第1話 気が付けば異世界
主人公はアホです
「え、あの、誰ですか?」
そりゃこっちの台詞だよ超美人さん。
周囲を見渡せば、一面黒色のよく分からない場所に俺は立っていた。そして俺の前にいるのは、ブロンドの髪を腰あたりまで伸ばした女性。困ったような表情を浮かべながら見つめてくる彼女は俺がこれまで出会った異性の中でダントツの美しさだ。
「俺は佐藤太郎、この前18歳になったばかりの一般人。君は?」
「この空間を管理している見習い女神のルナと申します」
「ルナか、いい名前だ」
状況が分からなくて少々混乱しているが、あとで食事に誘ってみよう。さて、俺が彼女の自己紹介を聞いて気になったこと、それは『空間』『女神』という単語が出てきたことだ。
「えーと、俺がなんでこんな場所にいるのか分かる?」
「ごめんなさい、私にも分からないんです。暇だなーって思ってたら、急に目の前に貴方が現れて········」
暇だなーって言い方が可愛いよね········ああ違う、そんな事今は関係ないだろ俺。
「夢じゃない········よな?」
「はい、この場所は〝ユグドラシル〟と呼ばれる世界の裏側に存在する異次元です」
「地球じゃないのか?」
「ちきゅう········というのは国の名前でしょうか」
「惑星だよ。あれ、知らないのか」
「勉強不足です········」
シュンとしてしまったルナちゃんすごい可愛い········じゃなくて、まさか今いる場所が異世界だとは。
「もしかすると、何らかの拍子にそのちきゅうという場所からこちらに飛ばされてきたのかもしれませんね」
「な、なるほど。ところで、どうすれば地球に戻れるとか分かったりする?」
「うぅ、それも分かりません」
「いや、気にしないで。別にルナちゃんは関係ないんだから」
困ったなこりゃ。まさか、このまま元の世界に帰れないとかそういうパターンの奴かこれは。そう思って内心頭を抱えていると、ルナちゃんが申し訳なさそうに俺を見てきた。
「あの、もし良ければ表の世界に送り出す事は可能なのですが········」
「ん?」
「この空間から、貴方と同じ人間が住む地上に送り出すのです」
「まじか」
これが夢じゃないのなら別に現状を受け入れるし、一度ユグドラシルとやらがどんな場所なのかは見てみたい。
「それじゃあ頼む」
「分かりました。早速送り出しますね」
ルナちゃんの身体が輝く。まさかこれ、魔法というやつなのでは?そうだとしたら、ユグドラシルって魔法使える人がいっぱいいる世界なのかもしれない。これは期待できるな。
「また機会があればお会いしましょうね、サトーさん」
「あ、連絡先交換─────」
急に景色が変わった。
そして多分だけど、今俺物凄い速度で落下してる。緑に覆われた地上目掛けて俺の身体はどんどん急降下してるのが分かる。
こりゃ駄目だ、絶対死んだ。あまりにも急すぎて混乱することも無い。とりあえず心残りはもう家族の顔が見れないことと、ルナちゃんの連絡先聞くの忘れてたって事だけだ。
「こんな最期嫌なんですけどおおおおッ!?」
凄まじい衝撃が全身を駆け巡る。
しかし、ただそれだけ。しばらく経って起き上がってみれば、俺を中心に巨大なクレーターが出来上がっていた。
お、おかしいな、なんで死んでないんだろう。いや、生きててほんと良かったんだけど、全くの無傷ってどういう事だ!?
「·······お?」
自分の体を見て焦っていると、向こうから何かが飛んでくるのが見えた。でっかい鳥に見えるけど········あれってドラゴンじゃないか?
赤い身体に長い尻尾、そして黒い角にバサバサ羽ばたかせてる翼。そんなデカブツが、こっちに向かって猛スピードで飛んできているという現実。
ま、まさか、音に反応したとか?
「いやー、でかいな·······は、ははは」
俺の目の前に着地したのはやっぱりドラゴンだった。全身から汗が吹き出し、思わず変な声が出てしまう。
「グルルルル・・・」
き、牙がやばい!爪も長いし、完全に俺のこと餌だと思ってませんか!?どうしようか。と、とりあえず一発殴ってから全力で逃走してみる?
「グオオオオオオオオッ!!!」
「で、デカイ音出してすみませんでしたッ!!」
急に吠えたからびっくりして、ついドラゴンの腹付近を殴ってしまった。ただそれだけなのに、ドラゴンはまるで車に轢かれたかの如く向こうに吹っ飛んでいき、岩壁に激突してそのまま動かなくなってしまう。
········まさかのパンチ力。あの高さから落ちて無傷だったからまさかとは思ったけど、これはよくある『超絶強くなった状態』というやつなのでは?
「グオオオオ!!」
とか思っていたら、またドラゴンが飛んできた。しかも3頭いるし。このままここに留まってるとドラゴンが群がってきそうなので、生きていることに感謝しながら俺は駆け出した。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「くっそ、どこだよここ········」
クレーターから脱出してしばらく歩いてみてるんだが、この森どこまで続くんだ?そろそろ飯食いたいし喉乾いた。
「キシェアアア!!」
「うおっ!?」
草むらから飛び出してきたカマキリ巨大版みたいな奴を反射的に殴ると破裂した。は、腹減ったな。こいつ食べれるかな?
でも飛び散った液体緑色だし、臭い凄まじいし········やっぱりドラゴンとかの方が美味いよな。さっき吹っ飛ばしたドラゴン達を焼いてみれば良かったかもしれない。
あーもう、ゴールの無い迷宮に迷い込んだみたいだよ畜生め。
「おっ、あれは········」
なんて思ってたら家が見えてきた。どうやら俺は街にたどり着いたらしい。いい匂いもするし、ちょっと立ち寄ってご飯食べさせてもらおうかな········いや待て、俺お金持ってないぞ。
どうしたものか。やっぱり森に戻って食べても腹壊さなさそうなキノコとか探してみるか········?
そう思ってた時、彼女は現れた。
「そんな所で突っ立って何をしているんだ?」
声が聞こえたので振り返れば、そこには天使と見間違えてしまう程の美少女が立っていた。
肩にかかるくらいの銀髪、話し方からは想像できない可憐な顔つき、そして豊満な胸·······ふむ、百点満点だな。
「い、いやぁ、腹減ったんだけどお金持ってなくて。一度森に戻ってキノコでも探そうかなと」
「そうなのか。もしよければ一緒に食事でも········」
「え、いいんですか!?」
「武器を持っていないようだし、本当にお金が無いのだろう?丁度私も何か食べようと思って戻ってきたから」
「ありがとう!お金は絶対返すからね!」
「あ、ああ。別に返さなくてもいいんだが·······」
こんな美少女と食事ができるなんて。
これは多分·······いや、間違いなく100%、『運命の出会い』ってやつなんだろうな。