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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
2章 嵐の修学旅行
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16.剣聖帰還

「ユウ君、おはよ!」

「おお、どうした?休みの日に早起きなんて珍しいな」


今日は週末、学生も教師も自宅でのんびり過ごす日である。


しかしマナ姉がしっぽを振りながらリビングにいたので驚いた。いつもなら、休日は午後まで爆睡していることが多いのに。


「今日はお父さんとお母さんが帰ってくる日だよ!」

「え·····ああ、そうだったか」


言われて思い出した、親父と母さんが帰宅するんだ。


最近隣の帝国が不穏な動きを見せているらしく、その調査で遠出していた2人。


いよいよ戻ってくるのか。嬉しいな、また母さんに剣術を教えてもらえる生活が始まるぞ。


「クレハは?」

「まだ寝てるよ」

「うん、いつも通りだな」


クレハもマナ姉と同じで休日は思う存分寝る子なので、母さん達が帰ってきたら起こしに行こう。


そう思っていた時、玄関の扉が開けられた。


「お母さ〜ん!」


魔力で分かっていたのだろう。マナ姉は満面の笑みを浮かべながら玄関に走っていく。


そんな姉を追えば、優しい笑みを浮かべる女性が玄関に立っていた。


「おかえり、母さん」

「ふふ、ただいま」


長く綺麗な銀髪を首のあたりで束ねた、年齢を知らなければ20代にしか見えない俺の母·····テミス・シルヴァ。


昔親父と共に世界を救った英雄の1人で、剣を扱う者達の頂点に君臨する【剣聖けんせい】と呼ばれる最強の剣士でもある。


まったく、俺の親父はどうやってこんな素晴らしい女性のハートを掴んだのやら。


「聞いてよお母さん、ユウ君ったら全然真面目に授業を聞いてくれないんだよ」

「む、そうなのか?」

「おい待てマナ姉、俺は真剣に授業を受けてるじゃないか!」

「駄目だぞユウ。せっかく学園に行っているんだから、きちんと授業に取り組むこと」

「わ、分かってるよ」


くそっ、昨日マナ姉のプリンを食べたことを根に持っているらしいな。


あとで何か与えないとさらに情報を伝えられそうなので、俺のアイスをプレゼントするしかなさそうだ。


「あれ、親父は帰ってないのか?」

「少し用事ができたらしくてな、3日後には戻ってくる予定だけど········」


おお、母さんがしゅんとしている。


普段はクールで誰からも尊敬される母さんだけど、親父にだけは甘々だ。


あんなに母さんが甘えるのは親父だけだし、2人が喧嘩しているのを俺は見たことがない。


ただ、仲良しなのは良いことだが、子供の前でイチャイチャするのはやめてもらいたいな。


「そうだ母さん、あとで久々に模擬戦しようぜ」

「ああ、私もそう言おうと思っていたんだ。マナからメールで息子の成長は聞いていたからな。友達も増えたんだろう?」

「まあな」


エリナの件や迷宮図書館の件も知っているらしい。それに、学園長からの報告で感情喰らい(イーター)についても把握してくれているので、あとでゆっくり話をしよう。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









母さんとの模擬戦では互いに木刀を使用する。その気になれば、母さんは魔力を纏わせて木刀でも鉄を切断できるが、さすがに手加減してくれているのはいつも感じている。


けど、そろそろ本気の母さんとも手合わせしてみたいものだ。


「ユウ、準備はいいか?」

「ああ、いつでもいけるよ」

「それじゃあマナ、合図を頼む」

「分かった。模擬戦開始!」


特別にオーデム魔法学園の魔闘場を借りることができたので、今回の模擬戦はそこで行う。


そして、マナ姉の合図と共に俺は【加速アクセル】を発動し、全力で母さんの懐に飛び込んだ───が。


「踏み込みが甘い」

「ぐっ!?」


軽く振られた木刀が一瞬ブレる程の速度で迫り、俺が放った左薙ぎとぶつかり押し負け弾き飛ばされる。


俺の方は本気の一撃だったのだが、これでもまだ母さん相手には通じないか!


「くそっ、【幻襲銀閃トライアングルレイド】!」


これは母さんがよく使っていたという無属性魔法だ。魔力で自分の分身を2人作り、3方向から同時に攻撃を仕掛ける剣技でもある。


「【幻襲絶閃ペンタグラムレイド】」


だが、母さんは分身をなんと4人も生み出すことができる。俺の分身は母さんの分身にあっさりと消し飛ばされ、そして様々な方向からの本当に手加減された斬撃を浴びて俺は派手に地面を転がった。


「どうしたユウ、終わりか?」

「まだだ!」


全力で振り下ろした一撃を片手で持った木刀で受け止められ、地面を砕いて煙を巻き上げ目眩しを行って背後からの奇襲。


しかし、母さんはそれを振り返りもせずに木刀で受け止めてみせた。まさに神業、母さんだからこそできる奇襲殺しの自己防衛だ。


というか、そんな木刀の持ち方で全力をあっさり受け止められるとか、結構心にダメージ与えられたんですけどね!


「そ、そこまで!」


その後、俺は様々なことを注意されながらボコボコにされた。くそ、今日も俺の木刀が母さんに当たることは無かったか。


「前に手合わせした時よりも太刀筋は良くなっていたから、さっき言ったことを意識すればより強くなれると思う」

「努力するよ······あー、疲れた」


呼吸を整えながら寝転がると、マナ姉がタオルを渡してくれる。それで汗を拭きとり、さらにマナ姉が持ってきてくれた水を飲めば生き返った気分になった。


「母さんは感情喰らい(イーター)についてどう思う?」


暫く3人で雑談し、その中で俺は母さんに聞いてみる。


「最近現れた未確認の魔物か。死刑囚の男に寄生していたということは、その魔物は学園外にも生息しているということだ。早めに対策を立てなければ手遅れになるかもしれない」


俺とエリナが戦ったドラゴンには、服の残骸のようなものが付着していた。


魔物化した際に服が破れ、それが付着していたんだろうな。あの時点で元は人だったという可能性も視野に入れておくべきだった。


「でも、1つ気になってたことがあるんだよね。授業中にエリナちゃんが地下迷宮でクレハちゃんと戦った時、私達は誰も戦闘が行われていることに気が付かなかった。なのにどうしてユウ君は授業を抜け出して地下迷宮に行ったの?」

「それは······そうだな、毎回妙な気配とか力を感じるんだよ。エリナの時もアーリアの時も、その力を感じたからこそ現場に辿り着くことができた。ただ俺も気になるのは、なんでクレハの魔力を感じなかったのかという点だ」


地下迷宮での戦闘は、壁や床が粉々になる程派手なものだったと思われる。


なら、恐らくクレハもそれなりに全力で魔法を使ったはず。しかし、クレハが魔力を使えばすぐに分かる俺とマナ姉は、あの時クレハの魔力を全く感じなかった。


「もしかすると、イーターに寄生された者は特殊なフィールドを展開することができるのかもしれないな」

「フィールド?」

「戦闘音や魔力漏れを遮断するフィールドだ。もしそれが可能だとすれば、宿主は誰にも気付かれることなく戦闘を行うことができる」


そういえば地下迷宮事件の時も、あれだけ膨大な魔力を持っていたドラゴン出現に俺やマナ姉は気付かなかった。


普通なら出現と同時に魔力が迷宮内を駆け巡り、待機していたマナ姉はすぐ現場に駆けつけるはずだったのだ。


さすがは母さん、イーターが特殊フィールドを展開する可能性は高そうだぞ。


「イーターに寄生されたエリナやアーリアの強さは桁違いだった。そんな被害者が各地に現れたとしたら、数えるのも嫌なくらいの死者が出ることになる」

「うぅ、おっかないね」

「そんな恐ろしい魔物が出現し始めたということは、また地上で何かが起ころうとしているのかもしれない。1度皆を集めて話をした方が良さそうだな」


母さんの言う〝皆〟とは、恐らく英雄達のことだろう。ということは、久々に魔界の面々もやって来るというわけで········。


「むー、なんかユウ君が嬉しそう」

「え、いや、だって1年ぐらい会ってなかったからさ」

「魔導フォンで連絡してみたけど、たまたま王国で魔力調査を行っていたそうだ。数分もすれば到着するらしい」


それから暫く空を見上げていると、向こうからとてつもない速度でこちらに向かって飛んでくる人が見えた。


感じるのは母さん並の桁違いな魔力で、翼を広げたその人は真上で急停止してからゆっくりと下降してくる。


「久しぶりね、テミス。ユウとマナも元気そうじゃない」


腕を組んで笑みを浮かべる······堕天使。


いつもの事だが無意識にその人が放っているプレッシャーは、慣れていなければ腰が抜けるレベルだ。


水色の髪を二つ括りにしており、漆黒のドレスに身を包んだ彼女・・は母さんの前にふわりと着地する。


「ベルゼブブの方こそ、元気そうで何よりだ」


魔界を支配する大魔王、それが今俺達の前にいるベルゼブブさんである。


昔は人間と敵対していたらしいが親父と戦って仲良くなり、そして共に魔神を滅ぼした英雄の1人。


今では魔界とティアーズ王国は同盟を結んでおり、親父達と一緒に帝国の動きを警戒しているらしい。


「ちょっとベルちゃん、速いってば!」


さらに、魔闘場の壁を飛び越えて着物姿の少女がやって来た。彼女を見た途端、俺はなんとも言えない気持ちになってしまう。


「おっ、ユウちゃん」

「ど、どうも、ディーネさん········」


肩ほどで切られた蒼い髪が似合う、優しい雰囲気を纏った彼女。魔族だが東方地方の着物を好んで着ており、ベルゼブブさんとは違って大きく膨らんだ胸部に目がいってしまう。


「ちょっとユウ、殴るわよ」

「心を読まないでください」


危ない、ベルゼブブさんは危険だ。


「そういえばユウって、優しい巨乳のお姉さんが好みのタイプだったわよね。なるほど、ディーネとかどストライクでしょう?」

「な、何言ってんですか!」


大魔王だからといって俺は遠慮しないぞ。


とりあえず急いでベルゼブブさんの口を手で塞ぎ、振り返る。


「どうしたの?」

「何でもないですよ、ははは〜········」


ベルゼブブさんの部下で、水の魔王であるディーネさん。


幼い頃から優しく俺の面倒を見てくれた人で、別に気になっているとかそういうわけではない、うん。


「もうっ、ユウ君ったらデレデレして!」

「いでっ!?何だよマナ姉」


1年ぶりにディーネさんの容姿を眺めていると、突然後ろからマナ姉が叩いてきた。


「ふふ、弟を取られると思って嫉妬してるんだろう」

「ち、違うよお母さん!」

「隠さなくてもいいじゃないの。だって貴女、昔からユウにべったりだったものねぇ」

「うぐっ········!」


剣聖と大魔王と魔王と神童、そんな規格外な人達に囲まれて平常心を保っている俺って結構凄いんじゃないか?


何にせよ、今日は俺の家で今後のことについてじっくり話し合うことになりそうだ。

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