03.公開処刑の時間
「この世界には〝魔法〟と呼ばれる、小さな奇跡を起こす不思議な力が存在しています」
二年生になって最初の授業。魔法には様々な種類があり、魔法によって教える先生も変わるのだが、まずは最初の授業ということで魔法の基礎をマナ姉が俺達に教えてくれている。
「それらを使用するには、皆さんの体内に宿った〝魔力〟を消費します。魔法のランクが上がれば上がるほど消費する魔力は増加するので、戦闘になった時はどのタイミングで魔法を放つかをしっかり考えてくださいね」
可愛らしい声でそう言われ、クラスの男子達はもうメロメロだ。俺は隙を見て居眠りしようかと思っているんだが、定期的にマナ姉が鋭い視線を向けてくるので眠れない。
「さて、魔法には属性があります。火、水、風、地、雷、光、闇、無······この8つが現在確認されている魔法属性。その気になれば全ての属性の魔法を使うことはできるけど、適性属性意外の魔法は威力が格段に落ちちゃうからね。まずは得意属性の魔法を使いこなせるように頑張りましょう」
「マナ先生の適性属性はー?」
そんなことを女子生徒が質問したが、まさか本当に知らないのか?
「ふふ、私は雷だよ」
幼い頃からこの学園に出入りし、そして学園トップの生徒達ですらも軽く上回る学力と運動神経、魔法を誇っていたというマナ姉。
その際に何度も雷属性の新魔法を生み出していたというのはかなり有名な話なんだが、まあ全員が知っているわけではないか。
ちなみに俺は無属性。
武器に魔力を纏わせ放つ斬撃や衝撃波などが一般的に無属性魔法と言われているので、俺にぴったりな属性だとは思う。
「んーと、次は〝レベルと魔闘力〟について説明しようかな」
マナ姉がとある球体を取り出し、それを全員に見せる。ああ見えても一応魔闘力を測定するための装置だ。
「魔物を倒せば経験値が貰えて、それが一定値まで蓄積されるとレベルが上がるのは知ってるよね。そして、レベルが上がれば皆のステータスも同時に上昇します。本当は筋力とか魔力とか色々あるんだけど、面倒だから全部まとめちゃったのが魔闘力だよ」
この学園では毎月魔闘力を測定されるけど、一般的に魔闘力が5000を超えるとかなりの実力者だと言われている。
ちなみに、魔闘力はその日の体調や筋肉量、スタミナなどで多少変動したりするらしい。
「今から全員魔闘力を測定してみましょう」
「げっ、まじかよ」
席順に一人ずつ前に来てねと言われ、生徒達が順番に動き出す。魔闘力測定の何が嫌かって、『英雄の息子なのにレベルと魔闘力それだけなんだ』とか思われるからなんだよな。
「皆大体2000は超えてるなぁ。うーん、ウチのクラスは結構優秀な生徒が集まってる感じやね」
「その中でもあいつは別格だぞ」
「あー、確かに」
立ち上がったのは、ブロンドの髪を腰あたりまで伸ばした少女。マナ姉やクレハは別格として、この少女もレベルの高い美少女だ。
確かエリナ・エレキオールだっけか。
どこかの貴族の娘らしく、1年の頃から人気はあったが相当プライドが高いらしいので、今では近寄る人はあまりいないとか。
「それじゃあ、これに触れて魔力を流し込んでみてね」
「はい、分かりました」
エリナ·······いや、お嬢様と呼ぼう。彼女の魔力に反応し、魔闘力測定器が輝きを放つ。数秒後、球体の表面に浮かび上がったのは───
「レベル96、魔闘力32000。ふふ、凄いね」
「いえ、まだまだですよ」
教室がざわめいた。明らかに数値が異常だが、これがあの女の実力というわけだ。
それからしばらくしてリースも魔闘力を測定しに行ったが、彼女もなかなか驚異的な数値ではあった。
「レベルが52で、魔闘力は9000やったで〜。エリナちゃんにはまだまだ勝てそうにないかな」
「まあ、お前も結構凄いとは思うが」
一番最後は俺で、英雄の息子だということを知られているのでクラス中の視線が俺に集中する。
「はい、ユウ君」
「帰っていいか?」
「だ、駄目だよ。担任として、生徒の魔闘力は知っておかないといけないからね」
「はあ、最悪だ」
測定器に手を置き、魔力を流し込む。
「えっと、レベルは71で魔闘力は4000だね。あれ?レベルは高いのに魔闘力の数値がちょっと低いな·······故障かな?」
「席戻っていいか?公開処刑だぞこんなの········」
「あ、うん、ごめんね」
知ってたさ、ああ知っていたとも。母さんと修行しながら何度も魔物は倒してきたけど、俺はなかなかレベルが上昇しなかった。
それどころか魔闘力も大して上昇しないので、何度剣聖への道を諦めかけたかは分からない。
その度に母さんやマナ姉達に励まされてきたからこれまで頑張れてきたけど、やはりまだ魔闘力は低いままだ。
「そろそろ時間だね。それじゃあ1限目の授業はこれで終わろっか」
「あっ、はいはいマナ先生!最後にマナ先生の魔闘力も知りたいなって、ユウが言ってます!」
「え、私の?」
リースが俺を使ってマナ姉に言った。俺はマナ姉のレベルも魔闘力も知ってるんだが、どうやらクラス全員がそれには興味があったらしい。
聞きたい聞きたいと様々な場所から言われ、一応時間を気にしながらもマナ姉は測定器に魔力を流し込む。
『レベル:410 魔闘力83060』
クラスは静まり返り、チャイムの音だけが教室に響き渡っていた。
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「くそ、マナ姉のせいで眠い·········」
「1年の頃は居眠り王やったもんなぁ」
欠伸をしながらリースと廊下を歩く。次は別の教室で火属性魔法についての勉強をするらしいので、面倒だが荷物を持って移動している最中だ。
「ねえ、ちょっといいかしら」
そんな時、突然背後から声をかけられたので振り返ると、先程驚異的な数値を叩き出したエリナ・エレキオールが腕を組んで立っていた。
「俺?」
「そう、貴方に話があるの」
「おおっ、じゃあウチは先行ってるで〜」
「あ、おい!」
ニヤニヤしながらリースは行ってしまった。プライドが高いお嬢様とふたりきりにされるとか、俺はどうすればいいのやら。
「はあ、話とは?」
「貴方、本当に英雄の息子なの?」
「········そうだが?」
馬鹿にするかのように笑うお嬢様。おお、よく分からんがムカつくぞ。女じゃなかったら頭突きしていたかもしれない。
「それであの魔闘力の低さ?」
「ああ、そうらしいな。一応母さんと修行したりはしてるんだが」
「剣聖テミス・シルヴァね。貴方、申し訳ないとは思わない?」
「は?」
「かつて世界を救った英雄夫婦の息子なのに、貴族の娘である私の足下にも及ばない魔闘力の低さ。どうせ修行も真面目に取り組んでいるわけじゃないのでしょう?」
さすがにイラッとしたが、学園内で目立ちたくはないので気持ちを鎮める。
「妹が入学したそうだけど、貴方の妹なんだったら大したことはなさそうね」
「おい、クレハは関係な────」
「あ、いた!」
クレハのことまで馬鹿にし始めたので言い返そうとした直後、向こうからマナ姉が走ってきた。
すぐそこの壁に『廊下は走るな!』と書かれた紙が貼られているんだが、何も言わないでおこう。
「マナ先生、どうかしましたか?」
「ちょっと言い忘れていたことがあって。ユウ君に伝えてもらおうと思ったんだけど、ユウ君すぐ忘れるからなぁ。エリナちゃんに頼もうかな」
お嬢様がドヤ顔で俺を見てくる。ムカつく。
「あのね、お昼ご飯を食べたら中庭に集合してくれるかな?」
「何かするのか?」
「うん、この前新しく造られた〝学園地下迷宮〟に2人1組で挑んでもらおうと思ってね」
「「学園地下迷宮?」」
そんなもの、1年の頃は無かったけど。いつの間にか学園の地下に迷宮が造られていたらしい。
「ペアは私の方で考えておいたから、順番に迷宮攻略をしてもらうの。魔物がいるから、魔法の訓練には丁度いいみたいだよ」
「初日からいきなり魔物戦か」
「大丈夫、弱い魔物しかいないから。それと、ユウ君とエリナちゃんはペアだからね」
「「はっ?」」
これは、とんでもないことになりそうだ。




