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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
4章 新世界への道
208/257

64.姉弟決戦

ーーーユウーーー



壊れた人形。転移先の屋敷でマナ姉を見た時、俺はそう思ってしまった。いつも輝いていた瞳は濁っており、笑顔が似合っていた彼女はその表情を微塵も変えない。


「きちんと相手が死んだのかを確認するべきだったな、ガルム。その傲慢が、今からお前を破滅させるんだ」

「ふ、ふふふ、英雄一家の出来損ないが何を言うのかと思えば···········傲慢なのは君達人間でしょう?」

「本性を隠すな。紳士ぶればマナ姉が懐いてくれると思ったか?お前は傲慢で最低な屑野郎だよ」

「チッ、ガキが生意気な事を」


ガルムの口調や雰囲気が変わる。


「で、君1人で僕と娘を何とか出来ると思ってるのかい?最強の神獣と言われた僕達神狼マーナガルムを相手に···········!」

「ふん、お前に用はないさ」


怒りは未だに俺の心を蝕もうとしているが、ここは冷静にならなければ駄目だ。呼吸を整え、精神を統一させる。


「マナ姉、見ての通り俺は生きてる。気にするなとは言わないけど、今はそれでいいだろう?」

「·····················」

「もうすぐテストがある。だから、特別に勉強を教えてくれる約束をしたじゃないか」

「·····················」

「それに、帰ったら伝えたい事があるんだ。その為にも、俺は絶対マナ姉を連れて帰るからな」

「ちが、う」


ぽつりと、マナ姉が呟いた。


「違う、違う、違う違う違う違う違う違う違うッ!!ユウ君は死んだの!私がこの手で殺したから!だから貴方は幻覚、ユウ君なんかじゃない!」

「それこそ違うんだが────」

「黙れえーーーーーーーーッ!!!」


一瞬で、屋敷が木っ端微塵に吹き飛んだ。咄嗟に外に窓を突き破って脱出していなければ、俺も無事では済まなかっただろう。


「やれやれ、困ったお姉ちゃんだな」

「偽物めええええッ!!」


爆煙の中から飛び出してきたマナ姉が、凄まじい速度で脚を振り下ろしてきた。それを刀で受け止めた直後、凄まじい衝撃が全身を駆け抜け地面に伝わり、粉々に砕け散る。毎回思うけど、この脚力は本気でやばい。


「穿て、【紫電絶槍しでんぜっそう】!」

「弐ノ太刀【乱月らんげつ】!!」


至近距離で放たれた紫電の槍をバックステップでかわし、マナ姉目掛けて俺は数十発の斬撃を飛ばす。今回ばかりは手加減などしていられない。1度無力化して、そこで勝負を決める。


「はははっ、死ぬがいい!」

「ッ!?」


もう一度マナ姉に向かって駆け出そうとした瞬間、真横から蹴りを食らって俺は派手に地面をバウンドした。その際に腕が折れたがすぐに再生させ、俺は魔力を纏い直す。


「チッ、邪魔するな!」

「君こそ僕の邪魔をするなよ!まさか英雄共がこんなに早く行動を起こすとは思わなかったが、僕はこんな所で果てるわけにはいかないからねえッ!!」


跳躍したガルムを迎え撃とうとしたが、今度はマナ姉に真後ろから蹴られて吹っ飛ばされる。


「そうだマナ、その男を殺せ!君が彼を欲するあまり自らに見せている幻覚だ!遠慮なく消しなさい!」

「馬鹿、マナ姉!幻覚を蹴れるわけないだろ!?」


狂ったように襲い掛かってくるマナは、もうガルムの声しか聞こえていないのだろうか。俺の言葉に耳を傾ける様子はなく、周囲の建物を破壊しながら魔法を乱発してくる。それを刀で弾きながら、俺はどうすればマナ姉を止められるかを考えていた。


(そうだ、俺達の思い出を············!)


回し蹴りがガルムのこめかみを捉え、俺はそのまま彼を吹っ飛ばした。そして真正面から全力疾走してきたマナ姉の腕を掴んでそのまま投げる。親父から教わった体術、一本背負いだ。


「がッは!?」


地面がひび割れる程の衝撃。マナ姉が苦しげに顔を歪めたが、今は手を緩められない。


「初等部の頃、こっそりマナ姉が俺の学年の遠足についてきた事があったよな!んで、2人で先生にバレないように抜け出して、迷子になったんだっけ!?」

「っ!?」

「結局バレて、一週間トイレ掃除をさせられたんだ!どちらかと言えば悪いのは下級生の遠足に紛れ込んできたマナ姉なのに、俺ばかり先生に怒られてさ!まあ、楽しかったから別に良いんだけど!」


マナ姉の抵抗が緩くなる。


「中等部の頃からマナ姉はほぼ毎日告白されるようになったな!最初はモテモテだなとしか思ってなかったけど、なんかマナ姉を他の男に取られそうで凄い嫌な気持ちになったのは覚えてるよ!まあ、それは今もだけどな!」

「は、離せぇ!」

「高等部に入ってから、マナ姉の伝説ラッシュだ!学年の男子ほぼ全員から告白されたり、授業中に新魔法を生み出したり、ミスコンで3年連続優勝したり!テストは常にオール満点で、成績は卒業まで全教科最高評価!そんな人が姉で、俺は誇らしかった!まあ、今でも思ってるけどな!」


不意に感じた膨大な魔力。上に目を向ければ、跳び上がったガルムが巨大な雷球を創り出していた。まさかあの男、あれでマナ姉ごと俺を攻撃するつもりか!?


「はははははっ!死ぬがいい、ユウ・シルヴァ!」

「くっ────」


そして、その雷球が地上目掛けて落とされた───かと思った直後、向こうから吹っ飛んできたユニコーンという神獣がガルムに直撃し、そのまま仲良く飛んでいく。よく分からんが、助かったみたいだな。


「なあマナ姉、俺はもっとマナ姉と思い出を作りたいんだよ。だから頼む、一緒に帰ろう···········?」

「ユウ君は私が殺したんだあああッ!!」


顎を踵で蹴り上げられ、倒れそうになった俺は身を捩ったマナ姉の強烈な蹴りを浴びて吹っ飛んだ。顎が割れ、意識を失いそうになる。しかし俺は本気で自分の頬をぶん殴り、すぐに傷を再生させて持ち堪えた。


「殺してない、俺は目の前に居る!」

「ああああ、違うのユウ君!私はただ、ユウ君と一緒に過ごせたらそれで良かったんだよ!」

「だから一緒に帰るんだ!」

「天駆けよ───【雷霆万鈞らいていばんきん】!」

「【加速アクセル】!」


マナ姉が目の前から消える。同時に俺は真横に跳ぶ。すると、凄まじい轟音と共に直前まで立っていた場所が陥没した。


「限定シュークリーム、いっぱい買ってやるぞ!マナ姉あれ、大好きだもんな!」

「穿て───【紫電絶槍しでんぜっそう】!」


家を蹴り、迫る雷槍を刀で弾き、再び消えたマナ姉を目で追う。向こうの屋根が吹き飛んだ。来る─────


「マナ姉が好きな小説の続編、明後日発売だぞ!?あの本は俺も好きだから、2人で良さについて何時間も語り合ってさ··········あの時間が俺は好きだった!」

「【サンダースタンプ】!!」


踵落としを刀身で受け止め、衝撃で内臓が潰れ、電撃で身を焼かれる。負傷した箇所は即座に再生させたが、今ので傷口が開いた。怪我をして数秒以内なら再生可能、しかし時間が空きすぎると能力だけでは再生出来ない。マナ姉に貫かれた腹部から血が溢れ、激痛でバランスを崩してしまう。


「魔力解放············!」

「は···········?」


突如、マナ姉がこれまでとは比べ物にならない程の魔力を放った。冗談だろ?まだ魔力解放していなかったのか!?


「【サンダーマグナム】」

「うっ──────」


放たれた弾丸が、俺の左腕を消し飛ばす。


「あああああああああああッ!!!」


これまで味わったことのない激痛に襲われ、流石に耐えられなかった。左腕はすぐに再生したものの、痛みで目から涙が溢れ、視界がぼやけてしまう。


「ぐっ!くそ、やばい···········!」


致命的な隙を与えてしまった。涙を拭けばマナ姉は前方に居らず、首に衝撃が走り、折れ、再生。死ぬかと思う程の痛みに耐えれば雷槍が太股を貫き、それも再生。稲妻が駆け抜け、俺を襲い、マナ姉は更に加速を続け、蹴りが、拳が、魔法が··········絶え間なく迫り来る技の数々が、俺の肉体と精神を着実に破壊する。


(駄目だ、俺じゃ無理だ············)


いつの間にか、俺は仰向けに倒れており。そんな俺を、様々な感情が入り混じった瞳でマナ姉は見下ろしていた。


「残念だったね、ユウ・シルヴァ。君の知るマナはもう居ないんだ。この子は欲望のままに全てを破壊する僕の道具なんだよ」


そんなマナ姉の隣に降り立ったガルムが、心底人を馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、俺にそう言う。


「さあ、僕の可愛い娘。この男を殺しなさい」

「···················」


何も言わず、マナ姉は手のひらを俺に向けた。魔法陣が浮かび上がり、凄まじい魔力が凝縮され始める。痛みで動けず、回復が追いつかなくなった今の俺がそんな魔法を浴びれば、間違いなく死ぬだろう。


「何が、僕の可愛い娘、だ············」

「ん?」


だけど、死ねない。


「親は、子を愛するのが当たり前だ。親父と母さんは、獣人のマナ姉を受け入れて、我が子同然に愛した。クレハもそうだ。俺から見ても、過保護な程可愛がられてる。そして俺も·········魔力が全然無かった俺でさえも、愛してくれた············」

「それがどうした?まあ、人間の愚かさを教えてくれてどうもありがとう。それに、マナは獣人じゃない、神獣だ」

「お前がマナ姉を〝マナ〟って呼ぶなよ。自分の娘に名前すら付けなかった奴が、当然のように父親みたいに振る舞うな」


マナ姉と過ごしてきて、本当に色んな事があった。


何故かしょっちゅう布団に潜り込んできて、胸が当たったりしてこっちが大変な事になっていても気付かず、寝惚けて更に密着してきたり。


一緒に魔物を討伐しに行って、俺がちょっと強い魔物に勝ったら、まるで自分の事のように喜んでくれたり。


俺が悩んだりしているとすぐに相談に乗ってくれて、それがどんな内容だったとしても決して笑ったりせず、最後まで真剣に話を聞いてくれて·············。


「マナ姉は、俺達の家族だ。今までも、これからも··········この先何があったとしても、それは変わらないんだよ」


明るくて、優しくて、面倒見が良くて、賢くて、運動神経抜群で、だけど天然で、ちょっぴりどこか抜けていて、そんなところが可愛くて、困った時はいつでも俺を支えてくれる人。そんなマナ姉が俺は好きだ、大好きだ。だから、俺はここで死ぬわけにはいかない。


「殺せマナ!神獣種だけの楽園を創る為に、人間は一匹残らず駆逐するんだッ!!」

「はい、お父さん─────」


よろりと立ち上がった俺が見たのは、マナ姉の頬を伝う涙。やっぱりまだ、終われないよな。


視界が白く染まる。マナ姉の魔法が放たれたんだ。しかし、妙に俺は落ち着いていた。刀を構え、目を閉じ、心の奥底────これまで到達した事の無い魔力の深奥に手を伸ばす。


「魔力、解放」


マナ姉と一緒に、帰るんだ。

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