中編
「………姉さんは普通の女の人だよ。ただ、人より少し…身体が弱いだけで」
「こう…や?」
「僕には…それでも姉さんが望む"普通"の生活を与える事ができない…」
そっと静かに握られた手は、少しだけ痛くて。
だけど、伝わってくるその熱は確かに優しくて…
「僕が…変わりになれたらよかったのに…ごめんっ…姉さん!」
…弟の悲痛な叫びが静寂な保健室に響きわたった。
まるで、自分自身を責めているようなその言葉は…私の心に重く突き刺ささる。
―――幸夜を、傷つけてしまった。
あなたは何も悪くないのに。
謝る必要なんて全然ないのに…
私があんな事をいったから……
……いや、違う。
幸夜が自分を責めると分かってたのに、私はあの言葉を吐き出したんだ……。
「………ははっ、あはは…」
「…ねぇ…さん?」
――あぁ…やめて幸夜。
そんな瞳で私を見るのは……
あの時のお母さんと同じ顔してるよ…
そして、何とも言えない虚しさの中、私は深い闇へ誘う意識に身体をあずけた――。
―――これは、祖母の口から偶然聞いた事だ。
生まれてすぐ、私の身体は人よりも脆く壊れやすいと知った父は、この言葉を放ったという。
"失敗したのか"…と。
その言葉の真偽は分からないけれど、多分本当の事……
なんで、言いつけをやぶって外に出たの?
ユキちゃんが、ね
あそぼって、いってくれて…だから…
あなたは!人よりも身体が弱いの!
太陽をあびるだけで倒れるのよ!?
なのに、外で遊ぶなんてっ…!
ご、ごめ…ん、なさい…
ごめんなさいママ…
なんでママの言いつけを守れないの!?
ママを困らせたいの!?
そんなにママが嫌いなの!?
私が外に出ると、母はよく癇癪をおこした。
最初は私の身体を案じて言ってくれてる事だと思って、言いつけを守れなかった自分を責めた。
………あの言葉を、聞くまでは。