第17話 迷宮山へご案内
「ふむ、どうやらあれが例の迷宮らしいな」
「腕が鳴るぜぇ〜!」
どうも、佐藤太郎です。テミスの家に住ませてもらうか悩んでたら、とんでもない大物二人組がやって来ました。
「ということでテミスさん、あの二人について詳しく」
「え、ああ。二人共、世界樹の六芒星と呼ばれている実力者だ」
テミスが前を歩く赤髪の男性を指さす。
「彼はアレクシス・ハーネット。《紅蓮の魔狼》と呼ばれている大剣使いの男だ」
次に指さしたのは、何を話してるのかは分からんけど、爆笑しながらアレクシスの背中を叩いてるツインテールの美少女。
「彼女はラスティ・アグノス。ああ見えても実力者で、《狂響魔人》と呼ばれている」
「なんか凄いな。人類最強格の三人が俺の周りにいるわけだ」
「私達よりもタローの方が圧倒的に強いけどな」
そう言ってテミスが微笑む。ほんと可愛い。
「マナもつよいもん!」
「はは、そうだなぁ。マナが最強なんじゃないか?」
「えへへ。でも、ご主人さまのほうがつよいよ〜」
肩車してあげているマナにそう言われた。ああ、ほんと癒される。一生こうしていたい··········。
「そういやテミス、今俺達はどこに向ってる最中なんだ?」
「え、聞いていなかったのか?」
「マナの相手をしてたからなぁ」
「そうなのか」
テミスが前方を指さす。アレクシス達じゃなくて、その先にある巨大な山だ。
「あれはイーラという山で、アレクシス曰く最近あの山の付近で異常な現象が起こっているとのことだ」
「異常な現象?」
「詳しくはアレクシスも分からないと言っていたが、王都ギルドのマスターに命令されて、それを調査する為にこうして六芒星を集結させたらしい」
「三人しかいないけど」
「いつも集まるのはこのメンバーなんだ」
世界樹の六芒星って、意外と不真面目な連中の集まりなんだな。
「でもさ、山を調査するだけの為に世界最強メンバーを集合させるってことは、やばい相手があの山にいるってことかもな」
「ああ、その可能性は高い」
オーデムを出発してから早五時間。最初は馬車に乗っていた俺達だけど、道が悪いので途中から徒歩に切り替えた。それだけ遠い場所にあるあの山で、一体何が起こるというのだろう。
「マナ、ねむくなってきちゃった·········」
「ごめんな。今回は連れてくるべきじゃなかったかもしれない。ほら、抱っこしてあげるから寝てていいよ」
「うん·········」
さすがに長時間の移動は疲れるよなぁ。一旦マナを地面に降ろしで抱きかかえてやると、彼女はすぐに可愛らしい寝息を立て始めた。寝顔がものすごく可愛いです。
「ごめん、タロー。今回の件にタローとマナは関係なかったのに、ついてきてもらうことになってしまって·········」
「全然いいよ。来るかって言われて行きますって言ったのは俺なんだし」
「こうしてタローが来てくれて、正直安心しているんだ。何が起こるか分からないから、頼りになるというか·········」
「いやー、照れるなぁ」
そう言われるのは素直に嬉しい。よし、何があってもテミスは絶対に守らなきゃな。
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「アレくんつーかーれーたー」
「お前、本当にいい加減にしろよ?」
「へえ、アレクシスは意外とラスティに優しいんだなぁ」
目的地であるラースという山にたどり着いた俺達は、短時間で迷宮への入口を見つけて山の中へと足を踏み入れた。そして早々に疲れたとか言ってラスティが座り込んだんだけど、今はアレクシスにおんぶされている。
「タローくんもテミっちゃんのことおんぶしてあげたら?あ、お姫様抱っこもいいよね!」
「そうだな········テミスはどっちがいい?」
「し、しなくていいから!」
ふむ、やっぱりそう言われるとショックですね。でもまあ、マナを抱っこしてるからお姫様抱っこは流石にきついんだけどな。
「·······ラスティ、降りろ」
「まったく、しょうがないなぁ」
「そろそろ拳骨をお見舞いしようか」
「そ、それは嫌だよ!?」
なんでおんぶするのをやめたのか。そう思いながら前を見ると、こっちに向かって飛んできているキラーバットの群れが目に映る。
「おっし、あたし達にお任せあれ!」
地面に降りたラスティの手元がバチバチと音を立てる。その隣でアレクシスは持ち運んでいた大剣を片手で構えた。
「出でよ、〝魔鎌アダマス〟········!」
突然ラスティの手元に巨大な黒い鎌が出現した。それをブンブン振り回し、彼女は不敵な笑みを浮かべてみせる。
「アレくん、どっちが多く倒せるか勝負しようよ!」
「する必要がない。何故なら、俺の方が確実に多くの敵を葬ることができるからだ」
そう言った次の瞬間、アレクシスがキラーバットの群れに突っ込んだ。
「はあッ!!」
当然キラーバット達はアレクシスの血を吸おうと彼に襲いかかるが、鋭い牙が体に届く前に、アレクシスが振り回した大剣にその身を斬り裂かれて地面に墜落していく。
「今度はあたし!タローくん、見ててね!」
今度はラスティが、更に向こうから迫って来ているキラーバットの群れに向かって駆け出す。
「死影刃!!」
跳躍し、回転。黒く染まった鎌がキラーバット達の身体をバラバラに切断した。これが2人の実力か。でもやっぱり·········
「光芒閃!」
アレクシスとラスティの攻撃から逃れた数匹のキラーバットが、俺達の方に飛んできた。しかし残念なことに、テミスが放った光の斬撃を食らって残った全てのキラーバット達は跡形も無く消滅する。うん、やっぱり俺の中じゃテミスが一番かな。
「ごめんよテミス。おねんね中のマナを抱っこしてるから、しばらく戦闘に参加できない」
「ああ、今は私達に任せてくれ。もしものことがあった時は、タローの力を貸して欲しい」
「もちろんです」
と、俺がそう言った直後に前方から爆発音が聞こえた。どうやら向こう側は広い場所になっているらしく、アレクシスとラスティは既にそっちに行ってしまったみたいだ。
「あっはっは!無駄だってばァ!!」
「ギギィッ!?」
通路を走って向こうに行くと、それなりに広い場所で六芒星二人と巨大な魔物が戦闘を繰り広げていた。あいつは確か········キラーバットの親分的なやつだったはず。周りには大量のキラーバットが群がってるし。
「ほらほら、もっと楽しませてよ!!」
なんかラスティがノリノリだな。テミスによると、いつも戦闘になるとラスティは凶暴になるらしい。これは意外なギャップで萌えますね。
「邪魔だラスティ」
「おっと」
アレクシスの大剣がキラーバット親分の身体を深々と斬り裂いた。それを見てラスティが跳躍し、獰猛な笑みを浮かべながら鎌を振り上げる。
「これで終わりッ!!」
「ギィ────」
振り下ろされた鎌がキラーバット親分の身体を真っ二つに切断する。なんというか、血を浴びながら笑うと怖いよラスティ。
「うん、やはり二人は強いな。あれだけの実力者だ。タローでも彼らの戦いに見入ってしまうんじゃないか?」
二人の戦闘を眺めてたら、隣にいるテミスにそう言われた。
「確かにな。でも、やっぱり俺はテミスが戦ってる姿を見るのが一番好きかな」
「えっ··········」
隣を見れば、テミスの顔が若干赤くなっていた。最近思ったんだけど、テミスって結構照れ屋さんだよな·········なんて思っていたら、いつの間にか戦闘は終了していた。