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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
ユグドラシルの守護者達
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第113話 断罪の拳

「・・・よお、久しぶりだな」

「くくっ、そうだね」


アトランディアに上陸した筈なのに、いつの間にか俺は見知らぬ建物の中に立っていた。そして、俺の視線の先ではあの男が槍を片手に薄ら笑いを浮かべて立っている。


「こうして君をこの手で殺せる日を、僕はずっと待っていたんだよサトータロー」

「俺も、お前をぶん殴れる日を楽しみにしてたぜ、ハーゲンティ」


元世界樹の六芒星、ハーゲンティ。

テミスを何度も傷付け、彼女の人生を狂わせた張本人。この男だけは、何があっても許すわけにはいかない・・・俺にとって、ハーゲンティはそんな存在だ。


「で、ここはどこだ?アトランディアなのか?」

「そうだね。君達は上陸と同時に様々な場所に転移させられたんだ。理由は知らないけど、僕の前に来てくれたのが君で良かった」

「余裕そうだな。悪いけど、手加減するつもりは一切無いぞ」

「それは僕の台詞さ。君は強い・・・それだけは認めているからね。くくっ、そんな君の顔をグチャグチャに歪めるのが楽しみだよ」


これはちょっとまずいな。こいつに負けるつもりはないけど、それぞれが神罰の使徒の前に転移させられた可能性が高い。


皆は強いから大丈夫だとは思うけど、一番心配なのはマナだ。一人で見知らぬ地に放り出されていたとしたら、今頃きっと怖い思いをしているに違いない。


テミス達の安否も気になる・・・だけど、ここはとてつもなく大きな大陸の上である。誰の魔力も感じることができないこの状況では、合流するのは非常に困難だ。


「どうやら焦っているみたいだね」

「うるせえ、当たり前だろ」

「そういうところがムカつくよ。まるでテミスは自分のものだから、心配するのは当然だ・・・みたいなその感じが」

「は?」


何言ってんだこいつ。


「急に現れて僕のテミスを奪ってさぁ。一体何をして彼女を自分の言いなりにしているのかな?可愛らしい顔も声も、綺麗な銀髪も肌も・・・全部僕のものだっていうのに」

「お前、何が言いたい」

「テミスは僕のものだ!彼女に命令するのも彼女に触れるのも彼女の声を聞くのも彼女に愛されるのも、この世界で僕だけが許されているんだよ!分からないんだったら何度でも言ってあげるからよく聞くといい!テミスは僕のも─────」


変態を極めすぎると人はこうなるのか。そう思いながら俺はハーゲンティの顔面をぶん殴り、背後の壁に叩きつけた。


顎が砕けてハーゲンティは悶絶しているけど、すぐに再生して俺をギロりと睨んでくる。


「こ、この猿野郎がッ!!」

「変態クズ野郎に猿呼ばわりされたくないな。というかお前、いつまでテミスに執着してんだ?あの時テミスを殺そうとしたくせによ・・・!」


思い出したのは、魔闘祭の日にテミスとノワールに殺し合いをさせ、テミスが瀕死の重傷を負うことになった時の出来事。


それでもまだテミスを自分のものだなんて言い張り、彼女の気持ちを踏みにじり続けるこの男は何様なんだろうか。


「テミスはあのエリスを上回る力を引き出した・・・それは僕のおかげだろ!?彼女の所持者である僕が、もう一度彼女を自分のものにしようとするのは間違っていると思うかい!?」

「いい加減黙れよ、テミスは俺の女だ」

「あァ!?」


所持者ねぇ・・・舐めてんのかこいつ。


「テミスは〝人間〟の女の子だ、〝物〟じゃない。それが分からないんだったら、一生彼女に近付くな」

「く、くくくっ・・・上等だ、サトータロー」


ハーゲンティが槍に魔力を纏わせた。どうやらやるつもりのようなので、俺も攻撃に備えて軽く魔力を纏っておく。


「そんな借り物の力なんかじゃ僕には勝てないってことを、骨の髄まで思い知らせてやるよッ!!」


やはり突っ込んできた。駆け出し、猛スピードで俺目掛けて突き出された槍を避け、ハーゲンティの腹をぶん殴る。


「がっ、かか・・・!?」

「確かにこの力の大半は借り物だけど、それを使いこなせるように俺は特訓してきた。テミスや皆に手伝ってもらいながら、お前達の企みをぶっ潰す為にな」

「それは無理さぁ・・・、全員グリードに殺されてバッドエンドだよ」


腹を押さえながら後ずさり、ハーゲンティは槍を振り下ろした。魔力が刃となって迫ってくる。しかしこれは避ける必要がないと判断し、腕を交差して受け止めてから弾き飛ばす。


「いいや、待ってるのはハッピーエンドだ」

「君達に未来なんて無いのさ!」


再び突っ込んできたハーゲンティが、恐ろしい速度で何度も槍を突き出してきた。その全てを避けながら、歪んだ顔面に拳を叩き込む。骨が砕けた感覚が伝わってきたけど、こいつが相手だとあまり可哀想だとは思わない。


「あー・・・あぁ、安心しなよ。テミスだけは生かしておくようグリードには言っておくから」

「うっせーバーカ。テミスは俺が守るから、そんなの言ってもらわなくても大丈夫だっつーの!」


再生中の顔面を蹴り、浮いた身体を掴んで地面に叩き付ける。


「守る・・・?はっはっはっ、あーーーーっはっはっはっはっ!!自惚れるのも大概にしろサトータロー!!」

「あ?」

「宣言するよ、君に待っているのは絶望だけだ。必ず別れが訪れるってねえ・・・!」


槍が光った。咄嗟にハーゲンティから離れた直後、放たれた突きが天井を粉々に破壊する。今のはあれか、相手の耐久を無視してダメージを与えるとかいう技だな。


「おいおい、結構貴重な建物だったりするんじゃないのか?」

「ここはアトランディアにある古城の一つ。誰が建てたのかも分からない、遥か昔の遺産・・・君もこの城ごと粉々に砕いてやるから安心するといい」

「砕けるのはお前の骨と計画だろ」

「君の未来さッ!!」


立ち上がったハーゲンティの連撃。さっきから同じことの繰り返しだ。槍を叩いて弾き、顔面を殴って壁目掛けて吹っ飛ばす。


あいつの魔力を消し飛ばせば簡単に勝てるけど、世界滅亡まで時間が無いのは分かってるけど・・・簡単には終わらせてやらない。テミスを傷付けたこと、徹底的に後悔させてやる。


「ぐっ、ごふっ・・・!」

「もう終わりか?立てよクソ野郎」


仰向けに寝転がりながら震えているハーゲンティ。気持ち悪いことにその状態で笑っているから、別に怯えたりしているわけじゃなさそうだ。


「想像してごらんよ、大好きなテミスが何者かの手によって八つ裂きにされている光景を」


そして、そんな事を言い始める。


「焦っているね、それでいい。君には絶望を味わわせてやらなきゃならない、楽には死なせない」

「そいつはこっちの台詞なんだが・・・お前、何をするつもりだ?」

「このままでは埒が明かないからねぇ。くくっ、これだけは使いたくなかったが・・・仕方ないか」


立ち上がったハーゲンティが、懐から何かを取り出して口に放り込んだ。その直後、気味の悪い魔力が場の空気を変化させる。


「ぐっ、ぐおおおお・・・!」

「なんだ・・・?」

「真の絶望を知るがいい、サトータロー・・・!カアアアアアアアッ!!」


ボコボコと音を立て、ハーゲンティの肉体が変形していく。手を出さずにその光景を眺めること約数十秒、俺の前に人の面影が一切残っていない巨大な化け物が姿を現した。


盛り上がった異形の肉体に、まるで剣と同化したかのような右腕。ゴーレムの成れの果てみたいな姿になったハーゲンティは、ゲラゲラ笑いながらその右腕を振り下ろしてきた。


「っ・・・!」

『フハハハハハッ!!僕は研究の末、自身を悪魔化させる薬を作り出した!まだ試作品だったが、僕は君を遥かに上回る力を手に入れる事に成功したぞ!』

「チッ、色々と忙しいヤツだな」


床や壁は砕け散り、ハーゲンティの攻撃が掠った右肩から血が垂れる。


「なんで大体の敵って、最終的にこんな感じで化け物みたいになるんだろうなぁ」

『この状態の僕が放つ攻撃は、全て耐久無視の殺戮槍(ブリタルジャブロ)と同じ効果を持っている!もう君に防御という手段は許されないのさ!』

「ふん、それがどうした!!」


笑うハーゲンティの顔面を跳んでぶん殴る。陥没した顔面からは奇妙な音が聞こえてきたけど、一切手は緩めずに今度は顔面を蹴って吹っ飛ばした。


『うががっ、ぐあああああ!?』

「おっと、自慢の即再生はどうした?」


壁に激突し、蹌踉けるハーゲンティ。相手の攻撃を避けるしかないというのは、俺にとってはかなり不利な状況である。しかし何だ、明らかにハーゲンティの再生速度が遅くなっているではないか。


「あぁ、なるほど。その変身はかなりの魔力を消費するのか。それで回復に使用できる魔力の量が減っちまってる・・・と」


だったら俺はどうすればいいか。答えは簡単、再生される前にこいつをボコボコにすればいい。


「お前のせいで、テミスは何回傷付いた?」


凄まじい速度で放たれる耐久無視の斬撃を全て避け、ハーゲンティの腹に拳をめり込ませる。


『ぐばあ!?』

「お前のせいで、テミスは何回涙を流した?」

『し・・・らないねぇそんな事は。僕とテミスの邪魔をする者は、人間だろうと神だろうと悪魔だろうと全員肉塊に変えてやるよ!まずは君からだ、サトータローォォッ!!』

「上等だ─────」


右腕が振り下ろされる。それを俺は避けず、顔面に直撃する寸前に手のひらを使って受け止めた。


『な、なあっ!?』

「真剣白刃取り・・・ってやつだな」


刃の側面に手を当てれば、俺がダメージを受けることは無い。俺に刃を押し当てようとハーゲンティは力を強めてくるが、腕に魔力を集中させてそのまま右腕の刃をへし折った。


『ぐああああッ!?』

「どうした、さっさと再生させなきゃまずいんじゃないのか!?」

『黙れ黙れ黙れええッ!!』

「だあッ!!」


そして膝を蹴って粉砕し、バランスを崩したハーゲンティの顎に膝蹴りをぶち込む。


「お前はもう終わりだよ、ハーゲンティ」

『だ、黙れと言っているだろ!?君みたいなゴミ相手に僕は負けない・・・負けるはずがない!』


そこでようやく負傷箇所を再生させ始めたハーゲンティだったが、直後に突然肉体が崩壊し始めた。


『な、なんだ!?どうして再生しないんだ!?』

「自分を悪魔化させる薬・・・なんてのを飲んだのが悪かったみたいだな。圧倒的な力を手に入れたのはいいけど、お前の身体はその力に耐えられなかったんだろ」

『いっ、痛い痛い痛いいいいいいッ!!!』


さらに暴れ始め、手当り次第に魔力の弾丸を飛ばして城を破壊していく。どうやらそれにも耐久無視効果が付与されているようなので、当たらないよう躱しながら俺は魔力を拳に纏わせる。


『や、やめろォ!何をするつもりだァ!!』

「決着の時だぜ・・・!」

『うがあああ!!死ぬのは、お前だアアアアアアッ!!!』


瞬時に右腕だけが再生し、それが俺目掛けて振り下ろされる。もう避ける必要はない。そのままハーゲンティに向かって俺は駆け出し、迫る刃を全力で殴った。


その直後にハーゲンティの右腕は風船のように弾け飛び、拳の先から放たれた魔力が奴の体を包み込む。


「テミスの苦しみも痛みも悲しみも!全部背負って地獄に落ちろ、ハーゲンティッ!!」

『あっ、があああああ!!サトーォォ!!タローオオオオオオオオオオッ!!!!』


初めてテミスの過去を知ってから、ここまで本当に長かった。俺の魔力はハーゲンティの魔力を完全に消し去り、そのまま城を跡形もなく吹き飛ばす。


吹き飛ばされた俺はそのまま外に放り出され、何度か地面を転がってから仰向けに寝転がって空を見つめた。


「ふう、やれやれだな・・・」


ハーゲンティとの決着はついたけど、まだラスボス戦が残っている。ちょっとだけ休憩したら、すぐに皆を捜さないとな。



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