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花舞う星の雪遊び  作者: 羽黒楓


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27. 女の子の着替える衣擦れの音

 次の日、朝食の当番は星多だった。

 いつもより早く起きたが、キッチンへ行くとすでにツナが完璧な和風女給姿で掃除をしていた。

 ということはたぶん、凛々花もこの広い家のどこかですでに掃除を始めているのだろう。

 自分とそんなに年齢の違わない少女たちが労働している。

 俺も甘えてはいられない、と思った。

 俺が今やるべきことは勉強だ。

 昨日あの大騒ぎのあと、仕切りなおして、一応がんばって勉強していたのだ。疲労困憊の凛々花は、今日はすみません、と自室に戻っていったのだけれど。

 さて、星多は物心ついたときから母親と二人暮らし、ある程度の料理はできる。

 できるとはいっても、大黒みたいに鰹節と昆布から出汁をとるとか、漬け物を自分でつけるとかまでのレベルじゃない。

 軽めのものを、ということで生卵と納豆と、顆粒だしで出汁をとった味噌汁、それに薩摩揚げとジャガイモの煮物。

 簡単なものとはいえ、高校二年生の男子が煮物をつくれるなんてちょっと自慢していいことだよな、と思う。味のほうは、まあ普通。

 それを居間のテーブルに並べていると、皆が集まってきた。

 こうやって三度三度の食事を一つのテーブルでとっていると、お手伝いさんまでもがだんだん家族みたいな感覚になってくる。

 人間の慣れとはおそろしいもので、もう凛々花やツナや愛想美と食事を摂るのにいちいち感動しなくなってきていた。


「あれ、今日、ばあちゃんは?」


 いつもはもっと早く起きてくるはずのばあちゃんが、今日はいない。


「あら、小僧には言い忘れてましたね、申し訳ございません。奥様は今朝これから、女豹の会への出席のため、出かけられます。朝食を摂る時間はないとのことです」

「なんだ、その怪しげな団体……」

「ふん、要は金持ちの奥様連中が集まってつくったお遊び会よ。人脈づくりとかいってあたしも何度か参加させられたけど、ほんと、あんなのだったら本物の豹とか虎とかの方がまだましってものね。っていうか、あのばあちゃん、家族はみんなでごはん食べるものだー、とか言っておきながら、自分が一番いないことが多いんだけど」


 愛想美が不満げに言う。

 そこに大黒がのしのしとやってきて、


「今奥様をお見送りしてきましたよ、と。おや、今日は星多さんがつくったんですよね? 煮物? 星多さんが? すごいじゃないですか!」


 自分の定位置(星多の斜め向かい、愛想美の隣だ)にどっかと座る。その後ろから凛々花もやってきて、大黒の隣へ。星多の隣にはツナが座る。

 ラフなジャージ姿なのは星多だけで、ツナと凛々花と大黒はばっちし服装を決めている。メイド服や女給姿だけど。

 ついでに言うと、昨日とは違って愛想美もきちんと身なりを整えていて、髪もちゃんととかしてきているようだ。

 今の季節にぴったりな、ニットにカーディガンを合わせたさっぱりした着こなし。これからどこかに出かける予定でもあるのだろうか?

 しかしまあ、メイドや大正浪漫女給に比べれば普通、って感じではある。


「愛想美は普通だな」


 思わず口に出すと、愛想美は吊り目をぎょろりと星多に向けて、


「なによ、悪かったわね」


 と凄みのある声で言う。


「いや、悪い、なんでもない」


 幼なじみながらその目つきと声が怖かったので、その隣の凛々花へと視線を移す。

 太陽の女神様は、目が合うと、にっこりと笑ってくれた。

 ああ、癒されるなあ。


「さ、じゃあ食べますか! いただきます!」


 上座のばあちゃん不在のまま、大黒の号令に合わせてみなで箸をとる。


「あら、おいしい。小僧、なかなかやりますね」

「へー。星多って、料理できるんだね、初めて知った」

「立派なもんですよ星多さん! 愛想美さんなんか朝はお茶漬け、昼はカレー、夜は野菜炒めしかつくらないんですから」

「……わ、私なんて、そ、そのカレーすら……星多君に料理で負けてるなんて、ちょっと悔しい……」


 それぞれが、おおむね星多の料理を誉めるようなことを言いつつ食べる。

 ふと、大黒がツナと凛々花に話しかけた。


「そうそう、ふたりとも、さっきの話なんだけど、どうする?」


 訊かれて、顔を見合わせるツナと凛々花。


「私は、別に。奥様がそれをお望みならば」とツナ。


 凛々花は、おどおどしたような顔で、


「えーと、急にあんなこと言われても困るんですけど、えーとその、……受けなければいけませんか?」と答える。


 ん? なんの話だ? 星多にはさっぱり思い当たることがない。

 まああとで本人達に聞いてみるか。


「さ、食べ終わったね、じゃあ片づけして掃除に入るよ。今日は天気もいいし、窓を拭いちゃおう! うちは広いからね、一日がかりだ。星多さん、申し訳ないけど、今日は凛々花ちゃんの家庭教師お休みしていいですか?」

「ああ、はい、一人で勉強してます」


 よく考えると、凛々花がそばにいると緊張してまともに勉強できないので、そっちの方がいいかもしれない。

 食後、片づけはお手伝いさんたちにまかせて、星多は自室に戻った。

 さっそく机に向かい、ノートを広げる。だけど、先ほど大黒が話していたことが妙に気になって集中できない。

 なんだろう、あの二人、乗り気じゃなかったみたいだけど。

 凛々花など、受けなければいけないのか、と聞き返していた。ツナだって特に喜んではいないようだったし。

 うーん、気になる。

 星多はノートを閉じ、やはり勉強をしているはずの愛想美の部屋へと向かった。

 愛想美の部屋のドアには手書きの紙が貼ってあって、「絶対ノックすること!」とある。そしてその下に小さく「特に星多は絶対絶対ノックすること! 無許可で入室したらコロス」とあった。

 小さい頃からずっと一緒に育って、兄妹同然だというのに、しかも今は義理とはいえ、ほんとに兄妹だというのに、何を意識してるのやら。

 とりあえず、ドアをノックしてみる。


「なあにい、ツナぁ?」


 愛想美の、けだるそうな声。


「いや、俺だ。ちょっと入っていいか?」

「ひえっ!? ちょちょっと待って!」


 ガタゴトガタン! と騒々しい音がして、なにやら片づけをしている模様。

 しばらくすると静かになったので、


「おーい、もういいかあ?」


 と訊くと、


「まだ! ちょっと待って、今着替えてるとこだから!」

「別にさっきの普通の服でいいじゃねえかよ」

「いいから待ってろバカ!」


 仕方がない、お姫様のお支度が終わるまで待つとするか。

 ドアに背中を預けて、じっとしていることにする。

 ドア越しとは言え、ごそごそと女の子の着替える衣擦れの音を聞くのは、ちょっと、なんというか、モヤモヤしてしまった。

 なに考えてんだ俺、女の子っていったって、愛想美だぞ。

 結局、愛想美の許可が降りたのは、それから十分もしてからだった。


「じゃあ、入るぞー」


 何気なくドアを開けた。

 まあ最近出オチに慣れているので、予想はしていたことではある。

 そこにいたのは、なんというかこう、……そう、アホだった。


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