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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
4章 新世界への道
209/257

65.一緒に帰ろう

「あ、うぁ···········」


震える体を動かし、マナは後ずさる。確実に消すつもりで放った至近距離での魔法。しかし、ユウは生きていた。腹部からは変わらず血が流れ落ちているものの、彼は凄まじい魔力を纏いながら、マナをしっかりと見つめている。


「なん、で、生きて···········」

「そこにマナ姉が居るからだ」


ユウは覚悟を決めていた。姉を取り戻したいという願いが叶えた魔力解放。それによって莫大な力を得た彼は、全身全霊でマナと魔闘を行う事を決めたのだ。


「素直に帰りますって言えばいいのにさ。ほんっと、困ったお姉ちゃんだよ」

「こ、来ないで············」

「マナ姉が意地でもそう言わないのなら、こっちだって意地でも言わせてやる!」

「く、来るなァーーーーーーッ!!」


手のひらから稲妻の弾丸を放つ。しかし次の瞬間、妙な音と共にその魔法は弾け飛んだ。ユウが刀で弾き飛ばしたのである。


「っ···········!?」

「行くぞマナ姉、これが最後の姉弟喧嘩だッ!!」


ダンッ、と音が周囲に響き、同時にユウの姿が消える。殆ど直感だった。咄嗟にマナが前に跳んだ直後、彼女が立っていた場所にユウが現れる。


「天駆けよ、【雷霆万鈞らいていばんきん】!!」

「駆け抜けよ、【限界加速オーバーアクセル】!!」


互いに自身を加速させる魔法を唱え、限界を超えた速度での戦闘が始まる。一般人は当然のこと、かなりの実力者でも2人を目で追うことは出来ないだろう。


突如家の屋根が吹き飛び、次の瞬間には向こうの地面が爆ぜた。かと思えば店先に並べられていた大量の果物が吹き飛ばされ、今度は神獣が巻き添えを食らい宙を舞う。


時間にして僅か十秒。町のあちこちで姉弟の魔力がぶつかり合い、衝撃波が大気を震わせながら駆け抜ける。


漆ノ太刀(ななのたち)、【月衝閃げっしょうせん】!!」


渾身の突きがマナを襲う。剣先から放たれた魔力が頬を掠め、振り返れば背後の家にくり抜かれたような大穴が。


「うぅああああああああッ!!」

「はあああああああああッ!!」


駆け出したマナを真正面から迎え撃ち、凄まじい剣術と魔法の撃ち合いが町を揺らす。放たれた蹴りを避け、振り下ろされた刀を受け流し、雷が、斬撃が、閃光が、刃が、周囲に存在する建物を次々と破壊。2人の戦闘は更に過激なものとなっていく。


ユウが生まれて16年。ほぼ毎日共に過ごしてきた2人は、互いの癖や行動を完全に把握している。この動きをした時は、高確率で次はこう動く。この魔法を詠唱した時は、高確率でここを狙ってくる·········と。


「だらあッ!!」

「ッ─────」


だからこそ、ユウが振るった刀をマナはあっさりと避け───


「【サンダーランス】!!」

「チッ!」


予想通りそのまま追撃しようとしてきたユウにマナは魔法を放つ。しかしそれを読んでいたユウは雷槍を飛び越え、それすらも予測していたマナの蹴りがユウを吹っ飛ばした。


「やっぱり俺達は姉弟だな!」


内心ユウは喜んでいた。繰り広げられているのは重症覚悟の全力戦闘ではあるが、思わぬ形で姉との絆を再確認出来たのだ。


「ユウ君ッ!!」

「がっ!?」


自分の背中に向かって駆け出したユウの刀を跳んで避け、そのまま踵でユウの顔面を蹴り飛ばす。鼻が折れたがすぐに再生させ、ユウが顔を上げると既にマナは目の前に。


咄嗟に回し蹴りを右腕で受け止め、握りしめた拳をマナの腹に叩き込む───直前、一瞬ユウは躊躇ってしまった。


当然、致命的な隙が生まれる。


「【ライジングストーム】!!」

「うっ─────」


魔法陣から放たれた、稲妻を帯びた竜巻。それは目の前に立つユウを飲み込み、建物を破壊しながら町を駆け抜け────


陸ノ太刀(ろくのたち)銀月輪ぎんげつりん】!!」


ユウは、マナの大魔法を斬り裂いた。円を描くように放たれた銀色の刃はそのままマナを襲い、魔力を纏った彼女をそのまま弾き飛ばす。


捌ノ太刀(はちのたち)月雨つきさめ】!!」


地面を滑って瓦礫に衝突、そんなマナに跳躍したユウは超高速の突きを繰り出した。高い場所から地上目掛けて降り注ぐ魔力は雨のようにマナを襲い、まるで機関銃を乱射しているかのような音がスプリングに鳴り響く。


「············この程度じゃ止まらない、か」

「ふぅ、ふぅ··············!」


煙が晴れ、姿を見せたマナは傷を負ってはいるものの、まだまだ膨大な魔力を身に纏っている。怪我させてしまった事を悔いながらも、ユウは再度刀を構えた。


「なあ、マナ姉。これでもまだ、俺が幻覚だ〜なんて言うつもりか?」

「ユウ君は、私が、殺したの···········!」

「何でそこまで認めようとしないんだ?確かに責任は感じてるんだろうけど、俺は生きてるんだからもういいだろ?」

「しん、だ、ユウ君、は、わた、しが···········!」

「·············なるほどな」


そこでようやく、ユウは理解した。してしまった。彼の前で、マナが全身からどす黒いオーラを放出する。今度こそ、ユウの怒りは限界を越えた。


「ガルム、お前··········!」

「はははっ、気付くのが遅かったなユウ・シルヴァ」


屋根上に姿を現したガルムが、楽しげに笑いながらマナに目を向ける。マナは、段々のその姿を変え始めていた。


「マナ姉に、感情喰らい(イーター)を寄生させやがったな!?」

「これは本当に素晴らしい力だよ!負の感情を暴走させ、強制的に肉体構造を変化させる終焉の魔物!これさえあれば、人間など我々の敵ではない!」

「自分の娘なんだろ!?」

「道具だよ!あっはははははははははッ!!」

「こんのッ!屑野郎がッ···········!」


改めて、自分達の父がどれ程良い親なのかが分かる。必要以上に干渉したがる姿は傍から見れば過保護なのだろうが、それは本当に自分達の事を愛してくれているからだ。


「あ、あぁ、ああぁあぁああぁぁあああッ!?」

「マナ姉、負の感情に呑まれるな!!」


感情喰らいが反応したのはマナの中に渦巻く、様々な負の感情。それは彼女の魔力を爆発的に増加させ、本来の姿へと肉体を変化させていく。


「いやあああああああああああああッ!!!」

「くっ─────」


閃光が町を駆け抜け、そしてユウの前に巨大な神獣が姿を現す。家よりも大きな巨体は全身雪のように白い毛で覆われており、鋭い爪が生えた前脚が地面を抉る。揺れる尻尾は背後にある家を薙ぎ払い、体に収まりきらない魔力がビリビリと大気を振動させていた。


神獣達の頂点に君臨する、神狼。今度こそ、ユウは足元が崩壊したかのような感覚に陥ってしまう。


「マナ、姉············!」

『ウオオオオオオオオオオンッ!!!』


咆哮が建物を粉砕し、目の前に居たユウは凄まじい勢いで吹き飛ばされた。父や母もこの事態には気付いているだろう。しかし姿を見せないのは、マナはユウに任せると心に決めたからだ。本気でまずいと思えば駆けつけるだろうが、これはつまりまだ何とかなるという事。


「くっそおおおおおおおッ!!」


宙を舞う瓦礫を蹴り、マナに向かってユウは跳ぶ。しかし次の瞬間、目にも留まらぬ速さで地面に叩きつけられ、全身の骨が砕け散ったユウは、大量の血を吐きながら乾いた声を漏らした。


『ガアアアアアアアアッ!!』

「ぐああああッ!?」


そんなユウを、マナは本気で踏みつけた。衝撃で地形が変わり、再生させた骨もすぐに砕ける。これでもまだユウが意識を保っていられるのは、姉を取り戻したいという強い願いが彼に力を与えているからだろう。


「ぐっ、がはっ!」

『ア、ウウゥ···········!』

「マナ姉えええええええッ!!」


再生と同時に残った全魔力を解き放ち、マナの巨体がぐらつく。その隙に立ち上がり、ユウは尻尾を掴んで勢いよく踏み込んだ。


「目を覚ませえーーーーーッ!!」

『グア──────』


そして、限界を超えた腕力で投げ飛ばす。そのまま落下したマナは、轟音と共に地面にめり込んだ。しかしすぐに体を起こし、数え切れない程の雷槍をユウ目掛けて乱射する。


弐ノ太刀(にのたち)乱月らんげつ】!!」


それら全てを弾き飛ばし、ユウは駆け出す。


「もうすぐテストだ!今回は特別に勉強教えてくれるんだろ!?」

『ガアアアアアアアアッ!!』

「弟に赤点取らせるつもりかァ!!」


雷の弾丸を蹴り上げ、振り下ろされた爪を刀で受け止め、懐に潜り込んでマナの腹部に拳を叩き込む。


『ゴアッ············!』

「こう見えて俺、結構マナ姉のこと、尊敬してるんだぞ!?人に何かを教えるのが上手いし、運動神経も抜群だし!」

『ユ、ウ、ク···········!』

「今までは恥ずかしくて言えなかったけど、本当に尊敬してるんだッ!!」


拳から放たれた魔力がマナを吹っ飛ばす。


「だから戻ってこい!これからも、そんな尊敬できる凄いお姉ちゃんでいてくれよ!」

『ア、アアアァ···········!』

感情喰らい(イーター)なんかに負けるな!マナ姉はマナ姉だろ!?」

『ユウ、くん』

「っ!?」


地に落ちたマナに再度接近しようとした時、確かに名を呼ばれたユウは足を止めた。


「マナ姉、意識が··········!?」

『ごめん、なさい·········わた、し·········』

「何謝ってるんだ!別に俺は気にしてない!」

『酷いこと、ばかりして、もう、戻れないよ···········』


じわりと、マナの体から魔力が溢れ出す。


『魔力の、暴走が、止まらない、の············!』

「ッ─────」


次の瞬間、凄まじい暴風がユウを襲った。咄嗟に腕を交差して頭を守り、全力で踏ん張る。前を見れば、マナが全身から全方向に向けて雷を放っていた。


「くっ、マナ姉!?」

『ふ、あはは。このまま魔力を使い切れば、感情喰らいに心すらも食べられて、死んじゃうかな···········最低な、私に、お似合いな最期、だね············』

「な、何言ってんだ馬鹿!」


覚悟を決め、ユウは魔力を纏う。


「耐えてくれよ、俺の身体··········!」


そして、そのまま雷の中に飛び込んだ。


『ユウ、君···········!?』

「ぐうああああああああッ!?」


一瞬で全身が焼け焦げ、血が噴き出す。しかし意識が途切れる寸前でユウは全ての傷を再生させ、発狂してしまいそうになる程の激痛がその身を絶え間なく焼き続ける中、ゆっくりとマナに向かって歩き出した。


『いやああ!お願い、やめてえ!』

「ああああああああッ!!」


叫ばなければ意識を保てない。かつてない地獄を味わいながら、ユウは一歩前に踏み出す。


「手を、伸ばせば、届く位置に、マナ姉が居るんだ」


閃光の先、僅かにマナの姿が見えた。


「死んで、たまるか、クソったれ···········!」


最後の力を振り絞り、辿り着いた嵐の中心。倒れそうになりながらもユウは手を伸ばし、そしてマナの小さな体を抱き寄せる。もう、巨大な神狼の姿は消えていた。


「はぁ、はぁ··········届いた」

「う、ううぅ〜〜〜!」


号泣するマナの放電が止まる。魔力は底を尽きたものの、ユウのおかげで感情喰らいは彼女の中から追い出された。これ以上弟を傷付けたくないという強い思いが、負の感情を消し飛ばしたのだ。


「ここまでさせて、まだ帰らないとか言ったら、ほんとに怒るからな···········」

「ぐすっ、ふぐっ··········」

「一緒に帰ろう、マナ姉」


そう言われ、マナ姉はユウの胸に顔を埋めたまま頷いた。まだまだ泣き止む気配のない彼女の頭を撫でながら、ユウは優しい笑みを浮かべる。


しかし、すぐに彼は鬼のような形相で前方を睨む。2人の戦闘を離れた場所で見ていたガルムが戻ってきたのだ。


「馬鹿な、何故感情喰らい(イーター)が!?」

「俺達姉弟の絆を舐めるな。自分の娘を道具だなんて言う屑野郎が、俺達をどうにかできると思ったのか···········!」

「お、おのれぇ!マナァ!この出来損ないのゴミめが!お前は神狼の恥だ!もう不必要なんだよ、死ねッ!!」


ビクリと、マナの身体が震えた。ユウは信じられない程の怒りを覚えながら、ガルムを睨み続ける。先程雷の中へ飛び込んだ際、防御の為にほぼ全ての魔力を消費してしまった。それでも、この男だけは始末しなければならない。


「ゴミはどっちか、教えてやる···········!」

「死にかけのお前に何ができるってんだ、アァ!?ほら、どうした!僕に教えてくれよ、ユウ・シルヴァ─────」


ユウが刀に手を伸ばした、その直後。突如ガルムの目の前に凄まじい魔力を纏う女性が姿を現し、そしてガルムの顔面を蹴りが歪めた。派手な音と共に蹌踉めくガルム。彼が見たのは、風に揺れる銀色の髪。


「これまで多くの外道を相手にしてきたが、貴様程の屑を見たのは今日が初めてだ」


任せるとは言っていたものの、やはり我慢出来なくなって飛び出してきたのだろう。現段階で、魔力解放を行ったユウとマナを遥かに上回る魔力を纏う武人。


「貴様の相手は、私が務めよう」


剣聖テミス・シルヴァが、今剣を抜く。

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