第100話 女神と人が手を取り合う時
いつの間にか100話!このまま完結までテンポよく更新していきたい・・・!
「や、やっと見つけた・・・」
長い時間ソンノさんを追い続け、俺はようやく彼女を見つけることができた。意外にもソンノさんはギルドの屋根上に座っており、俺は無駄に王都中を駆け回っていたというわけだ。
「・・・何の用だよ」
「自分を犠牲にしようとしてるギルドマスターには、まだまだ言いたいことがありますからね」
そう言って俺はソンノさんの隣に座ったけど、もう彼女は逃げようとしなかった。にしても暗いな、アトランディアが巨大過ぎて月明かりが届いていないのか。これじゃ朝になっても暗いままかもしれない。
「最初は協力的だったのに、急に身を引けとか言わないでくださいよ」
「それは私が女神として、魔力解放を行わなかった場合の話だ。このままだと、お前達は足でまといになる」
「俺もですか?」
「お前もだ」
ムスッとしながら遠くを見つめているソンノさん。そんな彼女の脇腹にこっそりと手を伸ばし、俺は伝家の宝刀くすぐりを繰り出した。
「ぐっ!?な、何をして、はっ、あははは!や、やめろ馬鹿!」
「うっひっひっひ、協力を認めてくれるまでやめませーん」
「このっ・・・!」
ソンノさんの姿が消える。振り返れば、少し離れた場所に彼女は座っていた。どうやら転移魔法で逃げたらしい。
「それ、ずるくないですか?」
「ずるくない!」
こんなに感情豊かなソンノさんを見たのは初めてだ。なんだか反抗期の妹みたいに思えて可愛らしい・・・なんて言ったら空間魔法で消されるかもしれないので、俺は黙ってソンノさんの隣にもう一度座る。
「さっきから何様なんだお前は!私は女神だぞ?なのに我儘とか言われたりくすぐられたり・・・!」
「いや、今更ソンノ様とか言ったりするのはちょっと・・・」
「お前なんか、気持ち悪い巨大なカエルに食われて一生腹の中で暮らしてろ、ばーかばーか!」
「はい女神らしくない発言でました。というか、食われたら消化されるから途中で死ぬと思いますけどねー!」
「うるさいばーか!」
「ばかばかうるさいですよ、ばーか!」
「「むぐぐぐっ・・・!」」
いつも眠そうで、喋るのさえ面倒そうだったソンノさんが、今はまるでベルゼブブやディーネのように表情をコロコロ変えながら、何度も馬鹿と言ってくる。他に言うことは無いんだろうかとも思ってしまったけど、一生懸命なのが見ててちょっとほっこりするので何も言わないでおく。
「お前ならグリードの強さが分かるだろう!?あいつはお前にダメージを与える程のステータスを持ってるのに、お前は何故戦おうとするんだ!」
「それはソンノさんにだって言えることです!さっき自分の限界を悟ったとか言ってたのに、何で一人で戦おうとしてるんですか!」
「うっ、それは・・・」
「確かにグリードは強い、多分俺よりも強いです。でも、俺やソンノさん、六芒星と魔王軍の皆が力を合わせれば、きっとあいつをぶっ飛ばせますよ」
俺がそう言うと、ソンノさんは自身の魔力を突然一気に放出した。また逃げるのかと思って焦ったけど、座ったままだから大丈夫だろう。
「・・・分かってる、分かってるよそんなことは!でも、これだけ魔力があっても勝てないんだ!」
「だから力を合わせるんです」
「さっきは強がったけど、私じゃ勝てないんだよ!二千年前もそうだった。一人で戦った結果惨敗だ!そんな相手との戦いに、お前達を巻き込めるわけないだろう・・・!?」
「今回は皆が、俺がいます」
「私はっ────」
柔らかいソンノさんの頬を引っ張る。
「むぁ・・・!?」
「大丈夫ですよ。今まで、なんだかんだ言って俺達は、神罰の使徒に勝ってきたじゃないですか。相手が魔王だろうと魔神だろうと、最後まで諦めなければ奇跡は起こります」
「で、でも」
「いや、ノリと勢いで奇跡を起こしましょう。今後のことは、全部終わってから考えればいい。俺達にあってグリードには無い〝絆〟の力、今こそ見せてやりましょうよ」
「・・・・・・」
俺の言葉を聞き、ソンノさんは俯く。そして、暫くして彼女の身体が僅かに震え始めた。
「二千年前に、お前と出会えていたら、今頃こんなことにはなっていなかったのかな・・・?仲間と協力していたら、グリードを倒せていたのかもしれない・・・」
声も震えている。拒絶されたらどうしようかと一瞬不安になったけど、俺はソンノさんの頭に手を置いた。
「思う存分こき使ってくださいよ。俺達のギルドマスターソンノさんの為なら、世界なんて何回でも救ってやりますから」
「だったら、過労死するまで働かせてやる!休憩なんてさせてやらないからな!」
「望むところですよ。ソンノさんがもう二度と悲しまなくて済むように、俺は過労死するまで戦います」
いつもはボサボサの長髪が、今日はものすごくサラサラだ。女神の魔力を解放してから表情豊かになって顔色も良いし可愛いし、これは世界中でソンノさん人気が爆発するかもしれないな。
そんな事を思ってたら、急にソンノさんが俺の胸あたりに顔を押し当ててきた。それからすぐに俺の服に何かが染み込んでくる。きっと、泣き顔を見られたくなかったんだろう。
「うう〜〜〜〜〜〜っ!」
「よしよし・・・」
暫く頭を撫でていると、不意に視線を感じた。振り返ると、ものすごいニヤニヤしてるユグドラシルと目が合う。
「おおう、何こっそり見てるんだよ」
「いやぁ、アークライトのハートまで鷲掴みですか。それにしても、ふふふっ。意外と乙女ですねぇ」
「っ!?お、お前、いつからそこに!?」
「来たばかりですよ〜、ぷぷっ」
急いでソンノさんが俺から離れる。ユグドラシルが纏う魔力で照らされたソンノさんの顔は、これまで見たことが無い程赤かった。
「前から意識はしていたみたいですけど。まあ、彼女さんに遠慮して気持ちは閉まっていたわけですか」
「はあ!?な、何を言ってるんだ!」
「あら、無自覚だったんですか?貴女が生まれて2700年、ようやく恋をする時が来たんですね」
「し、してない!勝手に人の気持ちを決めつけるな!」
何の話だろうか。というか、ソンノさんは自分の年齢を27歳だって言ってたけど、本当は2700歳だからそう言ったのかな。それでも中身は俺やテミス達と同い年ぐらいなのか・・・?
「貴方はどう思いますか?今のアークライト、結構可愛いと思うんですけどね」
「え、ああ、可愛いと思うぞ」
「ふあっ・・・!?」
めちゃくちゃ真っ赤になってる顔を手で隠しながら、ソンノさんは俺達に背を向けた。今までは大人っぽく振る舞っていただけで、本当は照れ屋だったんだな。
「で、ユグドラシル。何かを伝える為に来たんじゃないのか?」
「そうですよ。さっき貴方が言っていましたけど、奇跡を起こしたいのでしょう?ふふ、まず一つ目の奇跡を私が起こしてみました」
「んん?どういうことだ?」
「ギルドの中に戻れば分かります」
奇跡を起こした・・・といっても、ユグドラシルの言うことだからちょっと信用できないんだよなぁ。まあ、とりあえずギルドの中に戻って確認はしてみるけど。
「それじゃ、ソンノさん。そろそろ中に戻りましょうか。皆心配してると思いますし」
「・・・う、うん」
うん、だと!?ふーむ、これまで決してそんな返事をしたりしなかったソンノさんの『うん』は、可愛らしくてなかなかレベルが高いな。
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「奇跡、奇跡ねぇ・・・」
向こうからは、気持ちを切り替えたソンノさんと話す皆の声が聞こえてくる。時折ソンノさんの笑い声も聞こえるから、もう彼女は大丈夫だろう。
そして俺は、ユグドラシルが起こしたという奇跡を探してギルド内を歩き回っている。しかし、それらしきものは発見できていない。
「やっぱりあいつの嘘だったか・・・」
とんでもないことが起こったんじゃないかと、ちょっとだけ期待してたんだけど。そう思いながら俺は、何となくディーネが寝ている部屋の扉を開けて中に入った。
「酷いよな、あれでも女神なんだぞ?はは、ディーネも起きたら騙されるかもしれないから気を付けて・・・え」
そしてベッドに横たわるディーネに近寄り話しかけた時、俺はとんでもないことをあの女神がしてくれたことに気付く。
「ま、ま、まじかああああっ!!」
俺の声を聞いて皆が駆けつけるまで残り十秒。視線の先では、全ての怪我が完璧に治っているディーネが、うっすらと目を開け笑みを浮かべながら俺を見つめていた。