第11話 迷惑運ぶ四天王
「た、タロー。やはり戻るよりも進んだ方がいい気が········」
「いやいや、多分この壁さえ砕けば外に出れるはず」
テミスを背負いながら壁を蹴って粉砕する。外に出れると信じてそうしたけど、壁の向こう側はまた通路。さっきからこれを何回繰り返したか分からない。
だんだんイライラしてきたぞい。
「ほ、ほら。あそこに階段が」
テミスが指さした場所を見ると、最初に見つけた階段が見えた。向こうにオークの死体があるから多分そう。階段に背を向けて進んでたのに、なんでまたここに戻ってきてるんですかねぇ········。
「はぁ、しゃーないか。全然外に出れないから上に進むけど、テミスは戦闘に参加させないからな」
「それは········」
「怪我人なんだし、これ以上無理してほしくない」
「········」
あれ、黙っちゃった。余計なことを言ってしまったのかと若干焦ったけど、とりあえず俺はテミスを背負ったまま階段を上った。
「マナ、しんどくないか?」
「わんっ!」
「元気だなぁ」
びっくりするくらい長い階段を上り続ける。最初は元気に階段を駆け上がってたマナだけど、途中で疲れたのか俺の足にしがみついてきた。
そんなこともできるのかと少し驚かされながらも、俺達は次のフロアにたどり着く。
「まーた迷路みたいな感じか」
「タロー。その、私を背負っていて重くはないか?」
「全然重くないよ。とりあえず進んでみよう」
上に続く階段を見つければいい。時折出現する魔物を殴って吹っ飛ばしながら迷宮内を探索する。すると、10分後には新たな階段を見つけることができた。
「········タロー」
「はいよ」
「遠い場所から来たとタローは言っていたが、オーデムのギルドに登録したし、町の人達とも仲良くなれていた。でも、いつかオーデムとは違う場所に旅立ってしまうのか·······?」
さっきよりも長い階段だったので歩かずに駆け上がっていると、背負ってるテミスからそんなことを聞かれた。
どうしよう。俺は別世界から来て帰る場所が無いからオーデムに留まるよ、と言うべきか?いや、別にそんなことを言わなくてもいいか。
「それは分からないけど、しばらくはオーデムで暮らすつもり。テミスと一緒にこうして迷宮探索したりするのが、今の俺にとって一番楽しいことだからな」
「っ、そうか」
「おっと、これは········」
テミスと会話していると、先程までとは違って広い場所にたどり着いた。ここが最奥ってことでいいのかな?
「わっはっは!待ちくたびれたぞ、世界樹の六芒星テミス・シルヴァ!そして、魔王様と魔界で相対したという黒髪の人間!!」
とりあえず広い場所に足を踏み入れた次の瞬間、急に上から男の声が聞こえた。
「誰だお前」
「俺は四天王の一人、《大地》のテラ!お前達と勝負する為にこの迷宮を造り出させてもらった者だ!」
「また面倒なのが来た········」
天井付近に浮かんでいた岩の上から茶髪の男が飛び降りる。そいつは俺達の前に着地すると、よく分からないポーズを決めて満足げな表情を浮かべた。
「ようこそ、俺の迷宮へ」
「四天王って変人しかいないんだな」
「それは私も少しだけ思った」
「へ、変人じゃねえし!」
四天王テラが腕を広げると、地面から突然魔物が出現した。
「おっ、びっくりしてるな。こいつは俺が魔法で生み出したゴーレムだ」
「へえ、面白い魔法を使うんだな」
「使えるのはこの魔法だけじゃないぜ。お前ら、この迷宮内で何回も迷っただろ?それは俺が魔法で迷宮の構造を常に変え続けてたからさ」
「は?」
「知ってるぜ、お前が何回も壁を粉砕して外に出ようとしてたの。でも、俺が魔法を使ってたからそれは無理だったってわけ」
つまり、階段の逆方向に進んでたのにまた同じ場所にたどり着いたのはこいつのせいであると。
「すげえだろ、俺の魔法!」
「テミスが怪我したから外に出ようとしてたのに、お前がそういうことしてたから外に出れなかったんだな、俺達」
「ああ、そうだ」
「一発ぶん殴る」
テミスを座らせてやり、テラの前に立つ。
「ははっ、魔王様より強い奴と戦えるなんて夢みたいだぜ!」
「う───」
そして笑うテラの目の前に移動し、拳を握りしめる。
「ッ!?」
「る───」
俺の接近に気づいたテラが、先程生み出していたゴーレムを操って攻撃してくる。とりあえずゴーレムは殴って粉々にした。
「せえッ!!」
「ごえあっ!?」
ベルゼブブと友達になったばかりだから、かなり手加減してテラの顔面を殴る。それだけでテラは勢いよく吹っ飛んでいき、壁に激突して地面に倒れ込んだ。
「ばっ、が········。速すぎだろおい········!」
痛そうに頬を押さえながらテラがそう言う。確かに、俺も自分があんな速度で動けてるって未だに凄い不思議ですからね。
「俺達を誘き出す為に迷宮を造ったってことか」
「そ、そのとおり。ヴェントからこの付近にある町に住んでるって聞いたからな」
「あの野菜星人め。今度会ったら髪の毛全部引きちぎってやる」
さて、どうしようか。このまま帰ってくれたら非常にありがたいんですけどねぇ。
「くそ強いじゃねーか黒髪人間!お前の名前を教えてくれ!」
「佐藤太郎。太郎と呼んでおくれ」
「オーケー、覚えたぜタロー!」
テラの身体から魔力を感じた。こいつ、まだやるつもりかよ。仕方ないので俺も拳を構える。
「さっきのパンチ、手加減してただろ!俺はお前の本気を一度見てみたいんだがなッ!!」
「おだまり」
大きな岩を数個浮かばせ、テラがそれを一斉に飛ばしてくる。砕くと後ろにいるテミスとマナに破片が飛ぶかもしれないので、全部受け止めて一度地面に降ろし、順番に持ち上げて投げ返す。
「うおっ!?」
「人に向かって岩を飛ばすな馬鹿四天王!」
「お前も今俺に向かって投げてきてるよね!?」
恐ろしい速度で飛んでいく岩を躱しながらテラが魔法を唱える。周囲から妙な気配を感じた直後、さっきのゴーレムの倍ぐらいでかいのが4体俺の周囲に出現した。
「やっちまえ、ゴーレム共!!」
『『『『アアアアアアーーー!!!』』』』
「うるさい!」
気味の悪い声を発しながらゴーレム達が拳を振り下ろしてきたので、迫り来る拳を全部同時に殴ってゴーレムの腕を粉砕する。
「大人しく土に還れ!」
腕が消えたゴーレム一体の足を掴んで振り回し、他のヤツにぶつけて身体を砕く。数秒後、ゴーレム達は崩れ落ちて動かなくなった。
「くっ、化け物かよ········!」
「どうする四天王。とりあえずこの迷宮を消してくれ」
「やだね!」
テラが舌を出した瞬間、背後から魔力を感じて振り返れる。すると、足首を負傷してるテミスを数体のゴーレムが取り囲んでいた。
「卑怯だぞお前!」
「この状況を簡単にひっくり返せるぐらいお前は強いだろ?ほら、もっと楽しもうぜ」
「あーもう、ほんと面倒なやつ!」
ゴーレムを操っているのはテラなので、彼を気絶させればゴーレム達の動きは止まる気がする。とりあえずテミスが危ないので早急にテラを気絶させようとした時、突然俺の前に白い獣が飛び出してきた。
それはさっきまでテミスと一緒にいたマナだ。
「マナ!?」
「なんだこの狼は」
マナを見たテラが手元に魔力を集め始める。
「邪魔だから消えてろ!」
「おい、やめ────」
光がこのフロアを照らした。あまりの眩しさに俺も目を押さえて後ずさる。しまった、テラの魔法をマナが浴びてしまったのかもしれない。
「マナ!」
しばらくして目を開け、俺は足元に顔を向けてマナの名前を呼んだのだけれど。何故か視界に映り込んだのは靴を履いていない小さな足。
「········へ?」
そのまま目線を上げると、俺の前には白色の髪を腰あたりまで伸ばした小さな女の子が立っていた。そしてなんと、その女の子の頭からはぴょこんと耳が。そして、よく見れば尻尾まで生えている。
「ご主人さまに魔法ばーんってしちゃだめだよ!」
「お、え········?」
幼女を間に挟んで焦る俺とテラ。ちょっと待て、まさかこの女の子って········。
「ま、マナ········?」
「うん、そーだよ!」
振り返ってそう言ったマナの笑顔はめちゃくちゃ可愛かった。
次回、幼女降臨の回