第10話 太陽隠しの巨大迷宮
今回短めです
「おっす、サトーの坊主」
「どうもー」
町の人達と挨拶を交わしながらのんびりと散歩中の俺。最初の頃はどうなるのかと思ってたけど、今では前のようにステータスについてしつこく聞かれることもなく、一人の町民として暮らせるようになった。
いやぁ、平和っていいもんですなぁ。
「ん·········?」
なんて思ってたら、急に太陽の光が何かに遮られた。雲に隠れたのかと思ったけど、よく見れば町のすぐ近くに突然出現した超巨大な山に光が遮られたみたいだ········山?
「な、なんだぁ!?」
「急に何かが生えてきたーー!?」
町の人達もびっくりしている。やっぱり不思議な世界だな。急に山が出現するなんて········って、いくらなんでも異常事態だろこれは。
「た、タロー!」
「テミス、こりゃ一体何事だ!?」
山を見上げてたら、向こうからテミスが駆け寄ってきた。今日も髪がサラサラで可愛いなぁテミスは。
「なんて思ってる場合じゃなかった!テミス、この世界では急に山が生えてきたりするのが当たり前だったりするのか!?」
「いや、そんな現象が起こるはずがない。これは恐らく何者かの手によって造り出された山だ」
「まじですか」
魔物の仕業か、それとも人間の仕業か。まあ多分だけど、どうせ魔王軍関係だろうなこれは。ベルゼブブは関与してないと思うから、四天王とかいう連中が勝手にいらん事をしに来たってとこか。
「とりあえず山を調査した方がいいんじゃないか?このままだと太陽の光が毎日遮られる。日照権侵害だぞこりゃ」
「よし、調査か。一応ギルドに報告してから向かうとしよう」
「了解!」
いや、山というより塔か?まあどちらでもいいけど、とにかく今は調査に集中するか。
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「なるほど。ここは迷宮だったのか」
「どーりで魔物がウジャウジャ居るわけだ」
飛びかかってきた巨大なカエル、ポイズンフロッグを殴って吹っ飛ばす。この前テミスに借りた本に載っていた魔物は殆ど覚えた。あれだな、図鑑見てはしゃぐ子供の気分だ。
んで、その時に迷宮の存在も知った。世界中に存在する危険な場所。魔物の群れが住み着いており、侵入者を排除する為の罠付きの迷宮もあるらしい。
既に最奥まで調査済みの迷宮は冒険者達のレベル上げの場になるらしいけど、今回俺達が訪れた場所はまだ誰も挑んだことがない未知の迷宮。奥に行ったらお宝とかあるかなぁ。
「わんっ!」
「ん?どうしたマナ」
向こうにある壁の前でマナが吠えた。何の変哲もないただの壁だけど、もしかしたら········。
「おおっ、道があった。お手柄だぞぉ、マナ」
殴って壁を砕いたら新たな道が現れた。なるほど、道が隠されてる場合もあるのか。とりあえず嬉しそうにしているマナをなでなでしておこう。
「ふむ、奥に階段があるな」
崩れた壁の向こうを見たテミスがそう言う。なるほど、あれを上って山の頂上を目指せばいいのか。
「んじゃ、先に進んで────」
罠に警戒しながら壁の向こう側に足を踏み入れる。その直後、突然後ろから大きな音が聞こえた。
「ぐっ·······!」
「テミス!?」
振り返れば、オークが振り下ろした巨大な棍棒を、片膝をつきながらテミスが剣で受け止めていた。天井が崩れてるから、多分上から飛び降りて来たんだろう。
とりあえずオークの顔面を殴って破裂させ、死んだのを確認してからしゃがんで足首を押さえているテミスに声をかける。
「大丈夫か!?」
「あ、ああ。少し足首ゆ痛めてしまっただけだよ」
そう言ってテミスは立ち上がる。けど、歩き出してすぐに彼女は表情を歪めた。よく見たら、足首が物凄く腫れているじゃないか。
「無理するなよ、テミス」
「大丈夫。このぐらいなんとも········」
「やれやれ、痛くないはずがないんだからさ」
テミスに背中を向け、姿勢を低くする。そんな俺を見てテミスはキョトンとしてるけど、流石にあの状態の彼女を歩かせるわけにはいかないので。
「一旦引き返そう。ほら、おんぶするから」
「ひ、引き返すなんて、そんな········」
「はーやーくー」
「うぅ········」
俺の背中に柔らかい感触が伝わる。ふぅ、これはやばい。これはやばいぞッ!!
「すまない、タロー。私のせいで········」
「いや、気にすることはないよ」
歩く度に背中がどえらいことになってる。テミスは後ろにいるのに、めちゃくちゃいい香りがする。
「わんっ!」
「うおっと。こらこら、足を噛むなよー」
幸せだなぁって思ってたら、急にマナが俺の足をガジガジ噛み始めた。どうしたのかは分からないけど、ちょっと歩きにくくなったぞマナよ。
「·········あれ?」
それからしばらく迷宮内を歩いていた時、俺はあることに気が付いた。ここ、さっきも歩いたような気がするんだが。
「やべ、まさかの迷子パターンか?」
「タローは来た道を引き返しているだけだろう?」
「そうなんだけど、同じとこをグルグル回ってる気がするというか········」
少し歩いて角を曲がる。すると向こうにさっき俺が殺したオークの死体が見えてきた。さらにその向こう側には崩れた壁と上に続く階段が見える。
「あー、これは········」
進行方向にある壁を全部粉砕しないと帰れないパターンですね。
次回、案の定奴らの仕業の回