第2話 才色兼備なあの子と神狼
テミス・シルヴァ、18歳。
容姿端麗 花顔雪膚、沈魚落雁 羞月閉花········反対側の席に座って自己紹介してくれた彼女に相応しい言葉は、一体どれ程の数存在するだろうか。
思わず目を奪われる銀色の髪に、とても可愛らしい整った顔。身長は160ぐらいかな。そして胸がでかい。
何にせよ、自己紹介を聞いてから彼女から目が離せない俺であった。
「タロー。早く食べないと冷めてしまうぞ」
「え、ああ、うん」
もう下の名前で呼んでくれるのか。俺もテミスって普通に呼んでもいいのかな。
「私の顔に何か付いてるか?」
「いやいや、何も。単純に可愛いなって思ってただけ」
「かわっ・・・?」
テミスの頬が赤くなった。ここにカメラがあれば、俺はこの瞬間を連写していただろう。
そう思ってから数分後、俺はテミスに奢ってもらった料理全てを完食した。彼女は別にお礼は要らないと言ってるけど、あとで絶対お礼はする。
「そういえば、タローはどこから来たんだ?この街では一度も見かけた事はないが·······」
「俺?俺は·······そうだな、遠いところから来たんだ」
「む、場所は教えてくれないのか」
「はは、また機会があれば教えるよ」
うーん、楽しい。
こんな他愛もない会話をしてるだけなのに凄い楽しいな。胸が高鳴るのを感じながら、にやけずにはいられない。
「武器を持たずによく森の中を通ってこれたな。道中で魔物に遭遇しなかったのか?」
「したよ。ドラゴンに襲われた」
「やっぱり。でも、ドラゴン相手に逃げ切れるとは思えないけど········」
「あ、ああ、それはだな。殺されると思って殴ったら倒せちゃったといいますか」
·······あれ、なんで黙っちゃったんだ?ま、まさか、俺変な奴だって思われたりしてるんじゃないだろうな。
「ふっ、ふふ、タローは面白い奴だな」
「うお········」
テミスが笑った。駄目だ、これは反則級の可愛さだ。今ここにカメラがあれば········!
「疑わないのか?」
「目を見れば嘘をついてないと分かるから。今タローが言ったことは真実だと私は信じるよ」
「はは、ありがとう。ところでテミス、この街には宿があったりするだろうか」
「ああ、勿論」
ふむ、それは助かった。でも問題は金が無いということだな。金が無いと、まさかの異世界生活初日から野宿になってしまう。
「そうか、タローはお金を持っていないんだったな。貸そうか?」
「いや、それは流石に申しわけない。何とか自分で資金調達しなくては········」
「それならギルドに行ってみるか?依頼を達成すれば報酬が貰えるけど」
「おおっ、是非行ってみたい!」
「ふふ、なら案内するよ」
ほんとに優しいな、テミスは。出会ったばかりの男にこんなにも優しくしてくれるなんて·······自惚れるなよ、佐藤太郎。これ程の美少女だ、きっと相手は金持ちのイケメンに違いない。
「おいおい兄ちゃん、テミスの彼氏か?」
「え、いや、違いますけど」
食事代を支払ったテミスが外に出ていく。それを見届けてから店の店主がそんな事を言ってきた。誰が見ても、俺なんかじゃ彼女には釣り合わないと思うけど········まあ、悪い気はしない。
「そうか。でも、テミスを傷つけないでやってくれよ?」
「え?」
「昔から、困ってる奴には絶対手を差し伸べる子でな。それで何回も酷い目に遭ってきてんだ。あの子がちっさい時から面倒見てやってたから、いつの間にか娘のように思えてきてよ。だからテミスを傷つけたら許さねーからな」
「ご、ご安心を。絶対傷つけたりなんかしませんよ」
とりあえず、外で待ってくれてるテミスのところに行こう。俺は店主にご馳走様でしたと言ってから外に出た。
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「ようこそ、冒険者ギルドオーデム支部へ。ギルドカードの発行ですね。まずはステータス測定を行なわせていただくので、奥の部屋に案内します」
「分かりました。ほんとありがとな、テミス」
「ああ、向こうで待ってるよ」
冒険者ギルドという場所に来た俺は、一旦テミスと別れてステータス測定とやらを行うために受付嬢の人を追った。
この街········オーデムだけではなく、世界各地に存在している冒険者ギルド。様々な依頼が集まる場所であり、その依頼を受注して達成することで報酬が支払われる。なので、ギルドには昼夜を問わず多くの冒険者達が集うらしい。
「サトーさんはご自身のステータスを測定したことはありますか?」
「いえ、一度も」
「分かりました。それではこの測定玉に手を置いてください。あとは自動で測定玉が貴方のステータスを読み取ってくれますので」
「了解でーす」
とりあえず机の上に置いてる丸くて綺麗な黒い物体に手を置いてみたのたが。
「っ!?」
次の瞬間、凄まじい音と共に測定玉という名の物体は粉々に砕け散った。
「え、え········?」
俺と同じく受付嬢の人もびっくりしている。もしかして、何らかの不都合で測定に失敗してしまったパターンだろうか。
「な、なんかすんません。壊しちゃったみたいなんですけど········」
「いえ、大丈夫です。結果が出たらその情報を元にギルドカードを発行しますので、申しわけないのですがそれまで暫くお待ちください·······」
「あ、はい」
顔が真っ青になってたけど、大丈夫なのかな。そんな感じで受付嬢さんの心配をしていると、俺はある事に気付いた。
なんか外が騒がしい気がする。そう思って部屋から出れば、さっきまでいた人達が全員いなくなっていた。多分外に出たんだと思うけど········テミスも外か。
「って、なんだありゃ!?」
何事かと思って外に出れば、めちゃくちゃでかい白い犬みたいな化け物が唸っていた。冒険者達は皆武器を構えてるからあいつは敵なのか?
「て、テミスさん、やっちまってください!」
「《世界樹の六芒星》の力、この化け物に見せつけてやれ!」
皆が何かを言っている。よく見れば、化け物に一番近い距離に立ってるのは剣を構えたテミスじゃないか。
でも、気になることが一つ。
「·······世界樹の六芒星?」
「え、何だお前。知らないのかよ」
「ああ、知らないな」
「世界樹の六芒星っつーのはな、この世界最強の6人のことだ。その1人があそこにいるテミス・シルヴァ。《銀の戦乙女》って呼ばれてる凄い少女なんだよ」
「まじか」
知らない人が丁寧に説明してくれた。どうやら俺に優しくしてくれたテミスは、この世界最強クラスの女の子らしい。てことは、あの犬も簡単に倒せるんじゃ········。
「いや、そんなことないか」
恐怖で心臓がバクバクなっているけど、人々を押し退けてテミスの元に向かう。そして震える彼女の肩を後ろから軽く叩いた。そしたらビクぅって肩跳ねたから、俺もちょっと焦ったのは内緒で。
「た、タロー?」
「無理するなよ。よく分からんけど、この犬は強いんだろ?」
「さ、下がっていろ。こいつはただの犬などではなく、神狼。私でも勝てるか分からないレベルの敵なんだ」
「ええっ!?」
「それが神獣種だ。恐らく封印が解けたんだと思う。お願いだ、私が足止めしている間に皆を逃がしてくれないか?」
「だ、だから無理すんなって!」
だって、震えているじゃないか。世界最強の一人とはいえ、テミスは女の子だ。なのに皆はテミスが勝てると思い込んでるから、勝利を信じて動こうとしない。
········本当に俺が圧倒的な力を得ているのだとしたら、俺はテミスを守ることができるんじゃないのか?
「タ、タロー、何をするつもりだ·······?」
「テミスの前でかっこつけようと思ってな」
「だ、駄目だ!相手は一体で軍を滅ぼせる程の強さを誇るんだぞ!?」
「それでも、震えてる女の子を放っておける程、俺は臆病じゃない」
ちょっと離れた場所にいた人達の所までテミスを押して、それから俺はもう一度犬········神狼の前に立つ。
「なんで攻撃してこないんだ?意外とお利口さんなのか?」
「·······」
「·······お手」
次の瞬間、俺は地面にめり込んだ。更に上から何度も踏みつけられ、俺の身体はどんどん地面に埋まっていく。ああ、テミスの声が聞こえる。でも、爆音で何を言ってるのか分からないな·····────
「何回踏むんだ駄犬野郎ッ!!!」
流石にしつこ過ぎた。痛みを感じなかったので勢いよく立ち上がると、バランスを崩した神狼が派手に転倒する。それによって家が何軒か潰れたけど、俺悪くないよね········?
「くぅん········」
「は?」
そして、神狼が何故か小さくなった。全長20mぐらいだったのに、急にちっこい犬みたいになったのだ。それも、俺が抱きかかえれるサイズに。
「た、タロー·······?」
困惑しながらも神狼を抱っこしていた俺に、後ろからテミスが声をかけてくる。振り返れば、彼女の顔は真っ青になっていた。
「け、怪我は?」
「見ての通り無傷だけど、正直全然理解できない」
「ぶ、無事で良かった!」
「え、ちょっ!?」
「さ、サトーさん!」
涙目になってしまったテミスを見て焦っていると、ギルドの中からさっきの受付嬢さんが走ってきた。そして彼女からカードと紙を手渡される。
「それがギルドカードです。依頼を受注する時は必ずそれを提出してくださいね。あ、あの、その紙に記されているのが貴方のステータスになります········」
「ど、どうも·······ん?」
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サトータロー Lv.1
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筋力:9999
耐久:9999
敏捷:9999
魔力:9999
魔攻:9999
魔防:9999
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「うわぁ、レベル1か········ってなんだこりゃ!?」
「········ぜ、全ステータスが、9999って········」
明らかに、数値がおかしかった。
「タロー········」
「な、何でしょう」
「このステータスは、ど、どういう事なんだ?」
「受付嬢さん、俺も分からないんで説明お願いします!」
「え、えーとですね。ギルドでは存在する測定玉の中で最高ランクのものを使用しているのですが、それで測定出来る限界のステータスなんです。だから、その、本当はもっとステータスが高いと思います」
「だ、だってさ、テミス」
「········」
こうして、俺は異世界に来たばかりだというのに有名人化してしまったのだった。
次回、犬(神狼)に名前をつけますの回