1月
「ハァッピーニューイヤー!!」
「……」
「あれ。反応がない。こんな至近距離なのに聞こえなかったのかな?ハァッ…痛っ!?」
「聞こえてます。黙って下さい」
「そ、それにしても耳を引っ張って男を自宅に連れ込むなんて後輩ちゃんは意外と積極的だねぇ。いたたたた…」
「勘違い男は黙りなさい。そもそも何で私の家を知ってるんですか」
「んー?僕は先輩だよ?」
「それは理由じゃありません。私は後輩ですけど先輩の家を知りませんよ」
「あ、僕の住所はこの紙に書いてるからよく見といて。いつでも来て良いから」
「用意周到ですね。別に求めてません」
「んー、照れ屋さんっだぁ!?」
「口も手も煩い男ですね。私の自宅を知っている理由。来た理由。家の前で騒いだ理由を100字以上で述べなさい」
「手が煩いのは後輩ちゃんが変な方向に回してるからであって…っ!分かった…答えるから…離してぇ…っ」
「……」
「よし。今は冬休みあーんど1月3日。オーケー?」
「日本語は通じますから、怯えずに話して下さい」
「冬休み期間って長いから、部活が出来ないじゃん。だから、部活をしたかったし後輩ちゃんの顔も見たかったから後輩ちゃんの家に来た訳。で、そのことを先生に言ったら住所を教えてくれたから手土産持ってきたの。家の前で騒いじゃったのは、後輩ちゃんに久し振りに会えて嬉しかったからなんだけど…どう?100字越えた?越えたよね?」
「個人情報保護法もプライバシーも関係なしですね。なんですか。日本は先輩の様な変態を野放しにして良いんですか」
「あれ?ちゃんと答えれたのに怒ってるの!?」
「誰も怒らないと言ってません。怒る理由が分からないのでしたらこの起こっていることを自分に置き換えて考えてみて下さいよ」
「後輩ちゃんが僕の家にやって来て突然押し入る。何その最高なシチュエーション。想像だけで死ねる」
「変態には何言っても効きませんよね。うっかり忘れてました」
「はい。持ってきた手土産」
「っ?いきなり何ですか?」
「人の家にお邪魔する時は手土産持ってくるのが普通でしょ」
「先輩から礼儀や普通をどうこう言われると、自分が凄く愚かな下等生物になったのか錯覚します」
「僕ってそんなにダメな人間扱いだったの!?」
「ありがたく頂きます…が、元々家に上がるつもりで来たんですか?」
「勿論」
「私の部屋の状態がアレかもしれないとか考えなかったんですね。まあ、玄関でずっと話すのも悪いですから部屋に3秒だけ入れますよ」
「3秒って入ってすぐ出なくちゃいけないよね!?」
「はい。何か変なことがありましたか?」
「そこまで堂々とされると僕がおかしいのかな…」
「変なのはいつだって先輩じゃないですか。あ、私の部屋は突き当たりの部屋です」
「じゃあ。失礼しまーす」
「ん?出ないんですか?」
「本気で3秒だけしか入れない気だったんだね。そこまでいくと清々しいよ」
「はい。それでは、さようならー」
「え、ちょ、押さないで。まだ、全然会話してないっていうのにー」
「そんなの知りませんよ。こちらの都合でしょうが。はい、さようなら」
「ま、またねー。…はぁ。本当に追い出されるとは…」