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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
4章 新世界への道
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56.自信の崩壊

「唸れ、【世界樹の星根(エトワールレーヌ)】!!」

「オラオラオラァ!!」


操作された極太の根が意志を持った怪物のように襲いかかる中、その全てをギルバードは大剣を振るい切断していく。それでも根は次々と呼び出され、再生し、あらゆる方向からギルバードを貫かんと動き回る。


「いいねぇ、楽しいねぇ!」

「兄さんを侮辱する者は、誰であろうと許さない·········!」


マナは既に安全な場所まで移動させたので、クレハは全力で魔法を行使していた。鞭のように蠢く根が、降り注ぐ爆弾果実が、炸裂した大地の魔力が。次々と放たれる魔法の数々が、魔闘場を絶え間なく震わせている。


「ククッ、気に入ったぜクレハ・シルヴァ。一つ提案があるんだが·········お前、俺の女になれ」

「は?」

「毎日可愛がってやるからよ。どうだ、悪い話じゃないだろう?」


嵐のような魔法の乱舞を避け続け、そんな事を言ってみせたギルバード。そんな彼を見るクレハの顔は、嫌悪に歪んでいた。


「気持ち悪い·········!兄さん以外の女になるなど、想像しただけで吐き気がします·········!」

「ヒュウ、言ってくれるねぇ!」


次の瞬間、勢いよく叩き付けた大剣から魔力が放たれた。それは暴れ狂っていた全ての根を消し飛ばし、防御が遅れたクレハを壁際まで吹き飛ばす。


「ぐっ·········!」

「油断してんなよ糞ガキッ!!」


顔を上げたクレハだったが、顎を蹴り上げられて一瞬意識が飛んだ。更に髪を掴まれ、そのまま地面に組み伏せられる。


「このままガキ共が見守る中、お前で楽しませてもらうってのもありかもなァ!」

「兄さん以外はお断りです」


呼び出した根がギルバードを弾き飛ばした。しかし空中で体勢を立て直し、そのまま着地したギルバードだったが、そんな彼を再び狂ったように大樹の根が襲う。


「同じ事の繰り返し、いい加減飽きたぜ?」

「そうですか、それは結構」


ギルバードの足首に根を絡め、何度も壁や障壁にぶつけながらクレハは振り回す。やがてありったけの魔力を込めた魔法陣を地面に展開し、そこにギルバードを全力で叩き付けた。その衝撃で起動したのは【ガイアボルケーノ】、地面にめり込んだギルバードの周囲が派手に爆発する。


「これで終わりです!」


攻撃の手は決して緩めない。とどめを刺すつもりでクレハは大樹の根を操り、爆煙の中に居るであろうギルバードに殺到させ────直後、彼女の肩に激痛が走った。


「うあっ!?」

「弱ぇ、この程度かよクレハ・シルヴァ」

「そ、そんな、どうして·········!?」


姿を見せたギルバードはまだまだ余裕があった。クレハの肩には鈍く光るナイフが突き刺さっており、それは爆煙の中からギルバードが投擲したものだ。


「ククッ、俺は力を手に入れたのさ。それはもう、最高の力だ。あらゆるものを凌駕し、欲望を叶えてくれる力を·········!」

「まさか、感情喰らい(イーター)·········!?」


どす黒いオーラがギルバードの全身から溢れ出し、ビリビリと大気を震わせる。魔導フォンが起動しなかったのは、マナの圧倒的な攻撃が通じなかったのは。マナと同等の力を誇るこの男が、禁断の力に手を染めていたからであった。


「な、何故魔人化していないのですか!」

「なろうと思えばいつでもなれるさ。だが、俺は───俺達・・は違う!感情喰らい(イーター)の力を完璧にコントロールし、思うがままに力を振るえるんだよ!」

「ひっ·········!?」


凄まじい魔力が荒れ狂う。観客席の生徒達の中には気絶している者も居た。それ程までに禍々しい負のオーラを至近距離から浴び、クレハは堪らず後ずさる。


「もう一度言うぜ?お前、俺の女になれ。〝新世界〟に足を踏み入れる資格がお前にはある」

「新、世界·········?」

「なぁに、上には俺が話しといてやるからよ。さあ、どうする?簡単な事だろ?」

「っ··········」


ガクガクと震えながらも、クレハはギルバードに魔法を放った。予想外の一撃だったらしい。額に魔弾が直撃し、ギルバードは上体を仰け反らせる。


「私は、兄さんに全てを捧げると誓ったのです·········!貴方に捧げるものなど何もありません·········!」

「やっぱ良い女だわ、お前────」

「うあああああああああッ!!」


ギルバードが地を蹴ったのとほぼ同時。全魔力を解き放ったクレハを地中から飛び出した根が包み込み、そして魔闘場に巨大な大樹が出現する。以前ユウとユリウスが魔闘を繰り広げた際に発動しようとした大魔法。クレハのみが使える大樹召喚········その究極系、切り札。


『【世界樹の星王(エトワールロワ)】!!』


手足の存在する大樹、その核となるのがクレハ。障壁に触れる程巨大な大樹は、跳躍したギルバードを勢いよく殴り飛ばす。まるで弾丸の如く壁にめり込んだギルバードだったが、獰猛な笑みを浮かべながら再び駆け出した。


『ああああああああああッ!!』

「ッ──────」


クレハの悲鳴が響き渡る中、巨大な拳がギルバードを地面に叩き付け、更に何十何百と殴り続ける。無限とも思える時間、大樹の中心で腕を操作しているクレハはひたすらユウの事だけを考えていた。


この化物を叩き潰せば、きっと兄さんは褒めてくれる。よくやったと頭を撫でてくれる。恐怖を必死に押し殺しながら、ただただ彼女は腕を振り下ろし続ける────が。


「え─────」


飛び散る鮮血、歪む視界。宙を舞いながら、クレハは呆然としていた。大剣を振るい、硬い幹ごと中心に居た自分を斬ったギルバード。そのまま外に放り出され、胸元から溢れ出す大量の血が自らの体に降り注ぐ。


核を失った大樹の巨人は崩壊。そして、クレハは勢いよく地面に墜落した。魔力を纏っていなければ骨折程度では済まなかっただろう。激痛に、クレハの顔が痛々しく歪められる。


「無駄だよ、無駄無駄。倍以上魔闘力に差がある相手に勝とうなんざ、無謀にも程がある」

「いた、い·······にい、さん、助けて·······」

「あーあー、完全に戦意を喪失しちまったか。まあいい、だったらちょいとゲームをしようか」


目に涙を浮かべながら這いずるクレハの前に、マナの首を掴み、持ち上げた状態でギルバードが歩いてくる。


怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い。かつてない程の恐怖に襲われ、死というものをはっきりと感じたクレハは、顔を青ざめさせながら震え上がった。


「いやぁ········来ないでぇ········」

「ほら見ろ、こいつはお前の大好きな姉だ。ちょっと力を込めれば簡単に首をへし折れる。そんな事をしてほしくなければ、〝代わりに私を殺してください〟って言いな」

「え·········?」

「ん?言えるよな?だって、大事な家族が殺されそうになってるんだぜ?まさかお前、姉を見殺しにするのか?」

「そんな、こと·········」


言おうと思った。しかし、声が出ない。脳裏に浮かぶのは兄の優しい笑み。死んでしまえば、もう二度と彼に会えない。


「ぁ·········」

「うっわーーー!まじかよお前、そんなに自分の身が大切か!?はははっ、見たかよ観客席のガキ共!英雄の血を引く娘は、大切な人を見殺しにするみたいだぜ!?」


誰1人として何も言わない。きっと、自分だってあの場に居たら死を選べないだろう。クレハを責める者など、居るはずがなかった。


「あっそ、じゃあマナ・シルヴァはここで終わりだ」

「っ、やめてください!お願いします、何でも言う事を聞きますから!だから、姉さんに手を出さないで!」


生徒達を人質にされている以上、動けない。それでも我慢出来なくなったソルやエリナ達が立ち上がろうとした直後、クレハは涙を流しながら叫んだ。


「じゃあ死ねよ、今ここで」

「それは········おねがい、します········死ぬのだけは·······殺さ、ないでくださ········」

「ククッ、仕方ねえなぁ」


雑にマナを投げ捨て、ギルバードが笑う。それはもう、最低最悪な笑みだった。


「服を脱げ」

「っ·········?」

「で、踊れ。俺が満足するまで全裸で踊り続けろ。そしたら殺さないでやるよ。勿論姉も、ガキ共も」

「なんで、そんな·········」


この男は、息をするように自分達を殺してみせるだろう。一体誰に雇われ、兄を狙って学園を襲撃したのか。ソンノ達が会議でオーデムの外に出た事は、学園の生徒と教師しか知らなかった筈。しかし、まるで狙っていたかのように現れた隻腕の巨人。


最早訳が分からず、何故自分はこんな目に遭っているのかとクレハは震える。しかし、死にたくない。死ぬわけにはいかない。


(服を脱いで、踊るだけ········それだけで、私達は助けてもらえる········死ねば、もう兄さんに会えない········そんなの嫌です········だから········)


震えながら、クレハは立ち上がった。深い傷に激痛が走るが、それでも彼女は制服のボタンを外していく。そうだ、踊るだけ。死なないのならば、別にいい。少し恥ずかしい思いをするだけで、また最愛の人に会えるのだから─────


「駄目だよ、クレハちゃん·········」

「っ!?」

「そんな人の言う事なんて、聞く必要ない·········」


そんな彼女の動きを止めたのは、目を覚ましたマナの声。立ち上がる事はできていないが、彼女はギルバードを睨んでいた。


「残念だけど、貴方は終わりですよ·········」

「あ?」

「きっと、ユウ君は戻ってくる········そして、貴方を倒すの········」

「へぇ、魔闘力4000ちょっとのガキが?」

「あぐっ!?」


不愉快そうに、ギルバードがマナの首を掴んで再び持ち上げる。


「この俺、剣帝ギルバードを殺すだって!?笑わせるなよマナ・シルヴァ!お前の弟に待っているのは、俺に殺される未来だけなんだよ!」

「みっともなく喚き散らして········怖いんですか?」

「てめえ、よっぽど死にたいらしいな」


大剣に魔力を纏わせ、振り上げる。


「いいぜ、真っ二つにしてやるよ·········!」

「や、やめて、姉さん·········!」


しかし、それでも。


「殺したいなら、殺せばいい·······だけど、貴方は絶対ユウ君に負ける·······あの世に来たら、笑ってあげます·······あれだけ自信たっぷりだったのに·······結局ユウ君に負けたんだって·······一生笑い続けてあげますから········!」

「遺言は?」

「地獄に落ちろ··········!」


マナは信じていた。大剣が振り下ろされるその瞬間まで、最愛の弟が本来の力を取り戻して帰ってくると。



「いやああ!助けて、兄さん·········!」


そして、いつもそれに応えるのがユウという少年である事を────


「ぐおっ!?」


突然魔闘場入口の扉が吹き飛び、ギルバードに衝突する。そのまま彼は地面を転がり、マナは解放されて倒れ込んだ。また新手が来たのかと怯えるクレハだったが、穏やかな魔力を纏いながら歩み寄ってきた人物を見て涙を流す。


「よくもやってくれたな、お前」


マナも、嬉しさのあまり痛みなど忘れてしまっていた。現れたのは、黒髪の少年。マナやクレハ、観客席のエリナ達が待ち望んでいた、とある少年剣士の参戦。


「兄さん·········!」

「ユウ君·········!」


英雄の息子、ユウ・シルヴァ。その存在は、絶望的だった戦場に希望をもたらした。

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