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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
3章 運命の学園祭
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41.魔人暴走

(魔力が暴走している?いや、そんな筈は··········)


無表情で全身から凄まじい殺気を放つユウを見て、ロイドは思わず後ずさる。


事前に調べておいた情報によると、ユウ・シルヴァの魔闘力は4260。魔力の暴走とは、圧倒的な魔力を持つ者だけが引き起こす破壊衝動である。殺意に呑まれ、ただ目標を殺す為だけに力を振るう破壊の化身となる状態。


故に、ユウ程度の魔力量では暴走状態に陥る筈がなかった。しかし、現にユウは信じられない程の魔力を解き放っている。最早、これは魔力の暴走以外に考えられない。


「なんだ、二度と話しかけるなと言っていた割には、やはり姉のことが大切なんだねぇユウ君」


魔力を纏い、ロイドが口角を上げる。


「だけどもう、マナ先生は私のものだ!殺れ、お前達!この男を惨殺しろ!!」


それを聞き、近くにいた魔族の男が恐るべき速度でユウに迫った。この場に居るのは全員ロイドが金で雇った魔族の猟兵。一人ひとりが魔闘力8000超えの実力者であり、集団戦になればユウ程度など相手にすらならない。


「悪いな糞ガキ!大人しく死────」


しかし次の瞬間、鉄製のアーマーをユウの拳が貫いた。他の猟兵達には、突然仲間の背中から手が生えてきたように見えただろう。


「がばっ、げえあ·········!?」


口から大量の血を吐き出し、男はその場に倒れ込む。そんな彼の血を浴びながらも、ユウは表情一つ変えずにゆっくりと歩き始めた。


「殺す、殺してやる·········」

「ひ、ひいぃ!?ぎゃ────」


恐怖のあまり動けなかった猟兵の顔面を掴み、魔力を流し込んで破裂させる。更にそのまま崩れ落ちた傭兵を投げ飛ばし、ぶつけた他の猟兵ごと刀で両断した。


数多の戦場を駆け抜けてきた猛者達が、たった1人の学生に次々と殲滅されていく。頭を掴まれ壁に叩きつけられた猟兵はそのまま息絶え、逃走しようとした者は飛ばされた斬撃で真っ二つにされる。


「ごめん、マナ姉········すぐ終わらせるから········今度はちゃんと話を聞くよ········そしてもう一度だけ········謝らせてくれ········だから········」


ブツブツと何かを呟きながら放たれた蹴りが、傭兵を大砲のように吹き飛ばす。その直後、背後から大柄な男がユウを襲った。


振り下ろされた大剣は凄まじい速度でユウに迫ったが、それが直撃する前にユウは殺気を放って男の動きを停止させる。


「かっ!?は、はは、信じられねえ!こんなガキ1人に俺達が全滅させられるとはよぉ!」


その男は傭兵団のリーダーであった。魔闘力は2万前後。しかし、今は全身から汗を流しながら、無言で刀を振り上げたユウを見て笑っていた。


「鼠が入り込むかもしれねぇから、念の為にっつって雇われたんだが········こいつは鼠なんかじゃねえ、悪魔だ!はははっ、人の皮を被った魔人だよ!!」

「そうか。死ね」


何の躊躇いもなく、ユウは男を縦に斬り裂いた。魔族は死亡すると灰となるので、死体があちこちに転がっているという状況は回避できたものの、地下空間は彼らの血で赤く染め上げられていた。


残ったのは禍々しい魔力を纏ったロイドのみ。ゆらりとそちらに顔を向けたユウは、おぞましい魔力を放ちながら歩き出す。


「まさか、これ程までの力を持っていたなんて!はははっ、素晴らしいよユウ君!」

「さっき、感情喰らい(イーター)をばら撒いたと言っていたな。お前がエリナやアーリア達を魔人化させた張本人か」

「その通りさ!全てはマナ先生を手に入れる為!だけどもういいんだ、やはり寄生されたマナ先生など見たくはないからねぇ!」

「········お前のくだらない計画のせいで、どれだけの人が傷付いたと思っているんだ?」

「さあ?マナ先生以外がどうなろうと、知ったことじゃない」

「そのマナ姉さえも、これだけ傷付いているんだぞ?」

「彼女が悪いんだよ!どれだけ苦痛を与えても、ユウ君ユウ君ってうるさいからさァ!!」

「────は?」


予想外の一言に、ユウは歩みを止めた。


「途中で心をへし折ることには成功したさ!なのに、私ではなく君に助けを求めるなんて·········あぁ、目障りだ!君という存在が邪魔で仕方ない!!」


嫌われたと、そう思っていた。なのに姉が助けを求めたのは、父でも母でもなく、自分。彼女は心底嬉しそうに微笑んでいた。夢でお別れを言いに来た彼女が、酷いことを言ってしまった男にごめんねと言ったのだ。


「俺の、せいだ··········」


吐き気がする程の負の魔力が、ユウの身体から溢れ出す。


「俺がちゃんと、マナ姉の話を聞いていれば··········」


真紅に染まった瞳がロイドを捉える。


「お前だけは、絶対に殺す········殺す········殺す殺す殺す殺す·········!」


そして、ユウの姿が消えた。


「殺してやるゥゥゥッ!!!」

「ッ!?」


咄嗟に展開した障壁が、真上から振り下ろされた刀と衝突し、砕け散る。その直後、ロイドの肩から血が噴き出した。


「は、速い········!?」

「死ねえええええッ!!!」


凄まじい速度の袈裟斬りをギリギリで回避し、背後に回り込んだロイドが魔法を唱える為に魔力を纏う。しかし、振り向きざまに放たれた蹴りがロイドの顔面を歪め、そのまま壁目掛けて吹っ飛ばした。


当然それだけでは終わらない。【加速アクセル】を発動した時以上の速度でユウはロイドに接近し、無防備な腹に鎧をも貫く拳を叩き込む。今の一撃がロイドの腹を貫通しなかったのは、ユウが彼に対して手加減したからである。


「あ、悪魔め········ぐっ!?」

「殺してやる!!お前だけは絶対に殺す!!この屑野郎がああああッ!!」


回し蹴りが側頭部を捉え、グラりと体勢を崩したロイドの腕を容赦なくへし折る。その痛みに悶絶するロイドだったが、太股に刀を突き刺され、激痛に顔を歪めた。


「がっ!?ああああああッ!?」


足を掴まれ持ち上げられ、そしてそのまま床に叩きつけられる。今ので骨が何本折れただろうか。それでもユウは暴力の手を緩めず、馬乗りになってロイドの顔面を殴りまくる。


衝撃で床が砕け、血が舞い、肉が裂け───しかし次の瞬間、時間差で起動した魔法陣から飛び出した漆黒の槍が、背後からユウの胸を貫いた。


「は、はははは!馬鹿め、死ぬのは君だよ!」


馬乗り状態から抜け出し、胸部から大量の血を流すユウを見て、ロイドは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。しかしその直後、突如立ち上がったユウの膝蹴りが顔面にめり込み、一瞬意識が飛びかける。


「な、ぜ、動ける········!?」


そう言ってロイドは目を見開いた。信じられないことに、ユウの胸部に空いた穴が完全に塞がっていたのだ。驚くべき再生速度。いや、そもそもそんな能力をユウが持っているなどという話は聞いたことがない。


「まさか、〝外法〟か········!?いや、彼が魔力を使用した形跡はない········ぐっ、どういう事なんだ!?」

「最初から、お前をぶっ殺しておけばよかったんだ!」


壁際まで後退したロイドを、ユウはゆらりと睨みつける。


「そうだ、マナ姉に近付く奴は全員殺す!皆殺しだ!俺にはそれを可能にする力がある!」

「お、おのれぇ!雷光よ、敵を穿て········!」


雷魔法【サンダーランス】がユウを襲うが、目で追うことができない速度でその全てをユウは斬り、消し飛ばした。


「大海よ、揺らめく轟波は地を喰らわん!!」


水魔法【タイダルウェイブ】が迫るが、跳躍したユウは荒れ狂う波を飛び越え、頭上からロイドに襲いかかる。そして肩に刀を突き刺し、そのまま地面に叩きつけた。


「がっはあ········!?」

「死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」


腫れ上がった顔面の中で動いた瞳からは、ハッキリとした恐怖が感じられた。全身の骨は砕け、体のあちこちから出血している。そんなロイドの姿を見てユウは悪魔のような笑みを浮かべ、そしてゆっくりと足を上げる。


「ま、待ってくれ!君は教師を········人を殺すのか!?」

「お前が人?ははっ、笑わせるなよ!人なんかじゃない、ゴミだ!この世から消えて当然のゴミだよお前は!!」


このままでは、顔面を踏み潰されて終わりだろう。しかしユウは、ロイドを殺すことしか考えていない。


だからこそ、彼は気付かなかった。


「嫌だ!し、死にたくな────」

「黙って死ね!死んで償えッ!!」

「待って、駄目ぇ!!」


突如何者かに突進され、ユウはその人物ごと吹っ飛び倒れ込んだ。邪魔をされて頭に血が上りながらもその人物に顔を向ければ、涙を流しながら自分を見つめるマナが居た。


「マナ、姉········?」

「お願いだから、そんなことしないで········!」


座り込んだまま号泣している姉を見て、ユウの魔力は少しづつ落ち着きを取り戻していく。


「なんで、止めたんだ········あいつが居たから、マナ姉は傷付いて────」

「私のことなんかどうでもいいよ!怖かった!ユウ君がユウ君じゃなくなってしまったみたいで········ユウ君が何処か遠くに行ってしまいそうで怖かったの!」

「でも、俺は········」

「ごめんなさい、嫌な思いばかりさせて!全部私が悪いの!だからお願い、何処にも行かないで········!」

「··········」


もう、怒りは収まっていた。そして、代わりに安堵していた。生死の境目をさ迷っていた愛しい姉が、今目の前に居る。こうして、彼女の体温を感じることができるから。


「何処にも行かないよ。俺を許してくれるのなら、俺はマナ姉の傍にいるから」

「ぐすっ、うん·········!」


話なら、後でゆっくりすればいい。そう思いながら、胸に顔を埋めて子供のように泣きじゃくる姉の頭を撫でようとした───その時だった。


「ひゃははははははははッ!!いいよ、凄くいい!すれ違い続けていた2人が困難を乗り越え急接近!あぁ、素晴らしい!壊したい!奪いたいィィッ!!」

「「っ!?」」


突如立ち上がったロイドが、狂ったような笑い声をあげた。


「お前、まだ立つのか」

「残念ですよマナ先生!私はこれだけ貴女を愛しているというのに、どうやら貴女はユウ君しか見ていないようだ!貴女を悲しませることだけはしたくなかったのに、もうこうするしかないじゃないですかァ!!」


そして、どこからともなく取り出した瓶をロイドは粉砕する。ユウが研究室で見たその瓶から飛び出したのは、感情喰らい(イーター)。それはガタガタ震えながら笑うロイドの周囲を渦巻き、体内へと侵入。


『この状態になれば、もう自分で力を制御できない!マナ先生諸共殺してしまう可能性が高い!だけどもう遅い、悪いのはマナ先生なんですから!』

「う、ぁ·········」

「········マナ姉、さがってろ」


閃光の中から姿を現したのは、禍々しい姿の魔竜だった。全身からはどす黒い瘴気が溢れ出し、開かれた口の中には恐ろしい程鋭い牙がびっしりと生えている。


重みで床にはヒビが入り、鞭のように動く尾が壁を砕く。その赤黒い姿から感じるのは、圧倒的な絶望。


感情喰らい(イーター)を自ら取り込み、完璧に制御された魔人化。戦慄する姉弟を前に、ロイドは派手に咆哮した。

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