滅ぼした女神が人間に恋、ねぇ。私達魔族がタローに恋したのと同じ感じかしら」


ベルゼブブが意味深な視線を向けると、タローは困ったように頬を掻いた。


「ただ、恋してるからと言って強くなってもらいたい理由が全然分からん。その辺りは今後も調査を続行だな」

「学園の生徒達には伝えないの?」

「今回判明した事実は全て口外禁止だ。終の女神には常に監視を付けて動向を見張る。ベルゼブブ、ディーネ、お前達も今の立場を利用して奴を監視しろ」

「もしも周囲に危害が及ぶような真似をした時、私は一切躊躇わないわよ?」

「ああ、許可しよう」


ニヤリと笑みを浮かべるベルゼブブと、どうしたものかと悩んでいるディーネ。そんな彼女達から手元の歴史書に目を移し、ソンノは溜息を吐く。


「奴が何処から来たとか、それを含めて全て無意識に調査させないように精神干渉されていたのか。くそっ、何とも腹立たしいな···········!」


ある日突然やって来た、終わりを導く女神。いつの間にか敵に操作されていたソンノは、手続きなどを適当に済ませてしまったのだ。案の定、調べればその人物が情報操作を行っていた証拠が出るわ出るわ。


「絶対に後悔させてやるぞ、終の女神ロヴィーナ··········!」


永遠の黄昏が、始まろうとしていた。

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