#21 眠れる者達【中】
お久しぶりです、3ヶ月お待たせしてすいません! これだけの期間を空けたにも関わらず、大勢の皆さんがブックマークを外さずに待っていてくださった事に本当に感謝しています。
お陰様で仕事が忙しい時期を乗り越えたあとに再開するだけのモチベーションを失わずにすみました! 本当にありがとうございます!
※文章を修正しました。(6/24)
日曜日と言うこともあり、駅に通じる片側二車線のバス通りは混み合っていた。
春の穏やかな気候もあり、歩道には咲き乱れる桜で花見を楽しもうと可愛らしい春物の風呂敷にお弁当箱を包んで和やかに話をしながら目的地に向かう人達や。
家族サービスのために遠出をするのだろうか。仲の良さそうな若い夫婦が横に並びながら歩きつつ、父の両肩の上で遊園地のパンフレットを片手にはしゃぐ幼い息子に微笑み合いながら歩く家族の姿などが見受けられる。
そんな平和な日常風景の中を天井に拡声器を着け、ドアの横に綺麗な青い海の中にある珊瑚や、小魚達を背景にして力強く泳ぐ大きなたい焼きが描かれたとても目立つ、1台の黒いミニバンが通りを走っていく。
車内に合わせて9人程の人数を一度に運ぶことが出来るその車を運転しているのは、スキンヘッドにグラサンと言う厳つい風貌で、鼠色のワイシャツをインナーとし。上着と下着を黒の革物で身を包んだ強面の男性であり。
その後ろにはそんな彼とは一切縁がなさそうな美少女達4人が彼の後ろの席に乗っている姿がフロントガラス越しに見え隠れする。
一見、色々と不自然に思えるこの光景だが。彼等はある同じ目的を持った者達であり。現在、その目的を果たす為に共に行動を共にしていた。それは何かと言うとーー
「なるほど! つまりおじさんは私達が探していた“上原真理恵さん”のお父さんで、丁度これから真理恵さんの御見舞いに行かれる所だったのですね!」
「そう言う事になるね。いやしかし、休憩がてら立ち寄った駅でまさかこんな出会いがあるだなんてね……」
運転手の厳つい見た目とは裏腹に車内にはリラックスミュージックが流れていて、ふかふかのブラウンカラーの椅子に、小綺麗に片付けられた内装と言う整えられた環境の中で。目的地へと進む車の中では感情深く語りあう運転手の男性と車の真ん中の席に座っている巫女服姿の小柄な少女である望との会話が行われており。
そんな異色な二人の情報交換はより深い情報を共有するために引き続き続けられていく。
「それで。バイクとの接触事故以来、真理恵さんは病院で意識不明の寝たきりの状態になってしまったのですか?」
「ああ……。どうにも、バスに乗り遅れまいと慌てていた娘が、同じく慌ててバスのロータリーをショートカットしようとしたバイクと事故っちまったみたいでな……。事故から一週間近くたつんだが……」
「目を……覚まさないのですか?」
項垂れ、悔しそうに呟く男を労るように望は声をかけ。男は溜め息を吐くように「ああ……」と呟く。
そんな絶望のただ中にいるであろう一人の父親に、真ん中のシートの左側に座って二人の話をそわそわしながら聴いていた天真爛漫な狸少女が男性を励ます為に声をかける。
「大丈夫です! 父上殿!! 此処におられますのは日ノ本で起こる災いを振り払える力と熱い心を持たれる、稲荷神の加護を受けられておられる我が主であられる佐々木望殿です!!! 必ずやまりえ殿も助けてくださりますよ!!! ですよね主殿?」
「あわわ! ちょ、ちょっと要ちゃん?! そんな期待だけを煽るような事をいったら不味いのですよ!?」
「そっそうか……稲荷、か……。そいつは頼もしいな」
一度だけ自らの過ちを身をていして止めてくれ事が切っ掛けで、熱過ぎる信頼を寄せて目を輝かせながら、まるで自らの家族自慢をするように語る要の発言を受けて恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にさせながら望が慌てた様子で望が必死に要を落ち着かせるそんな中で、何故か“稲荷”と言うキーワードを聴いて驚きの表情を見せ、頬に冷や汗を一滴這わせる程に動揺を見せる男。
その不審な反応を一番後ろの席から訝しげに見詰めている強い視線に男性は気付き、ルームミラー越しにはしゃいでいる真ん中の席にいる少女達の後ろにある後部座席に一人だけからその視線を送る金髪ツインテールの少女に目を奪われ、思わず息を飲む。
「うっ……?!!」
何故ならば、そこには頭のフードを後ろに下げてピンッと天を刺す狐耳を出し、腰の辺りからは首まで届く程の長さと、腕程の横幅を持った2本の尻尾をV字に突き伸ばし、異様な雰囲気を放つ風香の姿があり。
運転席にクーラーの風が来ないはずの彼女の座っているその場所からは何故かそよ風が吹き混みはじめ、男の首筋の両側を撫でたものだから思わず男も小さな悲鳴をあげてしまう。
「うわっ、いきなり後部座席から風が?! 」
「あれ、これは妖力なのです……あっ!! ……風香一体後ろで何をしているのです?! 運転中に邪魔したら危ないのですよ!」
「風香殿一体何を?!」
驚きの反応を示す三人を風香は眼中に入れず、ただ、運転席の男性に視線と妖力によって作り出される風を風香は向け続け、ポツリとつぶやく。
「ずっと……何か嫌な感じはしていたけど……」
「……まさか」
その反応を望の右側に座りながら静かに観察していた空は、最悪の事態に供えて四人分の転移札を腰のウェストポーチから取り出しておく。
その空の動きを視線を男性に向けたまま気配で感じた風香は彼女に感謝の意思を込めて小さく頷いた後、風香は男に追求を始める。
「その反応……貴方何か……まだ……私達に隠し事を……されていますよね……?」
幼き頃に受けた薬物の影響でたどたどしく喋らざるを得なくなってしまっている風香の言葉ではあるが、そこには有無を言わせない力強さがあり、男性の肩を小さく震えさせる。
「何を言って……うおっ?!」
慌てて宥めようとする男性ではあるが、彼の左頬を強い風が横切り、ヒュンッ、と言う音が通り過ぎたと男性が感じたと同時に男は左頬が暖かくなったのを感じる。
それは勿論、冷房が暖房に切り替わったからではなく。男の左頬が横一線に3㎝程薄く切れていたためであり、その事を男性は左手で触れる事により確認する。
「風香!! 止めるのです!!! 上原さんは悪い人じゃないのです!!!」
「お人好しな兄さんは……少し黙っていてください……。現にこの人は……私達に言えない隠し事をしています……。そうですよね?」
必死に強行手段を取ろうとする風香を止めて、男を庇おうとする望ではあるか。この場を支配している状況の流れは風香が指し示した道を望達に歩ませる。
「まっ待ってくれ!! 隠していた事は謝る、すまなかった。確かに俺は、お嬢ちゃんが言う通り、君達に言えない隠し事がある……」
男の肩を小さく震わせていた恐怖はやがて肩から全身へと広がっていた。気付けば望等を乗せた車は本来降りる筈だった上原真理恵が入院しているであろう、湯夏総合病院前にタクシー等が停車出来るように作られた円周型のロータリーにハザードランプを点滅させながら既に停車しており。
フロント硝子の向こうには四階建てで、L字型に建設された何やら人がごった返している病院の正面入口が見えている。
「実は……俺は昔……」
皆が固唾を飲み、男が自らがひた隠しにしていた事を語り出そうとしたその時であった。車の外で何やら騒ぎがおきはじめ、多くの人達が病院の正面入口に集まりだしている事に望達が気付いたのは。
「待って……何か外の様子がおかしいのです!!」
男の告白以上に望が気を取られたその違和感の正体は、病院前の正面入口に多くの報道関係者達が詰め掛けて一段と騒がしくなったためであり。
入口では案内担当のスタッフが記者達からカメラのフラッシュを浴びせられ、槍の様に突き出されたマイクと録音様のICレコーダーに囲まれている光景が目に写ると同時に望達に衝撃を与える話が耳に飛び込んでくる事となる。
「一週間程前からこの病院に運び込まれている意識不明患者の容態が悪化し!! 死亡者が2名ほど出たと言うのは本当ですか?!」
その望達が一番恐れていた衝撃的な情報は車中にいる望達にも聴こえており、男に警戒を続ける風香を除いて望達はその話が聴こえてきた方へと釘付けとなり、言葉を忘れる。
そこに、更なる悲報となる詳しい情報がその質問に答える病院の案内担当者からもたらさられる。
「えー……先程、午前10時15分頃。此方に入院されていた40代男性と10代の女子高生の死亡が確認されました……。どちらも原因不明の衰弱死であり。残念ながら対策がーー」
「おい、待ってくれ!!! まさかその女子高生って、真理恵が死んだ訳じゃ無いんだよな!!? うちの娘は生きているんだよな!?」
耳を覆いたくなるような悲報に、思わず運転席のドアを開けてから飛び出した男性は取材が行われている集団の中へと飛び込んでいき。案内担当の男性に詰め寄っていく。
その厳つい風貌と鬼気迫る迫力に取材人達は慌てて距離を開け、男の行動を見詰め続ける中。上原真理恵のお見舞いに来ていた姿を何度となく見ていた案内担当の男性は少しひきつった表情で彼の名を呼ぶ。
「梶田さん……。すいません、我々が至らないばかりに……」
その娘の悲報を認めるかのような男の挨拶に梶田と呼ばれた男性は顔を真っ赤にさせて男の両肩をガッシリと掴み、顔を間近に寄せる。
「なあ、これは悪い冗談なんだよな!? あの子は、真理恵は生きているんだよな!? なあ!?」
「おっ、落ち着いてください梶田さん!!! 今担当者を御呼びして状況説明をさせて頂きますので!!!」
梶田の絶叫と案内担当の男性の返答が病院十に響いた後。男性の説明通り、直ぐにもう一人の職員が病院内から派遣され。混乱している梶田を病院内へと案内して行く姿が、今だ車中にいる望達にも確認できた。
その会話の内容を狐の耳によって聞き取っていた望も行動を取ろうとする。
「僕たちもついて行こう!! まだ何か出来ることがあるかもしれないのです!!」
「待って、望さん!!」
状況の変化になんとか合わせようと、車を降りて追跡を開始しようとする望の右手を空が握り、引き留める。その表情はとても真剣なものであり、焦っていた望を思わず落ち着かせる程の意思の力があった。
「望さん……。目の前で起きている今回の事件は、私達の手に余るものだと思う。先ずはきつ姉さん達に連絡をしてからもう少し様子を見たほうが私は良いと思うの」
「確かに……。弱っている真理恵さんを助ける事が出来ることは出来ても、流石に死んだ人を蘇生させるまでのことは悔しいけど僕達には出来ないのです……。あれ?」
「どうしたの望さん?」
冷静な空からのアドバイスを聴くことで、状況整理が出来た望も空の提案に納得を示し。望は席から立ち上がった体勢から、再び着席して空を安心させるのだが。ふと、左手にいる筈狸少女がいない事と、左側のスライドドアが開けっ放しになっている事に気づかされる。
「要ちゃんまさかパパさんを追い掛けて行っちゃたのです!!? 風香、何故止めてくれなかったのです!?」
思わず後部座席に座り、病院へと今も視線を向け続けている風香へと望が問い質すが、風香はどこか冷めた調子で返答する。
「さっき……望兄さんが立ち上がった時には……物凄い速さで……病院まで駆け込んでいたから……止めようが無かった……」
「ええっ?!! てことは要ちゃんはパパさんに着いていってしまった、と言う事なのですか?!」
「そう……。あと……望兄さん達が話し合っている内に……きつ姉にも携帯で連絡したんだけども……」
「きつ姉は何て言ってたのです?」
「今回の事件は単純に病気によるものだから……まだ……生きている人を助けなさい……だって……」
その話を聴いて、結局の所、真理恵さんを助ける事が出来無かった望は複雑な感情を胸に押し込めるように小さく頷く。
「解ったのです……。じゃあ、要ちゃんを連れ帰る意味でも病院に行こうなのです!」
「……きつ姉さんがそう言われたのなら」
空元気で気合を入れ直す望と、何処か釈然としていない空の二人が車から降りて行き。最後に後部座席に座っていた風香が真ん中の座席を前に倒して、何か呟きながら二人が待つ外にでていく。
「ごめんね……兄さん……」
私情のためにきつ姉の名を借りて独断で望達を危険地帯に向かわせている罪悪感を噛み締めながら。




