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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
2章 嵐の修学旅行
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27.堕天使と水の魔王

『来たか、魔王ディーネ』

「往生際が悪いよ、魔将ディオ。まさかユウちゃん達がこの島に来ているとは思わなかったけど、この子達を人質にすれば私達········ううん、大魔王ベルちゃんに勝てるとでも思っていたの?」


魔界を支配する大魔王ベルゼブブさんの部下で、優しく面倒見の良い水の魔王ディーネさん。


まさか、ディオ達が言っていた攻めてくる敵というのはディーネさんの事だったのか?


『ああ、勝てる。彼女は人間と関わるうちに甘くなった。人質を使えば必ず攻撃の手を止めるだろう?』

「そっか、確かにそうかもね。でも、その前に私を何とかした方がいいと思うな」


ゆっくりと、ディーネさんは手のひらをディオに向けた。


『無駄だよ、君の魔法は今の我相手に通用しない』

「そうかなぁ、試してみる?」

『ククッ、ならば一撃────』


放たれた水の弾丸が、ディオの右腕を跡形もなく吹き飛ばす。


『なっ!?』

「どこを見ているのかな?」


速い、恐らくマナ姉よりも速い。


瞬間移動したのかと錯覚してしまう程の速度でディーネさんはディオの真上に姿を現し、作り出した氷の槍を勢いよく投げた。


それはディオの胸部をあっさりと貫き、地面に深々と突き刺さったことでディオは身動きが取れなくなる。


『ぬああっ、馬鹿な!?』

「貴方以外の残党達は全員拘束したよ。だから、これ以上抵抗しないでほしいな」

『これもまた試練か!おおおっ、大いなる世界の意思よ!どれだけ我を試そうというのか!』

「はぁ、相変わらず意味の分からないことばかり言うね」

『ははは、はははははッ!!』


槍を引き抜き、ディオがゆらりと体勢を戻す。しかし、ディーネさんに足を掴まれ、振り回されてから地面に叩きつけられていた。


「大人しくして」

『悪いが無理だ!腐敗した魔界は我が元の姿に戻してみせる!』

「もうっ、しつこいってば!」


暴れるディオに対し、ディーネさんは子を叱る親のように接していた。まあ、叩かれた衝撃でディオは何度も地面にめり込んでいるけど。


「ユウ君········!」


そんな戦闘を眺めていると、ある程度回復したらしいマナ姉が俺に駆け寄ってきた。


「マナ姉、無事だったか」

「ごめんねユウ君、何も出来なくて········!」

「いや、まさか敵がイーターを攻撃に使ってくるとは俺も思っていなかったからな。それよりも、マナ姉がイーターに寄生されなくて本当に良かった」

「うぅ〜、それより自分のことを心配してよ馬鹿ぁ〜!」


号泣しているマナ姉の頭を撫でながら、俺は再びディーネさんに視線を向ける。


どうやら決着はついたようで、元の姿に戻ったディオは震えながらディーネさんを睨んでいた。


「何故、我を否定する········」

「折角今の魔界は平和なんだから、貴方みたいな考えをする人は放っておけないの」


一体魔界で何があったのだろうか。そう思っていると、突如島全体が激しく揺れた。


「ひゃあっ!」

「なんだ········?」


倒れないようにマナ姉を支えながら向こうを見ると、数か所の海面が盛り上がり始めていた。


おいおい、見覚えがあるぞ。まさかとは思うが、船で俺達を襲った超巨大ゴーレムの再登場か?


「ははは、終わりだ。あれは我でも完全には制御できない遥か大昔の古代遺産アーティファクト。かつて天に浮かぶ大陸の番人だった、アトランディアの巨兵達だ········!」


嫌な予感は的中し、島を囲むように様々な場所からゴーレム──アトランディアの巨兵が姿を現す。


「こんなものまで所持していたんだね」

「君達を殲滅する為の決戦兵器だよ!さあ、我々に歯向かったことを後悔しながら巨腕に潰されるがいい!」

「だってさ、ベルちゃん」


次の瞬間、1体のアトランディアの巨兵が粉々に砕け散った。それと同時に凄まじい魔力を真上から感じたので顔を上げると、漆黒の翼を羽ばたかせる堕天使の姿が目に映る。


「あら?ユウじゃないの」

「どうも、ベルゼブブさん」


体内に収まりきらない膨大な魔力を放ちながら現れたのは、魔界を支配する大魔王で親父達の友人であるベルゼブブさんだった。


どうやら巨兵を粉砕したのはこの人のようだが、何をしたのかが全く見えなかったんだが。


「貴方、修学旅行は?」

「あのゴーレムのせいで海に投げ出されましてね。しかも漂流先でこんな事に巻き込まれるという········」

「災難ね。でもいいじゃない、男1人で楽しめたのでしょう?」

「別に何もしてませんけどね!?」


などと言い合っている間に、アトランディアの巨兵達は島に上陸しようとしていた。


しかし、ベルゼブブさんは全く慌てることなく落ちていた小石を拾い、指先に魔力を集中させる。


「な、何をするつもりだ大魔王ベルゼブブ。ははっ、まさかそんなもので古代遺産を葬ろうというのか!」

「貴方が大魔王になれない理由を教えてあげるわ」


喚くディオを冷めた瞳で見つめてから、ベルゼブブさんは魔力を纏わせた小石を指で弾いた。


たったそれだけ。なのに、放たれた小石は巨兵の胴体に大穴を開けてみせた。


「なあっ!?」


思わず声が出たが、こればかりは仕方ないと思う。マナ姉と同じぐらいの身長である女性が、落ちていた小石で船よりも巨大な怪物を仕留めたのだから。


「は?え?今、何が········?」

「これで分かった?貴方程度じゃ私の足下にも及ばないからよ」


恐らくベルゼブブさんの魔力が巨兵に触れた瞬間爆発したんだろう。でも、石に纏わせた僅かな魔力だけであんなにも巨大な魔物を仕留めるなんて、普通は絶対に出来ないことだ。


「さあ、我ら魔王軍を相手に散々暴れ回ったこと·········死ぬ程後悔させてあげるから覚悟なさい」


ベルゼブブさんが手のひらを上に向けた直後、青かった空が一瞬で紅く染まった。同時に凄まじい魔力が空中に集まり始め、やがて超巨大な魔法陣が遥か上空に浮かび上がる。


高まる魔力は大気を震わせ、それを感じ取ったのか気を失っていたリース達も目を覚まして飛び起きた。


「ひっ!?な、なにこれ!」

「おはようリース。大丈夫、俺も同じ気持ちだから」


多分だけど、これは教科書にも載っているベルゼブブさんのみが使える極大魔法だと思う。


ただ、そんなものを放ったら島ごと消し飛んじゃう気が────


「消え失せろ、【スカーレットノヴァ】」


魔法陣に集まった魔力が弾丸と化し、まるで隕石の如く天より放たれた。


このまま島に落ちてくるかと思って焦ったが、極大魔法は空中で複数に分裂し、上陸寸前だったアトランディアの巨兵達を跡形もなく消し飛ばす。


その際に発生した衝撃波が大地を抉り、木々を薙ぎ倒し、一部の地形を変化させる。そして気が付けば空は先程のように青さを取り戻しており、ベルゼブブさんも魔力を体内に戻していた。


「ベルちゃんったら、相変わらずとんでもない魔力だね〜。今の魔法、本気で撃っていたら王都が消し飛ぶ威力なんだよ」

「さ、流石は大魔王ですね」


どうやらディオも完全に自信をへし折られたらしく、何とも可哀想なことに股間が濡れてしまっていた。


はぁ、ビビって漏らしちゃうような奴に俺は負けたのか。ベルゼブブさんの圧倒的な力を見れて満足だけど、なんかモヤモヤするなぁ。


「ね、ねえユウ、私達が気を失っている間に何があったの?」

「それは私が説明させてもらうわ。ついでに、この馬鹿男が何をしようとしていたのかもね」

「べ、べべ、ベルゼブブ様!?」

「あー、別に様なんて付けなくていいわよ」


あのエリナがめちゃくちゃ震えている。腕を組んで目の前に立っているベルゼブブさんは、見た目は子供でも魔界を支配する大魔王だ。


つまり俺達が住むティアーズ王国の国王様のような存在であり、更にかつて世界を救った英雄の1人である彼女。幼い頃から可愛がってもらえていた俺やクレハは慣れているからいいけど、エリナ達は緊張して当然だよな。


「この男は〝魔界革命軍〟とかいう組織のリーダーでね。人間と共存する道を選んだ私達に代わり、魔族が全てを支配する世界を作ろうとしていた大馬鹿者よ」


いつの間にかディオはベルゼブブさんが魔力で作った鎖で縛られており、暴れないようにディーネさんが彼の背中の上で正座していた。


「1度魔界で壊滅寸前まで追い詰めたのだけれど、部下の大半を囮にして一部の連中だけがこの島に逃げ込んだの。まあ、魔力を追えば逃げた先なんてすぐに分かるから無駄なのにね」

「そ、そうだ。ベルゼブブさん、あの男はマナ姉にイーターを使って攻撃したんですよ。あんな魔物や古代遺産なんかを所持しているなんて、ベルゼブブさんは知っていたんですか?」

「いえ、初耳だわ。最近学園を騒がせていたイーターを革命軍がばらまいていた可能性が浮上したわけだし、古代遺産をどこで手に入れたのかを含めてじっくり尋問させてもらうとしましょう」


尋問という名の拷問である可能性は高そうだが、頑張って耐えろよ革命軍リーダー。


「まさか古代遺産なんかに襲われて、魔界で起こっていた戦いに巻き込まれるなんて。ある意味良い思い出になったかもしらんなぁ」

「ちょっとリースさん、私は全然良い思い出になったとは思っていないのだけれど?」

「エリナちゃんったらそんなん言って〜、ユウと海で遊んでる時すっごい楽しそうやったやんか」

「うっ、それは········」

「やっぱりお楽しみだったんじゃない。ユウったら変態だから、夜とか大変だったんじゃないの?」

「何の話でしょうか!?」


とにかく、これにて一件落着かな。盛り上がり始めた女子達を見ていると、これまでの疲労が一気に吹き飛んだ気がした。

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