私のお墓の前で泣かないで下さい。
「しくしく、しくしく」
あたいは悲しかった。
彼が死んでしまったから。
「どうしてこんなに早く死んでしまったの?」
あたいと彼はある時約束した。
空気の澄んだ冬の夜のことだった。
「なあ、俺達どちらか死んだら、死んだ方の肉を食べような」
彼は唐突に言った。
あたいは頭おかしいんじゃないか?この人?と思った。
だけど彼はこう言った。
「俺達のどちらかが死んだ方の肉を食って、自分の体に取り込むことで、お互いに同化して一心同体になるんだ」
あたいはそれを聞いて、やっぱり彼は頭がおかしいんじゃないかと思った。再確認した。
だけどあたいには彼が必要だった。
あたいが光なら彼は暗闇で、あたいが陽なら彼は陰で、あたいが食べ物なら、彼は生ゴミ(あら、ごめん遊ばせ)だった。
そんな切っても切れない関係だった。
あの時の、約束を果たす時が来たみたいね。
あたいは死体を食べる為に、墓を掘り起こした。
ざっくざっくと、まるで埋蔵金を探すかのように。
でも。いくら探しても探しても。
「ない!彼の死体がないじゃない!」
どういうことなの?
あたいは混乱した。
そういえば彼はいつ死んだのだったかしら。
あたいは回想する。
思い出した。彼が死んでから、もう300年にもなるのよね。
じゃあなんであたいは生きているの?
あたいは体を見回した。
服はボロボロ、体も所々ちぎれ骨が見えている。
ああ、そうだ思い出した。あたいゾンビだった。
300年前、彼が死んだ時、墓に行って彼の肉を食べようと思っていたら、ゾンビになった彼に襲われ、あたいも死に、ゾンビになったんだったわ。それであたいはゾンビの彼の肉を食べようと思っていたら、彼はゾンビなのに、チキンで脱兎のごとく逃げちゃったんのよね。本当腐っているわ。ゾンビだけに。
あたいはがっかりして肩を落とすと今宵も一人ふらふらと自分の墓へと帰って行くのだった。