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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
3章 運命の学園祭
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44.自覚と変化

「ん········」


そんな声が聞こえたのでユウが顔を上げると、目を覚ましたらしいマナが上体を起こしていた。彼女が起きるのを待っている最中に、椅子に座りながら眠ってしまっていたらしい。


「おはようマナ姉」

「ユ、ユウ君········」

「体は大丈夫か?どこか痛かったりしないか?」


それで思い出したのだろう。マナは腹部を撫でながら、とても悲しそうに目を伏せる。


「そっか、ロイド先生が感情喰らい(イーター)を生徒達に寄生させていた張本人だったんだね。私のせいで、エリナちゃん達やユウ君に辛い思いをさせちゃって·········」

「マナ姉は悪くない。でも安心してくれ。ロイドは、親父の手によって討たれた」

「っ·········」


心の底では、まだロイドを信じていたかったのだろう。それを聞いたマナは目を見開き、そして涙を流し始めた。


「ユウ君、ごめんね········?」

「何がだ?」

「本当は、ずっと仲直りしたかったの。魔闘場でエリナちゃんがユウ君に抱き着いたのを見て、よく分からないけどすごく嫌な気持ちになって········それで、ユウ君に怒鳴っちゃって」


零れた涙がシーツを濡らす。ここは学園の保健室。窓の外を見れば、いつもと変わらない満天の星空が目に映る。


「謝らなきゃって思っても、ユウ君がエリナちゃん達と楽しそうに話をしているのを見たら、声をかけられなくて·········ダンスに誘ってくれた時、とても嬉しかった。だけど、他の子達とも踊ることを聞いていたから·········」

「マナ姉は、ロイドと踊るつもりだったのか?」

「ううん、あれはロイド先生が勝手に言っただけ。私は、誰とも踊らないつもりでいたの」

「そっか、そうだったのか。なのに俺、勘違いして酷いことを言ってしまったな。本当にごめん」

「ユウ君は悪くないよ!悪いのは全部私なんだから········!」


そう言ったマナの頭を、ユウは優しげな笑みを浮かべながら撫でる。突然そんな事をされてマナは驚いたが、嫌だとは微塵も思わない。


「俺も悪いしマナ姉も悪い、これでおあいこだな。だからもう、仲直りしよう。マナ姉が泣いているのを見るのは、結構辛いからさ」

「ユウ君········」

「マナ姉が生きていてくれて、本当に良かった。もう会えないかもしれないと思ったから、こうして姿を見ることができるだけでも幸せだよ」


その瞬間、マナの中で何かが弾けた。顔は瞬時に真っ赤に染まり、心臓がうるさいぐらいに暴れ出す。頭の中に浮かんでいるのは、ボロボロになりながらもロイドに立ち向かったユウの後ろ姿。理不尽な絶望を味わったことなどすっかり忘れ、マナはぼけーっとしながらユウの顔を見つめている。


(な、何だ?急に喋らなくなったけど)


一方ユウは、黙り込んでしまった姉を見て焦っていた。仲直りしようと言ったのはいいものの、返事がない。


「あ、あの〜、マナさん?」

「へ、あ、ひゃいっ!?」

「········!?」


マナはマナで、ユウのことしか考えられずに混乱していた。どうしてこんな状態になったのかすら分からず、あたふたしながら布団で顔を隠す。やがて恐る恐る布団の中から顔を出したマナはなんとも可愛らしかったのだが、目が合うと再び布団の中に隠れてしまった。


(なんか、小動物みたいだな········)

(あうぅ、目を合わせられないよぉ········)


それから頑張って2人は仲直りしたものの、最早マナはユウとまともに会話することができなかった。しかし嫌われたりしているわけではないとユウも分かったので、果物を持ってくると言って部屋から出ていく。


そんな彼を布団の隙間から見送ったマナだったが、突然その隙間を何者かが覗き込んできたので悲鳴を上げた。


「も、もう、姉さんったら。驚かさないでください」

「こ、こっちの台詞だよ!」


どこからともなく現れたのはクレハで、布団から顔を出したマナを見てほっと胸を撫で下ろす。


「良かった、かなりの重症だと聞いていたので心配していたんです。学園長が王国各地から優秀な回復魔法の使い手を転移魔法で連れてきたらしいので、無事に傷は塞がったみたいですね」

「そ、そうなんだ。色んな人に迷惑をかけちゃったな········」

「ふふ、誰も迷惑だなんて思っていませんよ。ところで姉さん、顔が真っ赤ですけど何かあったのですか?」

「へっ!?」


クレハに言われて置かれていた鏡を見ると、本当にマナの顔は茹でたメテオクトパスのように真っ赤になっていた。


「あ、ぅ、これは········」

「兄さんがあまりにも格好良かったから、ですね?」


コクリと頷いたマナに、クレハは娘を見るような視線を向ける。何かもう、嬉しさのあまり泣きたい気分になっていた。


「ああ、ようやく姉さんが想いを自覚する時が来たのですね」

「想い········?」

「姉さんがエリナさん達と楽しそうにしている兄さんを見て嫌だと思ったのは、嫉妬したからです。それは姉さんも分かっていますよね?」

「う、うん」

「では、どうして嫉妬したのだと思いますか?」

「それは·········」



『こら、起きろマナ姉!』


『俺達は家族だからな。これからもずっと、困った時は助け合っていけばいい』


『今度こそ、俺がマナ姉を守ってみせる!!』




数え切れない程の、ユウと共に過ごしてきた思い出。それらを思い出しながら、マナは消え入りそうな声で呟いた。


「好き、だから········」

「ふふ、その通りです。姉さんは、兄さんのことが大好きなんですよ。家族として、弟としてだけではなく、1人の男性として」


簡単なことだったのだ。ディーネを見てデレデレしていたユウに怒ったのは、いつも傍に居る自分を見てくれなかったから。エリナに抱き着かれたユウを無理矢理連れ出したのは、好きな人を奪われてしまうと思ったから。本当は一緒に踊りたかったのに避けてしまったのは、ただ単にやきもちを焼いていただけである。


自覚していなかっただけで、マナはずっとユウのことが好きだった。それをようやく自覚し、マナの中でユウという存在がこれまで以上に大きくなる。


「それで、想いを自覚したのはいいですけど、告白はするのですか?」

「こ、ここっ、告白!?む、無理だよ!」

「あら、勿体ないですね。他の女性なら絶対応援しませんけど、大好きな姉さんなら話は別です。私は全力で応援しますよ?」

「だって、ユウ君が私を好きって言ってくれるか分からないし、お父さん怒りそうだし········恥ずかしいもん」

(本当に姉さんは可愛いですね·········)


あまりの可愛さにクレハが写真を撮ろうかと考え始めた時、切った果物を持ってユウが戻ってきた。そんな彼を見てマナは再び顔を真っ赤にしながら固まり、クレハは満面の笑みを浮かべながらユウに抱き着く。


「お、おい、クレハ········」

「兄さん、クレハは色んな意味で幸せです」


何があったのかと視線を向けてもマナは動かず、果物を落とさないようにしながらユウは首を傾げるのだった。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









次の日、マナは1週間程自宅で休むこととなり、ユウは姉の心配をしながらも学園に登校した。また、いつも通りの日々が始まる────そんなユウの考えは、朝から早くもぶち壊される。


「キャーーっ、ユウせんぱーーい!」

「おはようございまーーす!」

「こうして見ると結構格好良いわね。これは考えを改めなきゃ········!」

「こっち向いて!」


何故か凄まじい数の女子生徒達に包囲され、ユウは困惑しながら隣に立つクレハに顔を向ける。やはりと言うべきか、微笑みながらも目が全く笑っていないクレハは魔力を放ち始めた。なのでユウは急いでその場から離脱し、クレハを落ち着かせる。


「ど、どういう事だ········!?」

「予想以上ですね。くっ、このままでは私が兄さんと過ごせる時間が減ってしまいます·········!」


その後、大量の女子達にキャーキャー言われながらも、ユウは何とか自分のクラスに辿り着くことができた。


「おはよーユウ。昨日は急にどっか行ったからどうしたんかと思ったけど、めちゃくちゃ格好良かったで〜」

「最初の頃に貴方を馬鹿にしていた自分が恥ずかしいわ。貴方は本当に優しくて素晴らしい人よ」

「ふふ、人気者だねユウ君」


教室の外はユウに話しかけようとする女子達で溢れており、教室内の男子達は悔しげにユウを睨んでいる。最早何が何だか理解できず、ユウはただただ混乱していた。


「いや〜、モテモテっすねぇ先輩!」

「っ、マルセル?」


1限目と2限目の間にある休憩時間、女子達を避けながら向かった男子トイレでユウはマルセルと遭遇した。何故2年の校舎にマルセルがいるのかは不明だが。


「昨日の先輩、ほんと格好良かったっすよ!自分、先輩を追って良かったっす!」

「········は?」

「偶然魔闘場の外で走り回っている先輩を見かけて、何かあったのかと思ってその後先輩を捜したんすよ。で、辿り着いた別館地下では魔竜と先輩が戦っていて、自分、こっそり撮影してたっす!あ、その時使った魔導カメラは魔闘場にあった物で、どうやら魔闘場にあるスクリーンに接続したままだったらしいっすね。なので、リアルタイムで先輩の勇姿が全生徒が集まった魔闘場に流れてしまったわけで─────」

「お ま え かああああああああッ!!!」


騒ぎの元凶であるマルセルの頭を掴み、ガクガク揺さぶる。


「い、いいじゃないっすか!これは空前絶後のモテ期っすよ!」

「やかましい!これじゃ休憩時間すらのんびり過ごせないだろ!?しかも、リアルタイムで映像が流れてたってことは、俺が〝マナ姉を守る!〟とか言ってたのも見られたんだろ!?全生徒に!!」

「そ、そうっすねぇ」

「だあああああああああッ!!?」


消えてしまいたい程恥ずかしかった。














「はぁ、はぁ········ぐっ、有り得ない。感情喰らい(イーター)を完全に制御できるこの私が、生身の人間なんかに········」


薄暗い森の中を、血まみれの男性が体を引き摺りながらさ迷っていた。あちこちの骨が折れ、少しでも体を動かせば激痛が全身を襲う。しかし、それでも止まれない。英雄達に魔力を感知されれば、きっと自分は今度こそ殺されてしまうだろう。


「だけど、私は生き延びた········ふ、ふひひっ、ざまあみろ!まだチャンスはある········今度こそ、マナ先生を私のモノにしてみせる········!」

「ねえ、ちょっといいかな?」


そんな瀕死の男性───ロイドの前に、突然現れた黒い影。追っ手かと思いロイドは震え上がったが、どうやら違うらしい。


「き、君は········?」

「あれ、分からない?マーナガルムを手に入れたいという君の願いに手を貸してあげたのは誰だったかな?」

「ッ!?ま、まさか、あなたが········!?」


影は笑う。英雄タロー・シルヴァが纏ったものにどこか似た魔力を放ちながら、影はロイドの頭を勢いよく踏みつける。


「ぐがっ!?」

「別にいいんだよ、君がマーナガルムをどうしようとね。だけど、〝彼〟を巻き込むのは違うじゃないか」

「ち、違うんです!あれは、彼が勝手に───ぎゃああっ!?」


足裏から放たれた魔力が、ロイドの僅かに残された魔力をグチャグチャに掻き混ぜる。


「理由はどうあれ、〝彼〟を傷付けたことは許さない。これもこの世界の意思(・・・・・・・)なんだ」

「も、申し訳ありません!もう彼に手は出さないと誓いますから────がああああああッ!?」

「あははっ、マーナガルムにもこうしてたよね?趣味が悪いなぁ、君って」


くるりと背を向けた影を、ロイドは震えながら見上げる。タローと同じく神に等しい力を持った、別格の存在。逆らうことは許されない、それは即ちこの世界に逆らうということだ。


「さて、そろそろ動き始めようと思うんだけど········君はもっと上を目指そうとは思わないの?」

「上········?」

「力があれば、今度こそマーナガルムを手に入れることができるかもしれないよ?憎きタロー・シルヴァさえも殺してね」

「力、力があれば、私は········はは、ははははははッ!!」

「君は本当に扱い易いね。まあ、どうでもいいけど」


脳裏に浮かぶのは、黒髪の少年がいつも見せてくれる穏やかな笑み。普段は若干無愛想な彼だが、たまに顔を覗かせる優しい表情が好きだった。


「問題は女神ユグドラシルかな。侵食を阻止するのに手一杯だとは思うけど、表に出てこられると面倒だし········ふふ、面倒事が尽きないね」


満月に手を伸ばし、笑う。


「新たな世界への扉はもうすぐ開かれる────待っていてね、ユウ君」

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