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#06 無器用な二人の信頼確認【改編版】

今回の話でプロローグの様な始動編が終了します。


仕事が年末に近くなり死ぬほど忙しい状況でありながら、作品を描くモチベーションを与えてくださった読者様達に感謝を御伝えします。


そして果たして望と空が解り会うことが出来るのか、人の感情が解らず自分の思いをぶつける事しか出来なかった望が彼女と向き合う姿を見守ってあげてください。


・指摘していただいた誤字の修正を致しました(1/25)

・話の内容を大幅に改編しました(7/10)

(いったい、何がどうなっているの……)


肌寒い秋風が吹く五重の塔の5階に位置する踊り場で、佐々木望と林原空の二人の美少女が手が届かない程の絶妙な距離を取りつつ、御互いの様子を伺う形で向かい合っていた。


(彼女が名乗った名前が正しければ、昨日駅で告白してきてくれた可愛い男の子と言う事になってしまうけれどそれは考えたくない。でも、彼が様々な奇跡を行っている事で有名な狐乃街稲荷神社の子だったのならば、性転換ぐらいの掟やぶりは無くはないのかもしれない……)


林原空は今日必然的に出会ったであろう、目の前に立つ自分が求める異性の理想像に極めて近い容姿と性格を持ち。しかもほぼ他人である自分に痛くなついてくれている、昨夜自分が告白を断ったにも関わらず、目の前に現れた望に警戒の目を向けていた。


内心では最初興奮しっぱなしであった空であったが。緊急事態である今は煩悩を捨て去り、探偵の様な思考パターンに切り替えられた頭の中で状況分析を始めていた。


(しかし何故だろうな、彼からは私にすり寄ってきた“奴ら”とは違う感じがする……。心から私の事を慕ってくれているような、そう、まるで子犬の様に無垢な感情を感じる。……つっ、何を迷っているんだ私は? 本来なら早く逃げるべきなのに……)


彼女の中で思考が纏まらず、彼女は自然と相手を突き放す怒りが籠められた声で望を追及していた。



「何が違うのかしら? 貴方は私に振られても諦めきれずに、何らかの形で容姿を偽装してまで私に近付こうとしたストーカーでは無いの?」


その言葉に、夢から現実へと引き戻されやや涙目になっていた望の声は少し震えてはいたが、空の目をしっかりと見つめながら答えて行く。


「確かに私は昨日、林原さんに振られて泣きそうになるぐらい凄くショックでした……。でも、林原さんの立場で考えたら見ず知らずの人間に告白されても林原さんからすれば迷惑なだけだったと割り切る事は出来ていたのです……。貴方の未来を見るまでは」


「私の……未来?」


その想定外の望の解答に冷静な彼女も流石に目をパチクリさせる事しか出来ない。



「はいなのです。私の友人に仙狐と呼ばれている神様の使いをされている方がいるのです。その方が普段私たちの悪い未来を予知して陰で助けてくれているのですけど……。私んは林原さんが様々な理由で追い詰められて自殺する未来を伝えられたのです」


その余りにも現実場馴れした話に頭を殴られた様な衝撃を受けた空は思わず軽くよろけてしまう。


「林原さん!!」


そのよろけて倒れそうになる彼女を人の数倍の身体能力を持つ望は彼女が倒れる前に直ぐ様に駆け寄り、彼女が倒れる前に抱き寄せる事で支えて見せ、敵対していた筈の二人は思わず近距離で見つめ合う。


「そんな……そんな酷い嘘をついてまで私に詰め寄ろうと言うの望さん……?」

「嘘じゃないのです林原さん!! ……残念だけど、本当に起きようとしていることなのです……」


望はきつく睨み付ける空に、包み隠さずきつ姉と山下から伝えられた彼女の未来を伝えていく。冬に入った頃に彼女の母が事故に見せかけた計画的殺人の犠牲になる事、その悲しみの余りに空が自暴自棄になり駅のホームで飛び降り自殺を図ること。


「お母さんが殺される!? それは冗談では無くて、そしてお母さんは助かるの!!?」


彼女にとって一番大切な人である母が殺されると聴かされた空は流石に冷静ではいられず、思わず望に食いかかるように問い掛ける空の姿に、望はずっと彼女に伝えたかった良いニュースを(ほが)らかな笑顔で伝える。


「もう心配しなくても大丈夫なのです、林原さん。既に林原さん達を苦しめようとしていた者達は神主さんの働きかけで別の罪状で逮捕されていて、その他の林原家を脅かす存在も神主様達が主導され、継続的な警戒が続けられていますから安心してくださいなのです」


「本当……?」


「はい!! 神様に誓って本当なのです!! だからもう、安心して欲しいのです……」


そう言いながら望は自然と妹達にするように自然と空を安心させる為に彼女を優しく抱き締め、頭をゆっくりと撫でていく。


彼女は望のただ純粋に力に成りたいと言う本心を痛いほどに感じる事が出来、自然と望へと身体を委ねていた。様々な思い出と感情が沸き上がって来て自分だけでは支えられそうに無かったから。


男性に恐怖感を覚える自らの為ならば恥を厭わずに美少女の姿となって見せた望ならば自分の全てを受け入れてくれるのではないかと思って、信頼する母以外の人に空は人生で初めて信頼を寄せ始めていた。


そんな時だった。突然、望の耳に不快な息遣いとキリキリと言う金属が曲がるような音が、人と比べて1000倍近くの聴力を持つ犬科の狐耳を持つ望の耳に入って来ると共に、妙な事をつぶやく男の声も聞き取る事となる。


《……全く、あんな美人さんを殺すのは気が引けるが……お仕事なんでな……》



その言葉の意味を望が知ることが出来ない内に、望の耳にガスが抜けるようなパスッと言う音が聴こえたと感じた所で、突然五重の塔の上にいる望達目掛けて弾丸が11時の方角から飛来しーー



「林原さん伏せてなのです!!!」

「えーー」


咄嗟に空を伏せさせる為に覆い被さった望の右肩に直撃し、貫通する。


「あがぁぁぁ!!?」

「望さん!!?」


右肩に走る人生で普通は経験する事が無いであろう痛みに歯を食い縛って耐えながら、望は混乱する空を抱えて祭壇がある間へとダイブすると、先程までいた場所に弾丸が更に撃ち込まれた為に床の木に穴が空くがそんな事を構ってはいられない。


「そんな……本当に私達命を狙われていたの……!?」


望が語ることに内心は全く信じていなかった空であったが、完全に自分の胸元を貫いていたであろう弾丸の跡を見て、一気に血の気が引き、現実感と絶望間が心に溢れてくる。


そんな彼女の表情を見た望は何とかして空だけでも助けたいと言う気持ちが溢れだしてくる。


「うぅ……林原さん、私が飛び出して囮になりますから……。相手の注意がそれている内に、銃が届かない棟の裏側に回ってください……」


血が滲む肩を強く押さえて止血し、脂汗を流しながら無茶な指示する望に、冷静さを取り戻した空も案を述べる。


「無謀です望さん!! それに、銃を持つ人が一人とは限りません!! ここは警察が来る時間を稼ぐ為に隠れ続けましょう!!」


「でも……ここの扉は閉めることが出来なくて、外からは丸見えの場所なのです……。ごめんなさいなのです林原さん……林原さんを助けるとか言っておきながら。それは私の独り善がりだったのです……!!」


先程までは【自分が林原さんを助ける!】と息巻いていた自分自身がどれだけ無力で、自惚れていたかを実感した望は溢れそうになる悔し涙を堪え、先程から建物の脆い木造部分を中心に銃撃を加えて来ている襲撃者の動きに注意を集中させる。



《ちっ……完全に中に隠れちまいやがった。じゃあ場所を変えるか……》


「……動いた、林原さん。今なら抜け出せます、さあ、手を……。林原さん?」


「望さん……」


何故か自分の事を先程までは敵意を持っていた目ではなく、何処か優しさを帯びた目で自分の事を見てくれている空に望が戸惑わされている間に、望は空に優しく抱きよせられていた。



「はわわわ!!? 林原さん一体何を?!」


それは皮肉にも虐げられ続けて人の心に敏感になり、本心を見抜く力が鍛えられた彼女だから出来た短期間での意志疎通であり。彼女は望が恋心はあれど本気で自分の事を守りたいと願っている人である事を見抜くにいたったのである。


「……が……う」

小さく聴こえたその声に望は手を動かし続けながら聞き返す。


「林原さん?」


「……私なんかのために助けに来てくれてありがとう。……本当にありがとう」


「……林原さんは立派な人なのです。私は、林原さんが人のためならば進んで自分を犠牲にする事が出来る事を知っていますし。私は……その……」


自分自身を軽視し、蔑む彼女を擁護(ようご)する為に自分自身の思いを改めて伝える為にも望は彼女に再び告白する。


「望さん?」


「一年前の通学の途中で林原さんに痴漢から助けて貰いました。林原さんは覚えていますか? まだ中学生どころか下手すれば小学生の女子に見られていた私が、通勤途中のおじさんにお尻と胸をずっと触られて怖くて、周りの人達も物珍しそうにチラチラ見るだけで助けに来てくれなくて泣き出しそうになっていた所に林原さんが助けに来てくれたのです!」





早朝のラッシュアワーで人がすし詰め状態の電車内で、男子用の黒い学生服を身に付けた望は出入口の窓際に立ってつり革に掴まっており。そしてその背後からねずみ色のスーツ姿の50代程の男性が望の身体をまさぐりながら、窓に映る望の悶える姿を見ながら悦に入っていた。



「やめて……くだ……さい……」

「何を言っているんだ、そう言う君だって楽しんでいるじゃないか?」

「そんな訳……ない……ううッ……じゃないですか……!」

「君にはホモになる素質がある……。こんなに私を受け入れているんだからね?」

「やっ……! 嫌!!」

「ふひっ、やはり私の見込み通りだっーー」



その言葉を吐き終わる前に、行為を行っていた男の手は掴みとられ捻りあげられる。


「いててて!!! やめろ何をする!? ひいっ!?」


「そこまでにしなさい!! 無力でいたいげな子供を自らの欲求の捌け口の為に襲うだなんて、最低な行為だと貴方には解らないのか?!」



彼の手を強い剣幕で批判しながら締め上げて見せたのは望と同じく通学途中の空であり、彼女の目には明確な敵意と軽蔑が込められており、先程までは欲望のままに行動していた大の男が怯える程であった。



やがて男は駅に着き次第別の車両でパトロールをしていた私服警官に連れ出されて行き、望と空も証人として駅員室で一時間程の事情聴取を受けた後に解放され。望が御礼を言おうと彼女を探した時には既に彼女は別の電車に颯爽と乗り込んで行ってしまった後であり、望はもどかしさを抱えたまま日々を過ごす事になるのだが。





「まさか林原さんが私を助けてくれたように大勢の人達を助けていたとは知りませんでした」


望は学校が始まる月曜日と休みとなる土曜日の夕方に毎週空が電車に乗っている事に気づき、彼女がその移動中においても高齢のかたの手助けをしたり、自分勝手に床に座り込んで騒いだりマナーの悪い若者を叱り、スリや痴漢を捕まえる等の活躍をしている事に気付かされる。



「……自分のしていたことを改めて言われると照れますね。そうか、あの時大変な目に会っていた男の子が望さんだったんですね。あの時は挨拶もせずに立ち去ってしまって失礼な事をしてごめんなさい」


「とんでも無いのです! 私の方こそ先に御礼を言うべきだったのに先走って告白してしまってごめんなさいなのです!!」


御互いに密着しあった状態で小さく頭を下げる二人。そんな御互いに変な事をしている姿を客観的に想像して可笑しくなった二人は、込み上げてくる笑い声を抑えきれず最初は漏れ出すように声を出し、最終的には周辺に響き渡る程の大笑いとなっていた。


二人は絶望的な状況の真っ只中であったが、この時はただただ幸せだった。


自分が大好きだった人と解り会えて、自分の小さな努力を認めて愛してくれる人がいて、心から信頼しあえる人と出会えて。



「それじゃあ、おあいこと言う事で許して貰えないかな?」


「こちらこそ、林原さんに許して貰えるなら私はなんだってして見せるのです!!」


「そうか。じゃあ二つ程お願いしても良いかな?」


「はいなのです! 何でも言って欲しいのです!!」


まるで赤子を抱える様に望に抱き抱えられ、御互いに密着しあう事に居心地の良ささえ感じている空は穏やかな表情で提案を出す。


「私の事を……その、生きて帰れたら空お姉ちゃんと呼んでくれないだろうか?」


流石の空もお姉ちゃん読みをねだる事は恥ずかしかったらしく、耳と頬を真っ赤に染めており。その予想外の提案をされた望は意味を汲み取れていないらしく。口は笑みを作ってはいるが目をパチクリさせて固まっている。


「えーと……私が林原さんをお姉ちゃんと呼んだら……って、えぇぇ!?」


「だだだ駄目かな!? 望さんの様な容姿の可愛らしい妹からお姉ちゃんと呼んで貰うのがささやかな私の夢なんだ!!」


「いえ! 決して嫌と言うわけではなくて、寧ろ私も憧れてはいたのですがいざ言われると緊張してしまいましてですね!?」


緊張の余りに二人してパニックになりつつ、望と空は御互いに顔全体を真っ赤に染めながら最初のお願いを何がなんでも達成するために身構える。


「えへへ……こんな素敵な約束してしまったら、尚更負けられないのです!」


その言葉を形とするかの様に、望の三本の尻尾が三本共にピンっと立ち上がり。望の身体を覆う様に微かな光が足元から競り上がっていく。


「綺麗……」


その光景を見ていた空は芸術を見るように目を輝かしてその後ろ姿を見つめ、


《なっ?! 何だよあれは!? しかもよく見れば俺のいる方向を見てるじゃねーか?!!》


襲撃者は何が起っているのか解らずに混乱させられる。



「手順は……きつ姉がくれた知識通りだと……こうなのです!」


そんな二人を余所に、望は右肩を撃たれていた為に左手を拳銃の様にして人指し指を襲撃者に合わせて構え、先ず狙いを安定させる為に目を閉じて深呼吸する事で呼吸を安定させる。


「すー……はー……」

「望さん?! そんな所にいたら危ないよ!!!」


《ちっ、何だか知らねーがさせるかよ!》


だが空の指摘通り、そんな悠長な事をしていて相手が見逃してくれる筈もなく。遠距離から数発放たれた弾丸が単発ではあるが望の髪、尻尾の毛の部分、左頬を掠め少し血が滲むが望は声もあげずにゆっくりと目を開けて襲撃者に照準を合わせる。


「戦いは、慌てた方が負けなんだって。きつ姉が言っていた通りだったのです。……今度はこっちの番だよ、狐火弾(きつねびだん)なのですっ!!!」


その宣言通り、望の構えられた指先から赤く燃え盛るピンポン玉程の火の玉が170キロ程の速度で、神社の敷地外の山奥からスコープ付きのライフルで望達を狙っていたジャージ姿のサングラス男をミサイルの如く追尾しながら飛んで来るものだから、男は絶望した表情で一言呟く。


「オウ……マイゴッド……」



次の瞬間、トマトがぶつけられたように火の玉が男性に命中して破裂し、持っていた銃と衣服だけが燃えた所で、火は男に外傷を負わせる前に望の意思で消え去った。


「お、終わったのです……」


緊張と踏みとどまっていた力が抜けて、その場にへたりこむ望。既に身体に纏っていた光も失せ、ピンっと張り積めていた尻尾も元の状態へと戻っていく。


そんな彼を背後から見守っていた空は恐る恐る望に近より、声をかける。


「望さん? もう大丈夫ですか?」


「うん、悪い人は私の火に当たってしまったせいで、冬空の下で今ガタガタ言いながら、くしゃみをしているよ。もう警察の人が犯人の側まで来ているから、もう大丈夫なのです!」


そう言って、空を元気付ける為に笑顔で振り返りながら左手でブイサインをする望に思わず空も笑みを返しつつ、そっと望の側に連れ添う形で肩を並べる。


「ありがとうございました望さん……。貴方がいなければ私は殺されていたかもしれません……」


「お力になれて本当に良かったのです……。空さん、それで、あのですね?」


「うん? どうされたんですか?」


少し空気が読めていないと言われるかも知れないが、望は約束していた空に対するお姉ちゃん読みをさせて欲しいとお願いし。空はそれを苦笑いしながら承諾する。



「じゃ……じゃあ言わせて貰いますね?」

「う、うん。お願いします」

「空お姉ちゃん、だ~いすき! なのです♪」


途端に繰り出されたのは、ひまわりの様な明るく眩しい美少女スマイルと甘ったるい妹ボイスであり。正面からモロに直撃を受けてしまったシスロリコンな空の▽リセイノホウソク ガ ミダレル!!


「うわあぁぁぁ!!! そんな無垢な笑顔を何処から……!?」

「空お姉ちゃ~ん! 一緒におままごとしようよー!!お姉ちゃんがお父さん役なのです!」

「あああぁ……止めて、いや止めないで……」


空が心の底では楽しんでいる事に気付いた望は依り一層演技に力を入れて、空お姉ちゃんを満足させるために本気を出し始める。


「えへへ……。空お姉ちゃん、今日はどんな絵本を呼んでくれるの?」

「そっ、そうだね。シンデレラとかどうかな?」

「わーい! のぞみシンデレラ大好きなのです! 空お姉ちゃん早く読んで欲しいのです!!」

「そうか……」

「勿論一番大好きなのは空お姉ちゃんなのですけどね……えへへ」

(ううっ!? まさか私がシンデレラに嫉妬させられている事まで計算に入れているだなんて!!)


最早色々な意味で限界を迎えようとしている空お姉ちゃんの様子を読み取ったのぞみは、小さな体ですかさず彼女に抱き付き声色を元に戻して語りかける。


「だから、これからも側にいさせて欲しいのです……。余り役に立てないかも知れませんが、空お姉ちゃんの支えと力になりたいのです……」

「望さん……」


その言葉に舞い上がっていた空のテンションも次第に落ち着いていく。彼女に抱き付く望の体と声が捨て猫の様によわよわしく震えており、その事から彼女は彼の心境を汲み取る事が出来た。


望の存在は空を阻む者が排除されて未来が紡がれた今の状況においては決して必要なものではなく、空が昨日と同じ様に望を突き放すならば二度も好きな人に振られた人間は立ち直る事がより難しくなる。


それは今までの生活と性別を捨ててまで彼女の為に尽くそうとした望に取っては致命的な物であり、望は最初の告白で振り絞った以上の勇気を要求されていた状況で彼女と向かい合っていた。


相変わらず曇り空が続く狐乃街上空は望の不安を表している様に晴れる気配が無かったのであるが、暫しの沈黙を終えて空はすがりつく望を優しく抱き締めていく。



「……望さんには私のせいで沢山の心配と苦労をかけてしまった。男性を嫌い、貴方に対しても見下すような失礼な態度を取って酷く傷付けたと思う。それでも貴方は私を好きでいてくれた、人生をかけてでも私を助ける為に全力を尽くそうとしてくれた……」


曇り空の五重の塔に暖かい水滴が二人に降り注ぐ。


それは母以外の人間を信じる事が出来なくなくなり、凍りつかせていた心と感情を包んでいた氷が溶けて産まれた感情の雫であり、彼女が本来の自分を取り戻し始めた証でもあった。



「今度は私が貴方の事をもっと知って心から恋をしたい!! だから……だから、引き続き私の側にいてください。望さん!」


最早彼女は自らの本心を隠そうともせずに精一杯の自分の気持ちを望へと投げ掛けていた、望も彼女の心境の変化に気付き、抱きつき密着していた状態から上半身を起こして彼女と向き合う。



彼女の目からはポタポタと涙がこぼれ落ちており、それでも彼女は手で拭いもせずに望の返事を待ちわびている。そこにあるのは望が知っているクールなお姉さんである空の姿ではなく、一人の少女である穏やかな林原空の本来の姿であった。



その姿を見て、望は彼女に依り一層魅了され。そして小さくも彼女の役に立てた事を実感したいえの歓喜と彼女からの告白に思わず視界を滲ませながら望は心から精一杯の返事を返す。


「林原さん、こちらこそ末永く側にいさせて、くだしゃいなのですぅ!」

「ありがとう……本当にありがとう望さん……」


やがて、雲の隙間から二人がいる塔の上へと光が射し込み始める。それは二人が抱えていた闇を取り去るかのようであり、思いと心を確かめあった二人の顔は嬉し涙にまみれながらであったが日本にいる誰よりも幸せに包まれた素敵な満面の笑顔であった。

「空お姉ちゃんちょろすぎるだろ、常識的に考えて……」と感じられた方、すいません作者がシリアス展開(笑)に耐えられ無かったのと空自身が最初から望の事を本気で嫌っていたわけではなく、信頼に足るか試すためにきつく攻めていたと考えて頂ければ幸いです。


彼女の心境からすると自分の好みをかき集めたのぞみの存在は猫じゃらしを前にした猫の様なものでしたので、心がぴょんぴょんしてしまった形となります。


次の編に移り変わるに当り、学園ものと言うなのあらすじ詐欺を続けていましたが遂に舞台が学園へと移り変わりまして、望が合法的なハーレム展開を可能としていきます。


様々な魅了あるキャラ達を足りない頭と様々な資料と共に産み出して行ければと考えていますので、引き続きよろしくお願いいたします!!


また、毎回アメリカの道路工事張りに穴だらけの作品作りをしている自覚があり悩んでいますので、誤字脱字や御意見、ご感想おまちしております。


PS,空の二つ目の願いは、末永く一緒にいさせて欲しいと言うものでした。

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