第16話 そうだ、家を買おう
ブックマークなどありがとうございます!
何言ってんだこいつは!ってなる部分もあるかもしれないので、質問などもお待ちしておりまする|ω・´)
「むかしむかしあるところに、とても強い剣士が住んでいました」
「むかしってことは、その人はもう死んじゃってるのー?」
「まあ、モデルの剣士は数百年前の人だからなぁ」
「ええっ、そうなのー?」
「そうだぞぉ。んじゃ、続きを読もうか」
夜、もう一ヶ月以上もお世話になっている宿屋の一室で、現在俺はぱたぱしっぽを振っているマナに絵本を読んであげている最中だ。
「剣士は魔王を斬りました。ですが、逆に剣を折られてしまいました」
「なんで剣が折れちゃったのー?」
「魔王の身体が硬かったんじゃないかな。この絵の魔王は紫色のオーラみたいなのを纏ってるから、魔法で剣を折られたのかも」
「そっかぁ」
こうして頻繁に質問してくるけど、それがまた可愛いんだよなぁ。しかも、剣士が魔王に追い詰められてるところで『剣士さんがんばって!』とか言うんだからもう········たまらんよね!
「それから、剣士と姫は仲良く平和に暮らすのでした。めでたしめでたし」
「あー、終わっちゃったぁ」
「丁度いい時間だ。あんまり遅くまで起きてたら駄目だから、もうそろそろ寝ような」
「うーん、わかった」
本を棚に置き、マナを抱えてベッドに飛び乗る。それだけでマナは楽しげに笑った。
「あー、そろそろ自分の家を買いたいなぁ」
ベッドに寝転んでマナの頭を撫でていた時、何故かは分からないけど日本に住んでいた頃の自分の家を思い出した。贅沢を言うつもりは無いけど、やはり自宅のベッドの寝心地は、宿のベッドとは比べ物にならないのだ。
「ここがマナ達のおうちじゃないのー?」
「実は違うんだ。家を買えば、自分達で料理を作ることができるようになるし、ここには置けないものを沢山買えるんだよ」
「すごいっ!じゃあ、マナはおうちがほしいなー!」
「········よし、そうだな。可愛い娘もそう言ってることだし、お金を貯めて夢のマイホームを買うことにしよう!」
「わーい!」
新たな目標ができた。毎日依頼を達成すれば、それなりの報酬が貰えるから、目指すは半年以内に家購入!ってとこだな。
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「それなら私の家に、す、住むか········?」
「ぶふっ!?」
次の日、ギルドでテミスに家を買うことにしたと言ったらそう言われたので、俺は飲んでいた牛乳を吹き出してしまった。
「あ、その。この前おじさんにタローはどこに住んでいるのかを聞かれて、毎日宿に泊まっていると伝えたんだ。その時に私の家に住まわせてやればいいと言われて、確かにそうだと思ったんだけど········」
顔が赤くなっているテミス。さすがに男と女が同じ屋根の下暮らすというのがどういうことかは分かってるみたいだ。というか、おやっさんはテミスに何を言ってるんだよ。
俺は一緒に住みたい。毎日テミスの手料理食べたい。しかし、溢れ出るあの欲を抑え切ることができるか分からないのだ。
だって相手はテミスだぞ?超美少女だぞ?可愛くて優しくてスタイル良くて········そんな子と一緒に暮らすことになったら、果たして俺は耐えられるだろうか。
「ご主人さま、テミスおねーちゃんのおうちにすむのー?」
「いや、どうなんだろ。ちょっと混乱してるから、なんと言ったらいいのか········」
「テミスおねーちゃんのおうちにいったら、夜にふたりでたのしいことするんだね!」
「こら!そんなのどこで知ったの!」
「おにぎりくれた人がいってたよー?」
「おやっさんかッ!!」
うちの娘になんてことを教えてんだあの人は!
「マナはテミスおねーちゃんのおうちがいいなー!」
「うぐ、どうすりゃいいんだ········」
テミスと同棲し始めたことを皆さん(特に男性)に知られたら、一体何が起こるのか想像もつかない。このギルドには、テミス本人は知らないみたいだけど『テミス騎士団オーデム支部』などというファンクラブ的なものがあるし、そいつらにバレると戦争になるかもしれない。
それに、最近知ったことだけど別の町、別の国でもテミスは大人気らしく、同棲する=世界中のテミスファンを敵に回すということになるのだ。
「あ、の········その、嫌ならいいんだ。きっと迷惑をかけてしまうだろうし········」
「いやいや、迷惑かけるのは俺達の方だって!俺としては、テミスと同じ家で暮らせるなんて夢みたいだし、毎日手料理を食べたい。洗濯物干してる姿とか風呂上がりの姿とかも見たい。もっと長い時間テミスと過ごせることになるって思ったらドキドキするぞ!」
「え········」
やっべえええええ!?思ったこと全部言ってしまったあああああ!?
「つ、つまりですね、テミスの家に住めるというのはとても嬉しいということです。は、はははは········!」
「マナもー!」
「そ、そうなのか········」
どうしよう。顔真っ赤だけど、そんなテミスも超可愛えええええ!とか言ってる場合じゃなかった。
「あらら、随分楽しそうじゃーん。あたしも交ぜてよ〜」
「っ········!?」
珍しい赤面テミスを眺めてたら、急に背後から何者かがテミスに抱き着いた。誰かは分からないけど、どうやら女性のようだ。
「え、な、なんでここに!?」
「遊びに来たのよ〜ん」
「何を言っている。仕事だ馬鹿」
テミスに頬ずりしている女性の身体が宙に浮いた。また新たに現れた赤髪の男性が、女性の服を掴んで持ち上げたらしい。
「ん?そこにいるのは何者だ?」
「あ、それは·······その」
「俺を含めて男と接するのが苦手なお前が、仲良さげに話せる相手········
ふむ、恋人か」
「ち、違うぞ!?」
即座に否定されてショックだったけど、確かに付き合ってるわけじゃないので何も言えない。。
「わおっ!テミっちゃん、彼氏できたんだ!おめでと〜!」
「だ、だから········」
「君がテミっちゃんの彼氏だね。へえ、かっこいいじゃん」
栗色のツインテールが似合う美少女が、にんまり笑いながら俺に顔を近付けてくる。童顔でとても可愛らしいな。
「あたしはラスティ。よろしくね!」
「俺は太郎。よろしく」
ツインテール美少女ラスティと握手する。すると、ラスティの隣に立っていた赤髪の男性も自己紹介してきた。
「俺はアレクシス・ハーネットだ。世界樹の六芒星、《紅蓮の魔狼》などと呼ばれている。まあ、よろしく頼む」
「こちらこそ」
どっちも強そうだな。まあ、テミスの知り合いなんだしレベルは高い········あれ、この人今なんて言った?