28.胸騒ぎ
「マナぁ、無事だったか!」
「兄さん!私、本当に心配して········!」
ディーネさんの魔法で海の上に立つことができるようになった俺達は、そのままディーネさんが発生させた波に乗って王国に帰還することができた。
そしてベルゼブブさんの風魔法でオーデム魔法学園に戻ると、心配性な2人が凄いスピードで走ってきたので少し驚く。
「タロー、会いたかったわ!」
「ぐえっ!?」
しかし、マナ姉に抱き着こうとしていた親父にベルゼブブさんが飛びつき、そのまま2人揃って転倒する。
「お、おお、久しぶりだなベルゼブブ。嫁の前だからちょっと勘弁してほしいな〜なんて」
「最近全然来れてなかったんだもの。後でテミスにはきちんと謝っておくから大丈夫よ」
「母さんすぐそこに居ますけどね」
母さんが少しムッとしているように見えるのは、恐らく気の所為ではないだろう。恥ずかしがり屋だから自分から抱き着いたりすることは滅多に無いだろうし、大胆なベルゼブブさんがちょっと羨ましいのかもしれないな。
「あら、テミスじゃない。ごめんなさいね、溢れ出る彼への愛が抑えきれなくて」
「分かったから離れなさい。まあ、息子達を無事に保護してくれたから今回は許してあげるけど」
ベルゼブブさんの首根っこを掴み、母さんが親父から引き離す。そして立たされたベルゼブブさんだったが、校舎内から眠そうに歩いてきたソンノ学園長を見るなり雰囲気が変わる。
「おや?何年経っても胸が大きくならないのが悩みの大魔王様じゃないか」
「これはこれは、ロリババア学園長。別にちょっとは大きくなってますけど?老眼鏡買ってあげましょうか?」
ぴしりと、窓にヒビが入る。
「こんの、ポンコツ貧乳どチビが!!」
「貴女に言われたくないわよ老眼!!」
いつもの事なので、母さんとディーネさんに2人は止められていた。あのまま放置していたら、きっとオーデムは戦闘の余波で消し飛んでいただろう。
「兄さん、お怪我はありませんか?」
「え?ああ、この通りピンピンしてるぞ」
「もう、ユウ君ったら。あんなに大怪我してたじゃない」
「大怪我!?」
マナ姉の言葉を聞いてクレハは顔を真っ青にしているけど、ディーネさんの回復魔法で傷は癒えているから本当に大丈夫なんだが。
「あ、そうだ。ディーネさん、ありがとうございました」
「ん〜?」
「えっと、その、回復魔法で········」
笑顔で振り向いたディーネさんを見ていると、やはりなんと言えばいいのか分からなくなってしまう。
雨が降ったのだろうか。すぐ隣にあった水溜まりを見れば、俺の顔は真っ赤になってしまっていた。だって、不思議そうにディーネさんが目の前まで顔を近づけてきたんだもの。
「ユウちゃんが怪我してるのを見るのは私も嫌だからね〜」
「そ、そうですか。どうも········」
「でも、あんまり無茶はしちゃ駄目だよ?おいでユウちゃん、よしよーし」
「ちょっ、ディーネさん!?」
さすがに皆の前で頭を撫でられるのは、嬉しいけど恥ずかしい。なので後悔しながらもディーネさんから離れれば、マナ姉やエリナ達が顔を赤くしながらこっちを見ていることに気付いた。
「ユウ君ったら、またデレデレして········!」
「な、なんだよマナ姉、別にいいだろ!」
雷を纏い出したマナ姉から逃げる。しかし、完全に硬直してしまっているリースに激突しそうになったので咄嗟に立ち止まった。
「リース、どうした?」
「だ、だだだだって、英雄王様とか剣聖様とか学園長とか、大魔王様とか魔王様とかが目の前におるんやで!?う、ウチ、緊張し過ぎて死んじゃいそう········!」
「大袈裟だなぁ。ほら、ヴィータを見てみなよ。いつも通り涼しい顔をして────」
そう言ってヴィータを見ると、とんでもない量の汗を流していた。ふむ、慣れてないとこの光景は心が耐えられないか。
「それで、この男が魔界を襲ったという魔族の男か」
「ええ、魔素が不安定な島を拠点にしていてね。ユウがテミス達に魔導フォンで連絡出来なかったのは、魔導フォン内に埋め込まれている魔力結晶に上手く魔力が伝わらないようになっていたからよ」
「なるほど、また魔導フォンの問題点が一つ浮上したわけだ」
先程とは違って割と真剣な話を始めた学園長とベルゼブブさんだけど、俺達には理解できない専門的な話なので別に聞かなくても大丈夫だろう········あ、その前に聞きたいことがあるんだった。
「学園長、2年の皆は無事なんですか?」
「全員無事だ。まあ、修学旅行は中止になったけどな」
「そ、そうですか。よかった」
なら安心だ。あの時きっと、マナ姉が船を襲ったゴーレムを何とかしてくれたんだろう。
とにかく今回の件はかつてない程疲れた。正直フラフラの状態なので、後のことは母さん達に任せてゆっくり休ませてもらうとしよう········────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ーーベルゼブブーー
「さーて、色々聞かせてもらうとしましょうか」
魔王城地下牢獄に幽閉したディオにそう言うと、彼は私を馬鹿にするかのように肩を揺らし始めた。
「ククク、何を聞かれても答えてやるものか」
「あらそう、だったら心が痛むけれど仕方ないわね」
手のひらから魔力を放出し、ディオの全身を包み込む。そして魔力を煉獄の炎に変えてやれば、ディオは激痛に耐えきれず悲鳴を上げた。
「調子に乗るな。まず一つ目、お前は古代遺産をどこで手に入れた」
「がはっ!ぐっ、さあな───あがあああっ!?」
「黙って答えろ。あれはただの古代遺産じゃない、浮遊大陸に眠っていたもののはず。私達と魔神による大規模戦闘───人魔大戦の最中に沈んだ大陸の一部を調べて見つけ出したのか?」
「違う!我々はあれを見つけたのではなああああああッ!?」
「本当のことを言った方が楽よ?」
「ほ、本当だ!我々は古代遺産・アトランディアの巨兵を渡されたんだ!」
「渡された?」
1度拷問を止め、泣きそうになっている情けない革命軍リーダーの髪を掴んで顔を上げさせる。
「言え、誰にだ」
「分からないんだよ!男か女か、魔族なのかどうかすら分からない!ただ、奴は我の前に現れて言った。この力を使いこなすことができれば、必ず革命は成功すると!だから───ぎゃああああっ!?」
「自惚れるなよ。魔王ですらない地方の魔将だったお前が、古代遺産を手に入れた程度でこの私を排除できると思っていたのか」
舐められたものね。イラッとしたから軽くビンタしてやれば、今ので折れた歯が数本口の中から飛んでいった。
「それで、何故お前は感情喰らいを所持していた。オーデム魔法学園の生徒にイーターを寄生させたのはお前達革命軍だったのか?」
「オーデム魔法学園?な、なんだそれ───ぐああっ!?」
「聞いているのは所持していた理由と寄生させたのかさせていないのかなんだけど?」
「き、寄生などさせていない!パラサイトも、古代遺産を渡してくれた人物から受け取って········!」
「そうなんだ。でも、マナに寄生させようとしたらしいじゃない。それに、自らイーターを取り込みユウを半殺しにしたらしいし········お仕置きね」
「ぎゃああっ!?な、何故だあ!!」
「当然でしょう?ユウとマナは、幼い頃から面倒を見てきた弟や妹みたいな存在だもの」
魔力を様々な魔法に変換させ、やがて気絶したディオの監視を部下に任せて牢獄から出る。
さて、一応次の目的が決まったわね。まずはディオに古代遺産とイーターを渡した人物を捕らえ、情報を全て吐かせる。
それで最近王国を騒がせているイーター騒ぎを私が解決すれば、きっとタローにいっぱい褒めてもらえるわよね········うふふふふ。
「どうしたの、ベルちゃん。なんだか上機嫌みたいだけど」
「今後について考えていたのよ。とりあえず魔界革命軍は壊滅、後始末でまた暫く忙しくなるわ」
「あはは、そうだね」
合流したディーネが窓の外に広がる黒い空に目を向け、そして不意に真剣な表情を浮かべる。
「最近、なんだか胸騒ぎがするんだよね」
「奇遇ね、私もよ」
もしも今後、人魔大戦以上の事件が起こるのだとしたら········覚悟を決めておいた方がいいかもしれないわ。
勿論、全ての種族がね。
第1話から文を訂正したりし始めたので、よければまた読み返してみてくださいね。
それと、タイトル変更する可能性があります。