11月
「やあ、後輩ちゃん」
「こんにちは、先輩。そんな笑顔で私を見る前に私に対して土下座しなくてはいけないことがあるのを覚えていますか?」
「土下座だけで済まないと思って過去に盗聴録音盗撮した後輩ちゃんと夜まで一緒グッズを持ってきました」
「浮気した夫が素直に罪を認めた時の妻の行き所のない怒りが、今分かった気がします。というか、私はストーキング行為をしませんと言って欲しかっただけで、過去の私なんて要らないんですけど」
「じゃあ、この肖像権譲り受けて良いの?ひゃあっふうぅぅぅぅぅぅううううっ!!!!!!!!!!」
「それとこれでは話は違います。先輩でしたら悪用すると思うので私が保管します」
「保管してそれをどうするのかなぁ?」
「ニヤニヤしないでください。気持ち悪いです。どうするもこうするも、そのまま部屋の奥にしまいますよ」
「勿体ない!なんて価値を分かってないんだ!」
「自分の価値くらい自分で分かりますよ」
「じゃあ、今日は過去の後輩ちゃんを鑑賞とでもいくか!」
「もういよいよここまで来ると、会話部でも、会話同好会でもなくなってきましたね。って、本当に再生しないでくださいってば」
『先輩の こと す き です』
「どう?自信作」
「何を持って自信作ですか。私、こんなこと気が狂っても言いませんし、言う予定もありません。ヘドが出ます」
「えー、スゴいナチュラルに告白してる風に加工出来てるでしょー?褒めてよー」
「これで褒められると思ったら、先輩はそのまま精神科に入院してください。私の手にはおえません。さようなら」
「で、どうなの?」
「その目は何を求めているんですか」
「感想」
「言ったじゃないですか。ヘドが出ますって」
「うそん!?それが感想だったの!?僕の一世一代の奇跡の告白への感想がヘドが出る!?」
「こんなレベルで一世一代でしたら先輩の人生、後先真っ暗ですね。ご愁傷さまです」
「ぐはっ。傷心で落ち込む僕に慰みの言葉はないのかぁあ~」
「自業自得です。そもそも、先輩が私を盗撮盗聴なんて気持ち悪いことするから悪いんです。あと、これを許してあげてる私の心の優しさにいい加減気づいたらどうですか」
「う、うん……ようやく後輩ちゃんの優しさに気づいたよ。それなのに僕は、僕は……死にたい!!」
「先輩がネガティブなんて天と地がひっくり返った……なんてことはありませんよね。一体どうしたんですか?」
「死なせてくれ!後輩ちゃんの優しさに甘えていたんだ、僕は!今こそ償う時なんだ!」
「いえ、確かに先輩に数えきれない程死んでくださいと言ってきましたが、本当に死んで欲しいなんて……」
「同情するなら操くれ!」
「いえ、今すぐ死んでください」
「ううっ……死んでやる……」
「今のはどう考えても先輩が悪いですから」
「モグモグ、モグモグ」
「…………」
「ガツガツ、ハグハグ」
「……あの、少し良いですか」
「関わらないで!僕は今死のうとしているんだ!モグモグ」
「いえ、その死に方について疑問があって……それ、食べてるの先週も持ってきていたチョコドーナツですよね」
「モグモグ、そうだけど?」
「なぜ、今食べているんですか?」
「糖分の取りすぎで死ぬためだよ!」
「それくらいの糖分でしたら何年この状況でドーナツを食べなくてはいけなくなるんでしょうね」
「え、そうなの?」
「それくらい勉強してから死んでください。大体、そのドーナツはいくつ出てくるんですか」
「駅前のミス●、今ドーナツ百円セールやってるからつい二十個買っちゃった」
「確かにCMでやってましたね」
「そうそう。ぐはー、死ねなかったー」
「死ぬ決意がないからそうなるんです。ちゃんと死にたいと深く思いましょう」
「ううっ……反省だね……って、僕後輩ちゃんと会えなくなるから死にたくないよ」
「……ふん、そうですか。定時ですね」
「そういえばそんな制度もあったね。じゃあ、またねー」




