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5. 身長一四五センチのちんちくりん

 誰もいない教室。

 そこに、予想外の別れで呆けてしまった星多が、ふらふらと入っていく。

 教室はがらんとしていて、窓際の席に女子生徒が一人だけ、頬杖をついて外を眺めている。

 自然なウェーブがかかったふわふわの髪の毛が特徴的だ。身体全体を覆うほどの長さがあり、やけに量が多い。

 小柄な彼女には学校の椅子は大きすぎるのか、子供のように足をプラプラさせている。

 そいつが、星多に気がついて振り向いた。

 子供の頃からの星多の親友、神道寺かんどうじ愛想美あそびだ。

 その顔を見て、星多は少しほっとする。

 そう、いつでもいつだって、お互い困ったときは二人で解決してきたのだ。

 親友というよりも、もはや戦友に近い。

 その戦友は、心配して教室に残っていたらしい。


「あ、星多、おかえり。……どうだった?」


 星多は無言で愛想美の隣に座る。

 愛想美はそっと星多の顔を覗きこむと、


「……星多、もしかして、泣いてる? ……駄目だった? ……そっか。あんなに練習したのにね。でも、まあ、しゃあない! 人間、こればっかりは相手があることだから。ま、気落ちすることないよ、これから新生活がはじまることだしっ」


 バン、と星多の背中を強く叩く。

 それでも星多はみじろぎもせず、手にした半紙をぼうっと眺めている。


「星多? 大丈夫? なんか目にハイライトが入ってないよ? 死んだような目してる」

「あのさあ……」


 やっと、星多が口を開く。


「叔母さんが保険営業やってるから、俺にも生命保険かかってると思うんだけどさあ」

「はい?」

「俺が死んだら、いくらのお金になるんだろ……」

 愛想美はガタン、と椅子を鳴らして立ち上がり、顔をひくひくさせると、

「ばかっ、星多、フラれたくらいで死ぬなんて言わないでよ! 女なんか、ほかにいっぱいいるんだし!」

「俺が死んだら母さん悲しむだろうなあ」

「いやごめん! そうそう、まじであんたのお母さん泣く! 泣くよっ? ほんとにごめん! そこまで本気だとは、……思ってたけど、でもさ」

「なに謝ってるんだ?」

「いやほら、教えたとおりに告白したんでしょ?」

「ああ、お前のアドバイスどおりにきっちりはっきり言えたよ……」

「ほんとほんとごめん! うーん、もう、しょうがない、よし、ちゃんと言ってあげる! 今から二人で行こっ、ごめん、フラれた責任はきっとあたしだ……」


 なんだか慌てている親友の顔を感情を失った目で見つめ、


「愛想美、お前さっきからなに謝ってるんだ? 俺はお前には感謝してるんだぞ、俺、女のことなんか全然わからないからな。一応女のお前にはいろいろアドバイスもらって感謝してるよ。でも、フラれたのはお前のせいじゃないぞ?」

「いやー、きっとあたしのせいだと思うな……。あれでしょ? この一年ずっとあなたをオカズにしてましたって言ったんでしょ? ……まさか、あの、先輩と身体を重ねあいたい、ってのも、言っちゃった?」


 星多の顔に少し生気が戻る。

 そうだ、俺は言えた。伝えた。言えたんだ。

 俺は、男らしかったっ!

 そんな思いを正直に顔に出しながら、誇らしげに、

「ああ、ちゃんと言えたぞ」と答える。


「いやー、そのドヤ顔……。さすがのあたしも今夜は罪悪感で眠れなくなりそう……」


 愛想美は顔をしかめると、星多のブレザーの袖をつかみ、


「あーもう、保険金がどうのとか言うとは思わなかった! 分かった、あたしが悪かった! もう一回告白しなおしにいこ! ほらほら先輩帰っちゃうって!」


 と、ふわふわの髪を振り乱し、体重をかけて引っ張る。

 もちろん、身長一四五センチで痩せ型のちんちくりんな少女に引っ張られた所で、星多の身体はびくともしない。

 愛想美は昔から、気は強いくせにチビで力は全然ないのだ。


「いいよ、行っても仕方がないってば」

「いいから先輩追いかけようよ星多! 告白の仕方が悪かっただけだって。ちゃんとあたしから先輩に説明するからさ」

「サンキューな、愛想美。でも、そうじゃないんだよ……」

 星多は、さきほど凛々花にもらった半紙を愛想美に見せて、

「実はな……」


 先ほど聞いた話をそのまま戦友に伝え始めた。


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