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#05 スクウェア・ラブソディ 【下】

昨日、昼と夜とで投稿すると言いながら、全く時間に間に合わずに楽しみに御待ちになってくださっていた皆様申し訳ありませんでした。


4時間ぐらいで書き上げられるだろうとおもっていたら8時間近くかかってしまうと言う大ポカをかますと言う、調子に乗っていた作者の慢心でした。


※誤字の修正と足りていなかった文章を追加しました。そして更新が遅れていてすいません! (1/24)

・部分的に手直しを加えましたが、話の流れは余り変わっていません(7/10)

「ふう、秋葉ちゃんありがとうなのです! お陰様である程度荷物が片付いたのですよ!!」


「これぐらいの雑用、望お兄ちゃんのためなら何ともないから、私にもっともっと頼っても大丈夫だからね?」


神社で働く仲間達が共に暮らす4階建てで和風旅館を思わせる宿舎に訪れた望は、自らも此れから御世話になる為に生活に必要な荷物は部屋に、粗品代わりの豆腐セットを食堂へと秋葉の手伝いもあり配送し終えた望は、普段は秋葉を含めた5人の狐娘達が暮らしているが仕事の準備の為に誰もいない12畳間の旅館の様な畳と女の子の臭いがする綺麗に片付いた部屋に案内されていた。


「わー。久しぶりにお邪魔するけど凄く片付いているね、流石秋葉ちゃんなのです!! よしよし」

「えへへ、こうやってお兄ちゃんになでなでしてもらえるのも久しぶりだね」

「あっ!? ごっ、ごめんなのです! 秋葉ちゃんももう高校生になる年だから、子供扱いしたら失礼だと思って……」


そう言って慌てて頭を撫でていた手を離なそうとした望の手を、秋葉は愛しそうに両手で優しく掴みとり、御互いに握手しているような状態で二人の動きは止まる。


「望お兄ちゃんは私の事を妹扱いしても良いの、私もそのほうが望お兄ちゃんを身近に感じる事が出来て安心するから……。だから気にしないでいっぱい可愛がってね?」


そう言いながら頬を赤らめて照れ臭そうに甘える秋葉の事を望は心の中で、彼女が兄離れし、自立して遠くに行ってしまう事を覚悟していた事もあり、ついつ駄目な兄貴分である事を自覚しつつ満面の笑顔で共に喜びはしゃいでいた。


「うん解ったのです秋葉ちゃん!! 私もそれぐらいの身近な距離感のほうが嬉しいのです!!」

「えへへ、良かった……。望お兄ちゃんが女の子になっても出会ったときと同じ優しいお兄ちゃんのままでいてくれて」

「秋葉ちゃん?」


そう言って今ある幸せを噛み締める様に秋葉は小学生程の身長となってしまい、自分よりも頭ひとつ身長が低い望を優しく抱き寄せ。

御互いに紅白柄の巫女服を着ている事もあってその姿は何処か姉妹の様であり、二人は合わさりあった御互いの鼓動が同じテンポで高鳴っていくのを感じて思わず照れ笑いし会う。


「もう……秋葉ちゃんも甘えん坊な所は変わらないのです」

「今は誰に対してでも甘えてる訳じゃないから大丈夫だよ? こんな事が出来るのはお兄ちゃんだけなんだから……」


「……入口で盛り上がっている所……すいません……」

「「わわわわ風香(ふうか)ちゃん!!? 何時からそこに?!」」

「御二人が……抱き締めあい始めた所からです……。朝から……お熱いですね……」


言葉に間を空けて控え目に喋る彼女は秋葉と同じく神社で働く小学生程の小さな狐娘であり、彼女は巫女服の上に風を通さない水色のウィンドブレーカーを着用していて。


頭の部分には彼女の狐耳の邪魔にならない様に穴が開けられたフードを被り、フードの中からは左右に別れるように出ている栗色をした彼女のロングツインテールが胸元にタオルの様に垂れている。


気だるそうな雰囲気と黒色の垂れ目から出る煩わしい者を見る視線に耐えられなくなった二人は、申し訳なさそうに道を開けようとするが彼女はそれほど気にしてはいなかったようで、話を続ける。



「話には聴いていましたが……本当に美少女になってしまったんですね望さん……。正直……見直しました……」

「えっ? 風香ちゃん見直したって何をですか?」

「恋に関しては……私は出来る限りの手段を尽くし……手に入れるものだと考えていますので……。何か困った事があれば……二人の力になりますからね……ふふふ……」


ぎこちなく微笑む彼女からはヤンデレの素質と溢れる探究心を感じとった望は危機感を感じて思わず体を硬直させる望と、顔を真っ赤にさせる秋葉の隣を鼻唄混じりに通り過ぎようとした所で彼女は何かを思い出した様に望の隣で立ち止まる。


「あっ……望さん?」

「アッハイ!! ナンデゴザイマショウ!?」

「何時も美味しい厚揚げありがとうございます……ふふ……」

「アリガトウゴザイマス、フウカサマ!! コレカラモ、佐々木豆腐店ヲヨロシクオネガイイタシマス!!」


そんなカチカチな挨拶で頭をブンブン下げながらこれから同居人となる風香に媚を売る望であったが、彼には更なる試練がのし掛かる事になる。


望が視線を感じて出入口を見てみると、ふすまの隙間から満面の笑顔がかえって不気味な立派な白い髭とシワが素敵な神主である山下が顔半分の状態で望を見詰めていた。


「ほっほっほ……おはよう望くん。どうやら荷物も片付いた様だし、此れからの事で話があるからちょっと……良いかな?」

「ヒィィ!? カンヌシ様イマスグニイキマス!! フニャッ!?」

「きゃあ! お兄ちゃん大丈夫!?」


慌てて走ろうとしたせいで畳でこけてヘッドスライディングをかましつつ、望は神主さんである山下藤吉郎と彼の自室で話し合う事になり。自分自身が恋した林原空をただ好きなだけでなく、彼女自身が不幸な将来を迎える未来をなんとしてでも阻止したい事等を真剣に伝える。



「なるほどのう。話は先に聴いてはいて御前さんに少しでも執着心故に自分にとって都合の良いようにしようする邪心があれば思いっきり叱ってやろうと思っておったが……。フラレた相手を助けたいと願う動機が、仙狐様を助けたと同じ清い心からだと解り安心した……」


庭に置かれている水が貯まると重みで下に落ちる竹鹿威(ししおど)しのカコンと言う音と、自然の音をBGMにしつつ。木製のテーブル越しに望と神主である山下との間での説明はある程度終わり。


二人はほっと胸をおろすように、テーブルに置かれた湯飲みの六茶を染々と口にしつつ。話の話題はこれからの話に移っていき。望は驚きの現状説明を聴かされる。



「一先ず我々がすべきなのは彼女を巻き込もうとしている者達の活動を阻止する事と、御前さんが彼女をよからぬ者達から身近で守り、支える事が出来る様にするために彼女の通う学校に移す為の手続き。この二つに関してはワシが手回しをしておいたから安心しなさい」


「ほっ、本当なのですか神主様!?」


「ああ。彼女の家族を付け狙っていたのは彼女の父さんが、彼等の秘密にしておきたい不正を暴く様な物を開発している天才的な研究者らしくてのう。


そんな彼が頭角を表して急成長を遂げるのを目障りに思っていたらしく、裏で色々と妨害活動を行っておったようでな。そこを突き詰めて逆に締め上げてやり、各地の神社で腐った精神を鍛え直して貰う手筈が済んだから。とりあえず、彼女達の安全はしばらくは大丈夫じゃよ」


穏やかに語る神主の話は望にとっては十分に衝撃的であり、自分達の利益のためならば人の命さえ奪えてしまう人達に怒りを感じずにはいられなかった。


「彼等は本気で……」


「ああそうじゃよ。欲にまみれた者は一度味わった甘い蜜を吸い続けたいと考え、それどころかより良い蜜を得たいと願い独占欲が強まり、意思が弱くなった者はやがては手段を選ばなくなるんじゃよ。

望よ、御前さんも決して他人事ではないぞ? 御前さんも大好きな彼女を助けるためならば悪魔にさえ魂を売る可能性はあるのだからな」


その言葉は強く望の胸を打ち、望は自分自身の心を改めて確める機会となるが。話題は二つ目の話へと移ろうとする所で突然の伝令が二人の会話を遮る。


「神主様もうしわけありません! 仙狐様が望さんを至急売店へと呼び出して欲しいとの事でありまして」


「なんじゃと? 人数が足りていないならば代わりはおるじゃろう?」


「それが……我等が狐乃街稲荷山神社に望さんと関わりがおありになる林原空様が来られるとの事でありまして」


「は……林原さんがここに来るのですか!? 今すぐに行くのです!!」

「まっ、待つのじゃ望!!」


その話を聴いた望は完全に気が流行り、思わず立ち上がって突風の様に走り出して行ってしまい。部屋には伝令で来た狐娘と、望をひき止めようと座布団にあぐらをかいたまま右手を突きだした状態で固まっている山下が取り残されてしまう。


「……そんなに慌てて、彼女に抱き着いてでもして嫌われでもしたらどうするんじゃ全く」



山下の心配を他所に望はご主人様が帰って来たのを玄関まで尻尾を振りながら出迎えに走る犬の様に、猛烈なスピードで神社の敷地内を駆け抜けていく。


(林原さんが! 林原さんが神社に来てくれたんだ!!)


気付けば既に参拝者の人達が敷地内を思い思いに観光しており、彼等も風の様な速さで石段の階段

や、連なって作れている色鮮やかな鳥居のトンネルをくぐり抜けて行く黄色い狐美少女に気付き。


マラソンランナーを外から応援する様に歓声をあげる人や、写真を撮る人等を望は潜り抜けて行き狐ねえが呼び出した売店へと走り抜けていく。


「よし、売店が見えてきたのです!!」


四階層あるうちの二階層目に当たるこの場所は御守りや御札を売る販売所や、給水所、ミルクせんべいや焼きそば等を販売している食品関係を取り扱ったお店等がある階層となっており。朝早くでありながら買い物目的で訪れた人達でごった返していた。


そんな賑やかな場所に興奮のあまりに狐美少女と化した望が現れたものだから、辺りにいた人達からは歓声と様々なカメラによるシャッター音が響き渡る。


彼の目線の先には大型トラックに積まれてる様な大きさのプレハブ小屋に瓦屋根を被せた様な狐巫女達が働いている販売所があり、そこには御守りや厄除けの矢や、おみくじ等を求めるお客さん達の列が出来ていた。


そんな販売所に辿り着いた望は関係者用の裏口から中に入り、玄関で靴を脱いだあと、短いフローリングの敷かれた廊下を抜け、暖簾(のれん)を潜ると忙しそうに働いているきつ姉と望は接触する。


「あら、来たわね望?」

「きつ姉、呼んでくれてありがとうなのです! 林原さんはもう来てるのですか?」


目をきらめかせながら売店へと小走りに駆けてくる望に悩ましそうにきつ姉は答える。


「うーん実はね、彼女が来るのはお昼頃からみたいなのよねー……」

「えっ!? それじゃあしばらくは林原さんは来ない……と……」


当分は彼女に会えないことを知った望は体だけでなく心まで若返ってしまっている事もあり、目に見えて落ち込んでしまい。あれだけピンッと張っていた耳と尻尾が今はしょんぼりと垂れてしまっており。【実家に帰らせて頂きます】とか言い出しそうな程しょげてしまっている。


そんな解りやすい仕草を見せる望にきつ姉は励ますために声をかける。


「まあ、待ちなさい望。彼女が来ることは予測上間違いないのだから、それまでに接客の仕方を私達が教えてあげるから中においで?」


「成る程なのです! それじゃあお邪魔させて頂いても良いですか?」

「ええ勿論よ。さっ、こちらにおいでなさい」


そう言って招き入れられるままに望は売店の中へと入って行く。


「あらいらっしゃい望くん! 入って入って!!」

「あっ……望さんだ……」

「いらっしゃい望お兄ちゃん!!」

「わ~変態の望お兄ちゃんだ~!」

「わっ私は変態では無いのですよ?!」


突然の乱入にも関わらず、中で働いていたきつ姉以外の4人の狐娘達は暖かく迎えてくれた事に望は感謝しつつ。林原さんと早く会いたいと言う気持ちを一先ずは抑えて、仕事に集中することにする。



「さあ、私が接客の御手本を見せるから。望はしっかりと隣で見ておくのよ?」

「わかったのです、きつ姉!」


直ぐ様にきつ姉直々のコーチが始まり、ある程度の接客の流れを覚えた望は御客さんが増えてきたこともあり。望は次のステップとして、色とりどりの様々な種類の御守りの袋が缶に入れられたビスケットの様に細かく区切られ、敷き詰められた四角い箱を用意する仕事を任される。


「きつ姉! 袋を持ってきたのです!」

「ありがとう、望。それじゃあ早速、安産祈願の御守りを作らせて頂きますね……」


「よろしくお願い致します」


丁度望が袋を用意した時に来ていたのは若い夫婦の御客さんで、きつ姉は二人の望む形に御守りが効果を発揮することが出来る様にするため、念を込めた小さな札を丁寧に袋に納めて手渡す。


「御利益は一回限りですので注意してくださいね? 元気な子供さんが生まれる事を私も祈っていますね」

「ありがとうございます! 仙狐(せんこ)様!」



そう言って、両手持ち暖かい笑顔と共に渡された安産祈願の御守りを二人の夫婦は嬉しそうに受け取り。礼を言ってから、後ろに並ぶ人達に順番を譲って行った。



「元気な子供さんが生まれると良いですねぇ……」

「大丈夫よ。良い気を放つ男の子だったからね。さあ、次の方どうぞ」



そんな形できつ姉の前には様々な思いを持った人達が次々と訪れる。


例えば御互いに腕を廻しながらイチャイチャする若いカップルが訪れた場合。



「いや、マジ本当だって!! ここで買った御守りのおかげで知り合いの人が運気が上がったて言ってたんだよ!!」

「えー? 香代(かよ)ーそう言う迷信みたいなの信じられないしー」

「良いじゃん良いじゃん!! 騙されたと最初から思ってたら害はないからさ? 買っちゃおうぜ?」

「もー仕方ないなー」


優柔不断で冷やかしに近い形のダメっプルの二人の背後は混みはじめており、直ぐ様に隣の販売口へと従業員が誘導指示を飛ばすなか。きつ姉は二人の思いの状態や、未来、心、素質等を見極めて注文される前から御守りを製作していく。


「はい、御二人に合う御守りを製作致しましたのでお持ち帰りください。お代は今回はいりませんから」


「え? 俺達まだ注文して無いんだけど……てか、厄除けの御守りって!? 俺は恋愛成就の御守りが欲しくて来たんですけどー!! ねえ、香代ちゃんもそうだろ!? 香代ちゃん?」


さっきまで興味なさそうな態度を示していた彼女は手渡された緑色の御守りを手にした途端に、御守りから目を離せなくなっていた。


「治った……。生まれつきあった体の倦怠感が治った!?」


「病気平癒、生まれつき体が弱かった貴方が求めていた事よね香代さん? これからは無理をしない限り、毎日はつらつとした状態で毎日を過ごせると思うから今まで出来なかった事に挑戦してみると良いわ」


「あっ、ありがとうございます稲荷様!! 私、何と御礼をしたら良いか!!」


「別に気にしなくても良いわよ? ただ貴方の元気な顔を時折見せて貰えれば私は十分よ。体を大切にね? 後ソイツ浮気してるから、改善しなければ捨て置きなさいね」


その突然のキラーパスに対応が出来ずにポカンとしてしまった男性は、思わず余計な事をポトンと落としてしまう。


「えっ何でそれを……? ハッ!!」

「どういう事なのまさひろー?」

「すっすまない!! もう浮気はしないから許してくれ!! 一回デートしただけでそれ以上の関係は無いんだよー!!」

「じゃあ何で逃げるのよー!! 待ちなさいー!!」


「あらあら。朝から若い子は大変ね……フフン」


そう言って様々な困っている人を助け、穏やかに見送るきつ姉の姿に思わず望は見とれていた。学生である望は普段は学校に出ている時間であり、きつ姉が働いている姿は実は余り見たことがなかったので尚更であった。


「きつ姉は凄いのです、私にはとても出来ない事を毎日やっていたのですね」


「うふふ、惚れ直してしまったかしら? でもね望、私の力が体に宿っている貴方も私と同じ事は出来る筈よ?」


「ええっ!? 本当なのですかきつ姉?!」


「勿論、まず御守りを必要としている人の心を意識して見て? すると求めている事が自然と浮かび上がって見えて来るから」


「は、はい。やってますね……」


望は外に出て販売口から一番近い女性へと視線を合わせて行き、相手の心を読み取る為に集中していく。

すると相手の感情や、心の波長が望の心へと電波を受信するかのように流れこんで来て。望はその感情に足りないものが違和感として認識されるのを感じる事により理解する事が出来ていく。



(なんだろう……この感じは……。愛情を求めているだけじゃない、心から信頼できる人を求めているんだ……。人を信じたいんだけど裏切られるのが怖くて近付けないでいるもどかしさ……。何故だろう、僕がこの想いに全力で応えたいと言う想いが溢れだしてくるのは……)


「この人を私は幸せにしたい……」

「え……」

「え?」


恍惚とした状態でひとりごとを自然と口に出してしまうほどに情報分析に集中していた望がふと我に帰り、驚きの声を漏らした人を確認するために顔をあげて見るとそこには。綺麗な目をパチクリさせながら幼い少女の容姿になっている望に合わせるようにしゃがみこみ、望の顔を心配そうに覗きこんでいた林原空の顔があり。


望の顔は衝撃の余り真っ青になった後に、今度は緊張の余りに真っ赤になってしまう。


「はわわわ!?」

「……えーと、ぼーっとしていた様だけど大丈夫?」

「ひゃい! 私が林原さんの嫁になりますので、貴方を幸せにさせてください!!」

「え?」

「え? あっ……私はななな何を言っているのです?!」


完全に頭が緊張でオーバーヒートしてしまい、自分でも何を言っているのか解らなくなって来ている望に。更なる試練が迫る!!


「ありがとう……冗談だとしても可愛らしい君にそう言って貰えて私もとても嬉しいよ。ふふっ、よしよし」

「コォォン……」


気付けば望は心から嬉しそうに瞳を潤ませる制服の上に黒のロングコートを着た姿の空に抱き締められながら頭を撫でられており。望はその突然の喜びの余りに、狐が発情した時に出る鳴き声が口から息を吐くように漏れてしまう程に彼女にメロメロになってしまっていた。


そんな小学生の狐美少女と高校生の黒髪美女が目を潤ませて顔を赤らめながら抱き締めあうと言う突然の感動の再開の様な展開に誰もついていけてはいけていなかったのであるが、二人の人物が引き剥がしにかかる。


「ちょっと! 二人ともいい加減に離れなさい!! 流石に神聖な神社の敷地内で恍惚とした顔の女性が抱き締め合うのはまずいわよ!!」

「林原さん!? 生徒会として公正を守っておられる貴方が何をされているのですか!?」


望を背後から引き剥がしにかかるのはきつ姉であり、同じ様に林原空を引き剥がしにかかっているのは彼女の先輩らしき人で、同じ制服姿とロングヘヤーにパーマをかけた髪型とたれ目が印象的なお姉さんであるのだが二人の手は空を切る事となる。


「誰にも邪魔はさせないのです!」

望が二人の手が届ことする瞬間に空をお姫様抱っこして見せ、まるでピーターパンの様に彼女を抱き抱えたまま跳躍して飛び去ってしまう。


辺りで一連の流れを見ていた人達からは歓声があがり、それに背中を押される様に空を抱えた望はかつて自らが美少女の姿へと変貌を遂げた五重の塔がそびえる山頂付近に当たる場所へと本能的に駆け出していた。


やがて辿り着いた広場にはまだ御客さんは来ておらず、綺麗に真っ赤になった紅葉と五重の塔だけが二人を迎えていた。


「ここは……五重の塔かな?」

「はいなのです! ここの四階から五階部分は関係者以外は立ち入り禁止になっているので、隠れるには最適だと思ったのです。林原さんは高いところは苦手ですか?」

「私は高いところは大丈夫だけど、そんな場所に関係者じゃない私が入っても大丈夫なのかな?」


その冷静に諭す母のような口調と本意を見抜ける様になっている望は、それでも彼女に安心して貰う為に微笑みながら査定して見せる。


「勿論なのです! だって林原さんは私の大切な関係者なのですから!!」

それは単純に大切な彼女と共に入れる幸せな時間をもっと味わいたいと言うお姉ちゃんに甘える妹の様な小さな我が儘であって、その発言を聴いた空も望の真意を理解して顔を少し緩ませる。


「ふふ、解ったよ。じゃあ皆がここに集まって来る前に塔に登らせて貰おうか」

「はい! それじゃあしっかりと掴まっていてくださいね!!」

「お願いするね」


望にお姫様抱っこされている空の手が自然と望を抱き締める様に回され、普段の望なら発狂ものだが塔に登る事に集中している望は微笑み返すだけにリアクションを留め。望は膝を曲げて姿勢をさげてから足をバネの様に再び跳躍を開始し、一気に五重の塔の最上階へと進入して見せる。


塔の最上階は神様に捧げ物や祈願をする為のきらびやかな祭壇が儲けられており、明らかに面白半分で入っては行けない場所だと流石に感じた二人は部屋の中には入らず、外の景色が一望出来る踊り場で一息つくことにする。


「まさか、先輩達の御守りを買いに着たらこんな事になるとは思っても見なかったよ……。ふふっ」

「はわわ! やっぱり御迷惑だったですよね、ごめんなさいなのです!」

「大丈夫。かなり驚いたけど私は楽しかったよ? 処で何故私の名前を知っていて、あんなに情熱的な告白をしてくれたのかな?」

「ゑ?」


望はその質問を聴かされてから初めて挨拶するだけでも精一杯だった自分が彼女に告白をしてしまい、挙げ句にお姫様抱っこしてキングコングの様に彼女を連れ去り、五重の塔で二人っきりと言う夢のようなシチュエーションに居ると言う事に今更になって気付き。頭が真っ白になってしまう。


「そっ……それはその……」

「大丈夫、ゆっくりで大丈夫だからね。落ち着いて?」

「はい! わっ、私佐々木望が……林原空さんの力になりたいからなのです!」


望は自らがまたポカをかました事に気付かされるのは空が望が伝えた発言が頭の中で引っ掛かり、矛盾に勘づいた空の顔は先程まで穏やかなものではなく、彼女の表情は血の気が引いてみるみる顔色を真っ白にしていく姿を見て気付かされる。


彼女は心無い男性にしつこく追い掛けまわされ、裏切られ、利用された過去があるため男性に対して強い嫌悪感を抱いている事。そして、望はつい最近空にフラレた人物であり望はついその本名を今、男性恐怖症となっている彼女に伝えてしまった。


その結果はどうなるか?


答えは燃える火から飛び退く様に空は望から距離を空け、コートのポケットからスタンガンを取り出すと言う彼女の拒絶によって出される。


「どういう事何ですか……本当に貴方が昨日出会った望さんなの……?」

「林原さん違うんです!!」


いつしか暖かい陽射しは雲によって遮られ、彼女達の間には肌寒い秋の風だけが吹き抜けて身を包んでいく。それは先程までは仲の良い姉妹の様であったが、今は敵対している二人の心境を表している様であった。





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