第105話 因縁の対峙
「チッ、次から次へと・・・!」
真横から迫る〝神獣種〟に手のひらを向け、魔法を放って消し飛ばす。しかし、あらゆる方向から神獣種達は狂ったように迫って来る。アトランディアに移動したベルゼブブは、もう何十分も古代魔獣や神獣種の相手をし続けていた。
「グギャオオオオオッ!!」
「しかも、なんで神獣種は全部屍人と同じでゾンビ化しているのよ、鬱陶しい!完全に消し飛ばさないと、潰しても潰しても動いてくるじゃないの!」
魔法だけではなく、ベルゼブブは肉弾戦も得意としている。魔法を突破してきた神獣種の顎を蹴り上げ、空中で身動きが取れなくなったところを魔法で吹き飛ばす。
さらに翼を広げて飛び上がり、空から襲い来る魔獣達を魔力を纏わせた拳で次々と殴って地面に叩きつけていく。
「面倒になってきたわね・・・。グリード戦に備えて魔力は温存しておきたかったけど、仕方ない。まとめて消し飛ばしてあげるわ!」
そして、上空で魔法陣を展開したベルゼブブは、膨大な魔力を一気に解き放った。
「スカーレットノヴァッ!!」
紅く染まった空から凝縮された深紅の弾丸が放たれ、隕石の如く地上に迫る。それは神獣種程度では止めることはできず、地面に当たった瞬間に凄まじい範囲を一気に消し飛ばした。
「いやぁ、相変わらず素晴らしい!ますます君が欲しくなったよ、紅魔王ベルゼブブ」
しかし、その男は煙の中から姿を見せた。どこか遠くで戦闘を傍観し、今此処に転移でもしてきたのだろう。
「貴方、あの時の・・・なるほど、この神獣種共は貴方が屍化させたのね」
死者を屍人化させる外法使い、ネクロ。父であるサタンを屍人にして操っていたあの男が、再び自らの前に現れた。怒りが身を焦がしそうになりながらも、ベルゼブブは地上に降り立ち男を睨みつけた。
「何故貴方がアトランディアに?」
「私だけではないさ。神罰の使徒のメンバー全員がこの大陸に来ている。それは当然のことだと思わないかい?」
「まあ、そうかもね。私としては好都合よ?目障りな害虫を一気に駆除できるんだから」
「面白いことを言う子だ。世界樹到達まであと僅かというのに、この広大な大陸でどうやって君の言う害虫を見つけ出す。残念だが、このままではグリードにすら会えずに君は死ぬのさ」
そう言ってネクロが魔力を放つ。同時に彼の周囲に四つの魔法陣が出現し、そこから四人の魔族が現れた。
「父に切られた髪も、結構伸びてるじゃないか。まあ、今度は前より短く切ってあげよう。その綺麗な首と一緒にね」
「貴方が直接切るわけじゃないでしょう?」
「そうだね。君の首を切断するのは、過去の魔王四人だ」
「・・・面倒ね」
ベルゼブブには分かった。現れた魔族達はそれぞれ凄まじい魔力を持っており、全員暴走状態に陥った魔王だということが。さらに、僅かだが自分と似た魔力を感じ取り、ベルゼブブはやれやれと溜息を吐いた。
「いいわ、まとめてかかってきなさい。悪いけど、貴方達には用なんて無いのよ」
「面白い!さあ、魔王共よ!思い上がった魔王の娘にお前達の力を思い知らせてやるがいい!」
魔王四人の姿が消える。しかし、ベルゼブブはその場から動かずに不敵な笑みを浮かべていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あらら。どうして私の幻術は、世界樹の六芒星と魔王軍が相手だと全く効かないのかしら」
「そりゃあ全員強い心を持ってるからな。ところでネビアちゃん、おっさんとデートでもしてみないか?」
森の中、ふわふわと浮きながら残念そうにしていたネビアの前に、へらへら笑うハスターが姿を見せる。仲間と離れ離れになって早一時間、ハスターはようやく敵とはいえ人と遭遇することができて喜んでいた。
「夜殺の影とのデート・・・ふふ、それは熱く刺激的な殺し合いということかしら?」
「んな物騒なもんじゃないさ。おっさんはただ、可愛い女の子と楽しくのんびり過ごしたいだけだぜ」
「なんとも素敵で魅力的なお誘いね。でも、初デートは死へ続く道を二人で仲良く歩くだけよ」
「ははっ、そいつはいいねぇ」
不意に、ハスターが目を細める。口元は笑っているが、一瞬で場の雰囲気が変わった。
「グリードの野郎を止めなければ、間違いなくこの世界は破滅だ。なんだかんだ言って、俺はこの世界と生活を気に入ってる。ネビアちゃんの目的は俺達の足止めなんだろうが、悪いけど今回ばかりは手加減なんてできないぜ?」
「っ、ふふ。これが世界樹の六芒星、夜殺の影が放つ殺気なのね」
ネビアもそこでようやく魔力を纏う。グリードの空間干渉を利用して大陸各地に降り立った世界樹の六芒星と魔王軍達に使っていた幻術を全て消し、全力でハスターに挑む姿勢を見せた。
「なっ、こいつは・・・!」
「私が使う魔法は幻術だけじゃない。徹底的に貴方を破壊してあげるから、覚悟することね」
空気が震える。大陸各地からネビアの元に集まる魔力は、量だけならベルゼブブに匹敵する程であった。