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19. お尻をつきだして。パンツも脱いでいいわ。

 やっばい、見えた? 見られたかな?

 キッチンに戻った凛々花はその場でしゃがみこむと、肩で息をする。

 顔が火照る。

 パタパタと手のひらで自分の顔を仰ぐ。

 ホットケーキが焼けそうなほどほっぺたが熱い。

 まさか、自分があんなことできるなんて。

 し、し、下着を、男の人に見せるなんて、生まれて初めて!

 これから星多を誘惑しようというのに、下着を見られたくらいでこんな状態じゃ仕方がないのだが、判断能力を失っている凛々花はそれに自分では気づけない。

 とりあえず落ち着こうと、何度も深呼吸をする。

 それでも頬の熱がひかないので、何かあおぐものはないかと探すと、あった。団扇がわりにちょうど良さそうな、鍋のフタ。

 それを両手で持って、バッタバタと動かし顔に風を送る。

 しばらくそれを続けると、すこし落ち着いてきた。

 顔だけじゃなく、身体も火照っているので、ボタンを外したブラウスの胸元、そこを片手でちょっとあけてやって、できた隙間にも風を送ってやる。


「ふう、気持ちいい……」

「なにやってるの」


 いつの間にか目の前に女給がいた。


「ひゃ!」


 突然姿を現した(ように凛々花には見えた)ので、驚いて叫んでしまった。

 和服にエプロンをつけた女給姿のツナは首をちょっと傾げ、 


「あなた、お鍋のフタが気持ちいいの? どんな使い方をするのかしら、少しばかり興味があるんだけど。……擦るの?」

「ちがっ! え、擦るってどこを?」


 聞かれて、ツナは俯く。そして凛々花にかろうじて聞こえる小声で、


「……とか、……とか?」


 それを耳にして、ぞわわっと凛々花の背筋に震えが走る。

 女の子が女の子の身体の部分の名称を言っただけなのに、ちょっとさすがにあまりにもその単語はストレートすぎて、凛々花の耳には毒だったのだ。


「違いますっ……! な、なんてことを言うんです……!」


 ツナはかまわず、


「まさか、……とかに鍋のフタの取っ手をねじ込むの!? うわ、すごい、そんなの考えもつかなかった」

「私もそんなこと考えてません!」

「じゃあ、叩くのね!? 信じられないわ、自分で自分を叩いて悦ぶなんて。でもやっぱり、人に叩かれる方が気持ちいいわよね? 仕方がないわね、イヤだけどやってあげるわ、はい、そのフタ貸してちょうだい。スカートめくってお尻をつきだして。あーやだやだ、パンツも脱いでいいわ」

「馬鹿ですかあなたは!」


 思わず、持っていたフタでツナの脳天をぶったたく。

 コーンと、小気味よい金属音が鳴り響く。

 就職三日目にしていきなり職場の先輩に暴力をふるってしまった。


「あ、ごめんなさい、えーと、風音さん」

「ツナって呼んで。私その苗字嫌いなの」

「ごめんなさいツナさん」


 そういえば、ツナってのもなかなか変わった名前だ。この人の両親はどんな想いでこんな名前をつけたのやら。

 ツナは、少し微笑んで、


「でも、よかった。あなた、ここに来たときからずっと暗い顔してたから。元気になったみたいね」


 変わった人だと思っていたけど、それなりに凛々花のことを気にかけていたらしい。

 凛々花と同い年だというけれど、笑った顔は年相応にかわいらしい。いつものすました表情とのギャップもあって、同性ながらキュンとしてしまった。

 やっぱり私、職場の先輩を心配させるほど落ち込んだ顔をしていたのかな。

 星多を誘惑しようとか下卑たことを考えていた自分が恥ずかしい、と凛々花は思った。

 そんな凛々花に、ツナはなおも優しげに見えなくもない微笑を浮かべて、


「凛々花さん、あの小僧はどうせ小心者だからもっと過激に迫らないと。小僧の前で裸になって乗馬マシンに乗るくらいしなさい」


 前言撤回。

 っていうか。


「小僧って呼び方は決定なんですか……。あと、乗馬マシンとかこの家にあるんだ……」

「ないけど。ダイエットにいいとか言えば騙されて大黒さんが買ってくれるかも。どう言えば買う気になるかしらね。凛々花さんも協力してくれる?」

「やめときます」


 いったい、どこまでが本気の発言なのやら。

 ツナはいつものひょうひょうとした顔になって、


「ま、それはいいとして、もうみんな食べ終わったわよ。仕事の時間。食器を洗ってそのあと、お掃除。今日の昼食はあなたが当番だから、その準備もね。あなた、お料理得意?」

「あー、えーと、どうだろう……」

「ま、初めてだから、簡単なところでカレーライスにでもしときなさい。それなら作れるでしょ。さ、食器さげるわよ」


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