4月
「まっさか。この僕が留年するとはねー」
「留年する兆候は結構見えてましたから『まさか』ではなくって『やっぱり』ですよ」
「ま、でも僕は気にしなーい」
「先輩のそのポジティブシンキングは羨ましいですよ」
「だって、後輩ちゃんと同じ学年で一緒に卒業できるってことでしょ?最高じゃん」
「まさか、狙ってたんですか」
「んーん。追試でも赤点取ってたら先生に『…取り合えず2年生をもう1度すれば勉強も出来るようになるよな』って、言われて」
「それはさじを投げられたと言います」
「さじを投げてどうするんだよー」
「意味が分かってない様ですので今の話題はなかったことにします」
「ななっ!?分かるし。分かってて言わないだけだしー!」
「それは子供がよく使う言葉です。先輩は子供ですか?」
「子供だったら後輩ちゃんのお膝でゴロゴロしても怒られないよね?」
「勿論。怒ります。…そういえば先輩はもう、先輩じゃないですよね?」
「ん?先輩じゃん」
「だって、同じ学年ですよ。その中で先輩呼びするのは変じゃないですか」
「じゃあ、僕のことを名前で呼んでくれるの?」
「そもそも先輩の名前を知りません」
「ガガーン!ショックだよ!」
「なら先輩は私の名前を知っているんですか?」
「んー…カナコちゃん」
「全く違います。私の名前覚えてないってことですか」
「そんな悲しそうな顔しないで。ちゃんと後輩ちゃんの名前覚えるから、ね?」
「悲しそうな顔を勘違いしてませんか。私は無表情ですよ」
「後輩ちゃんは基本無表情じゃん。たまぁーに、表情筋が動いて笑ってるのかなー?とか怒ってるのかなー?って分かるから」
「……付き合い短いのに私のクセを理解した気ですか。腹立たしい」
「えー。格好いいこと言ったと思ったのに響いてないのー」
「格好いいことは狙って言うのではありません」
「むむぅ」
「ふてくされても無駄です。それではお先に失礼します」
「え、何で?まだ定時じゃないよ?」
「先輩は自分の立場を理解してますか。勉強すべきですよ」
「えー、面倒だけど…じゃあ。またねー」
「お先に失礼します」