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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
3章 運命の学園祭
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33.混乱する想い

ユリウスとの魔闘戦から数日後、今日も全ての授業を終えたので息抜きがてらに魔闘場に向かうと、そこには既に先客がいた。


汗を流しながら一生懸命雷魔法を的に撃っているのは、我がクラスの委員長エリナさんである。


「はぁ、はぁ········もう1回」


よく見れば、エリナは詠唱を行わずに魔法を使っていた。しかし的に当たる魔法の威力はかなり弱く、さらにスピードも遅い。


「さ、サンダーランス········!」


それでもエリナは何度も魔法を撃つ。そんな様子を陰から見守っていた俺だったが、彼女が頑張る姿を見ているうちに、いつの間にかエリナに歩み寄っていた。


「よう、頑張ってるな」

「ユウじゃない。どうしたの?」

「無詠唱での魔法使用の練習をしていたのか?」

「ええ、そうよ。マナ先生は詠唱を行わずにあれだけの火力を誇る雷魔法を放つことができる。だから、私も早くその域に達したいの」


笑顔でそう言うエリナは何よりも輝いて見えた。だからこそ、マナ姉に憧れている彼女の背中を押してあげたくなってしまう。


「良かったら手伝うけど」

「あら、的になってくれるの?」

「違いますよ!?········詠唱破棄のコツとかを教えようかと思ってな」

「ほ、本当?」

「そんじゃあまあ、あっちで話をしよう」


それから、子犬のようについてくるエリナと共に観客席へと向かい、椅子に腰掛けた俺はエリナに詠唱破棄のコツを教えることになった。


「まず、詠唱破棄は本来行うべきじゃない行為なんだ。詠唱によって魔力を高め、魔法発動時に必要な複雑な式を魔法陣として展開。それにより、俺達は魔法を放つことができる。詠唱を破棄するということは、魔力を高めずに魔法を放つということになる。つまり、自然と出力は落ちるんだ」

「だからこそ、威力を落とさずに詠唱破棄できるように特訓していたのだけれど、なかなか上手くいかなくて········どうすれば元の威力のまま魔法を撃てるの?」

「ああ、それはだな·······─────」


できるだけわかりやすいように、俺は詠唱破棄を行う方法をエリナに教える。最初は難しそうに首を傾げていた彼女も、途中からどうすればいいのかを理解し始めてくれたらしい。


「穿ち砕け───【ライジングストーム】!!」


驚くべきことに、初日でエリナは上位魔法を詠唱短縮して放ってみせた。威力は的を粉々に砕く程度で射程距離も短かったのだが、それでも数日練習すれば恐らく元の魔法と大差ない威力を誇る上位魔法を展開出来るはずだ。


「凄いぞエリナ!まさか短時間で、上位魔法を詠唱短縮するなんて────」

「や、やった!やったわユウ!」

「うおっ!?」

「今までずっと出来なかった、上位魔法の詠唱短縮が出来たのよ!貴方のおかげだわ!」


子供のようにはしゃぐエリナに抱き着かれ、俺の心臓は破裂しそうになった。暫くエリナは喜びを爆発させていたが、やがて今自分が何をしているのかを思い出したらしく、顔を真っ赤にしながらゆっくりと俺から離れる。


「ご、ごめんなさい。嬉しくて、つい········」

「い、いや、気持ちは分かるよ」


しかし、突然エリナがバランスを崩して倒れそうになったので、俺は咄嗟に彼女の体を抱き寄せる。こんな光景をだれかに見られたら確実に勘違いされるだろう。やばいと思って体を離せば、案の定エリナの顔は先程よりも真っ赤に染まっていた。


「わ、悪い!」

「い、いえ、支えてくれてありがとう········」


慣れない詠唱短縮を行ったことで、かなりの魔力を消費してしまったんだろう。若干顔色が悪くなっており、このまま立ち続けるのはしんどいと思う。


なので、観客席に戻る為に背負うと言えば、エリナは恥ずかしそうにしながらも背中に身を預けてきた。


「ごめんなさい、汗をかいているのに········」

「気にするな。頑張った証なんだから」


エリナを背負い、観客席に座らせる。買ってきたドリンクを差し出せば、彼女はとても嬉しそうにそれを一気飲みした。


「今日はわざわざ付き合ってくれてありがとう、ユウ」

「ああ、時間があればいつでも手伝うからさ。何かあったら声をかけてくれ」

「··········」


何故か黙り込むエリナ。何かまずいことでも言ってしまったのかと思って少し焦ったが、数秒後に彼女が見せてくれたのは、とても優しい聖母のような微笑みだった。


「本当に優しいのね、貴方は」

「そ、そうか?」

「ええ、本当に。皆が貴方を好きになるのも当然だわ········」


最後の方はなんて言ったのか聞こえなかったが、よく見ればエリナの頬は赤く染まっている。


「ね、ねえ、ユウ。貴方って、想いを寄せている女性とか、いないの········?」

「好きな人?う〜ん········」


ディーネさんは理想の女性だけど、親父一筋なのは間違いない。それに、目を閉じて誰かを思い出そうとした時に浮かぶのは·····────


『もしユウ君が誰かとお付き合いすることになったら、こうして一緒に居られる時間も少なくなっちゃうね』


『お父さんやお母さんはユウ君に彼女ができたらきっと喜ぶと思うけど、私はちょっと寂しいかな』



「········いないよ、別に」


何故かマナ姉が浮かんだが、好きな人ではなく大切な姉だ。なので首を振れば、エリナは少し嬉しそうに息を吐く。


「どうした?」

「いえ、その········ほっとしたというか」

「よく分からんけど、逆にエリナは好きな人とかいないのか?」

「えっ!?」

「まあ、エリナが学園で男子と喋ってるとことか見るのって稀だけどさ、きっとお似合いの人にいつか出会えると思うよ、多分」


俺がそう言うと、突然背中を叩かれた。しかも手に雷を纏わせていたので、若干体が痺れて痛いんだが。


「もう、ユウの馬鹿っ!!」

「な、なんで?」

「もっと大胆に行動した方がいいのかしら?でも、この前のだって私的にはかなり責めたつもりで········ブツブツ」

「あの、エリナさん?な、何かあったのなら相談に乗るけど────」

「ユ、ユウ君!」


難しい顔でブツブツ呟き始めたエリナに声をかけた直後、突然魔闘場内に声が響き渡る。誰かと思って振り返れば、汗をかいているマナ姉が立っていた。


「マナ姉?」

「ほ、放課後は面談があるから教室に来てって言ってたでしょ?だからほら、早く········!」

「ちょっ、忘れてたのは悪かったから引っ張るな········!」


そういえば、朝に面談を行うって言われたな。完全に忘れていたので俺が悪いが、どうしてマナ姉はこんなにも焦っているのだろうか。


少し時間がズレてしまっただけだぞ?昼休憩の時間に1人、放課後に1人のペースで面談は行われるので、俺の後に誰かが面談をするわけじゃないというのに。


「エリナちゃん、ごめんね?」

「はい、これに関してはユウが悪いので。ふふ、また明日ね」

「おう、また明日」


笑顔で手を振るエリナに俺も軽く手を振り、マナ姉と共に魔闘場から出る。それから、早歩きするマナ姉に痛いから手を離してくれと言えば、マナ姉は今まで見たことがない表情を浮かべながら俯いてしまった。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ーーーマナーーー






な、なんで私、こんなに無理矢理ユウ君のこと連れてきちゃったんだろう。


まだ面談の時間じゃなかったのに、偶然魔闘場に入ったユウ君を見かけたから追ってみれば、エリナちゃんと楽しそうに魔法の練習をしているユウ君が見えて、それで········。


「って、面談の時間まであと15分もあるじゃないか。なんだよ、焦って損した」

「それでも、面談があるのを忘れてたんでしょう?私が呼びに行かなかったら遅れてたじゃない」

「まあ、別にいいじゃないか。俺達は姉弟で、同じ家に住んでるんだからいつでもできるだろ?」

「そ、そういう問題じゃないよ!!」


つい怒鳴ってしまった。恐る恐るユウ君を見れば、少し不機嫌そうに私を見つめている。


「ご、ごめんなさ····────」

「なるほど、そういう事か」

「え?」


違う、ユウ君が見ていたのは私の後ろだ。振り返ると、いつもと変わらない笑みを浮かべたロイド先生が立っていた。


「どうしたんですか?マナ先生」

「ロ、ロイド先生········」

「おや、ユウ君も一緒だったんだね。何か言い合っているようにも見えたけど········」

「別に何も。悪いなマナ姉、面談の後にロイドとおしゃべりでもする予定があったんだろ?」

「え、いや、ちが········」


そのまま不機嫌そうに、ユウ君が私の横を通り過ぎていく。そんな予定なんて無かったのに、きっと勘違いされているんだ。


「ユウ君待って!わ、私は別に────」

「はは、おしゃべりですか。私はこの後予定が無いですし、職員室でお茶でも飲みますか?」


ロイド先生の声に反応したのかユウ君が振り返り、何も言わずにそのまま歩いていく。自分の用事の為に、エリナちゃんと会話していたのに無理矢理連れ出されたと思われているのかな。


「マ、マナ先生、大丈夫ですか?もしかして私、余計なことを言ってしまったのでは········」

「···········」


私、どうしちゃったんだろう。


エリナちゃんが的に魔法を撃っているのを真剣に見ていたユウ君を見て、成長したんだなと思って嬉しかった。なのに、エリナちゃんが詠唱短縮に成功してユウ君に抱き着いた時、突然胸が苦しくなった。


ユウ君は全然嫌そうにしていなかったし、エリナちゃんも最初の頃とは全然違う表情をユウ君に見せていて········。


今までなら、ユウ君がリースちゃんやエリナちゃんと話しているのを見ると、なんだか嬉しい気持ちになったのに。どうして今は、そんな光景を見るのが嫌だって思っているの?


「マナ先生、そろそろ面談に行ったほうがいいのでは?」

「───え?あ、はい········」


そうだ、面談があるんだった。きちんと話せるかどうか、少し自信はないけれど。ユウ君は何も悪くないんだから、きちんと謝らなきゃ駄目だよね。


「それじゃあマナ先生、また後で」

「はい、また········」


それから教室でユウ君と面談を行ったけど、話が終わるとユウ君はすぐに教室から出ていった。


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