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花舞う星の雪遊び  作者: 羽黒楓


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21. ネバネバにした

 学校が始まればそうはいかないけど、今はゴールデンウィーク中なので三食すべてで六人が揃うことになる。

 ほかにも通いのお手伝いさんや会社関係の人が出入りしているみたいだけど、星多はまだ会っていない。

 午前中は勉強に費やし、腹が減ったところで、お待ちかねの昼食の時間になった。

 今、目の前には、崇高にして偉大なる太陽の女神、凛々花先輩の手作りカレーがある。

 ああ、先輩の手作り料理を食べるなんて、今まで何度も想像してきたことだけど、まさか現実になるとは!

 高揚する気分を打ち消すような負の要素がないわけではない。

 向かいの席に座る、しかめっつらの愛想美の表情や、いままさに入れ歯を口に入れようとしているばあちゃんの姿とか。

 ついでにいうと、ツナはテーブルの端で通販雑誌を大黒に見せながら、


「これはダイエット効果が……テレビを見ながらでも……」


と熱弁をふるっている。

 大黒さんはまじめな表情でふんふんとうなずいていて、どうやらほとんど買う決心を固めているようす。

 さっきちょっと覗いてみたが、どうも乗馬マシンを買うつもりらしい。

 昔のほっそりした美人な大黒さんが戻ってくるならば大歓迎なので、心の中だけで頑張れ、と呟いておく。

 そこに付け合わせのサラダを持った凛々花が、メイドエプロンドレスのフリルを揺らしながらやってきて席についた。

 ああ、凛々花先輩のメイド姿はいくら見ても見飽きるってことがないなあ。

 かわいいかわいいかわいい!

 これでマジでメイドなんだから、夢みたいだ。

 凛々花と目があう。

 女神は、にこりと笑ってくれた。

 俺もう死んでもいいや。

 そんなことを思っていると、大黒が雑誌を脇に寄せて声を出す。


「さ、お昼をいただきますよっ。今日は凛々花ちゃんが作ってくれたカレーだね、じゃあみんな手を合わせて! いただきます!」


 ばあちゃんも含めて六人が手を合わせ、いただきますの合唱。

 星多は誰よりも早くスプーンをとり、さっそくカレーを口に運んだ。

 そしてスプーンを取り落とした。


「…………!!」


 さて、古来より日本人は、古今東西あらゆるものをごはんのおかずとしてきた。

 洋風の料理でもご飯がおいしくいただけるよう、改良を重ね、いや、別に日本人ならば改良するまでもなく、たいていのものはごはんのおかずとしておいしくいただける。

 肉、魚、野菜、さらには豆を発酵させてネバネバにしたものとか、時にはイナゴなんてものも佃煮にして。

 だが、ものには限度というものがあるのだ。

 たとえそれが女神様謹製の料理といえども、


「カ、カレーライスじゃないこれ……チョ、チョコライスだ……」


 溶けたチョコレートかけご飯となると、さすがの星多も胃袋が受け付けないのだった。

 作った本人ですら、一口食べて、


「あれえ? なんでこんな甘いのかな?」


 と顔をしかめるほどに。

 大黒さんはあり得ない料理がよほどツボに入ったらしく、ぶわっはっは! と笑いはじめ、愛想美はスプーンを口にくわえたまま身体を硬直させて目を見開いている。ピクリとも動かないその姿はまるでマネキンのよう。

 ツナはといえば、


「一日三度のごはんと三時のおやつだけが楽しみで生きてるのに……」

 

と呟くと、なんと「ううっ」と泣き始めた。いまいち嘘泣きっぽいが。


「ほら、おめさんがた、どんなもんでも食いもんは残しちゃなんね。ありがたくいただくもんだ」


 ばあちゃんが威厳のある低い声でそう言い、スプーンに山盛りにしたカレーっぽい何かを口に放り込んだ。

 その直後、


「ぶほわぁっ!」


 ばあちゃんの口から何かが飛び出した。

 星多はその後に起こったことをあまり覚えておきたくない。ゴミ箱に放り込んで即右クリックしてゴミ箱を空にしたい記憶。

 ただひとつ言えるのは、伸身の新月面、じゃなかった、二回ひねり二回宙返りしながら飛んでいく入れ歯が描く放物線は、栄光への架け橋ではなかったことだけである。

 吹っ飛んだ入れ歯が大黒さんの皿に入り、「やだ、ばっちい!」といって大黒さんがはねのけたそれが星多の顔にジャストミートしたことなど、もう忘れてしまった、ことにする。

 結局、「食べ物は残しちゃなんねえが、食べ物でないもんは残しても仕方がねえ」というばあちゃんの一言で、今日の昼食は去年の夏の残り物であるそうめんに変わった。


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