表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
1章 英雄の息子
146/257

08.消えたお嬢様

魔闘戦の結果、クレハの圧勝。


凄まじい力でお嬢様の魔法全てを無効化し、そして少し(・・)魔力を高めただけで2年トップの成績を誇るお嬢様を沈黙させた。


魔闘場はざわめき、そして歓声に包まれる。そんな中、俺は気絶したお嬢様を見ながら妙な気配を感じた。


何を言い合っていたのかは分からないが、お嬢様から魔力とは違う何かを感じるのだ。


「ユウ、どーしたん?」

「クレハちゃんに見惚れてたんじゃね?」

「え、ああ、そうだな」

「シスコンやなぁ」


2人は気づいていないのか。もう一度フィールドに視線を戻すと、既にお嬢様は担架で運ばれていた。


やり過ぎのようにも見えるが、クレハは殆ど実力を見せていない。寧ろ彼女が本気を出していれば、お嬢様も気絶程度では済まなかっただろう。


「嫌な予感がするな··········」


何故か、俺は地下迷宮に出現したドラゴンを思い出す。とりあえず、目を覚ましたらお嬢様に声をかけるとしよう。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆










「兄さん、帰りましょう······どこかに行くのですか?」

「ああ、ちょっとお嬢様──エリナに聞きたいことがあってな。あれだったら先に帰ってくれててもいいけど」


放課後、保健室に居るであろうお嬢様の様子を見に行こうとした時、1年校舎の廊下でクレハが声をかけてきた。


圧倒的な実力と可愛らしい容姿を持つ彼女を見る為に、いつの間にか周囲には男子達が集まってきている。ええい、寄るな肉食獣共め。


「兄さんは、あの人のことが好きなのですか?」

「えっ?いや、違うけど」

「そうですか、良かった」


笑顔でそう言ったクレハだけど、目が全く笑っていない。理由は分からないけど恐怖を感じた俺は、とりあえず保健室に向かうことにした。


クレハも同行すると言っているが、お嬢様は彼女に魔闘戦で敗北した後だ。今はお嬢様と会わせるべきではない気がする。


「悪い、今回は1人で───」

「に い さ ん?」


遂に無表情になったクレハが恐ろしく怖い。


いつもなら天使のような笑顔を見せてくれるというのに、俺がお嬢様に変なことをしないか怪しんでいるのだろうか。


「あっ、ユウ君!」


どうしたものかと焦っていると、向こうからマナ姉が走ってきた。廊下は走るなという教えを何度もぶち破る、そんなマナ姉が俺は好きだよ。


「エリナちゃんがどこに行ったのか、知らない?」

「お嬢様?いや、今から様子を見に行こうと思ってたんだ」

「そっか」

「何かあったのか?」


不安そうなマナ姉にそう聞くと、彼女はこくりと頷いた。


「あのね、保健室からエリナちゃんが居なくなっちゃったの。女子寮にも戻ってないらしくて·········」

「街に出たんじゃないか?」

「そ、そうなのかな。でも、ちょっと気になったことがあって·········」


まだ無表情のままクレハがじっと見つめてきてるけど、俺はマナ姉に話の続きを聞いてみる。


「保健室から、よく分からない力のようなものを感じたの。最初はエリナちゃんの魔力かと思ったんだけど、魔力とは違った感じがしたというか·········」

「っ、それは」


魔闘戦終了後、俺が感じた妙な気配と謎の力。それとマナ姉が感じた力が同じものだとしたら?


「誰かがお嬢様に接触しようとしているのか?」

「えっ?」

「嫌な予感がするんだ。今すぐお嬢様を捜した方がいい気がする」

「そ、そうだね。ユウ君も協力してくれる?」

「当たり前だろ?」


人数は多い方がいい。何故か不機嫌になったクレハや教室に残っていたリース、男子寮にいたソルにも声をかける。


「そりゃ大変だ、すぐに見つけてやらなきゃな」

「ウチも手伝うで〜」

「ああ、助かるよ」


とは言ったものの、お嬢様がどこに向かったのかは分からない。一旦街で俺達は別れ、それぞれ別の場所に行ってお嬢様を見た人がいないか聞き込みをすることに。


しかし、有益な情報を得ることはできず。結局この日はお嬢様を見つけることができなかった。


「エリナちゃん、昨日寮にも戻ってこなかったみたいやね。大丈夫なんかなぁ、心配やなぁ」

「クレハに負けたのが相当ショックだったのか、何か別の理由があるのか········」


翌日、お嬢様が寮に戻らなかったことが発覚。さらにどれだけ待っても登校してこないので、学園は本格的にお嬢様を捜索することにしたらしい。


「兄さんは、あの人のことが大好きなのですね」


そして、クレハの様子がちょっと変だ。頬を膨らませながら、怒ったようにそう言う姿は大変可愛らしいんだが········。


「私は、あの人があまり好きではありません」


あのクレハがそんなことを言ったのには驚いた。昨日魔闘戦の最中に何かを言い合っていたようにも見えたが、恐らくその際に何かあったのだろう。


「でもな、やっぱり心配だろ?確かに何かと突っかかってくる面倒なお嬢様だけど、一応クラスメイトだしさ」

「あの人は、兄さんに酷いことを言いました」


ふむ、なるほど。そういうことか。


「お嬢様が何か言ってたとしても、俺は全然大丈夫だから。怒ってくれてありがとな、クレハ」

「あ········」


優しいクレハの頭を撫でてやると、とても嬉しそうに彼女は微笑んでくれた。


それを見た周囲の男子達が鼻の下を伸ばしているので殴ってやろうかと思ったが、クレハの前なので我慢しよう。


「さーて、授業が始まるかな」

「あっ、待ってください」


時計を見れば、午後の授業開始の数分前だった。昼休みなのでクレハと話をしていたんだが、ここは1年校舎なのでそろそろ戻らないとやばい。


「も、もう少しだけ、頭を撫でてほしいです·········」


当然俺は、5時間目の授業に遅刻した。













◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆











「はふぅ、幸せです·········」


思う存分兄さんに頭を撫でてもらえたので、クレハは生きていて良かったと心から思います。


それにしても、やはり兄さんは素敵ですね。あれ程までに素敵な男性は、この世で兄さんただ1人です。


あれだけ兄さんを侮辱した方の心配をするなんて。本当なら、もっとお怒りになられてもいいと思うのですが。


「ふふ、貴女もそう思いませんか?」


兄さんと別れた後、私は教室に戻りませんでした。ずっと感じていた視線、殺気、魔力········何者かが私を狙っていることは分かっていたので、わざと地下迷宮に足を踏み入れたのです。


私が声をかけると、岩陰から1人の女性が姿を見せました。昨日魔闘戦を行い、行方不明になっている最中のエリナ・エレキオールさんのようですね。


「正直貴女のことは何があっても許しませんが、兄さんが心配していますので。何が理由で姿を消したのですか?」

「力·······力が、必要なの」


エリナさんが魔力を纏い、ふわりと体を宙に浮かせました。昨日とは違い、妙な力も放出しているようですが·········。


「私は、努力した·········元々才能を持っていた貴女とは違って、認められる為に、死にものぐるいで努力したの··········」

「努力なら私もしてきました。勿論、兄さんも」

「気に食わない······生まれ持った才能の違いが······才能の無さを馬鹿にされても、変わろうともしないあの男が·········」

「まだそんなことを言うのですか」


いい加減にしてほしいものですね。放電するエリナさんの前で、私も魔力を纏います。


「【世界樹の星根(エトワールレーヌ)】」


大地の魔力を借り、大樹の根を呼び出す。そんな魔法を発動し、私はエリナさんにほんの少しだけ殺気を向けました。


これであちらもやる気なら、私は容赦するつもりはありません。


「私は変わった······強さを手に入れたの······そう、貴女さえも凌駕する、圧倒的な力をねッ!!」

「っ────」


しかし次の瞬間、私の左腕から血が飛び散りました。肩から指先まで、左腕全体にまるで焼けたかのようなダメージ。


そんな左腕から視線を戻せば、そこに居たのは異形の存在と化したエリナさんでした。


例えるなら······そう、悪魔。全身が黒い鱗のようなもので覆われ、両手両足が魔獣のように。そして、瞳も真っ赤に染まっていたのです。


「ああ、そういう事ですか。兄さんと姉さんが感じた謎の力というのは、今貴女を覆っているその禍々しい負のオーラのことですね」

「あはっ、あははははははッ!!力が溢れる!これが、私という存在の完成された形態だったのね!!」

「昨日魔闘戦を行った時は感じなかったこの気配。なら、何者かがエリナさんに力を受け渡した·········?」

「手始めに、自分という存在に酔いしれている貴女から消し炭にしてあげる!!」


別にそんなことはありませんが、とにかく応戦するしかないようですね。


戦闘音を聞いた方達が駆けつけるかもしれませんので、早急に終わらせる必要がありそうです。


それにしても、この場に兄さんが居なくて本当に良かった。こんな私の姿、見られたらきっと幻滅されますもの。


「ふふ、面白い冗談を言いますね」


全魔力を解き放った時、私は自然と笑みを浮かべていました。エリナさんの赤い瞳に映った私の表情は、自分で言うのも何ですが、まるで悪魔のようで────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ