5月
「認知で行動が変わる」
「何処かで学んだんですか?」
「すぐに僕が考え出したと思わない辺りが後輩ちゃんらしいよね。まあ、確かに僕は考えてないけど」
「でしょうね」
「今日、顧問の教師に言われたんだ。この言葉を」
「そう言えばこの同好会も一応程度に顧問がいましたね」
「他者もしくは己が認知すれば行動も自然に変わってくるぞって、指を差された。最後にウィンクもされたんだよ」
「つまり、「私が先輩は阿呆だと認知するから先輩は阿呆な行動をする。私が先輩を変態クズ野郎と認知するから先輩はゴミ以下の行動をする」とでも言いたいのですか?」
「そこまでは言おうと思ってなかったよ!!?半分は当たってるけど、後半は違う!!」
「確かにその通りだ、と思う反面そんなの出来ない奴の言い訳だ、とも思いますね」
「まあ、僕は出来ない奴の分類だから言い訳とは思わないよ。くそう、これだから頭の良い奴は困るんだよ」
「頭は良くありません。ひねくれているのです」
「そこまで堂々とされると、正しいことのように思えてきたよ」
「で、先輩はどう思ったのですか?」
「先生の言葉に感動した。そして分かったんだ。僕が今まで出来て来なかった理由と、最近出来るようになった理由……後輩ちゃんのお陰だったんだ」
「出来ない理由を私に擦り付けられても困ります」
「ああ、そうじゃなくて。悪い意味じゃなくて、良い意味で」
「と、言いますと」
「後輩ちゃんの記憶にはないかもしれないけど、甘酒を飲んだ日に「あんたはやりゃあ出来るんやからなぁ」って言われたんだよ」
「……羞恥で死にたいです」
「やれば出来るなんて、生まれてこの方一度も言われたことなかった。嬉しかった。しかも、後輩ちゃんから言われて尚更やる気出た」
「だから、あんなにも褒められることになれてないんですね」
「ん。多分。やる気出て、百点も取れた。ね?認知が変われば行動も変わるしょ?」
「単純な人間だからこそ結果が著しく現れましたね」
「だから僕は顧問の先生に試してみた。「先生は僕の内申点を大学合格ラインまで上げれます」って、ずっと言ってみた」
「結果は分かりますね」
「頭良いね。そのまま先生に可哀想な目で、「それが素だったら本当に素晴らしい奴だな」って言われたから「もっちろん、嘘デスヨー(片言)」と必死に答えたよ」
「その光景が目の前で繰り広げられているかの様に浮かび上がってきます。流石ですね」
「だから僕も後輩ちゃんを認知するよ」
「はあ。それはどうもありがとうございます」
「後輩ちゃんは明るい元気な子だ」
「あり得ませんよ」
「後輩ちゃんは僕のイヤらしいお願いも聞いてくれるビッチちゃんだ」
「それは死んでもあり得ませんよ、死んでください」
「後輩ちゃんはずっと僕と一緒にいてくれる、心の優しい子だ」
「本当のことを言われた迄ですので、これに関しては行動は変わりませんね」
「ええー。つまらなーい」
「何を期待していたんですか」
「ビッチの辺りで後輩ちゃんがえっろい腰使いで、スカートのホックをゆっくり外しながら優しい微笑みと絶妙な照れを欠かさずに、「先輩がハジメテです……優しく、してくださいね」と言ってくれること位かな?」
「何が位かな?ですか。夢物語は死んでから言ってください」
「夢で言うの間違いじゃないの!?夢物語をするだけで中々大変な代償を払わされるね!!」
「仕方がないですよ。私優しいですから」
「ちょっと良く分からない」
「先程、散々人のことを褒めておいてこの仕打ちとは酷いですね」
「仕打ちってなんか響きがエロいよね。それを聞いただけで、鞭に打たれるお仕事をするぼろ布を纏った少女が、一人の青年に救われる。その青年は実は超金持ちで……みたいなシンデレラサクセスストーリーが想像できるわ」
「頭の中を一度洗浄すべきですね。大掃除の時、脳の掃除を怠りましたね」
「あ、バレたか」
「来年はちゃんと熱消毒から殺菌消毒までしてその汚染物を殺滅除去しましょうね」
「その前に脳にそんなことしたら、僕死んじゃうから。危ないどころかもうあの世行きだからね」
「良かったですね。閻魔様に宜しくお伝えください」
「地獄行き確定!!?嫌だよ!?僕は天国行ってエンジェルになるんだ!!」
「エンジェルに土下座してください」
「はい、ごめんなさい」
「それでは定時ですので失礼します」
「ん!まったねー!」




