11.エリナと過ごす放課後
先輩、今日も本を借りにきてるみたい。
いつものシリーズかな、私が知ってる本だといいな。たった数十秒だけでも、先輩と話すことができる時間が何よりも幸せだから。
「今日はこれを借りるよ」
先輩が1冊の本を持って私の所に来る。表紙を見れば、先輩が借りようとしているのは私が見たことのない本だった。
「この本、昔母さんに読ませてもらったことがあってさ。久々に読みたくなったんだ」
とても興味が湧いたので1度読んでみたいと伝えると、先輩は笑顔でその本を渡してくれた。
「俺は内容知ってるから、1回読んでみてよ。君が読み終わったら借りるから、その時に感想聞かせてくれよな」
嬉しすぎて心臓が飛び出るかと思った。
元々本が好きだから図書委員になったけど、本当になって良かった。これからも、図書委員を続ける限り先輩と本について語り合うことができるんだから。
そしていつか、私の想いを伝えるんだ。
「あん?なんだよ嬢ちゃん」
そう思っていたのに。
「いい場所を見つけたぜ。ここは今日から俺達が使わせてもらう。図書委員?知るかよ、出ていかねーのなら相手をしてやってもいいんだぜ?」
放課後、私が先輩と唯一会話することのできる大切な場所なのに。
「やっぱりいいや、気が変わった。チクられても面倒だし、ちょっと楽しませてもらうとしようか」
私は、先輩にまだ何も伝えることができてないのに────
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「おーっすユウ、どこ行ってたんだよ」
「ソルか。ちょっと図書室に行ってただけだ」
「そういや本を読むのが趣味だったなお前は。それで、今回は何を借りたんだ?」
「何も借りてない。読みたいのがあったけど、他人の感想を聞くって楽しみができたもんでね」
「ん?よく分からんけど今暇だろ?ちょっと体動かすのに付き合ってくれよ」
そう言って元気そうに槍を振り回すソルだけど、残念ながら相手をしてやることはできない。
「ユウ、お待たせ」
「おおっ!?」
校舎から歩いてきたのは、誰もが認める美少女のエリナだ。彼女を見たソルは服装を正して表情を切り替える。
「こんにちはエリナ・エレキオールさん。俺はソル、ユウの友人です。これから2人でお茶でも────」
「悪いなソル、エリナは俺に用があるんだ」
「なんだと!?」
ソルに肩を掴まれガクガク揺さぶられる。
「てめえ、いつの間に彼女作ってたんだ!」
「ち、違うって。エリナとはこれから一緒に出掛けるだけで」
「デートじゃねえか!」
「あの、ソル先輩。ユウを借りてもよろしいでしょうか」
「ぐっ、ユウの裏切り者!」
寮に走っていったソルを見送り、俺はエリナと肩を並べて学園から出る。
先に言っておくが俺達は付き合っていない。これも今からデートをするわけじゃない。
『ユウ、今日の放課後少し付き合いなさい!』
朝、エリナにそんなことを言われた。
事情を聞いてみれば────
『実は私、とあるキャラクターのグッズを集めているの。それで今日、そのキャラクターのイベントがオーデムで開催されるらしくって、是非行ってみたいと思ったのよ』
『いや、1人で行けよ』
『無理よ、恥ずかしいもの』
とのことだ。
女友達を誘えばいいと思うんだが、性格のせいで親しい仲の者が殆どいないと言うし、この前の件でかなり信頼度がアップしたらしい。
何かとナンパされることも多いらしいので、一応男避けで俺に同行をお願いしたとのことだ。
というか意外だった。クレハも好きだというキャラクター、『スラリんまる』のグッズをエリナが集めていたとは。
スラリんというジェル状の魔物をキャラクター化した存在だが、そいつは女子からの人気がやたらと高い。
俺は別に興味があるわけじゃないけど、魔導フォンでスラリんまるの画像を俺に見せながら目を輝かせるエリナに押し負け、結局イベントに同行することに。
「あら、ここみたいね」
到着したイベント会場に入れば、既に中は女の子達でいっぱいだった。
「········俺、外で待っててもいいか?」
「駄目よ、カップルで同時に買わなければならない限定商品だって売っているんだから」
「カップル?」
「え、あっ、違うわよ?貴方は恋人のふりをしてくれるだけでいいの!」
「はぁ、報酬は購買でジュースな」
「ぱ、パンもおまけするわ」
その後、俺はエリナと一緒にスラリんまるの商品を見て回った。普段は見れない子供のようなエリナの姿を見て若干満足し、何個かグッズを買ってあげたりもした。
しかし、カップル同時購入限定グッズを買うのはさすがにお互い恥ずかしかったな。
店員に『お似合いですね!』とか言われてエリナも顔が真っ赤になってたし。
「そういや時間は大丈夫なのか?」
「え······あっ、忘れてたわ!」
そして、今から中におっさんが入っているのであろう着ぐるみによるトークショーが始まろうとしていた時、エリナは寮の門限を思い出して顔を真っ青にしていた。
あと10分以内に戻らなければまずいらしいが、彼女が全力で走っても確実に間に合わないだろう。
「うぅ、私としたことが」
「嫌ならやめておくけど、俺がおんぶして送ってやろうか?魔力を纏えばギリギリ間に合いそうな気がする」
「お、お願いするわ。評価を下げたくはないもの」
「了解、ジュース1個追加で」
まだ名残惜しそうに中を見ていたエリナだったが、諦めたように俺の背中に乗ってきた。
その際に、彼女の大きくはないけど素晴らしい感触の胸が背中に押し当てられる。
ふむ、これはなかなか········。
「じ、時間が········!」
「おっと、それじゃあ行くぞ」
「きゃっ!?」
まさかあれだけ嫌われていたエリナを背負って走ることになるとは。
俺は魔力を纏って高く跳び、屋根上に飛び乗りそのまま魔法学園目掛けて全力疾走する。
「おっし、セーフだ!!それじゃあまた明日な」
「ええ、ありがとう!」
寮の前で止まり、エリナを降ろす。
残り30秒。寮の扉を開けたエリナは、満面の笑みを浮かべながら1度振り返って手を振ってきた。
そしてそのまま寮の中に駆け込んでいった彼女の背中を見送り、俺は家に向かって歩き出す。
やばいな、とても可愛かったぞ。
どうやら俺は彼女の信頼を完全に勝ち取ったらしい。あの時死ぬ気でエリナと話をして本当に良かった。
そう思っていると、俺の魔導フォンからメールを受信した音が鳴った。
誰からのメールかと思って見てみると、
『やっぱり兄さんはエリナさんのことが好きなのですね』
クレハからだったが、誤解されてしまっているようだ。それから本気で焦りながら俺は返事の文を考え、気がつけば自宅に到着していたのだった。




