8月
「いやあ、明日で夏休みが終わってしまうというのに、僕は充実した夏休みを送れなかったなぁ」
「……なんでいるんですか」
「僕がいたら悪いのかい?」
「最初の一件目まででしたら偶然として良かったですが、お店を変えてもどこへ行っても先輩がいるのは悪いことです」
「どうしたの?ただ、夏休みだから後輩ちゃんの家を張っていたら後輩ちゃんが出てきたから、つい衝動に身を任せてストーキングしただけだよ」
「立派な状況説明ありがとうございます」
「立派だなんて、そんな」
「立派なのはしっかりと説明したことであって、先輩がストーキングしていることを立派だなんて評していませんから勘違いしないで下さい」
「それで、後輩ちゃんは何を買いに生鮮市場に来たんだい?」
「無視ですか。……はあ。先輩を撒こうとして入っただけで、特に生鮮市場に用はありませんから」
「酷いなあ。なら、後輩ちゃんは生鮮食品を見るだけ見て、何も買わずに出ていく客になってしまうよ?冷やかしなの?」
「そもそもの原因は先輩にありますからね、そう言う先輩が私の分まで買えば良いじゃないですか」
「なら、今日は僕の家で石狩鍋だね。材料費は部費から出すから心配しないで」
「心配もなにも部費に手を出すなんて先輩はクズですね。そもそも、部費を貰っていたこと自体初耳なんですけど」
「ありがとう。こんな部活でも部費がおりたのはきっと僕の美貌に、生徒会一同がやられたからだと思うよ」
「きっと、先輩が頭のやられた可哀想な子に見えたから仕方がなく出してあげたんだと思います」
「それって、褒め言葉?」
「だと感じるのでしたら先輩を心から尊敬します」
「おー、後輩ちゃんの尊敬をゲットだぜ!」
「本当に感じたんですか。怖いですね」
「でへでへ。あっ!そう言えば後輩ちゃんにあげる物があったんだ。手ぇ、出して」
「……」
「そんな怯えた目で僕を見ないで!?大丈夫!下ネタ関連の物や、危ない物は渡さないからさ!」
「自分がそう思われてるって知ってたんですね。で、渡したい物はなんですか?」
「ん。これ」
「なんですか、これ。……砂糖菓子ですね」
「カリカリしてる後輩ちゃんにぴったりだと思って買ってきちゃったんだー」
「……」
「って言うのは嘘だよ!!??だから、それを投げようとしないでっ!!ギチギチいってるよ!?」
「冗談ですよ。流石に食べ物を粗末にすることは出来ません」
「ごほん。本当の理由はね、こないだ宿題を助けてくれたからお礼にって持ってきたんだ」
「こないだ……ああ、図書館のですか。別に良いですよ。私は何もしてませんし。それなら、図書館の従業員の方々に迷惑かけてすいませんでしたと渡してきた方が良いと思いますよ」
「それはもう渡してきた」
「想像の斜め上を行きますね」
「で、後輩ちゃんって砂糖菓子食べれたっけ?」
「食べれますよ。……ありがとうございます」
「げ、幻聴か!?後輩ちゃんの口から僕への感謝の言葉が出てきたぞ!いや、幻聴じゃない。確かに聞こえた。いやしかし、これは僕に宛てられた言葉なのだろうか。手放しに喜んで良いのだろうか」
「先輩って気持ち悪い位に褒められ慣れてませんよね」
「気持ち悪いだって?それは美味しい褒め言葉でござる」
「ああ、ただ先輩の頭がおかしいだけでしたね」
「ありがとう」
「死んで下さい」
「そう言えば、宿題全部終わらせれたよ」
「それは良かったです」
「なんかどの問題も一度見たことあるような感じでさ、不思議だよね。夢にでも出てきたのかな?」
「夢ではなく、現実です。貴方は二年生を人よりも多くこなしているんですから見たことあって当然です」
「はっ、確かに」
「それでは、本当に買い物があるのでこれで失礼します」
「ん。じゃあ、僕は後輩ちゃんのストーキングというお仕事が待ってるから僕も失礼するよ」
「それ、この状況と大差ないですから。貴方がもし有言実行したら、その足で警察署に駆け込むのでお忘れなきように」
「あれぇ、後輩ちゃん買い物あるんじゃなかったっけェ?まったねー!」
「声裏返ってますし、汗半端じゃないですよ。……はい、さようなら」




