第12話 マナは元気な女の子
「ご主人さまー!」
「········え、ええと」
抱きついてきた幼女········マナの頭を撫でながら、呆然とその様子を見ているテラに目で助けを求める。けど、テラは目を閉じて首を振った。ふざけんな!
「どうしたのー?」
それはこっちの台詞なんだけどね、マナちゃん。さっきまで小さな狼の姿だったのに、なんで急に人型になったのかな?しかも、頭から耳が生えてて尻尾まであるし。
まあ、服は着ていてくれたけど。
「よし、とりあえず落ち着け太郎」
「おちつけー」
「えーと、君はマナだよな?」
「うん、そうだよ!マーナガルム!」
向こうを見れば、ゴーレムに取り囲まれてるテミスもめちゃくちゃびっくりしている。
「マナはどうして人の姿になったのかな?」
「んー、わかんない!」
笑顔でそう言ったマナが可愛すぎてやばい。戦闘中ということを忘れてつい頬が緩む。
「お、おいタロー!誰だよそのチビは!」
「さっき言ってたろ。神狼マーナガルムだって」
「んなわけあるかい!」
テラが手を動かすと、向こうにいるゴーレム達が拳を振り上げた。やばい、このままじゃテミスが危ないぞ。
「こら!暴れちゃめーだよっ!」
「がほあっ!?」
ゴーレム達を粉砕しようと俺が動き出したのとほぼ同時、俺から離れたマナがテラの土手っ腹をぶん殴った。ズドン、と幼女に殴られたものとは思えない音が響き、テラは腹を押さえながらうずくまる。
というか、速すぎだろマナちゃん!
「む、無念·········」
「あれ、寝ちゃったー」
そう言ってマナが再び俺に抱きついてきた直後、テミスを取り囲んでいたゴーレム達の身体が崩れ落ち、迷宮全体が小刻みに揺れ始めた。なので急いでマナを抱え、俺はテミスに駆け寄る。
「テミス、無事か?」
「私は大丈夫だが、あの男が少し可哀想だな········」
「確かに、さっきのはえぐかった」
倒れてるテラに顔を向ける。お前はよく戦ったよ。敬礼。
「んで、なんか迷宮が揺れてるな」
「この迷宮を造ったあの男が気を失ったから、形を維持出来なくなったのかもしれない」
「というと?」
「········崩れる」
それを聞いてすぐにテミスを背負い、マナを抱きかかえて俺はダッシュで階段を駆け下りた。もうさっきみたいに同じ場所を行ったり来たりということにはならず、時折壁を粉砕しながら外を目指して全力疾走。
「た、タローっ、い、息が········!」
「我慢してくれっ!」
「あはははっ、はやーい!」
やがて、何個目か分からない壁を砕いた俺は、ようやく迷宮の外に出ることができた。その直後に迷宮が音を立てて崩れ始める。
うおお、あっぶねえええ········!
「テミス、大丈夫か?」
「はぁ、はぁ。本気で死ぬかと思った·········」
「マナは楽しかった!」
マナを立たせ、背中でぜぇぜぇ言ってるテミスを地面に座らせてやる。無事に脱出できて良かった。本当に良かった。
「テラのやつは無事なのかね」
「マナがお腹ぱんちしたら寝ちゃったよ?」
「寝ちゃったなぁ」
マナの頭を撫でる。うーん、ちょっと可愛すぎないかこの子。決して俺がロリコンという訳ではなく、誰もが可愛いと思ってしまうだろうな。
「まあ、一度オーデムに戻ろう。あの迷宮についてギルドに報告してくる」
「あ、でも魔王軍の仕業ってのは········」
「言わないでおく。タローの友達だという魔王は今回の件に関与していないからな」
「ありがとう!」
テミスもいい子だし、俺今すごい幸せだ。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「おい兄ちゃん。まさかそのちびっ子、兄ちゃんとテミスの子供だったりしないだろうな」
「違いますね!出会ってまだ2週間ぐらいしか経ってないのに子供なんてできませんよね!?」
「おっと、確かにそうだな」
あの後、ギルドに向かったテミスと一旦別れ、俺はマナと共に以前テミスと一緒に訪れた居酒屋にきた。俺の隣には、おやっさんこと店主に貰ったおにぎりを食べてるマナが座っている。可愛い。
「てか、そのちびっ子は獣人のようだな。獣人を見るのは数年ぶりだぜ、俺も」
「実はこの子、前に町に現れた神狼マーナガルムなんだ」
「なっ、あの時のデカブツだと!?それにしちゃあえらい可愛らしくなっちまってよぉ········」
「おかわりー!」
「はいよ」
おにぎりを食べ終えたマナに、おやっさんがもう一度おにぎりを手渡す。マナはそれをさっきと同じように食べ始めた。可愛い。
「そういやテミスは来ないのか?」
「ギルドに行ってるから、あとから来るって言ってたけど········」
「ふーん、仲良くやれてるみたいだな」
ニヤニヤしながらおやっさんが俺を見てくる。
「この前テミスが来たんだけどよ、お前の話を何十分も聞かされたんだぞ」
「俺のこと?」
え、怖い。あいつうざいんだよな、みたいなことを言われてたらどうしよう········ってまあ、テミスはそんなことを言う子じゃないか。
「すごく強いんだーとか、一緒にいると楽しいんだーとか言ってたぜ。良かったじゃねーか」
「お、おおお!それはものすごく嬉しい」
「おかわりー!」
「はいよ」
よく食うなこの子は。にしても、テミスがそんなことを言ってくれてるなんて。嬉しさのあまり駆け出したい気分だ。
「兄ちゃんはテミスのことをどう思ってんだよ」
「そりゃあ勿論可愛いと思ってるし、優しいしスタイル抜群だし········最高ですね」
「がははっ!あの子を可愛くないって言うやつなんて、この世には存在しねえんじゃないか?」
うん、絶対いない。あれは同性でも絶対に可愛いって言ってしまうだろうな。
「そういやさ、前におやっさんはテミスのことを娘みたいに思ってるって言ってたけど、俺みたいなのがテミスと仲良くしてるのを見てなんとも思わないのか?」
「お前だからなんとも思わないんだよ。テミスもお前にはかなり気を許してるみたいだしな」
そう言ったおやっさんに軽く頭を叩かれる。
「前にも言ったが、あの子は何度も人に裏切られてきた。だから他者と関わるのが少し苦手らしい。けどよ、お前はそんなあの子が毎日のように行動を共にしてる男だ。そんだけ信頼されてんだよ、お前は」
「まじかー。それは嬉しいな」
確かに、俺達は出会ってからずっと一緒にクエストに行ったり買い物に行ったりしている。それは俺が彼女に信頼されてるからなんだな。
「ご主人さまー」
「ん、どうした?」
「お腹すいてるでしょー?マナのごはんあげるね!」
「おおっ、ありがとう!」
マナから手渡された、元はおにぎりだったものを口の中に放り込み、にこにこしているマナの頭を撫でてやる。
「おいしいぞー。マナは優しいなぁ」
「えへへ」
可愛いので抱っこしたい。そう思ってると、俺がさっき注文した料理を作ってる最中のおやっさんが豪快に笑った。
「お前さん、その子にデレデレじゃねえか」
「狼モードの時も可愛かったけど、今は娘ができたみたいでより可愛く見えるんだよ」
「やっぱお前は優しいやつだ。テミスともこれまで以上に仲良くしてやってくれ」
「あいよ」
「マナもなかよくするよー!」
そう言って抱きついてきたマナを見た俺とおやっさんは、マナのあまりの可愛さに頬を緩めるのだった。
次回、釣りの回