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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
4章 新世界への道
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52.成長の時

「その顔は、何か悩み事がある顔だね」

「ち、近いぞヴィータ」


慌ただしい休日が終わり、またいつものように学園へ。そして教室で授業の開始を待っていると、突然ヴィータが俺に顔を近づけてきたので驚いた。


「ふふ、ユウ君の照れた顔は可愛いからね」

「な、何だよそれ·········」

「私でよければいつでも話を聞くよ?」


時計を見れば、授業開始まで少しだけ時間がある。なので、俺は優しい笑みを浮かべるヴィータに悩み事を打ち明けた。


「今よりもっと強くなりたい、か。うーん、ユウ君は充分強いと思うけどなぁ。確かに魔闘力等はリースちゃん達に劣っているけど、ユウ君のはまた違った強さというか··········」

「それでも、結局俺は誰も守れていないんだ。無人島でディオと戦った時も、ロイドの時も、昨日も。必ず最終的には誰かに頼って守られる。それじゃ駄目なんだよ·········」

「·········不思議だね」


首を傾げながら、ヴィータは頬に指を当てる。


「君は昔から多くの魔物達と戦ってきたんだよね?なのに何故、レベルは100にすら到達していないのか··········」

「ああ、それは俺も何度か思ったよ。少なくとも、他の人ならもっとレベルが上昇していてもおかしくないからな」


母さんと共に、俺は多くの魔物達を討伐してきた。それでもレベルは滅多に上がらず、上がったとしても魔闘力は低いままだ。クレハのレベルが上がった瞬間は何度も隣で見てきたが、その度に彼女が申し訳なさそうに謝ってくる光景は忘れられない。


「ユウ君が強さを求めるのは、やっぱりマナ先生の為?」


不意に、ヴィータがそんな事を聞いてきた。顔を上げれば、少しだけ寂しそうな瞳でこちらを見つめる彼女と目が合う。


「·········まあ、そうかな」

「ふふ、君は優しいね。誰かの為に力を使う、本当に眩しくて綺麗な心だ」

「はは、意外と心は黒いかもよ?」

「マナ先生やクレハちゃんと毎日同じ屋根の下で過ごしているからね。えっちな事の一つや二つ、考えていてもおかしくはないかな?」


などと他愛もない話をしていたら、マナ姉が教室の中に入ってきた。同時に授業開始の鐘が鳴る。自然と生徒達は自分の席に座り始め、鳴り終わる頃には全員が着席していた。


「それじゃあ授業を始めます。えっと·········あれ?この前はどこまでやったんだっけ·········」

「第3種雷属性魔力調整項30ページまでだよ」

「そ、そうだった。ありがとうユウ君」

「·········マナ先生、疲れているね」

「ああ、魔力が乱れたのは昨日だからな」


教室内を見渡せば、誰もがマナ姉を心配しているというのはすぐに分かった。マナ姉が前回の授業内容を忘れるなど、学園祭以前では考えられなかったからだ。


俺にもっと力があれば。


最近思うのはそればかり。昨日だって、俺に力があればスカルエクスキューショナーに苦戦する事だってなかったかもしれない。マナ姉と肩を並べて戦えたかもしれないのに。


「ユウ君、聞いてる?」

「え、ああ、ぼーっとしてた」

「もう、ちゃんと聞いてね」


気が付けば、マナ姉が目の前に立っていた。俺が授業に集中していなかったから軽く注意しに来たんだろうけど、笑顔で俺を見下ろすマナ姉を見ると胸が締め付けられる。


クラスメイト達は気付いていないだろうが、俺には分かる。どうやらかなり無理をして教壇に立っているらしい。顔色が少し悪いし、魔力も僅かに乱れているのだ。それなのに、マナ姉は·········。


『もっと力があれば·········そう思いますか?』

「え········?」

『大丈夫、今の貴方なら力を使いこなせる筈です。あぁ、ようやくこの時が来たのですね·········』

「ちょっ、何だ!?」


突然周囲が光に飲まれる。当然教室内は何事かとざわつき、いよいよ目の前に立つマナ姉すらも光で見えなくなって────


「─────んぐっ!?」


視界が暗くなる。そして顔面全体を包み込む、謎の柔らかい物体。とても良い香りが俺の鼻をくすぐり、呼吸が出来ない。


「ユウ様っ········!」

「ん、んんっ·········!?」


聞き覚えのない女性の声が耳に届き、咄嗟に柔らかい物体から顔を離す。そんな俺の目に飛び込んできたのは、ディーネさんと同じ蒼の髪。しかし目の前で揺れるその髪は長く、恐ろしい程美しく輝いていた。


そして、胸。マナ姉と同サイズぐらいの胸を見て、俺はこれに顔を埋めていたのかと理解する。さらに視線を上に向ければ、とても幸せそうに微笑む女性と目が合った。見覚えはないが、信じられない美しさ。一体これはどういう状況なんだろうか。


「ち、ちょっと、誰ですか貴女は!ユウ君から離れてください!」

「きゃっ·········」


混乱していると、机の上で正座しながら俺に抱き着いている女性は、怒ったような表情のマナ姉に引っ張られて俺から引き離された。


「転移魔法を使ったんですか!?ユウ君に危害を加えるのなら許しません·········!」

「ち、違いますよ。わたくしは、ユウ様に力をお返ししようと思って·········」

「あれ、この声って」


何度か夢の中で聞いた、姿の見えない女性の優しげな声。それと同じだ。まさか、この女性が·········?


「覚えていてくださったのですね。ですが、出るタイミングを間違ってしまったようです。すみません、お騒がせして」

「君は一体誰なんだ?俺の精神世界に干渉していたのか?」

「まずは自己紹介を済ませてしまいましょう」


ふわりと宙に浮き、クラス中の視線を集めながら、女性は胸に手を当て────


「私の名はティアーズ。母なる女神ユグドラシル様の涙より生まれし、水を司る女神です」

「「「へっ?」」」


そんな、衝撃的な事を笑顔で言ってみせた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









「おいおい、こりゃ何の冗談だ?」

「あら。お久しぶりですね、アークライト様」


頬を引き攣らせながら、ソンノ学園長が正座している女性───ティアーズを見下ろしている。ここは学園長室。1限目の後、俺とマナ姉はティアーズを連れて学園長に事情を説明しに来たのだ。


「学園長の知り合いなんですか?」

「ああ、会うのは久々だがな。こいつは正真正銘、本物の水の女神だよ」

「す、すみません!私、何も知らずに失礼なことを·········!」

「いえいえ、お気になさらず。あれは明らかに私が悪いので」


マナ姉が顔を真っ青にしながら頭を下げているが、本当にティアーズは気にしていないらしい。そして不思議な魔力を纏った彼女は、紅く染まった頬に手を当て────


「私、ユウ様のお顔を見ることができて、幸せで·········」


ぴしりと、そんな音が聞こえた気がした。


「それは、どうしてですか?」


笑顔だが、目が全く笑っていないマナ姉が、ティアーズを見つめながらそんな事を聞く。


「16年間、私はユウ様の成長を側で(・・)見守ってきました。ユウ様の心は本当に綺麗で、温かくて········ですが、時折激しく後悔したり、怒りを抱いたりしていたのは知っています。心を感じるだけで、実際にお会いしたのは今日が初めてですから」

「どういう意味ですか?」

「私は、ずっと〝ユウ様の心の中に居た〟のです。大変申し上げにくいのですが、ユウ様のレベル、そして魔闘力の上昇を停止させておりました」


次の瞬間、凄まじい魔力をマナ姉は全身から解き放った。稲妻が部屋中を駆け巡り、窓ガラスが次々と割れる。学園長が頑張って整理したのであろう書類は一瞬で消し炭となり、高そうな赤いカーペットが炎上する。


「レベルと魔闘力の上昇を停止させていた?そ、そのせいでユウ君がどれだけ苦労してきたか········苦しんできたか分かりますか!?」

「落ち着けマナ。相手は女神だぞ」

「落ちこぼれだなんて言われて、傷ついて!それが全部貴女のせいなのだとしたら、私は貴女を許さない·········!」

「マナッ!!」


激怒しているマナ姉に、ソンノ学園長が怒鳴った直後。


「逆に分かりますか?ユウ様の苦しみを、いつも感じ続けてきた私の思いが」


スプリンクラーのように、部屋全体に水が降り注いだ。そして、マナ姉に匹敵するレベルの魔力が周囲を満たす。


「感情を押し殺して、ユウ様の力を封じ続けてきた私の気持ちが」

「貴女より、ユウ君の方が苦しんでるじゃないですか!!」

「そうですか。なら、貴女はユウ様が魔力に呑まれて死んでも良かったと仰るのですね」


ずっと優しい笑みを浮かべていたティアーズが、ギロりとマナ姉を睨みつける。マナ姉は、一瞬だけ身体を震わせた。


「魔力の暴走。それがユウ様の精神や肉体にどれ程の影響を及ぼすのか、貴女は間近で見た筈ですが?」

「だったら何────」

「覚えていませんか?生まれた直後、魔力が暴走して死亡寸前だったユウ様を」

「っ·········!?」


マナ姉が息を呑む。魔力が暴走して死にかけていただと?そんな話、誰からも聞いたことはないが··········。


「赤ん坊だったユウ様は、妹のクレハ様と違って父と母の強大な魔力をコントロールできなかった。ですが、ユグドラシル様の命で私がユウ様の精神に干渉。そして心に宿り、暴走を抑え込んだのです」

「そ、そんな事·········」

「その影響で、ユウ様のレベルや魔闘力の上昇は殆ど止まってしまいました。そして、魔力の暴走は今でも続いています。私は全魔力を使って暴走を抑え込んでいましたが、それでもユウ様は自分の意思で魔力の一部を引き出すことができた。分かりますか?このまま魔力をお返しして本来の力をユウ様が取り戻した瞬間、恐らくユウ様は魔力に呑まれて死亡するでしょう」


申し訳なさそうに、ティアーズが俺を見てくる。


「すみません、ずっと黙っていて·········」

「んー、まあ。要するに俺が今生きているのは、君のおかげって事なんだろう?」

「ええと、一応·········」

「ありがとう。感謝するよ」


俺が頭を下げた直後、ティアーズは慌てながら顔を上げてくださいと言ってきた。マナ姉も目を見開いており、学園長はニヤニヤと笑っている。


「わ、私のせいでユウ様が辛い思いをしてきたのは事実です。本当なら、もっとユウ様は私を責めるべきで·········」

「責めるわけないだろ?君は恩人なんだから。ま、驚いたけど納得したよ。マナ姉も、怒ってくれてありがとうな」

「う··········」


呆然としていたマナ姉の頭を撫でれば、彼女は泣きそうになりながら俯いてしまった。あの温厚なマナ姉が怒ったのは、それだけマナ姉が優しいからだ。学園長室はグチャグチャになったけど、実はかなり嬉しかった。


「ユウ様·········ふふ、貴方は本当に優しい御方ですね」

「はは、それはどうも。ところでティアーズ、突然姿を見せたのには何か理由があるんだよな?」

「はい。ユウ様は、様々な困難を乗り越えて強くなりました。その心の成長は、きっと魔力の暴走を自らの力で抑え込み、更なる高みへと貴方を導く筈です」

「え?ってことは··········」

「ユウ様に、魔力をお返しする時が来たのです」


そう言ってから、ティアーズはニコリと笑った。

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