10月
「やあ、後輩ちゃん。元気だった?」
「元気なのは誰よりも先輩が分かってるでしょう。久し振りに会った感じがしなくて、腹が立ちます」
「うっそ、もしかして後輩ちゃんに盗聴器をしかけて尾行してたのバレた?」
「姿は見えなくとも、気配や痕跡を残すので嫌でも分かります。あんな殊勝な事を言ってたクセに、やる事は変わらないんですね」
「だってー。感動の別れの後に後輩ちゃんに会ったら何か締まらないじゃん?でも、ずーっと顔を合わせないのも心細くて」
「このまま連絡来ないのが一番だったんですけどね」
「でも後輩ちゃんは来てくれるじゃん。僕が手紙を送ったら、いつでも来てくれる」
「それは、部活だからです。他意はありません」
「うっわ、ツンデレ、きたこれ。変わらずクソ可愛いな、おい」
「先輩も代わらず変わらずクソみたいな人間ですね。ヘドが出ます」
「にゃっはー。僕も後輩ちゃんが変わってなくて嬉しいよ。受験やら何やらでてっきり身心ともに窶れていると思ってたからね」
「受験が良い方向に向かってるのは、先輩も知ってる事でしょう?人を奮い立たせておいて、知らんぷりは許しませんよ」
「ん。知ってた。後輩ちゃんの口から聞きたかったの」
「腹立つ笑顔ですね」
「後輩ちゃんが両親に立ち向かって反論している所、ずっと聞いてたよ。希望校に進学出来て良かったね」
「まだ進学出来てません。推薦が取れただけです。そういう先輩はどうなんですか?私と同じ大学に行くんでしょう?」
「え、あ。まあ、そうです。けど……」
「けどじゃありませんよ。私は絶対に合格します。先輩も合格しなかったら、擦り潰しますからね」
「どこを?」
「どうでも良いでしょう。とにかく、先輩にも頑張って欲しいって伝えたかっただけですから。とことん勉強させますよ」
「……っえー……」
「嫌な顔をしないで下さい。私だって中学の勉強を年上の同級生に教えるのは嫌なんですから」
「流石に、中学生の勉強位は出来るからね!???留年したけど、そこまで酷くないから!!」
「三平方の定理」
「aの2乗+bの2乗=cの2乗」
「うっそ……先輩が三平方の定理を理解できているなんて……世界は終わってしまうのですか……?」
「心底驚いた顔で見るのは止めてもらえるかな?僕は先輩だよ?ん?」
「でも、留年しましたよね」
「……何も言えねぇ」
「ここで名言使っても無駄です」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!!!」
「パクってもダメですよ。ほら、現実に目を向けて勉強しましょう」
「ううー、後輩ちゃんが鬼だよー。助けてー」
「乙女を鬼呼ばわりしないでください……何ですか、その目は」
「いっや、何でもねぇっすわ」
「キャラ崩壊してますよ。……では、定時ですので」
「うんっ!それじゃあ、またね!!」




