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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
4章 新世界への道
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47.序章

よく晴れたある日の事、かつて世界を救った英雄タロー・シルヴァは、愛する妻のテミスと共にとある場所を目指していた。王都ギルドマスターである友人から届いた依頼、それは『ロックグラム砦の調査』という内容だ。


「帝国との国境にあるロックグラム砦が、最近王国軍への報告を偽っている可能性あり。又、不審人物の出入りも確認された。よって、貴殿らに調査を依頼する········だーってさ。やれやれ、別に俺達じゃなくても大丈夫だろうに」

「私は久々に2人で行動できて嬉しいけど」

「それは俺もさ」


揺れる馬車の中、誰も見ていないのでイチャつき始めた(別に人が居ても堂々とイチャつくが)シルヴァ夫婦。出会いから22年経っても相変わらずラブラブである。


「ま、サクッと調査して帰ろうぜ。愛する娘達が、俺の帰りを待っている·········!」

「2人共ユウにべったりだけどな」

「ゴフッ!!」

「吐血!?」


ショック過ぎて大ダメージを受けた英雄は、そのまま隣に腰掛けているテミスに身を寄せる。


「うぅ、テミスぅ·········」

「ふふ、よしよし」


そんなタローの頭を優しく撫でながら、テミスは頬を緩めた。昔から変わらない、夫を慰める時はいつもこうしているのだ。


「タロー様、テミス様。ロックグラム砦が見えてまいりました」

「おっ、了解」


馬車の外から聞こえた声に反応し、体を起こしたタローが窓の外を見る。帝国の動きを監視、そして侵攻を阻止する為に建てられた巨大な砦、王国の盾とまで言われているロックグラム砦が彼に目に映った。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆










「うーん、特に怪しいとこは無かったな」

「ああ、そろそろ戻ろうか」


テミスの魔法で気配を完全に遮断した2人は砦の中を一通り見て回ったが、不審人物などは発見できず。報告書の不審点や危険物なども確認できなかった。


「やっぱりアレクシスが心配性なだけじゃないか?」

「まあ、何かあれば調査しておくに越した事はないから。最近は帝国も大人しいけど、万が一突然侵攻を開始した場合は対応が遅れるかもしれないしな」

「とりあえず砦から出よう。腹減ったよ」

「うん、分かった」


肩を並べ、のんびりと歩き始める仲良し夫婦。許可なく砦に忍び込んだのだが、堂々と入っても別に怒られないだろう。2人は世界を救った英雄、寧ろ大歓迎される筈だ。


「あの、すみません」


そんな2人に、突然背後から声をかけた者がいた。揃って振り返れば、大人しそうな王国兵が立っている。偶然見かけたから呼んだのか·········他の者ならそう思ったかもしれないが、この2人は違った。


「まずいなテミス、誘い込まれたぞ」

「ああ、囲まれているな」


気配を遮断している自分達が、ただの一般兵程度に発見される筈がないのだ。即座に意識を切り替えた2人は背中を合わせ、ぞろぞろと姿を現した兵士達を睨む。


「ふん、最初からバレてたのかよ。わざとスルーして、集団戦を行いやすい場所まで誘導する。砦の管理者である、第六騎士団長が指揮してるのか?」

「分からない。ただ、全員正気を失っているようだ。何者かが兵士達を操っている可能性がある」

「チッ、こんな状態で帝国が攻めてきたらどうするつもりなんだっつーの。誰だか知らんけど、余計なことしやがって」


タローがそう言って溜息を吐いた、次の瞬間。


「ゔああああああッ!!」

「ですよねー·········」


奇声と共に駆け出した兵士達。体を奇妙に曲げながら放たれた拳は、そのままタローの顔面に叩き込まれた。しかし、タローは無傷。そのまま兵士の腕を掴み、持ち上げて床に叩き付ける。


「テミス、とりあえず兵士達を無力化しよう」

「分かった!」


数は兵士達の方が圧倒的に多いが、相手は単独で軍を壊滅させることが可能な力を持つ英雄が2人。たった数十秒で兵士達は全員力無く床に転がり、タローとテミスは息一つ乱さず何も無い場所に目を向ける。


「おい、いい加減出てこいよ。お前が兵士達を操ってるんだろ?」

「──·······ふふ、流石は英雄タロー・シルヴァ」


視線の先で、空間が歪む。そして姿を現したのは、全身が黒いローブで覆われた謎の人物。フードを深く被っており、中性的な声なので性別が分からない。


「何が理由でこんな事をした」

「ただの挨拶ですよ。それと、王国はもう少し危機感を持った方がいいという警告の為」

「はあ?」


辛うじて見える口端が上げられる。


「初めまして、かつて世界を救った英雄タロー・シルヴァさんに剣聖テミス・シルヴァさん。本日はこのロックグラム砦にお越し頂き有難うございます。私のことは〝黒の盟主(マスター)〟とでもお呼びください」

「ふん、そのマスターさんが何の用だ?」

「言ったでしょう?挨拶と警告、追加するなら実力を見る為」


パチン、と黒の盟主が指を鳴らす。すると、突如倒れていた兵士達が呻きながら痙攣し始めた。同時に全身から黒い瘴気が溢れ出し、兵士達の体が音を立てて変化し始める。


「魔人化········!?」

「さあ、少しだけ遊びましょうか」


立ち上がった兵士達が、一斉にタローとテミス目掛けて飛びかかる。もう既に全体の半分以上が魔物と化しており、手遅れであることを2人は瞬時に察する。


「くっ、お前が兵士達に感情喰らい(イーター)を寄生させたのか!?」

「その通りです。感情喰らい(イーター)が反応したのは〝恐怖〟の感情。私という存在に怯えた彼らは簡単に寄生されましたよ。そして今、魔人化が一気に進んだのは貴方達に心底恐怖したから··········」


たった数秒で、兵士達は完全に異形の魔物と化した。そんな彼らを見て一瞬タローは躊躇ったが、拳を握りしめて1人の元兵士の顔面を蹴り飛ばした。その一撃で頭は消し飛び、宙を舞った元兵士の体は灰となって消える。


「すまないな·········」


少し前までは、自分達と同じように生活していた者達。きっと、大切な家族もいたことだろう。それでも、このまま放置するわけにはいかない。魔物として暴走し続けるだけの存在となるのならば、今ここで全て終わらせる。


「はあッ!!」


閃光が迸る。神速の領域へと足を踏み入れている剣聖、その技の数々。自分が斬られたことに気付かず、痛みを感じる間もなく元兵士達は灰となって消えた。


「これが英雄と剣聖の戦闘·········魔力を纏っていない状態でこれ程とは、末恐ろしいですね」


兵士達を全滅させたタローが、そのまま黒の盟主目掛けて床を蹴る。しかし次の瞬間、壁を突き破って現れた異形の魔物が、空中でタローを殴り飛ばした。弾丸のように吹き飛んだタローは、そのままテミスの横を通り過ぎて向こうの壁に衝突、その衝撃で壁は崩落する。


「タロー!」

「ふふ、元第六騎士団長なだけあって、パワーはただの兵士とは比べ物にならないようだ」

「これが、第六騎士団長だって········!?」


テミスの視線の先、膨れ上がった筋肉は真っ赤に染まり、変形した両肩はまるで砲台のように。魔物と化した元第六騎士団長が、凄まじい魔力を放ちながら黒の盟主の隣に立つ。


「くっ、巫山戯るな!何の関係もない彼らを魔人化させて、それが私達に対する挨拶だと!?」

「帝国が侵攻を開始した時、真っ先に戦場となるのはこの辺り一帯ですよ?最前線の兵士達が、敵を前に恐怖していては話になりません。もう一度言います。これは挨拶、そして警告なのです」

「もういい、話が通じないようだ」


遂に、剣聖テミス・シルヴァが魔力を纏う。床にヒビが入り、大気がビリビリと震える中、黒の盟主は楽しげに笑ってみせた。


「ふふ········とても壮大な話になりますけど、この世界はいずれ生まれ変わるでしょう」


どす黒い魔力が漏れ出し、テミスの魔力とぶつかり合う。


「世界は滅びなければならない。その理由が分からないのなら、貴女は次の世界へ足を踏み入れる資格は無いですよ」

「ッ!!」


元第六騎士団長───ヘンリーの肩から発射された魔力砲弾が、黒の盟主に気を取られていたテミスを襲う。しかし、流石は剣聖。咄嗟に刀を振り、砲弾を真上に弾き飛ばした。


「·········一体何が目的なんだ」

「望むは終焉、そして再生。それこそが〝この世界の意思〟なのです」


崩れた天井が降り注ぐ。そんな中、突如ヘンリーが轟音と共に床にめり込んだ。凄まじい衝撃が砦全体を揺らし、壁や床は一気に砕け散る。黒の盟主の前に降り立ったタローが、踵落としでヘンリーを床に叩き付けたのだ。


単独で街を焼き払えるだけの力を得たヘンリーが、たった一撃で灰と化す。そんな光景を眺めながら、黒の盟主は更に笑みを深める。


「悪いなヘンリー、ゆっくり眠ってくれ」

「ふ、ふふふっ!良い、とても良い。そこで一切躊躇わないのが英雄たる証ですか」

「そろそろ黙れよ?世界を滅ぼすつもりなのか何なのかは知らんけどな、そんな事で人の心を弄ぶな········!」


テミスに続き、タローも魔力を纏った。それでもなお黒の盟主は余裕を崩さないが、やがてやれやれと肩を竦める。


「残念ですが、私は此処で貴方達と争うつもりはありません。本日はこれにて退散させてもらいます」

「逃げれるとでも思ってるのか?」


正面にタロー、後方にテミス。一秒あれば同時攻撃で確実に捕らえることは可能。しかし、タローは気付いた。


「っ、転移魔法·········!?」

「陣をあらかじめ展開しておけば問題はありません。貴方達が何かしようとすれば、その瞬間に私は去りますから」


黒の盟主の言う通り、魔法陣を先に展開されるとどうしようもない。展開する最中に攻撃すれば問題ないが、展開済みだと即座に転移魔法を発動可能なのである。


「これはある意味ゲームみたいなものです。全ての種族よ、運命に抗いなさい。そして、汝らに等しく終焉を·······───」

「待ちやがれ!」


咄嗟に2人は動き出したが、もう遅い。展開済みだった魔法陣が起動し、黒の盟主は光に飲まれて彼らの前から姿を消した。


「くっそ、何なんだよあいつ········!」

「終焉と再生········まさか、グリードのように世界を滅ぼそうとしているのかもしれない」

「折角また平和になったんだぞ!?こうしてテミスやマナ達と一緒に暮らせるようになったんだ!なのにまた、その平和を踏みにじられるのか········!?」

「タロー·········」


凄まじい激闘の末、世界を───愛する人を守った英雄。そんな彼の悲痛な叫びを聞きながら、テミスはタローを抱き寄せた。


「大丈夫、あの時とは違う。私達はもう、タローに守られるだけじゃない」

「テミス·········」

「帰ったら皆を集めよう。大事になるかもしれない。また、皆の力が必要だ」

「ああ、そうだな。ありがとう」


かつて世界を震撼させた人魔大戦。それを超える史上最大の戦いが、遂に始まろうとしていた。

一応説明。

2人の前に現れた黒ローブは、2人の魔力を浴びても怯まないどころか同等の魔力を放ってみせました。そして、2人が気付かないレベルの高度な魔法陣展開。強キャラです。

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