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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
3章 運命の学園祭
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31.銃と刀

「やっと、僕の願いが叶う時がきた」


魔導銃を手に持ち、それっぽく眼鏡をクイッとしてからユリウスはそう言ってきた。不敵に笑う彼の目に映る俺は、魔力を纏わせぼんやりと輝く刀を構えている。


「貴方を潰せば、クレハさんは必ず僕に心を奪われるのだから」

「お、あの時とは態度が違うな」

「少々頭に血が上っていまして。勿論反省していますよ、お義兄さん?」

「やかましいわ!」


付き合う気満々だぞこいつ。真面目な生徒だとマナ姉からは聞いていたが、かなり変な奴じゃないか。


「悪いが負けるつもりは無いし、多分クレハもお前とは付き合わないと思うぞ?」

「大丈夫ですよ、クレハさんのことはよく知っていますからね。最も信頼している貴方が負けるなど、微塵も想像も出来ないらしいので········僕が勝てば付き合ってくれると彼女本人が言いました。もう取り消すことは許しませんよ」

「なっ!?」

「くくっ、信頼されていて羨ましいですよ。そのおかげで、僕はクレハさんの〝心を奪う〟ことができるんですから」


観客席に目を向ければ、視線に気付いたクレハが笑顔で手を振ってきた。これで負けるという選択肢は完全消滅、もし負けたら俺は親父に殺されるだろう。


「········お前、いい加減にしろよ」

「はい?」

「そんな方法でクレハを手に入れて、本当に満足なのか?」

「勿論ですよ。これまで恋などしたことがなかったこの僕が、入学式で彼女を見た瞬間に雷が落ちたかのような衝撃を受けた。他の誰よりも輝いている彼女を手に入れる為なら、僕は彼女の兄だろうと叩き潰してみせる」


クレハの気持ちを無視して、無理矢理自分のものにしようってことか。なるほどな、凄い後輩がいたもんだ。


「その輝いている可愛い妹が、お前のせいで汚れてしまうんだよ後輩········!」

「いいや、僕がどんな宝石よりも輝かせてみせますよ先輩」


審判は学園長。楽しそうに審判席からこちらを見ていた彼女は、俺達が魔力を高めたのと同時にゴングを鳴らした。


直後、ユリウスの魔導銃から魔法の弾丸が発射される。弾に魔力を流し込むことで魔法陣が起動し、様々な属性の魔法を弾丸として使用可能になる魔導銃。


迫る魔法は火属性、銃魔法『フレイムバレット』だろう。


「遅い········!」


同じく開始と同時に加速アクセルを発動した俺はそれを避け、一気に距離を詰めるつもりで地を蹴った。しかし、俺を見てもユリウスは余裕を崩さない。


「【エアバレット】」


続けて放たれた弾丸も同じように回避したが、地面に当たると同時に風が巻き起こり、僅かに俺の体勢が崩れた。


それを見逃してくれる程ユリウスは甘くない。火属性の弾丸を次々と撃ち、その全てが俺の体に直撃した────と、彼や観客達は思っただろう。


幻襲銀閃トライアングルレイド········!」


蜂の巣になったのは俺の分身で、本体の俺はもう1人の分身と共に左右からユリウスを襲った。


「ははっ、いいですね」

「っ!?」


完全に隙を突いた筈だった。しかし、気が付けば銃口が俺の額に押し当てられている。驚くべきことに、ユリウスは分身をもう片方の銃(・・・・・・)で撃ち抜いていた。


「双銃使いか········」

「油断したのは貴方ですよ、先輩。残念ながら、攻撃される前に僕の魔弾が貴方を貫きます」

「選択肢はもう一つあるだろ?」


貫通力に優れた弾丸を込めているらしい。このまま撃たれるのは嫌なので、俺は全力で後方に跳んだ。


その直後、キュンッと聞き慣れない音が耳元で鳴る。咄嗟に首を捻っていなければ頭を撃ち抜かれていただろう。今俺の真横を通過したのは、ユリウスが放った弾丸だ。


「殺す気かお前!」

「風魔法で加速させた弾を避けるとは。未来予知でもしたんですか?」

「嫌な予感がしたもんでな」

「腐っても英雄の息子というわけか········」


痛みを感じたので頬に触れると、指に流れ出た血が付着する。今の弾丸が掠ったのだろう。早めに決着をつけなければ、全身を穴だらけにされてしまいそうで怖いな。


「なあ、一つ聞きたいんだが」

「はい?何でしょうか」

「お前は、こんな方法でクレハと付き合えたとして本当に嬉しいのか?」

「当然ですよ」

「自分に好意を寄せてくれていない相手と付き合って、それの何が楽しいんだ?一方的に愛を伝えているだけで、お前はクレハの気持ちを全く考えていないじゃないか」

「知りませんよ、そんなの。僕が勝てば、きっと好きになってくれるに決まっているのだから!」


突如、ユリウスの体から凄まじい魔力が放たれた。この感覚には覚えがある········そう、イーターに寄生された者が放つ力を見に浴びた時の感覚だ。


「やれやれ、学園長の思惑通りか?」


ちらりと観客席に目を向ければ、先程とは違った真剣な表情で学園長は俺達を見ていた。


イーターに寄生された者の戦闘を、自分の目で実際に見てみたかったんだろう。そして俺との戦闘で感情を暴走させ、寄生したイーターを上手いこと宿主から引き剥がす········って考えか。


「それを俺にやれと?」

「僕の為に死ね、ユウ・シルヴァッ!!」


放たれた弾丸が空中で分裂する。それを刀で弾こうかと思ったが、その前に分裂した弾は俺の周囲で爆発した。


魔力を纏ったおかげで助かったが、爆煙で視界が遮られ、何処から攻撃が来るのか分からない。


「チッ、風斬かぜきり!」


煙を吹き飛ばす勢いで刀を振るう。その直後、背後から弾を撃った時の音が聞こえたので咄嗟にしゃがんだ。


そんな俺の頭上を風魔法で加速した弾が通過する。危ないな、下を狙われていたら死んでたぞ········!


「【アイスバレット】」

「っ!?」


急いで振り返ったものの、俺の足に当たった弾が凍りつく。まずい、一瞬とはいえ動きを止められたのは致命的だ。


「終わりだ、【ピアスバレット】」


直後、俺の肩を弾丸が貫いた。無意識に体が動いたので心臓には直撃しなかったものの、凄まじい激痛に顔が歪む。


「ぐっ········!」

「兄さん!?」


思わず肩を押さえながら膝をつくと、入場口の方からクレハがこちらに走ってきた。今は観客達に被害が及ばないよう障壁が展開されているので、わざわざ階段を使ってここまで降りてきたんだろう。


「貴方、魔闘戦のルールが分かっていないのですか!?先程から殺すつもりで頭を狙ったりしていたでしょう!?」

「それはこちらの台詞でもあるけどね。魔闘戦が行われている間は立ち入り禁止だよ?」

「ふざけないでください!」


クレハが魔力を解き放ち、ユリウスを睨む。その表情は憤怒に染まり、クレハが本気で魔法を行使しようとしているのは魔闘場にいる誰もが分かる筈だ。


「ああ、もしかして恐れているのかい?大好きで、誰よりも信頼している兄が消えてしまいそうで」

「········は?」

「大丈夫、安心してよ。僕がこの先クレハさんを支えるからさ。僕とクレハの華やかな未来の為に、ユウ・シルヴァには死んでもらうだけなんだ。うん、たったそれだけ」


その一言に、とうとうクレハがブチ切れた。無表情でユリウスを見つめ、寒気がする程の殺気を放ちながら一歩前に踏み出す。


「待てクレハ!ユリウスはイーターに寄生されたせいで感情が暴走しているだけなんだ!」


俺の声が聞こえていないようで、クレハはゆっくりと右腕を上げる。何が始まるのかが分かった俺は咄嗟にクレハを止めようと思ったが、これじゃ間に合わない────


「やれやれ、落ち着け馬鹿」


クレハの大魔法展開を止めたのは、いつの間にか下に降りてきていたソンノ学園長だった。何らかの魔法を使ったようで、クレハは自分の手を見て不思議そうな表情を浮かべている。


「暫く魔法使うの禁止な、英雄の馬鹿娘」

「が、学園長········」

「悪いなユウ、イーター寄生者の力がどれだけ上昇するのかを観察したかったんだが、早めに手を貸してやるべきだったか」

「はぁ、当たり前ですよ。おかげで肩を撃たれて大怪我です」


突如現れた学園長を見てユリウスは当分の間黙っていたが、やがてやや不機嫌そうに口を開いた。


「何の用ですか?ソンノ学園長」

「寄生されているとはいえやり過ぎだ。お前は明らかに魔闘戦のルールを無視してユウを殺そうとした。その時点でこの魔闘戦は無効だ。学園長命令な」

「無理ですよ、僕はクレハさんを手に入れる為に────」

「分かったから黙って寝てろ」


空間が歪み、発生した衝撃波が容赦なくユリウスを吹き飛ばす。しかし、壁に叩きつけられてもユリウスは立ち上がった。


「む、気絶しないのか」

「邪魔するなァッ!!」


弾丸がソンノ学園長の頭目掛けて迫るが、眠そうに欠伸をしながら学園長は手のひらを弾丸に向けた。直後、空中に歪んだ穴が出現し、その中に弾丸は吸い込まれ、別の場所に出現した穴から飛び出し壁に穴を開けた。


「なあ、ユウ。イーターを引き剥がす方法とかあるのか?」

「分かりません。エリナは感情の暴走が途中で収まったから。アーリアは魔力を溜めた魔導書を切断したから。地下迷宮に現れたドラゴン男はマナ姉に、魔界革命軍の男はディーネさんにボコボコにされたから········ですね」

「よく分からんな。まあいい、少し出力を上げる」


全ての弾丸を淡々と処理しながら、学園長は魔力を高めて手のひらをユリウスに向ける。


「吹っ飛べ、【空間振動波ヴィブラシオンウェイブ】」

「がッ────」


そして、放たれた空間干渉魔法を食らったユリウスはとてつもない速度で吹き飛んでいった。一応生徒なんだから手加減した方がいいのではないかと思ったが、よく考えたら手加減しているに決まってるな。


壁にめり込んだユリウスは、今度こそピクリとも動かなくなった。やっべみたいな表情で俺を見てくる学園長だけど、俺はそっと目を逸らす。


「観客席の皆は、ユリウスがイーターに寄生されて暴走していることに気付いていないみたいですね」

「高い魔力を持つ者以外は、イーターが放つ気配を感じることが出来ないんだろうな。まあ、お前は例外らしいが。後で生徒達には事情を説明しておこう」

「とりあえずユリウスの状態を確認しましょう。骨とか折れてなければいいですけど」

「て、手加減したっつの!」


その後、学園長と共にユリウスの体を確認。頭を強く打ったらしく、大きなたんこぶが出来上がっていたものの、それ以外の外傷は見当たらなかった。


イーターの気配も感じないので、恐らく気絶と同時に体外に出たものと思われる。まあ、生意気な後輩だけど生きていて良かったな。ただ、その日一日クレハの機嫌が直ることはなかった。

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