25.雷刀コンビネーション
「ぎゃあああああッ!!」
さて、山を目指して走り出したのはいいんだが。
「やだああ!無理だよぉ、死んじゃうよぉ!!」
「ええい、くっつくな!」
現在俺達はマザースパイダーの群れに追われている最中で、先程まで格好良く戦っていたマナ姉が号泣しながら俺に抱き着いてくるので走りづらい。
山の内部にある洞窟の入口はもう少しで見えてくるはずだけど、このままだと追いつかれてしまうだろう。
「マナ姉、食われたくなかったら雷魔法でマザースパイダーの群れを蹴散らしてくれ!」
「で、でもぉ········!」
「だったらマナ姉1人で先に行ってくれ!俺がマザースパイダーの足止めをするよ」
流石にトラウマ相手に無理矢理戦わせるのは可哀想なので、俺は抜刀して振り返った。
俺の数倍はでかい蜘蛛が何匹も押し寄せてくる光景に鳥肌がたってしまったが、マナ姉の為にここは頑張らなければ。
「ううぅ〜〜!【サンダーランス】!」
「え────」
勝てるか分からない敵に斬りかかろうとした直後、背後から凄まじい数の雷槍が放たれマザースパイダーに襲いかかった。
今のは雷の槍を3発放つサンダーランスという下位の魔法だが、今の一瞬で何十発放ったというのだろうか。
雨のように降り注ぐ雷槍は迫るマザースパイダー達を次々と焼き、数秒後にはマザースパイダー達は全滅していた。
「と、とんでもないな」
「ごめんねユウ君。ごめんなさい········」
最初からこうしていればよかったと思ったのか、泣きながらマナ姉が謝ってくる。
「別にいいよ。よく頑張ったな、マナ姉」
「うん········」
俺でも寒気がしたのにマナ姉はよく奴らに向き合えたと思う。だから頭を撫でて褒めてやれば、マナ姉は嬉しそうにしっぽを振っていた。
「いたぞ、残りの餓鬼共だ!」
「抵抗するのなら負傷させても構わん!」
「おっと、敵のお出ましか」
それから再び走っていると、すぐ近くに見える洞窟の中から武装した魔族達が飛び出してきた。やはりあの山の内部に彼らは潜伏していたようで、先程襲いかかってきた魔族達よりも素早い動きで攻撃を仕掛けてくる。
「偶然流れ着いた島で人質にされるとか、これ以上不幸な目に遭うのは嫌なんでね!」
「生徒達は意地でも返してもらいます!」
俺は速度を上げて敵に突っ込み、その場で回転しながら周囲の魔族達を斬りつける。そして高くジャンプすれば、真下を一瞬でマナ姉が駆け抜け、残った魔族達はマナ姉が放った雷を浴びて吹き飛ばされていた。
「ユウ君、このまま洞窟に突撃するよ!」
「了解!」
普段はアホな一面ばかり見ているけど、やっぱりマナ姉は頼りになるな。
完全に戦闘状態にスイッチを切り替えているマナ姉に続き、俺も洞窟の中へと足を踏み入れる。
所々に松明がぶら下げられているので内部はそれなりに明るく、一本道を走り続ければやがて広い場所へと辿り着いた。
「ユウ君、何か来るよ」
「ああ、中ボスの登場だな」
立ち止まれば、天井付近から巨大な魔物が落下してきた。それを見た瞬間にマナ姉は顔を真っ青にしていたけど、まあその気持ちは分からんでもない。
『ギィエアアアアアアッ!!!』
「ユウ君、お姉ちゃんもう無理かも········」
マザースパイダーの背面から、巨大化した魔族の上半身が生えている········そんな気味の悪い怪物が、咆哮を上げながら勢いよく地を蹴った。
気絶しかけているマナ姉の前に立ち、俺は振り下ろされた拳を魔力を纏わせた刀で受け止める。
とてつもない威力の一撃で腕の骨が軋んだが、背後にマナ姉がいるので押し負けるわけには········!
「ゆ、ユウ君!」
必死に踏ん張っていると、半泣きになりながらもマナ姉は跳躍し、敵の巨腕を蹴り飛ばした。
今の一撃で骨が砕けたのだろう。バキバキという音と共に、魔物の腕がグニャりと捻じ曲がる。
「マナ姉、大丈夫なのか?」
「う、うん。弟が戦ってるのに見てるだけなんて、絶対嫌だから········!」
「そうか、それは頼もしいな!」
迫る巨腕をマナ姉が蹴り飛ばし、よろけた魔物の脚を俺が斬る。それによって体を支えきれなくなった魔物は転倒したものの、突如口から大量の糸を吐き出してきた。
マナ姉は咄嗟にそれを避けていたが、反応が遅れた俺は全身に糸を食らって魔物の目の前で身動きが取れなくなる。
「やばっ────」
「サンダーマグナム!」
当然魔物は倒れた俺を狙って腕を振り下ろしてきたが、マナ姉が放った雷の弾丸が魔物の腕を消し飛ばした。
脚を斬られ、両腕は使用不可能に。それでも魔物は周囲に大量の糸を撒き散らしながら暴れ始める。
「ユウ君、大丈夫?」
「悪い、ありがとう」
マナ姉が糸だけを魔法で焼いてくれたので、俺は立ち上がって刀を構える。
隣に立つマナ姉は俺がやろうとしていることが分かっているらしく、頼もしい表情で頷いてくれた。
「久々だな、調整をミスらないでくれよ?」
「うん、任せて」
「それじゃあ行くぞ!」
相手はマザースパイダーの変異体とでも言うべき存在。やはり蜘蛛が苦手なマナ姉の動きはかなり鈍っているので、ここは俺がとどめを刺すべきだ。
深呼吸してから全力で駆け出し、俺は体内に流れる魔力を一気に刀へと纏わせる。
「マナ姉、来い!」
「雷光よ、彼に力を········!」
マナ姉が放った雷が、俺が持つ刀に集まってくる。上手く魔法を調整してくれているので、魔法を構成しているマナ姉の魔力が俺の魔力を飲み込むことはない。
「目的は何なのか分からないけど、俺達の邪魔をするな········!」
ずっと一緒に居たからこそ出来る、俺とマナ姉の魔法を合わせた合体技とでも言うべき一撃。
高く跳躍した俺は、糸を吐き出してきた魔物目掛けて全力で刀を振り下ろす。
「衝破雷鳴斬!!」
「ギァ────」
雷を纏った俺の一太刀は、魔物の巨体を一撃で両断した。着地して振り返れば、崩れ落ちた魔物が灰となって消えていくのが目に映る。
そして、突然俺の体は光に包まれた。
「っ、この感覚は········」
この世界に住む人達は、魔物を倒すことで経験値を得ることができ、それが一定量まで溜まるとレベルが上昇する。
久々に味わったこの不思議な感覚は、レベルが上昇した時のものだ。どうやらマナ姉も何が起こったのかが分かったらしく、笑顔で駆け寄ってきてくれた。
「やったねユウ君、レベルアップだよ!」
「あ、ああ、数年ぶりだな」
まさかこんな場所でレベルが上がるとは思わなかったが、これで俺も少しは強くなれただろう。
「それにしても、何だったんだあの魔物は。聞いたこともない見た目だったけど········」
「マザースパイダーから魔族の体が生えている個体が存在するなんて、お父さん達も言ってなかったよ」
「よく分からんが、とにかく先に進むか」
今はリース達を助けることが最優先だ。マナ姉が頷いたのを確認してから俺は納刀し、先へと続く道を再び走り出すのだった。