番外編 やはり姉はモテるらしい
ある日、ユウはとんでもない現場に居合わせてしまった。
「俺、マナ先生のことがずっと好きでした。もしよかったら俺と付き合ってください!」
放課後、クレハを迎えに1年校舎に向かっていた時、突然校舎裏から愛の告白が聞こえたのである。
そっと覗いてみると、義理の姉であるマナが3年生に告白されている最中であった。
(おいおいマジかよ。マナ姉がモテるのは知ってるけど、先生になったマナ姉に告白する猛者がいるとは········)
別に先生と生徒による恋愛が禁止されている世界ではないので問題ないのだが、何故だかもやっとするのでユウは告白の結果を見届けることに。
「えっ、あの、ありがとう········」
(なんか満更でもなさそうなんですけど!?)
照れくさそうに頬を掻く姉を見て、ユウはどうしたものかと頭を抱える。
もしあの男子生徒と姉が付き合った場合、定期的に家にやって来たりする可能性がある。
さらに部屋からあんな音やこんな音が聞こえたり、目の前で見せつけるかのようにキスし始めたりするかもしれない。
「兄さん、何してるんですか?」
「うおっ!?」
1人でモヤモヤしていると、突然後ろから声をかけられてユウの肩が跳ねる。
振り向けば、いつも通り優しい笑みを浮かべている可愛い妹のクレハが立っていた。
「く、クレハか」
「あら、もしかしてあれは········」
「告白現場に遭遇してしまってな。しかも相手がマナ姉だから結果が気になるというか········」
「兄さんったら、本当に姉さんのことが好きなんですね」
クスクス笑うクレハ。
別に弟として姉の将来を心配しているだけで、相手がいい奴なら彼は祝福はするつもりだ。
ただ、それを嫌だと思う自分がいることを、ユウは不思議に思っていた。
「ごめんなさい、君とは付き合えない」
そんな時、マナの声が聞こえて兄妹は同時に壁から顔を出す。
「君が私を好きだって言ってくれたのはとっても嬉しいけど········」
「そう、ですか。でも俺、まだ諦めたわけじゃないですから。もっと頼れる男になって、マナ先生に認められるよう努力してから出直します!」
男子生徒は振られていた。
そして猛スピードでこちらに走ってきたので兄妹は急いで身を隠し、その隣を男子生徒は走り抜けていく。
「おおう、可哀想に」
「やっぱり姉さんは誰ともお付き合いしないんですね」
「ユウ君にクレハちゃん、こんな所で何してるのかな?」
「「っ!?」」
なんと、マナは2人に気づいていたらしい。
飛び跳ねる2人を見てマナは苦笑し、そして男子生徒が走っていった方向に顔を向ける。
「あの子の気持ちは嬉しいけど、私に恋愛はまだ早いかな」
「そ、そうだな、マナ姉中身は子供だし」
「もうっ、失礼だよユウ君!」
(あらあら········)
可愛い言い合いを始めた兄と姉を見てクレハは笑う。
しかし、この件はまだ終わっていなかった。
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「あ、あの、これはどういうことかな?」
数日後、マナは校舎裏で大勢の男性に包囲されていた。
見たところ明らかに大人なので、恐らく外部から学園内に入り込んだのだろう。
「前に言ったじゃないですか、諦めたわけじゃないって。見てください、俺はこんなに多くの男達を力で屈服させた。俺は強い、頼りになる男なんだ!······だから俺を認めてくれますよね?」
そして、その男達を学園に招き入れたのは、以前マナに振られたあの男子生徒であった。
どうやら彼は、自分がこれだけの大人の上に立つ存在なのだと分かればマナが認めてくれると勘違いしているらしい。
「何言ってるの、駄目だよこんなことしちゃ!勝手に外部の人を招き入れて、もしこんなのを他の人に見られたら········」
「俺は!マナ先生のことが本当に好きなんだ!1年の頃からずっとあなただけを見てきた·······あなたさえ居れば俺は何だって出来るんですよ」
「だからって、こんな········」
「どうやら俺の想いはまだ先生に届いてないらしい。だったら、嫌でも俺の女になってもらいましょうか!」
恐らく金でも払って雇ったのだろう。
男子生徒の命令を聞き、一斉に男達はマナに襲いかかる。ただ、普通に考えて男子生徒側に勝ち目など微塵も無い。
相手は雷魔法を極めた神童、学園の頂点に君臨し続けた女王なのだ。
(くっ、仕方ないなぁ········!)
これは正当防衛なので、マナが男達を迎え撃とうとした·····その直後。
「俺の姉に何しようとしてんだ変態共め!」
「ごべあッ!?」
突然猛スピードで突っ込んできた黒髪の少年に足裏で顔面を蹴られ、最もマナに接近していた男は派手に吹っ飛んだ。
驚きながらマナがその少年をよく見れば、
「マナ姉、無事か?」
「ゆ、ユウ君········」
「私もいますよ、姉さん」
彼は頼りになる弟だった。さらにクレハも参戦し、彼女が放った魔法が一撃で半数以上の男達を吹き飛ばす。
「な、何だよお前達は········!」
「さあて、俺の姉を無理矢理手に入れようとした馬鹿にはお仕置きが必要だな」
「ふふ、きちんと反省してくださいね?」
「ひ、ひぎゃあああああああ!!」
いつの間にか雇われた男達は全員逃げ出しており、男子生徒は兄妹による制裁により2度とマナに近づかないと誓うのだった。
「やれやれ、一件落着······か」
「ご、ごめんねユウ君、クレハちゃん。2人にまで迷惑かけちゃって」
「気にしないでください。今後も姉さんを困らせる人は私達が懲らしめますので」
申し訳なさそうに俯くマナだったが、ユウに頭を撫でられ恐る恐る顔を上げる。
「俺達は家族だからな。これからもずっと、困った時は助け合っていけばいい」
「ユウ君······えへへ、ありがとう」
嬉しそうに笑いながらしっぽを振る姉を見ていると、自然とユウの頬も緩む。
シルヴァ家は今日も仲良しであった。